- 作成日 : 2025年4月30日
繰延消費税の仕訳とは?費用の計上方法や会計処理を解説
消費税の処理は、日々の取引や決算業務で欠かせません。中でも「繰延消費税(くりのべしょうひぜい)」は、将来にわたって費用化する特殊な処理で、内容を正しく理解していないと会計上のミスにつながるおそれがあります。
この記事では、繰延消費税がどのような場合に発生し、どのように仕訳を行えば良いのかを、初心者の方にもわかりやすいように、具体的な例を交えながら丁寧に解説していきます。
目次
繰延消費税とは?
繰延消費税とは、売上に係る消費税から控除できなかった仕入に係る消費税(控除対象外消費税)を数年間にわたって少しずつ費用として計上するための勘定科目です。会社が建物や機械といった「固定資産」を購入したときに発生する控除対象外消費税のうち一定のものが、この繰延消費税として計上されます。
消費税の会計処理は、「税込経理方式」と「税抜経理方式」があります。税込方式では、物やサービスを買ったときの金額に含まれる消費税も取得価額に含めて処理します。たとえば1,100万円(税込)の機械を購入したら、その全額を資産として記録します。そして、その後は減価償却の中で費用にしていきます。
一方、税抜方式では、機械本体の1,000万円だけを資産として記録し、消費税の100万円は仮払消費税の勘定科目で処理します。ですが、税法上控除対象外消費税)が出てきた場合、それをすぐに費用として処理してしまうと、税込方式との間で費用化のタイミングに差が生じてしまいます。
こうした不公平や不均衡を調整するために、「繰延消費税」という勘定科目を用いて処理します。繰延処理によって、どちらの方式を採用している会社でも、費用を認識するタイミングに大きな差が出ないようになります。
また、数千万円規模の建物や設備を購入すると、控除対象外消費税の金額が大きくなりがちです。その全額を一度に費用として処理すると、当期の損益計算に強い影響が出てしまうことがあります。そこで繰延消費税として数年間に分けて処理することで、会社の財務状態を実態に近いかたちで示せるようになります。
繰延消費税が発生する場面
すべての控除対象外消費税が繰延消費税とされる訳ではありません。一定の条件を満たす場合にのみ、繰延消費税として処理します。具体的には、以下の2つの条件を両方満たす場合に、繰延消費税が発生します。
- 課税売上割合が80%未満であること:課税売上割合とは、企業の総売上高のうち、消費税が課税される売上の割合のことです。たとえば、全体の売上が1億円で、そのうち8,000万円が消費税のかかる取引であれば、課税売上割合は80%になります。
そして、課税売上割合が80%以上の場合は控除対象外消費税を取得時の費用とするとされているため、課税売上割合が80%未満であることが1つ目の条件です。
医療・学校教育・不動産賃貸など、非課税売上が多い業種では、課税売上割合が80%を下回ることが多くあります。 - 固定資産にかかる控除対象外消費税が20万円以上であること:もうひとつの条件は、「固定資産」にかかる控除対象外消費税が、1件あたり20万円以上になることです。ここでいう固定資産とは、たとえば建物や機械、自動車、事務所用の設備などを指します。販売用の商品(いわゆる棚卸資産)とは違い、長期間にわたって使う目的で保有するものです。
この固定資産の取得にかかった消費税のうち、仕入税額控除できない分(=控除対象外消費税)が20万円以上ある場合には、その金額を繰延消費税として処理する必要が出てきます。
これらの条件を満たす場合、その控除対象外消費税等を繰延消費税として資産計上し、将来にわたって費用化していく処理が必要になります。逆に、課税売上割合が80%以上である場合、棚卸資産の取得にかかわる控除対象外消費税である場合、固定資産等にかかる控除対象外消費税等の金額が20万円未満である場合などには、繰延消費税の処理は不要となり、その年度の費用として処理されます。
繰延消費税の償却(費用化)の方法
繰延消費税として資産計上された金額は、一定の期間にわたって費用として処理(償却)していく必要があります。60ヶ月(5年)にわたって均等に償却します。ただし、最初の事業年度(資産を取得した年度)においては、月数按分した金額の2分の1までしか費用として認められません。
償却計算の例
繰延消費税額240,000円を償却する場合を考えます。
- 1ヶ月あたりの償却額:240,000円 ÷ 60ヶ月 = 4,000円
- 初年度の償却額(12ヶ月の場合):4,000円 × 12ヶ月 × 1/2 = 24,000円
- 2年目以降の毎年の償却額(12ヶ月の場合):4,000円 × 12ヶ月 = 48,000円
償却の仕訳
【初年度の償却時】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
租税公課 | 24,000円 | 繰延消費税額等 | 24,000円 |
【2年目以降の毎年の償却時】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
租税公課 | 48,000円 | 繰延消費税額等 | 48,000円 |
このように、繰延消費税は、計上した年度だけでなく、その後数年間にわたって少しずつ費用として認識されていくことになります。これは、固定資産がその耐用年数にわたって事業活動に貢献するのと同様に、その取得にかかった控除対象外消費税も、数年間にわたって事業の費用として認識するのが適切であるという考え方に基づいています。
なお、繰延消費税として別途資産計上せずに、固定資産の取得価額に含めて減価償却する方法も認められています。この場合、個別の繰延消費税の管理は不要になりますが、減価償却費として費用化される期間は、その固定資産の耐用年数によって決まります。
繰延消費税の仕訳で使う勘定科目
会計において、勘定科目は取引の種類に応じて、資産、負債、資本、収益、費用のいずれかに分類されます。繰延消費税額等は、将来的に費用となるべき金額を一時的に資産として繰り延べるための科目であり、租税公課は、費用化するための科目となります。仮払消費税は、消費税の納税額を計算する過程で使用される一時的な勘定科目です。
- 繰延消費税額等(くりのべしょうひぜいがくとう):繰延処理する控除対象外消費税の金額を「いったん資産として計上する」ために使います。帳簿では「資産の部」に分類されます。この科目を使うことで、費用をあとから分割して認識できるようになります。会社によっては、「長期前払費用」という勘定科目で処理されることもあります。
- 租税公課(そぜいこうか):繰延消費税を償却(費用化)する際に使用する勘定科目です。損益計算書では「販売費および一般管理費」の中に計上します。
償却するたびに、繰延消費税額等から租税公課へ金額を振り替えるという形を取ります。 - 仮払消費税(かりばらいしょうひぜい):固定資産などを購入したときに、支払った消費税を記録するための勘定科目です。消費税の納税額を計算するまでの一時的な記録に使われます。
繰延消費税の処理が必要になった場合は、この「仮払消費税」の中から対応する金額を「繰延消費税額等」に振り替える仕訳を行います。
【ケース別】繰延消費税の仕訳
ここでは、繰延消費税が発生する具体的なケースを想定して、基本的な仕訳方法を解説します。会計処理は税抜経理方式で行うものとします。
1. 課税仕入れの場合(機械装置の購入)
課税売上割合が70%の会社が、機械装置を税込1,100万円(うち消費税100万円)で購入した場合を考えます。控除できない消費税は
100万円 ×(1 – 0.70)= 30万円 です。
①購入時の仕訳(税抜経理方式)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
機械装置 | 10,000,000円 | 現金預金 | 11,000,000円 |
仮払消費税 | 1,000,000円 |
この段階では、機械装置の本体価格と、支払った消費税(仮払消費税)を記録します。
②繰延消費税の振替仕訳
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
繰延消費税額等 | 300,000円 | 仮払消費税 | 300,000円 |
控除対象外となる消費税額を、仮払消費税から繰延消費税額等へ振り替える仕訳を行います。これにより、300,000円が資産として計上され、残りの仮払消費税700,000円は、仮受消費税と相殺されます。
2. 不課税仕入れの場合(土地の購入)
土地の購入は消費税がかからないため、繰延消費税は発生しません。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
土地 | 20,000,000円 | 現金預金 | 20,000,000円 |
3. 課税売上割合が80%以上の取引(オフィス家具の購入)
課税売上割合が90%の会社が税込3,300,000円のオフィス家具を購入した場合、控除対象外消費税が発生したとしても、課税売上割合が80%以上のため、繰延消費税の処理は行いません。仮払消費税300,000円のうち、30,000円が控除対象外消費税となりますが、これは原則として当期の費用(租税公課)として処理されます。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
備品 | 3,000,000円 | 現金預金 | 3,300,000円 |
仮払消費税 | 300,000円 |
4. 棚卸資産の仕入れの場合(販売用商品の仕入れ)
課税売上割合が75%の会社が税込2,200,000円の販売用商品を仕入れた場合、控除対象外消費税50,000円が発生しますが、これは棚卸資産に関連するため、繰延消費税の処理は行わず、原則として当期の費用(売上原価)に含めて処理されます。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
仕入 | 2,000,000円 | 買掛金 | 2,200,000円 |
仮払消費税 | 200,000円 |
繰延消費税と控除対象外消費税との違い
「控除対象外消費税」とは、仕入にかかった消費税のうち、控除が認められないものをいいます。次のような場合に発生します。
- 課税売上高が5億円超で課税売上割合が100%未満
- 課税売上高が5億円以下で課税売上割合が95%未満
こうした控除できない消費税は、原則として「租税公課」などの費用として、発生した年度に一括で処理されます。
「繰延消費税」は「控除対象外消費税」の一部です。控除対象外消費税のうち、「繰延消費税が発生する場面」で紹介した条件を満たす部分だけを「繰延消費税」として、資産に計上し、その後数年間かけて費用化していくのです。
項目 | 繰延消費税 | 控除対象外消費税 |
---|---|---|
対象 | 固定資産等から生じた控除対象外消費税 | 控除されなかった消費税 |
損金算入のタイミング | 原則5年にわたって費用化 | 当期に費用化、または、繰延消費税として費用化 |
条件 | 課税売上割合80%未満、20万円以上 | 経理方式・課税売上高・課税売上割合などによる |
繰延消費税の仕訳に慣れておこう
この記事では、繰延消費税の意味や会計処理の流れについて、具体例を交えながら解説してきました。繰延消費税は、「課税売上割合が80%未満」で、かつ「控除対象外消費税が20万円以上の固定資産の取得に関係している」場合に、資産として計上し、その後5年間にわたって償却していくという会計処理です。
繰延消費税の仕訳を行う際には、仮払消費税を一部「繰延消費税額等」に振り替え、60ヶ月にわたって「租税公課」として費用にしていく流れになります。
また、会計処理は税抜経理方式や税込経理方式によっても異なるため、自社の経理方式に合わせて正確に判断することが求められます。
この記事を参考に、繰延消費税の考え方に慣れ、日々の会計処理に自信をもって取り組めるようになりましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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