• 更新日 : 2025年3月31日

約束手形の裏書とは?書き方や譲渡するメリット・デメリット、仕訳などをわかりやすく解説

約束手形は商取引で多く利用される信用取引の代表的な手段です。その中でも「裏書」は、手形を他者に譲渡するための重要な手続きであり、資金流動性や企業間信用の強化に大きく関わります。

この記事では、約束手形の裏書の基本的な内容から、メリット・デメリット、会計処理の方法、決算書への影響、さらに注目されている電子記録債権(でんさい)との違いまで、網羅的に解説します。

そもそも約束手形とは

約束手形とは、振出人が受取人に対して、将来の特定の日に一定の金額を支払うことを約束する有価証券のことです。

商取引においては、即時の現金決済が困難な場合や、支払い猶予を設けることで資金繰りを調整したい場合に利用されることが多く、後払いの契約書のような役割を担っています。

約束手形の記載事項

約束手形の主な記載事項は、以下の通りです。

  • 支払金額
  • 支払期日
  • 支払場所
  • 受取人の氏名
  • 振出日
  • 振出人

これらの情報が記載されていることで、手形を受け取った側は将来的に確実に支払いを受けられるという権利を有することになります。

約束手形と他の支払手段との違い

約束手形は、現金や銀行振込などの即時決済とは異なり、将来の支払いを約束する信用取引手段です。また、同様の手段として小切手がありますが、小切手は提示と同時に支払われるべき「即時支払型」であるのに対し、約束手形は支払期日が設定されている「期限付支払型」である点が異なります。

さらに、約束手形は譲渡が可能であるため、第三者への裏書譲渡を通じて、金融的価値をもつ流通性の高い証券としても活用できます。

約束手形の法的効力

手形法では、約束手形の要件や効力、裏書や不渡り時の対応などが詳細に定められています。また、商法との関連も深く、商取引における支払い手段としての利用を法的に裏付けています。

手形が法的効力を持つためには、前述の必要事項の記載だけでなく、適正な手続きによる交付、譲渡、呈示などが求められます。したがって、約束手形を取り扱う際には、商業実務だけでなく法律知識も重要となります。

約束手形の裏書とは

約束手形の裏書とは、手形の権利を他の人に譲渡するための行為です。裏書によって、手形に記載された金額を受け取る権利は新たな受取人に移ります。

裏書は商取引の中で頻繁に利用され、流動性を高める役割を果たしています。手形の裏に署名することで、新たな受取人に手形の権利が移転します。この手続きは、一連の連鎖的な譲渡を促進するため、商業上での信用取引や資金調達において重要な役割を果たします。

日本では、手形交換制度が広く行われており、裏書による手形の譲渡は資金循環を円滑にします。裏書された手形は、再び他の人に裏書譲渡が行われることもありますが、この際には手形法に定められた要件を満たす必要があります。特に、手形の正当な所持人であることを証明するために、適切な裏書が連続していることが求められます。

日本銀行の統計によれば、2020年における手形の取引件数は年間約1億8000万件で、その多くが商取引における代金決済として利用されています。こうした背景から、裏書による手形の譲渡は日本の商業活動の重要な一部となっているのです。

裏書の方法

約束手形の裏書では、以下の情報を手形裏面に記載する必要があります。

  1. 譲渡先の氏名または商号
  2. 裏書人(譲渡人)の署名または記名押印
  3. 裏書を行った日付

記載が終わった手形は、譲渡先に手渡すことで譲渡が完了します。以後、その手形に関する権利は新しい所持人に移転し、その者が満期日に手形金を請求できるようになります。

なお、裏書の形式が曖昧であったり、署名と実際の社名が一致していない場合には、裏書の効力が否定されるおそれがあるため、企業実務では特に慎重な対応が求められます。

裏書の連続性

裏書譲渡が何度も繰り返される場合、すべての裏書が連続している必要があります。これを「裏書の連続性」と呼びます。裏書の連続性が保たれていない場合、手形の現所持人が正当な権利者であると証明できなくなり、満期日に支払いを受けられない可能性があります。

したがって、手形を譲渡された側も、裏書の履歴がきちんとつながっているかどうかを確認することが、非常に重要なチェックポイントとなります。

また、裏書の途中に「白地裏書(受取人名のない裏書)」がある場合でも、その手形は譲渡可能とされていますが、実務ではトラブル回避のためにできる限り記名裏書(受取人を明示した裏書)が推奨されます。

白地裏書と指図裏書の違い

約束手形の裏書には、「白地裏書」と「指図裏書」の2種類があります。

白地裏書では受取人名を記載しないため、一見持参人払のように扱われることがありますが、あくまで指図証券であり、裏書の連続性が求められます。対して、指図裏書では譲渡先の氏名を明記し、その人だけが受取人となります。

白地裏書は柔軟性がある反面、譲渡履歴が不明瞭になりやすいため、不正使用やトラブルの原因になることがあります。よって、実務ではなるべく記名指図裏書を採用するのが一般的です。

裏書が禁止されている場合

約束手形には、場合によっては「裏書禁止」の記載がなされていることがあります。この表示がある手形は、第三者への譲渡を目的とした裏書ができません。たとえば「この手形は譲渡不可」と明記されていれば、その後の裏書は無効となります。

こうした手形は、特定の取引関係や信用保全を目的に、あえて譲渡性を制限したい場合に利用されます。裏書を予定して手形を受け取る場合は、必ずその点を確認する必要があります。

約束手形を裏書譲渡するメリット

約束手形を裏書譲渡することには、資金繰りの改善と取引の円滑化という2つの大きなメリットがあります。裏書譲渡を行うことで、手形の受取人はその価値を他者に譲渡でき、自社のキャッシュフローを柔軟に管理することが可能となります。

資金繰りを改善できる

裏書譲渡によって得られる最大のメリットは、資金繰りの改善です。手形を現金化せずに他社に譲渡することで、手元に現金を維持しながら、新たな取引の資金として活用できます。

例えば、手形を得た企業が取引先に再譲渡すれば、直接的な現金入手の手段を提供し、資金流動性を高めます。

取引を円滑にできる

取引を円滑にできることも、裏書譲渡の重要なメリットです。裏書譲渡は、手形を譲渡する企業間の信用力を向上させ、商取引がスムーズに進むよう支援します。手形の受取人の信用力が高い場合、その企業が裏書譲渡を行うことで、手形の新たな受取人も安心して取引を進めることができます。これにより、企業間の信頼関係を強化し、取引の障害を減少させることができます。

約束手形を裏書譲渡するデメリット

約束手形を裏書譲渡することには、複数のデメリットがあります。これらは取引の信頼性や財務リスクに影響を及ぼす可能性がありますので、十分に理解しておくことが重要です。

信頼を損ねる可能性がある

約束手形は本来、発行者(振出人)と受取人の間に成立した信用関係に基づく証券です。しかし、この手形が裏書によって第三者に譲渡されることで、取引の当事者間の直接的な関与が薄れ、もともとの信頼関係が弱まる可能性があります。

特に、振出人が予期していなかった相手先に手形が渡っていた場合、支払いに対する責任の所在が見えにくくなり、取引に対する心理的な不安要素となることがあります。また、受取人が裏書によってすぐに手形を譲渡した場合、それが信頼の欠如や資金繰りの厳しさを暗に示す可能性もあるため、裏書のタイミングや相手選びには注意が必要です。

裏書人の遡及責任が問われる

裏書された約束手形が満期日に不渡りとなった場合、遡及的に支払い請求を受ける可能性があります。これを「裏書人の遡及責任」と呼びます。

つまり、一度手形を譲渡しても、譲渡先が満期日に支払いを受けられなかった場合には、手形に関与した過去の裏書人にも債務履行を求める法的根拠が発生します。これは手形特有の責任構造であり、表面的には関係が終了していても、予期せぬタイミングで債務責任を問われるリスクが残る点が、大きなデメリットです。

このような事態に備えるためには、裏書譲渡先の信用調査や、振出人の資金状況の把握など、事前の情報収集が不可欠です。とくに中小企業では、信用調査に十分なリソースを割けないケースが多く、不渡りによる連鎖的な資金トラブルに発展するリスクがあります。

法的リスクが増加する

約束手形の裏書には、手形法に基づく厳格な形式要件が求められます。裏書の記載ミスや署名不備、記名と実際の社名の不一致などがある場合、裏書は無効と判断される可能性があります。

さらに、裏書の「連続性」が成立していないと、現在の所持人が手形金の請求権を正当に保有していると認められない可能性もあります。このような法的瑕疵がある場合、手形に対する支払い請求が拒絶されたり、最悪の場合、手形そのものの法的効力が否定されるリスクも存在します。

裏書に関する法的なミスは、取引の信用性を損なうだけでなく、訴訟などの法的トラブルに発展するリスクもあります。そのため、専門知識を持った担当者による確認や、必要に応じた弁護士・司法書士の関与が望ましいです。

事務的な負担やコストが増加する

裏書譲渡には、手形のやり取りや裏書の記載、管理記録の保存など、一定の事務作業が伴います。電子化が進む現代において、こうした紙ベースの処理は業務効率の低下要因となる場合があります。

また、裏書に関するトラブルを避けるために、信用調査やリーガルチェックを行う必要がある場合、それに応じた事務的コストや外注費も発生します。さらに、不渡りが発生すれば、その対応や債権回収、訴訟対応などにかかるコストは非常に高額になることもあります。

そのため、裏書を頻繁に利用する企業ほど、業務の合理化やリスク管理体制の整備が求められます。そうした体制が不十分な場合、裏書はむしろ経営の負担となりかねません。

約束手形を裏書譲渡する場合の仕訳

約束手形の裏書譲渡においては、資産の減少(受取手形の消滅)と負債の消滅(買掛金未払金の解消)などが会計上の処理として求められます。

ここでは、裏書譲渡に関連する具体的な仕訳例を解説します。

仕入代金の支払いに裏書を使用した場合

仕入先への支払いにあたって、以前に受け取った約束手形を裏書して譲渡した場合の仕訳は、以下の通りです。

借方貸方
買掛金100,000円受取手形100,000円

この仕訳により、買掛金という支払い義務が解消され、同時に資産である受取手形が帳簿から除外されます。

未払金を裏書手形で決済した場合

設備や外注費などに伴う未払金の支払いに、受け取った手形を裏書譲渡した場合の仕訳は、以下の通りです。

借方貸方
未払金150,000円受取手形150,000円

この仕訳により、現金を使わずに未払金を解消することが可能となります。

裏書手形が不渡りとなった場合

不渡りが発生した際には、裏書人の立場として再度その手形に対する処理責任が生じます。

借方貸方
受取手形150,000円未払金150,000円

これにより、企業の資産・負債が変動する可能性があるため、都度正確な再仕訳が求められます。

約束手形を裏書譲渡しても決算書には記載しない

裏書譲渡した手形は、資産としては決算書に計上されませんが、裏書債務として注記対象となる場合があります。理由は、裏書によって手形の所有権が新たな譲受人に移転し、元の所有者にとっては判断上、財務要件とはならないためです。

裏書譲渡された約束手形は、通常、譲渡人の資産ではなくなるため、通常の取引における売上債権や負債として決算書に計上する必要がありません。これは、企業が自ら保持するリスクが消滅し、譲受先にすべてのリスクが移ることを意味します。

具体的に言えば、財務状態におけるリスクの所在が変更されるため、簿外で処理されます。譲渡時点で手形に関連する収益や費用が確定していれば、それらは会計上の収支報告に反映されますが、手形自体はすでに企業のバランスシートから外れることになります。

実際の会計処理においては、譲渡された手形の金額や詳細を企業内部で管理する必要はあるものの、外部に対する公式な財務報告書には含めないことが一般的です。こうした処理は、裏書譲渡が経済活動におけるリスクヘッジとしての役割を担っているためであり、安定した経営環境を実現するための手立ての一つでもあります。

約束手形に代わる電子記録債権(でんさい)とは

電子記録債権(でんさい)は、従来の紙ベースで行われてきた約束手形や売掛債権などの取引を、電子的に記録・管理するための仕組みです。手形と同様に商取引における信用決済の手段として利用され、近年ではその利便性・安全性の高さから導入企業が増加しています。

約束手形とでんさいの違い

約束手形とでんさいは、いずれも支払約束を前提とした信用取引の手段ですが、その構造と運用には大きな違いがあります。

約束手形は紙媒体による証券であり、記載内容に法的効力を持たせる形式要件が存在します。一方、でんさいは電子的に記録された情報が法的効力を持ち、証券ではなく債権そのものが電子化されているという点で根本的に異なります。

また、約束手形は裏書によって権利移転が行われますが、でんさいは電子記録上の譲渡登録により、即時に債権の所有者が切り替わります。これにより、権利移転が明確かつリアルタイムで反映され、透明性が高くなります。

さらに、紙の約束手形には振出時に印紙税が課されるため、発行コストが発生しますが、でんさいは非課税であるため、この点でコスト優位性があります。

でんさいの導入方法

でんさいを利用するためには、まず企業が金融機関を通じて「でんさいネット口座」を開設する必要があります。この口座は、電子記録原簿における債権情報の管理に用いられるもので、でんさいを発行・譲渡・回収する際の出発点となります。

導入後は、債務者が支払約束情報を電子的に登録し、債権者がその情報を確認することで債権が成立します。成立した債権は、電子的に譲渡することが可能であり、必要に応じて他の取引先や金融機関へ移転・担保提供することができます。

満期を迎えると、事前に指定された預金口座から自動的に決済が行われるため、決済業務の効率化にも寄与します。

でんさいのメリット

でんさいの最大のメリットは、取引の安全性と効率性の向上です。紙の手形と異なり、印紙の貼付が不要なため、コスト削減が可能です。また、盗難・紛失・偽造といった物理的リスクがなく、金融機関による信用補完も受けやすい仕組みとなっています。

譲渡・担保提供が即時に可能であるため、資金繰りの柔軟性も大幅に向上します。たとえば、でんさいを譲渡して仕入先への支払いに充てたり、金融機関に担保として差し入れることで短期融資を受けるといった活用方法が一般化しつつあります。

また、債権管理が電子化されることで、帳簿と実態の整合性が保たれ、会計処理の簡素化や監査対応の効率化にも貢献します。

でんさいのデメリットや注意点

一方で、でんさいにも導入にあたってデメリットや注意点も存在します。例えば、利用にはインターネット環境と金融機関との契約が必要であり、システム投資や運用フローの見直しが求められます。中小企業にとっては、導入コストや社内教育の負担が懸念される場合もあります。

また、取引先がでんさいに対応していない場合、結局は紙の手形や銀行振込との併用が必要となることもあるため、完全な電子化には一定の時間と調整が必要です。

さらに、でんさいは手形訴訟制度の対象外であり、通常の金銭債権と同様の民事訴訟手続きによる回収となります。

約束手形の裏書の仕組みをしっかりと理解しましょう

約束手形の裏書は、ビジネス取引において信用取引を円滑にする重要な役割を果たします。正確な書式と適切な理解のもと裏書譲渡を行うことで、資金繰りの改善が期待できます。一方で、リスクも伴うため、適切なリスク管理が不可欠です。近年、電子記録債権の登場により、手形の管理をデジタル化する選択肢も増えています。条件に応じた最適な手段を選び、取引の効率化と安全性を確保しましょう。


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