• 作成日 : 2025年3月3日

のれんの償却期間は?5年・10年・20年などの決め方や変更方法も解説

のれん償却は、企業の買収や合併などの際に発生する会計処理の1つです。これに関する理解度は、適切な財務戦略の立案ができるかどうかにも影響します。

本記事では、のれんの償却とはどのようなものなのか、会計基準と税務における償却期間、期間の決め方、変更する方法、実際の仕訳例、注意点などをふまえ解説します。どのようなものか確認して、理解を深めましょう。

のれんの償却とは

そもそも「のれん」とは、企業の買収や合併などで会計上必要となることのある勘定科目の1つです。買収先企業の超過収益力を表すもので、「営業権」とも呼ばれていました。

企業が他の企業を買収する際に、購入価格のほうが買収する企業の時価純資産よりも高くなる場合があります。このような企業買収があったときに、その差額として会計処理で計上されるのがのれんという勘定科目です。

のれんが発生する理由は、買収された企業が有する価値のうち、以下のような形には表れない無形資産の価値を反映しているためです。

  • 企業のブランド価値
  • 顧客基盤
  • 技術ノウハウ
  • 専門知識を持った従業員
  • 取引先

のれんの由来は、店などの入り口にかかっている「暖簾(のれん)」だといわれています。「暖簾(のれん)」は、もともと外からの目隠しや風・光を防ぐものとして用いられていました。そこから転じて、店舗の信用やブランド力を象徴するようになっていきました。

一方で、償却とは購入した際にかかった費用をその資産の使用可能期間にわたって配分して計上することです。多くの資産は使用とともに価値が減少します。のれんの価値も、例外ではありません。

つまり「のれん償却」とは、M&Aを実行する際などに発生するのれんの価値を費用として計上し、価値の減少にあわせて一定の期間で償却する会計処理のことです。会計処理をする際は、「販売費及び一般管理費」として計上します。

のれん償却を行う目的は、無形資産の価値の減少を会計上でも適切に反映させるためです。

のれんの詳細を知りたい方は、以下の記事をご参照ください。

のれんの償却期間

のれんの償却期間の考え方は、会計基準と税務におけるものとで異なる点に注意が必要です。それでは、会計基準と税務それぞれののれんの償却期間を確認していきましょう。

会計基準におけるのれんの償却期間は20年以内

日本の会計基準における定めでは、のれんの償却期間に関して「20年以内のその効力が及ぶ期間にわたって行う」とされています。

とくに重要なポイントは、以下のとおりです。

  • 最長20年の期間で行う
  • 償却期間は、取得した際に期待される経済的効果の持続期間にもとづく
  • 原則として、一度設定した償却期間の変更はできない

のれんの償却期間は、事業や業界の特性などにもとづいて、最長20年を期限として各企業が設定します。設定する償却期間が短いと、一度に計上する費用が大きくなります。その結果、営業利益に影響が出る可能性があるでしょう。

このように、のれんの償却期間は企業の会計に影響が出るものであるため、どれほどの期間で償却するのかは慎重に決定するようにしましょう。

なお、企業の買収後にのれんの収益力が低下するケースがあります。この場合には、のれんの減損処理をして帳簿価額を下げます。

税務におけるのれんの償却期間は5年

一方、税務上の扱いにおけるのれんの償却期間は5年です。

通常であれば、会計上ののれんの償却費は税務上の損金にあたりません。税務上の費用に含まれない理由は、のれんが実際のキャッシュ・フローや直接的な支出には結びつかないためです。

しかし、事業譲渡や非適格分社型分割など、特定のM&A手法を用いた場合には税務上ののれんが発生します。この場合、のれんの償却によって税金の計算に大きな影響を与えることがあるため、税務上の扱いに関する理解が必要です。

税務でのれんを処理する場合の勘定科目は「資産調整勘定」です。資産調整勘定を用いてのれんの会計処理をする場合には、5年間にわたり月割で均等に償却します。

税務におけるのれんの償却ができると、課税所得を減少させて税の負担を軽減する効果が期待できます。M&Aを行う企業は、税務上の扱いまで理解することで初期投資に関連する税負担を緩和可能です。理解の深さ次第で、長期的な財務戦略に役立てられるでしょう。

なお、負ののれんは税務上では「差額負債調整勘定」として扱われます。

のれんの償却期間の決め方

のれんの償却期間の決め方は、会計処理方法によって異なります。

日本の企業は、会計処理方法として日本における会計基準・国際財務報告基準(IFRS)・米国会計基準などを選択可能です。ただし、国際財務報告基準(IFRS)や米国会計基準を用いて会計処理している場合は、原則としてのれんを規則的に償却できないことに注意しましょう。

ここでは、日本国内で多くの企業が適用している、日本の会計基準におけるのれんの償却期間の決め方を解説します。

日本の会計基準におけるのれんの償却期間の決め方

日本の会計基準では、のれん償却は最長で20年間行われます。のれんの償却方法としては、毎年同額ずつ減価償却する定額法が一般的です。

日本の会計基準において、のれんの償却期間を決める際は、「企業買収によるのれんの効果がいつまで続くのか」という視点で決定します。のれんの価値である企業のブランド力や技術力、信用力などによる効果は、永続的なものではありません。実情に合ったものにするため、のれんの効果があると考えられる期間を20年以内で決定します。

のれんの金額が少額で会計に対する重要性が乏しい場合は、その事業年度だけで全額を費用処理してもかまいません。

なお、負ののれんが生じた場合は、償却せずに発生した事業年度の利益として計上します。負ののれんとは、買収される企業の純資産額のほうが購入価格よりも大きい場合の差額のことです。

のれんの償却を日本の会計基準にするメリット

のれんの償却方法を決める際は、メリットとデメリットも確認しておくとよいでしょう。

日本の会計基準でのれんを償却するメリットは、以下のとおりです。

  • のれんの価値がなくなっていく実態を会計上に反映できる
  • 価値が急激に低下した際に減損処理をする金額を減らせる
  • 一括での赤字計上を避けられる
  • 減損のリスクを段階的に吸収できる
  • 減損テストをするよりも手間が省ける

この場合は、永続するものではないのれんの価値の実態を確認しやすくなります。また、M&Aなどによる大規模な支出を一括で計上しなくてよいため、財務の安定性を維持しやすいこともメリットです。

もしも国際会計基準(IFRS)で会計処理をした場合には、毎年減損テストが必要です。継続的な減損テストには相応のコストと時間がかかるため、その手間が省けることも日本の会計基準を選択するメリットだといえるでしょう。

のれんの償却を日本の会計基準にするデメリット

一方で、日本の会計基準にもとづいてのれんを償却するデメリットは、以下のとおりです。

  • のれんを償却する期間中は利益として見える金額が減る
  • 意図的な会計で会計の透明性を確保しにくくなる可能性がある
  • 適切な償却年数の判断が難しい

日本の会計基準で処理する場合には、まずのれんを償却する期間を決めなければなりません。しかし、企業の合併や買収をした当初に、その経済的な利益が持続する期間を見定めなければならないという問題があります。経営環境やのれんの価値の変化に柔軟に対応できない点などに注意が必要です。

一般的なのれんの償却期間

実際の上場企業では、のれんの償却期間を日本の会計基準における定めよりも短く設定していることが多いです。

先述のとおり、日本の会計基準における定めによると、のれんを償却する期間は最長で20年と定められています。しかし、実際には企業買収によるのれんの効果が20年間ずっと続くことは難しいでしょう。そのため、現実的に見てどれほどの効果が得られるのかを判断し、20年よりも短く設定しているケースが一般的なのです。

のれんの償却期間を変更する方法はある?

原則として、一度決定した償却の期間を途中で変更することは許されません。

償却期間を途中で変更できない理由は、「財務報告の透明性と信頼性を保持するため」です。もしも途中で自由に償却期間を変更できる状態であれば、企業が会計期間に応じて恣意的に計上する金額を変えてしまう恐れがあります。これでは企業の報告する財務状況が実態にあったものなのかどうかがわかりにくくなり、財務報告の信頼性を損ねてしまうでしょう。

そのため、償却の期間を決定してからは途中で変更できないようにされているのです。

なお、もしものれんの現在の価値が帳簿上の価値を下回っている場合には、償却期間を途中で変更するのではなく、帳簿価額を減少させる「のれんの減損」という会計処理を実施します。

のれんの償却期間ごとの仕訳例

のれんを仕訳する際に記載する金額は、以下の計算式で算出可能です。

のれんの金額 ÷ のれんの償却期間 = 1年間で計上するのれんの償却金額

このように、のれんの金額と償却期間に応じた金額を計上してください。

それでは、実際どのように仕訳するのか、償却期間10年間と償却期間5年間の仕訳例で確認しておきましょう。

200万円ののれんを償却期間10年間で仕訳する例

2,000,000円÷10年間=200,000円

借方貸方摘要
のれん償却200,000円のれん200,000円

のれん200万円を

10年間の定額償却(1年目)

200万円ののれんを償却期間5年間で仕訳する例

2,000,000円÷5年間=400,000円

借方貸方摘要
のれん償却400,000円のれん400,000円

のれん200万円を

5年間の定額償却(1年目)

このように、償却期間が短くなると1年間で計上するのれんの償却金額が増えます。のれん償却額が増えると、営業利益に与える影響が大きくなるため注意が必要です。

のれんの償却期間に関する注意点

適切な償却期間を設定するためには、将来のキャッシュ・フローや収益性の正確な予測が大切です。誤った判断をしてしまうと、財務報告の信頼性を損なう可能性があることにも注意しましょう。

それでは、のれんの償却期間に関する注意点をさらに詳しく解説します。

のれんの償却期間の基準を明確にする

のれんの償却を行う際は、償却期間の基準を明確にすることが大切です。のれんの償却は、会計上や税務上とで処理が異なります。また、後述する国際会計基準(IFRS)を基準にした場合にも、異なる会計処理が必要です。

  • 会計上ののれんの償却期間
    20年以内の効果の及ぶ期間
  • 税務上のれんの償却期間
    5年間

税務上の償却期間は、「5年以内」ではなく「5年間」と定められています。会計と税務で償却期間が異なる場合には費用と損金にズレが生じてしまうため、税務調整が必要です。

なお、負ののれんは、会計上では発生した事業年度の利益とします。税務上は、負ののれん(差額負債調整勘定)も通常ののれんと同じように5年間で償却します。

国際会計基準(IFRS)ではのれんを償却しない

日本の会計基準ではなく、国際会計基準(IFRS)で会計処理を行う場合には、のれん償却を行わないことに注意しましょう。国際会計基準(IFRS)の場合は、のれん償却の代わりに毎年減損テストを実施します。

国際会計基準(IFRS)とは、国際会計基準審議会が定める世界共通の会計基準のことです。のれんの減損の兆候がなくても、年に一度必ず減損テストが行われることが特徴です。

なお、回収額のほうが少なければ、その金額分を減損処理します。

のれんの償却期間の処理を理解しよう

のれんの償却期間の処理方法は、企業がどの会計基準で対応するのかによって異なります。また、日本の会計基準に沿った対応をする場合でも、その企業がのれんの価値をどのように判断するのかによって償却期間が異なります。

ただし、一度償却期間を決定すると、その後変更したくなったとしても変えられなくなってしまうことなどに注意が必要です。

処理によっては、企業の会計に影響が出ることもあります。今回ご紹介したのれんの償却期間に関する情報を確認して、実際の会計処理に役立てましょう。


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