- 更新日 : 2025年7月15日
スキャナ保存の導入手順を具体的に解説!事前にやるべきことも紹介
スキャナ保存は、紙で受領・作成した書類を電子データで保存することを認める制度です。導入すれば、書類保管スペースが削減できるほか、必要なデータをすぐに見つけられるといったメリットがあります。
本記事では、スキャナ保存を導入する前にやるべきことや導入の具体的な手順を導入事例とともに解説します。
目次
スキャナ保存を導入する前にやるべきこと
準備不足のままスキャナ保存を行うと、思わぬトラブルが発生する可能性があります。スキャナ保存をスムーズに導入するために、まずは事前にやるべきことを把握しておきましょう。
どの書類をスキャナ保存で管理するのかを明確にする
スキャナ保存の対象となる書類は「相手から受領した紙の書類」と「自社が発行した紙の書類」です。具体的には、以下の取引関係書類が該当します。
区分 | 対象書類 |
---|---|
重要書類 | |
一般書類 |
上記の書類のうち、どの書類をスキャナ保存で管理するのかを明確にしましょう。
しかし、上記の書類すべてを一度にスキャナ保存しようとすると、作業が膨大になり導入が頓挫してしまうかもしれません。
そのため、まずは取り扱い頻度の高い書類から電子化していくことをおすすめします。たとえば、日常的に発生する領収書や請求書から着手すれば、業務効率の向上を実感しやすく、スムーズにスキャナ保存を導入できます。
要件を満たすスキャナを用意する
スキャナ保存では、電子データの解像度や保存形式など、一定の要件を満たす必要があります。具体的には以下の要件が定められています。
項目 | スキャナの要件 |
---|---|
解像度 | 200dpi相当以上 |
階調 | 赤色、緑色および青色の階調がそれぞれ256階調以上(24ビットカラー) |
参考:スキャナ保存関係(令和6年1月1日からの取扱いに関するもの)|国税庁
上記の要件を満たしていれば、デジタルカメラやスマートフォンの使用も可能です。
一般的な複合機やスキャナの設定では200dpi以上の解像度が標準となっているため、そのままスキャンすれば問題ありません。
スマートフォンを使用する場合は、約388万画素の解像度が必要です。2017年発売のiPhone8でも1,200万画素を搭載しているため、現在市販されている多くのスマートフォンはスキャナとして問題なく利用できるでしょう。
要件を満たす会計システムを導入する
スキャナ保存をスムーズに進めるには、電子帳簿保存法の要件を満たした会計システムの導入が不可欠です。
市販の会計ソフトやクラウド型会計システムを利用する場合は「JIIMA認証」を取得したシステムを選びましょう。JIIMA認証は、電子帳簿保存法の要件を満たしていることを示す認証です。認証取得済み製品の一覧は、国税庁の「JIIMA認証情報リスト」で確認できます。
自社開発のシステムを使用する場合は、システムが要件を満たしているかを管轄の税務署もしくは国税庁の担当部門に確認しておくと安心です。国税庁のサイトで問い合わせ先が確認できるので、こちらも参考にしてください。
必要な書類・規程を準備する
スキャナ保存を導入する際は、以下の書類を用意しておくことをおすすめします。
- スキャナによる電子化保存規程
- 国税関係書類に係る電子計算機処理に関する事務の手続きを明らかにした書類
要件ではないため作成は必須ではありませんが、用意しておけばスキャナ保存の入力期間を延長できるメリットがあります。
スキャナによる電子化保存規程
スキャナによる電子化保存規程は、重要書類のスキャナ保存に関する規程です。この規程を作成すると、最長2ヶ月とおおむね7営業日以内まで入力期間を延長できる「業務処理サイクル方式」を採用できます。
おおむね7営業日以内の入力が必要な「早期入力方式」と比べて、入力期間の期限が長くなるため、業務に余裕を持たせることが可能です。なお、早期入力方式を採用するのであれば、この規程の作成は不要です。
税関係書類に係る電子計算機処理に関する事務の手続きを明らかにした書類
国税関係書類に係る電子計算機処理に関する事務の手続きを明らかにした書類は、見積書や注文書など一般書類のスキャナ保存に関する書類です。この書類を作成すれば、一般書類の入力期限の制限がなくなります。
どちらも規程も国税庁のウェブサイトで雛形が公開されています。自社の運用方法に合わせて、必要な規程を作成しましょう。
参考:参考資料(各種規程等のサンプル)>スキャナ保存に関するもの|国税庁
スキャナ保存を導入するやり方・手順
ここからは、スキャナ保存の具体的な手順をステップごとに解説します。それぞれのステップで必要な作業を理解し、スムーズな導入を目指しましょう。
1.要件を満たせる状態で紙の書類をスキャンする
まずは紙の書類をスキャナや複合機、スマートフォンで読み取ります。全体が欠けることなく、鮮明に読み取れるようにスキャンしてください。
一般書類は白黒でのスキャンも認められていますが、重要書類はカラーで保存する必要があります。重要書類を白黒でスキャンしないよう注意しましょう。
またスマートフォンでスキャナ保存を行う際に、メール添付やファイル共有サービスを経由すると、画像が圧縮されて要件を満たさなくなる場合があります。そのため、スマートフォンでスキャナ保存を行う場合は、388万画素以上で撮影・保存できる専用アプリの利用をおすすめします。
アプリ上で撮影した画像をそのまま保存できるため、解像度が要件を下回る心配がありません。
2.期間内に入力しタイムスタンプを付与する
スキャンしたデータは、所定の期間内にシステムへ入力し、タイムスタンプを付与します。
重要書類の場合、早期入力方式ではおおむね7営業日以内、業務処理サイクル方式では2ヶ月とおおむね7営業日以内に、入力とタイムスタンプの付与が必要です。
ただし、訂正・削除の履歴が残るシステムまたは訂正・削除ができないシステムを利用している場合は、タイムスタンプは不要です。
3.その他の要件を満たしてデータを保存する
スキャンしたデータを保存する際にも、いくつかの要件を満たさなければいけません。たとえば「取引年月日」「取引金額」「取引先」で検索できる機能の確保や、訂正があった場合のバージョン管理などが必要です。
スキャナ保存の保存要件は多岐にわたるため、自社でシステムを構築・管理しようとすると、大きな負担がかかります。そのため、要件を満たしたシステムの導入をおすすめします。必要な機能が備わっているため、スムーズにスキャナ保存を導入できるでしょう。
スキャナ保存を導入するメリット・デメリット
メリット・デメリットを把握しておけば、自社に合った導入方法を見極められます。メリットを最大限に活かし、デメリットを最小限に抑える方法を事前に検討しましょう。
スキャナ保存を導入するメリット
スキャナ保存を導入する主なメリットは以下の3点です。
- 書類の保管コスト・スペースの削減
- 検索性の向上
- 情報漏洩・紛失リスクの低下
紙の書類を電子化すれば、管理にかかる費用や保管スペースを大幅に削減できます。また検索がしやすくなるため、必要な情報をすぐに見つけられるのも利点です。
データのバックアップやアクセス制限により、情報漏洩や紛失のリスクも低減できます。スキャナ保存を導入することで、業務の効率化とセキュリティ強化を実現できるでしょう。
スキャナ保存を導入するデメリット
スキャナ保存を導入する際のデメリットとして、導入・運用コストの発生と社員教育が必要になる点が挙げられます。
- 導入・運用コストの発生
- 社員教育の必要性
スキャナ保存の導入には、スキャナやソフトウェアの購入、システム導入費用などが発生します。運用開始後もシステムの維持・管理費用が継続的に発生することを考慮しなければなりません。
また、システムを使いこなせるよう社員への教育が必要です。操作方法だけでなく、スキャナ保存に関する知識も必要となるため、研修の実施やマニュアル作成などの準備が必要です。
これらのコストと手間を考慮したうえで、導入を検討する必要があります。
スキャナ保存の導入事例
スキャナ保存の効果をより具体的に理解するために、2つの企業の導入事例を紹介します。事例を通してスキャナ保存がどのように業務を改善したのか、具体的なメリットを見ていきましょう。
X社の場合:会計システムへの手入力や印刷・ファイリングが不要に
X社では、以前は紙面ベースで処理していた請求書の支払承認プロセスを、スキャナ保存を活用したシステムに移行しました。
スキャナ保存導入前 | スキャナ保存導入後 | |
---|---|---|
作業内容 |
|
|
営業担当者は受領した紙の請求書をPDFに変換し、電子支払承認システムに登録します。システムは会計ソフトと連携しているため、承認された請求書は自動的に会計ソフトに登録されます。
この仕組みによって、支払依頼書の作成や印刷、上司の承認印、経理部門への回付といった煩雑な作業が不要になりました。経理部門でも、データの手入力やファイリングの手間が省かれ、業務の大幅な効率化を実現しています。
Y社の場合:紙面での照らし合わせが不要になり破棄が可能に
小規模企業のY社では、これまで紙の請求書を手入力で処理していましたが、スキャナ保存を導入し、管理方法を見直しました。
スキャナ保存導入前 | スキャナ保存導入後 | |
---|---|---|
作業内容 |
|
|
会計ソフトへの手入力の手間が省けたほか、検索が簡単にできるようになったためデータの確認もスムーズになりました。また、紙の書類の破棄が可能になったことで、整理・保管の負担も大幅に軽減されています。
スキャナ保存に関するよくある質問
スキャナ保存を導入するにあたって、よくある質問をまとめました。疑問を解消して、スムーズにスキャナ保存を始めましょう。
スキャナ保存制度はいつから導入されるのでしょうか?
改正電子帳簿保存法は2022年1月1日に施行されました。2024年1月1日からは電子取引のデータ保存が完全義務化されています。
ただし、電子帳簿保存法のうちスキャナ保存の導入は任意です。紙の書類を電子化して保存するか、紙のまま保存するかは、企業が自由に選択できます。
スキャナ保存には届出や承認が必要ですか?
スキャナ保存の導入にあたり、事前の承認手続きは不要です。
2022年1月1日より前にスキャナ保存を導入する場合は税務署長の事前承認が必要でしたが、法改正により廃止されました。
スキャナ保存のそのほかの改正点に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。気になる方はこちらも参考にしてください。
スキャナ保存制度とは?改正点や要件・業務フローについて解説
スキャナ保存ではタイムスタンプは不要ですか?
訂正・削除の履歴が残るシステムまたは訂正・削除ができないシステムを利用している場合は、タイムスタンプは不要です。
要件を満たすシステムを導入していない場合は、書類の作成もしくは受領後、最大2ヶ月とおおむね7営業日以内にタイムスタンプを付与しなければいけません。
タイムスタンプが必要な範囲や利用方法、発行手順、費用など詳細は以下を参考にしてください。
スキャナ保存を導入して業務を効率化しよう
スキャナ保存の導入手順や事前にやるべきこと、メリット・デメリット、導入事例などを解説しました。
スキャナ保存を導入する際は、自社の状況に合わせて適切な方法を選択することが重要です。まずは、どの書類をスキャナ保存の対象にするかを明確にし、必要に応じて要件を満たしたスキャナや会計システムを準備しましょう。
導入前の準備として「スキャナによる電子化保存規程」や「国税関係書類に係る電子計算機処理に関する事務の手続きを明らかにした書類」の作成も検討しておきましょう。作成は必須ではありませんが、作成することで入力期間を延長できるメリットがあります。
ご紹介した導入事例からもわかるように、スキャナ保存は企業規模に関わらず、業務効率化に大きく貢献します。ぜひこの記事を参考に、自社への導入を検討してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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