- 更新日 : 2024年8月8日
子会社株式の減損処理や評価損について解説
会社が保有する有価証券は、会計処理上、時価評価するもの、時価評価しないものに分類されます。時価評価しない有価証券は、取得原価(取得時の取得価額)などで評価しますが、時価が大きく下落し、回復の見込みがないときは減損処理が必要です。今回は、減損処理の対象となる有価証券のうち、子会社株式に焦点を当てて、減損処理の方法や評価損の計上などについて解説していきます。
株式の評価
会計上、有価証券は以下の4つの区分に分類されます。
- 売買目的有価証券(時価の変動による利益獲得を目的とした株式など)
- 満期保有目的の債券(満期日までの保有を目的とした国債や社債など)
- 子会社株式及び関連会社株式(支配権や大きな影響力をもっている関係会社の株式)
- その他有価証券(上記3つの区分に該当しない長期保有目的の株式など)
4つの区分のうち、時価評価を行い当期の損益に計上する処理を行うのが売買目的有価証券です。その他有価証券は時価評価であるものの、評価差額は損益として計上せず、貸借対照表の資本の部にその他有価証券評価差額金として計上されます。満期保有目的の債権は取得原価か償却原価、子会社株式及び関連会社株式は取得原価で評価します。
今回解説する子会社株式は、取得原価での評価になるため、取得時の価額のまま貸借対照表に表示し、時価との差額があっても基本的には損益の認識は行いません。
減損処理とは
減損処理とは、その価値が大きく下落している固定資産について、実態に合わせて帳簿価額を減額する会計上の手続きのことです。
子会社株式を含む有価証券については、「金融商品に係る会計基準」において減損処理が規定されています。
この会計基準によると、時価のある有価証券については、時価が著しく下落して回復の見込みがない場合に、時価のない株式については、財政状態の悪化で保有する株式の実質価額が著しく低下したときに、それぞれ減損処理を行うこととされています。
減損処理に関連して、減損処理会計(固定資産の減損に係る会計基準に定められているもの)については以下の記事で解説していますので、こちらも参照ください。
子会社株式の減損処理
子会社株式の減損処理の方法は、対象の子会社株式が、時価のあるものか、時価のないものかで異なってきます。
■時価のある子会社株式の場合
時価のある子会社株式は、子会社株式の取得原価を100%として子会社株式の時価と比較し、取得原価よりも下落しているときは、以下の3つに区分します。
- 取得原価に対する時価の下落率30%未満
- 取得原価に対する時価の下落率30%以上50%未満
- 取得原価に対する時価の下落率50%以上
このうち、子会社株式の減損処理が必要になるのは、3の「取得原価に対する時価の下落率50%以上」のときです。時価が取得原価まで回復するという合理的な証拠がない限りは、減損処理の対象になります。
2の「取得原価に対する時価の下落率30%以上50%未満」のときは、会社によって取り扱いが異なります。会社ごとに設けられた合理的な基準に基づき判断するためです。合理的な基準を超えた下落で、かつ回復の見込みがないときは減損処理を行います。
■時価のない子会社株式の場合
時価の把握が極めて困難な株式の場合、減損処理を判断するための取得原価との比較対象になる時価がありません。このケースでは、時価に代わって、子会社の純資産価額を用います。純資産価額を発行済株数で除したときの値が、子会社株式1株当たりの価額です。
保有する株式の持分価値(実質価額)を算出し、取得原価と比較します。
取得原価と比べ、実質価額が50%以上下落し、回復の見込みがないときは、減損処理を行います。
子会社株式の減損処理の仕訳例
有価証券の減損処理の基準に照らし合わせて、子会社株式の時価(または実質価額)が取得価額よりも著しく下落し、かつ回復の見込みがないときは、減損処理の仕訳を行って、貸借対照表価額に現在の子会社株式の価値を反映させます。
(例)取得時1株当たり1,000円の子会社株式1,000株について、1株当たり450円に時価が大きく下落したため、減損処理を行う。なお、当子会社株式は回復の見込みがないものとする。
取得価額に対する時価の下落額は1株当たり550円(1,000円-450円)で、55%下落していることになります。著しい下落に該当することと、回復の見込みがない状況のため、減損処理を行い、子会社株式を現在の価額まで切り下げ、特別損失を計上します。
子会社株式の評価損が認められない場合
法人税法上、子会社株式評価損の損金算入が認められるのは、会計上減損処理を行っていることを条件に、以下の場合に限られます。
- 保有する上場株式などで価額が著しく低下し、帳簿価格を下回ったとき
- 保有する非上場株式などで資産状況が著しく悪化し、帳簿価格を下回ったとき
- 特別清算、破産手続き、再生手続き、更正手続きの開始など、特別な事実があったとき
- 事業年度終了時日の有価証券の発行法人の純資産価額が、取得時のおおむね50%を下回るとき
ただし、条件に該当する場合であっても、完全支配関係のある子会社の評価損の減損処理については注意が必要です。対象の子会社について、解散が見込まれていたり、清算中であったりする場合は、評価損の損金算入が認められません。解散後の未処理の決算金は親会社に引き継がれることになり、評価損の損金処理が行われると、二重で損金が発生してしまうことになるためです。
同様の理由で、子会社との合併が見込まれる場合では、評価損の損金算入が認められないこともあります。法人税の処理を行うときは、子会社の支配獲得状況と今後の状況に注意しましょう。
子会社株式でも時価などが著しく下落したときは評価損を計上する
子会社株式は、基本的には取得したときの価額のまま評価を行います。しかし、時価や実質価額が著しく下落し、かつ回復が見込めないときは減損処理が必要です。子会社株式の減損処理では、「子会社株式評価損」を計上します。ただし、完全支配関係のある子会社で、清算中または解散が見込まれるときは、会計上は減損処理を行っても、税務上は損金算入できませんので注意しましょう。
よくある質問
減損処理とは?
価値が大きく下落している固定資産の実態に合わせて帳簿価額を減額する会計上の手続きをいいます。詳しくはこちらをご覧ください。
子会社株式の減損処理のポイントは?
取得価額と時価(または実質価額)を比較し、基本的には時価が50%以上下落しており、かつ回復の見込みがないときに減損処理を行います。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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