- 更新日 : 2024年8月8日
損害賠償金を仕訳する場合の勘定科目まとめ
会社経営を進めていくなかで、事故やトラブルなどで損害賠償金を支払う場面が出てくるかもしれません。損害賠償金は通常であれば発生することの少ない費用であり、会計処理でどのように扱うのか迷うことがあるでしょう。経費にできるのか、どの勘定科目で仕訳するのかなどが問題になります。
本記事では会計処理における損害賠償金の取り扱いについて説明し、損害賠償金の消費税の扱いや、損害賠償金を受け取った場合の仕訳についても紹介します。
目次
損害賠償金は経費にできる?
会社が長く事業を進めていく過程では、損害賠償金を支払う可能性もあります。損害賠償金とは、事故やトラブルにより他人に与えた損害を補填するために支出するもので、慰謝料や示談金、見舞金などがこれにあたります。
損害賠償金を支払った場合、経費に計上できるのかが気になるところです。
ここでは、損害賠償金は経費にできるのか、計上できる場合、計上する時期はいつになるのかについて紹介します。
損害賠償金を経費にできたときの仕訳と勘定科目
損害賠償金を経費にできるのは、事業の遂行に関連して支払った場合に限られます。例えば、従業員が業務中に交通事故を起こして相手方に賠償金を支払ったという場合です。
経費に計上できる場合は一般的に雑損失の勘定科目で処理し、保険で賄われる金額があれば、そちらを差し引いた金額で経費計上します。
従業員が営業で取引先の会社に向かう途中で物損事故を起こし、10万円の損害賠償金を小切手で支払った場合の仕訳は、以下の通りです。
損害賠償金を経費に計上する時期
損害賠償金を計上できるのは、債務が確定した時点です。相手方と支払いについて交渉し、合意により金額が確定した時点で計上します。
ただし、損害賠償金の金額について、なかなか合意に至らない場合もあります。交渉が長引いて年度内に金額が確定しない場合は、相手方に提示した金額を未払金として計上することも可能です。その際は、提示した金額がわかる文書を残しておきましょう。
相手方に10万円支払うことを提示しているが、まだ合意が成立していない段階で決算を迎えた場合、未払金として計上する仕訳は以下の通りです。
翌年度に10万円で合意でき、小切手で支払った場合は次のように仕訳します。
また、分割払いで支払う合意をした場合は、実際に支払われる金額ごとに計上します。分割払いの合意をした損害賠償金は、支払期日が到来して初めて具体的に債務が確定します。そのため、総額について合意があったとしても、総額を一括して未払金に計上することは認められません。分割にした支払期日が到来する度に、仕訳を行います。
100万円で合意した損害賠償金を4回の分割払いにした場合、支払い時期が到来して小切手で支払ったときの仕訳は以下の通りです。
損害賠償金を経費にできないのはどんなとき?
事業に関して発生した損害賠償金でも、事故やトラブルを起こした当事者の故意・重過失に基づく場合は経費にできません。損害賠償金は会社ではなく、当事者が負担するものだからです。
また、損害賠償金の発生が事業に関連していない場合も同じく経費計上できません。
ここでは、損害賠償金を経費にできない場合の仕訳について紹介します。
損害賠償金を経費にできなかったときの仕訳と勘定科目
損害賠償金の発生が当事者の故意や重過失に基づく場合、当事者が損害賠償金を支払わなければならず、会社に支払い義務はありません。会社が相手方に賠償金を支払った場合、支払い義務のある当事者への債権と考え、貸付金として処理します。
従業員の故意・重過失で10万円の損害賠償金が発生し、会社が相手方に10万円を小切手で支払った場合、以下のように仕訳します。
私用で車を運転中に事故を起こし、発生した損害賠償金を会社が立て替えた場合も同様に仕訳します。
損害賠償金を回収できない場合
立て替えた損害賠償金は事故を起こした従業員から回収しますが、多額である等の理由により回収できなくなった場合、貸倒処理をして経費に計上します。
従業員の重過失で発生した損害賠償金100万円を立替払いし、20万円の返済を受けたが残金の回収が不能になった場合の仕訳は、以下の通りです。
損害賠償金を受け取った場合の仕訳と勘定科目
損害賠償金は支払う場合だけでなく、受け取ることがあるかもしれません。受け取った損害賠償金はすべて法人の収益となり、雑収入の勘定科目で処理します。
経費の計上時期は、基本的に事実が発生したときです。損害賠償金の場合も、受け取る金額が確定したときに計上します。
ただし、実際に金額の支払いを受けたときに計上することも可能です。
合意が成立した場合でも、金額を受け取れないケースもあることから、計上時期をどちらにするか選択できるものとされています。
会社の車両が追突されて損壊し、50万円の損害賠償金を小切手で受け取った場合の仕訳は以下の通りです。
損害賠償金に消費税はかかる?
損害賠償金を支払った場合、消費税の扱いが問題になります。消費税とは商品やサービスの提供など対価性のある取引に対して課される税金です。損害賠償金には対価性がないため、原則として消費税は課税されません。しかし、例外的に課税される場合もあります。
損害賠償金に関する消費税について見てきましょう。
原則として課税されない
損害賠償金には対価性がないため、原則として消費税の対象外です。また、損害賠償金を受け取った場合でも消費税が発生する売上にはならず、消費税は発生しません。
消費税が発生しない理由は、損害賠償金はあくまでも損害を補填するもので、資産の譲渡等による対価ではないからです。
例外的に課税される場合
損害賠償金は原則として消費税は発生しませんが、例外的に課税される場合があります。以下の3つの場合です。
- 棚卸資産である製品を汚損させてしまい、損害賠償金を支払ってその製品を引き取り、軽妙な修理で使用できる状態にする場合
(具体例:製品の納品時に誤って汚してしまい、損害賠償金を支払うとともにその製品を回収した)
汚れた製品は商品価値がなくなりそのままでは販売はできないものの、軽微な修理で販売できる状況であれば、賠償金の支払いにより商品を買い取ったとみなすことが可能です。
そのような場合に授受した損害賠償金は、対価性があるものとして消費税が課税されます。
- 特許権や商標権などの無体財産権の侵害による損害賠償金の授受
(具体例:特許権や商標権がある商品を許可なく模倣したことにより権利が侵害されたとして、損害賠償金の請求を受けた)
授受した賠償金はその特許や商標の使用料とみなされ、課税の対象になります。
- 事務所の明渡しが遅れた場合に授受される損害賠償金
(具体例:事務所の賃貸契約の期間が過ぎているのに退去していないとして損害賠償金を請求された)
授受した損害賠償金は事務所の家賃とみなされ、消費税が発生します。しかし、賃貸物件が住居の場合はもともと消費税の対象とならないため、賠償金にも課税はされません。
損害賠償金の処理は状況に応じて考えよう
損害賠償金は事業に関連する事故やトラブルで受け取った場合、経費に計上できます。その際の勘定科目は雑損失です。
ただし、プライベートの事故など事業に関連しない場合、もしくは事故やトラブルに故意・重過失がある場合は会社に支払い義務がなく、立替払いした場合でも経費に計上できません。損害賠償金を受け取った場合は会社の収益と考え、雑収入として処理します。
損害賠償金は対価性がないため原則として消費税は発生しませんが、例外的に課税される場合もあるため注意してください。
損害賠償金の処理は具体的な状況に応じ、正しく対処しましょう。
よくある質問
損害賠償金は経費にできる?
事業に関連する損害賠償金であれば、経費にできます。 詳しくはこちらをご覧ください。
損害賠償金を経費にできないのはどんなとき?
故意・重過失による損害賠償金は事故などを起こした本人が負担するものであり、経費にできません。 詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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