- 更新日 : 2025年2月20日
「新型コロナウイルス感染症特別貸付」を使った資金繰り対策を検討しよう
新型コロナウイルス感染症の拡大が止まりません。国や地方自治体は、相次いで外出規制の要請を行い、町はかつてのにぎわいを失いました。地域に密着した事業活動を展開する中小企業は大打撃を受け、資金繰りに窮することも多いでしょう。本記事では、資金繰り支援策の中でも目玉となる、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」を使った資金繰り対策について解説します。
目次
資金繰りの基本的な考え方
「新型コロナウイルス感染症特別貸付」について説明する前に、資金繰りの基本的な考え方をおさらいしておきましょう。「新型コロナウイルス感染症特別貸付」といっても、借入であることに変わりはなく、返済が求められます。場合によっては、借入に依存することなく資金繰りを維持することが可能かもしれません。
資金繰りの基本的な考え方は、収入を増やし支出を抑えるとともに、それぞれの入金・出金の期日を正しく把握し、滞りなく資金運用することにあります。入金はできる限り早め、出金はできる限り遅らせることが求められます。なお、入金・出金の額と期日を記載した表のことを、資金繰り表と呼びます。
資金繰りを考える上では、新型コロナウイルスで減少傾向にある売上低下に歯止めをかけ、収入を増やすことを検討しなければなりません。経営環境が劇的に変化し、急激な需要の減少に直面する中でも、増加している需要もあります。飲食店であれば、客数減は避けられませんが、持ち帰り可能な弁当の販売により、中食ニーズをとらえることができるかもしれません。中小企業は、売上が低下したと嘆くばかりではなく、変化する需要に柔軟に対応し、新たな取り組みをすることも求められているといえるでしょう。
同時に検討する必要があるのが、支出を抑えることです。売上が減少しているのであれば、仕入量も減らす必要があります。不良在庫が発生することを避けなければなりません。広告費など、不要不急の出費は抑えるようにしてください。支出を抑える上で注意する必要があるのが人件費です。パートやアルバイト社員といった非正規雇用社員であれば、解雇して人件費を減らすことも可能ですが、国は雇用維持に対して、雇用調整助成金などの支援策を打ち出しています。安易に解雇して人件費を削減するのではなく、国の支援策や長期的な影響度を加味しながら慎重に判断することが求められます。
新型コロナウイルス感染症特別貸付とは
資金繰りの基本的な考えを理解し、必要な対策を施しても、この未曽有の危機を乗り越えることは難しいでしょう。そこで、国は新型コロナウイルス感染症特別貸付という公的な資金繰り支援策に乗り出しました。まずは、新型コロナウイルス感染症特別貸付の概要を理解しましょう。
融資対象
新型コロナウイルス感染症の影響で、一時的に売上が減少しているものの、中長期的には売上が回復し、成長が見込まれる企業が対象です。融資である以上、事業者には返済義務があり、返済の見込みがない事業者への融資には応じられない可能性があるので注意してください。
金利などの条件
3年間は、基準利率に対してマイナス0.9%が適用されるため、実質的な金利負担がゼロになります。最長で5年間の元本返済が不要となりますので、当面は利息負担も返済も必要がないことになります。さらに、無担保での借入や、過去に条件変更している事業者の借入についても可能です。融資限度額は、国民生活事業で6,000万円、中小企業事業で3億円です。詳細は、日本政策金融公庫ホームページ等を確認するようにしてください。
注意事項
新型コロナウイルス感染症特別貸付は、日本政策金融公庫などの政府系金融機関が実施しているものです。しかし、すでにメインバンクが決まっているようであれば、まずはメインバンクに相談するとよいでしょう。民間の金融機関でも、新型コロナウイルス感染症特別貸付の手続きができる場合があります。また、メインバンクであれば、事業者の事業内容や財務内容について精通している場合もあるので、融資判断を迅速化したり、適切な資金繰りのアドバイスがもらえたりするかもしれません。既存の融資について、条件変更の相談もするとよいでしょう。
他に検討したい融資制度
資金繰りの困窮は、経済に大きなダメージを与えるため、国は新型コロナウイルス感染症特別貸付以外にも、さまざまな金融支援を準備しています。ここでは、その一部を紹介します。
セーフティネット保証
セーフティネット保証について理解するために、まずは代位弁済について知っておく必要があります。代位弁済とは、金融機関からの借入を利用して事業者の返済が難しくなった場合に、公的な機関である信用保証協会が返済を肩代わりしてくれる制度のことです。民間の金融機関からの資金を円滑化するための制度で、中小企業は無担保・無保証人での借入も可能となります。
一方、セーフティネット保証は、災害や業況の悪化している業種などを対象に、保証の枠を広げる制度です。通常の利息に加えて保証料率も負担する必要はありますが、当面の資金繰りには有効な融資制度であるといえるでしょう。
商工中金による危機対応融資
新型コロナウイルス感染症特別貸付と同様に、3年間の実質的な金利負担ゼロや5年間の返済据え置きが受けられる融資制度です。商工中金の株主である中小企業組合と、その組合員に対する融資が対象となります。
マル経融資の金利引下げ(新型コロナウイルス対策マル経)
マル経融資とは、商工会・商工会議所の経営指導員による指導を受けた小規模事業者に対し、日本政策金融公庫が、無担保・無保証人で低利融資を行う制度です。新型コロナウイルス対策マル経では、金利をさらに0.9%マイナスするとともに、据え置き期間も延長されます。
未曾有の危機を乗り切るために
この危機を乗り切るためには、まずは当面の資金繰りに目途をつけなければなりません。最寄りの金融機関などに相談し、融資を受けたり、既存の借入について条件変更を取り付けるなどしてください。経済産業省は、大きな影響を受けている事業者に対して、持続化給付金(中小企業200万円、個人事業100万円)の創設を発表しています。ある程度の期間の資金繰りを考えるのであれば、金額の大きな融資が効力を発揮しますが、このような給付金制度の利用も短期的な資金繰りには有効となります。
その上で、新型コロナウイルス終息後の出口戦略を検討するようにしてください。設備投資が必要な場合、補助金の活用が有効です。生産性を向上させるための小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金、IT導入補助金については、それぞれ公募が始まっているので、検討するとよいでしょう。この時期の戦略次第で、新型コロナウイルス後の成長に差が出てくるかもしれません。延期された東京オリンピックやその他のイベント、国の支援策で、景気は大きく盛り返す可能性もあります。資金繰りだけに気を配るのではなく、確かな成長戦略を描くことも重要です。
>>テレワーク・在宅勤務の導入費用が最大450万円戻ってくる「IT導入補助金」の詳細
また、助成金の活用も視野に入れてください。従業員の雇用の維持を図った場合には、雇用調整助成金が活用できます。中小企業の経営者は、深刻な人手不足に陥っていたことを忘れてはいけません。資金繰りに苦しい中でも雇用を維持し、将来の助成金を得た上で、成長を果たすという考え方も求められるのです。
まとめ
新型コロナウイルスの拡大は、収まる気配を見せません。企業にとっては、長期戦も予想される状況となっています。2020年の始まりは、閉塞感が漂う事態となりましたが、ここを乗り切った企業は、新たな成長を成し遂げることができるはずです。国の制度をうまく使って資金繰りに目途をつけ、次の展開を見据えた事業戦略を打ち立ててみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
資金繰りの関連記事
新着記事
利子補給金とは?仕訳や勘定科目、消費税の扱いをわかりやすく解説
企業や個人事業主が金融機関から借入をしたあと、利息の負担を軽くする目的で「利子補給金(りしほきゅうきん)」が支払われることがあります。これは、国や自治体が利息の一部を助成してくれる仕組みです。ただし、この補給金を受け取ったときの会計処理や仕…
詳しくみる有償支給取引の仕訳とは?会計処理や消費税の扱いをわかりやすく解説
製造業や委託加工を行っている企業では、「有償支給」の取引がよく行われます。しかし、実際に仕訳をしようとすると、「どの勘定科目を使えばいいの?」「消費税はどう処理するの?」など、悩ましい場面が多いのではないでしょうか。 この記事では、有償支給…
詳しくみる役員借入金の返済方法と仕訳はどうする?現金・相殺・振替のケースをわかりやすく解説
会社のお金が一時的に足りなくなったとき、経営者や役員が自分のお金を会社に貸すことがあります。これを「役員借入金」といいます。借りたお金はあとで返す必要がありますが、その返し方や会計処理は、経理の現場で迷うポイントのひとつです。 この記事では…
詳しくみる免税事業者からの仕入れを仕訳するには?インボイス制度での会計処理を解説
さまざまな事業者から商品やサービスを仕入れることは頻繁にあります。とくに個人事業主や中小企業など、免税事業者から仕入れるケースも少なくありません。しかし、2023年10月1日に導入されたインボイス制度によって、免税事業者からの仕入れに関する…
詳しくみる外注費を売上原価に計上するには?ケース別の仕訳例を解説
外注費は、社外に業務を依頼したときに発生する費用ですが、そのすべてが売上原価になるわけではありません。売上原価として扱うには、外注作業が売上に直接関係しているかどうかが判断ポイントになります。この記事では、売上原価に該当する外注費の見分け方…
詳しくみる当期純損失の仕訳方法は?会計処理を具体例でわかりやすく解説
会社の会計年度が終わると、当期の損益が決算として確定されます。通常は「利益」を計上することが理想ですが、売上が減少したり費用・損失が増加したりした場合には、「当期純損失」として赤字を計上することになります。損失が出たときは、その金額をどのよ…
詳しくみる