- 更新日 : 2025年2月20日
グループ法人税制の注意点
2010年度に行われた税制改正の目玉として、新たに誕生した「グループ法人税制」があります。これは、会社の規模や資本金の大小を問わず、100%支配グループ内の場合強制的にすべての法人に対して適用される税制です。
そのためグループ法人税制の影響はとても大きなものとなっています。広く見られる完全子会社化や分社化により生まれた個々の企業を見ると、その実態は、一体的な経営を行う企業グループに組み入れられています。ここに着目したのがグループ法人税制です。
グループ法人税制にはさまざまな課税上の措置が定められています。100%支配関係となっているグループ間での取引において、含み損益に対する課税が繰り延べられること等がその一例です。ここでは、グループ法人税制が導入された背景をはじめ、その内容と注意点などを解説します。
グループ法人税制とは?
昨今では、企業組織の再編に伴う法制度が急速に整備されている影響から、株式交換による完全子会社化や会社分割による分社化、株式移転による持ち株会社化など、100%親子会社の関係となる会社が作られるケースが増加しています。
グループ法人税制は、グループ法人としての運営の状況をつかまえ、経営の実態に応じた課税を実現する観点から、支配関係にある企業をひとつの法人グループとしてみなすという考え方を持っています。
グループ法人税制が対象とする100%グループ内の法人とは、会社の規模や資本金の大小に関係なく、発行済株式等の全部を保有する場合において完全支配関係にある法人です。
上記の条件を満たした法人グループに対しては、以下のいくつかの取り扱いが強制的に適用されることになります。
2.グループ内において配当の受取が行われた場合、その全額を益金不算入として処理する
3.100%支配グループの法人内において寄付をする場合、寄付金を支出する法人は全額を損金不算入として処理し、寄付金を取る側の法人は全額を益金不算入として処理する
1は、法人税法61条の13第1項により定められており、完全支配の関係にある法人内における一定の資産譲渡の際に、譲渡損益を繰り延べるという取り扱いになります。
2の益金不算入額は全額であるため、負債利子控除は不要となります。
3の注意点として、寄付金の取り扱いは法人によって支配されている100%支配グループ内に限って適用されます。それ以外の場合、例えば、法人グループ内に支配法人ではなく個人の支配者が存在するようなときには、この取り扱いは適用されないため、支払い側は損金算入限度額を除いて損金不算入処理、受け取った側は益金算入となります。
グループ法人税制で気をつけるべき注意点とは?
グループ法人税制は法人税制上の取り決めであるため、実際の会計処理とは切り離して考えなければなりません。そのため、法人税の申告時に調整が必要となります。
資産の譲渡をはじめとした譲渡損益の計上に際しては、その調整金額が大きくなる場合もあるでしょう。それにより、会計上の当期利益額と法人税の申告書における課税所得の金額との間に大きな差が生じてしまう可能性もあります。
税額を見据えた経営を行っている場合には、グループ法人税制における申告の調整金額を事前に把握しておくよう注意する必要があります。
まとめ
戦略的に完全子会社化や分社化などを行い、グループで企業を運営することを視野に入れる場合、グループ法人税制の適用は避けては通れません。
グループ法人税制の深い理解は、税務上の大きなメリットにつながる場合もありますが、逆に税制を理解していないとリスクにつながってしまう場合もあります。
企業間での資本の構成やグループ間での取引については、組織の実態を見極めた上で、税制の内容をしっかりと理解し、慎重な計画のもとで行うことが重要なポイントとなります。
関連記事
・株式交換と株式移転の違いとは?グループ会社設立時は要チェック!
・会社分割の4つのパターンとメリットまとめ
・同族会社とは?判定要件を正しく理解するための基礎知識
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
収益認識基準の注記は何を記載する?項目ごとに記載例を紹介
収益認識基準の導入によって、対象となる企業は計算書内に新たに追加された注記の記載を求められるようになりました。その一方で、具体的にどういった内容を記載すればよいのか、そもそも記載の仕方がわからないという方もいらっしゃるでしょう。 この記事で…
詳しくみる製造業でミスが多い場合の予防策は?発生原因や対策事例を紹介
製造業でミスが多い原因は、主に作業員の不注意や誤認といったヒューマンエラーや、作業環境・ルールの不整備などが考えられます。ミスが起きたときはまず原因を特定し、具体的な対策を考えることが大切です。 本記事では、製造業でミスが多い事例や発生原因…
詳しくみるお会計票とは?種類や伝票の保管期間についてテンプレをもとに解説
お会計票は伝票のひとつで、主に店舗など顧客から直接注文を受ける場で使われます。さまざまな種類があり、業務の内容や性質によって使いやすいものを選ぶことが可能です。 本記事では、お会計票の概要や種類・タイプ、書き方、保管期間を解説します。ダウン…
詳しくみる【これは軽減税率?】会議室までサンドイッチ配達。消費税8%と10%の分かれ道は「給仕」
2019年10月1日からスタートした消費税の軽減税率制度。主に「飲食料品」は消費税軽減税率8%の対象になりますが、飲食のシチュエーションなどによっては適用対象になりません。 本シリーズ『これは軽減税率?』では、事業者のみなさんが軽減税率につ…
詳しくみる製造業でよく使われる帳票は?種類やテンプレート、電子化のメリットを解説
帳票(帳票類)とは、お金の流れを記録する帳簿や伝票の総称です。一般的には見積書・納品書・請求書といった種類の帳票が使われていますが、業界別に特有の帳票も存在します。本記事では、製造業でよく使われる帳票を紹介します。起票する際に役立つ無料テン…
詳しくみる同族会社とは?判定要件を正しく理解するための基礎知識
ここでは、同族会社の定義、同族会社に対する3つの制限について説明いたします。 同族会社とは何か 会社の株主の3人以下、並びにこれらと特殊な関係にある個人や法人が議決権の50%超を保有している会社をいいます。具体的には、保有している株式や出資…
詳しくみる