• 更新日 : 2021年7月29日

後発事象とは?監査上の取り扱いや重要な後発事象の開示および修正について

後発事象とは?監査上の取り扱いや重要な後発事象の開示および修正について

決算書には、対象となる事業年度についての内容が記されています。
しかしながら、決算の翌日に財務諸表の内容を大きく変えるようなできごとが発生したときはどうしたらよいのでしょうか?
決算日の翌日から監査報告書の発行までに発生した事象で、財務諸表に影響を与えるようなことを「後発事象」といいます。これは決算報告における重要な論点のひとつです。
この記事では、後発事象についてわかりやすく解説します。

後発事象とは

後発事象とは、「決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況に影響を及ぼす会計事象」のことをいいます。
したがって、後発事象は企業にとって有利な事象と不利な事象の双方があります。
また、監査法人を置いている会社の決算においては、監査人の監査報告書日までに発生した後発事象が監査対象となります。

企業会計原則注解1-3においては、「財務諸表には、損益計算書及び貸借対照表を作成する日までに発生した重要な後発事象を注記しなければならない」としています。
後発事象の役割は「重要な後発事象を注記事項として開示することは、当該企業の将来の財政状態及び経営成績を理解するための補足情報として有用」となっており、後発事象を決算書における補足情報として位置づけています。

後発事象を開示する意義

企業におけるディスクロージャーとは、企業がその事業内容や財務情報を企業外部に公開することをいいます。
特に上場企業においては、投資家が十分に投資判断を行うことができるように資料を提供するため、有価証券届出書を始めとする各種開示書類の提出を企業等に義務づけています。
企業の任意開示としては、IR(インベスター・リレーションズ)がありますが、これらは商品の販売促進や株主誘導という具体的な目的があり、後発事象とは目的が異なります。

財務諸表に後発事象を追加して公衆縦覧に供することにより、企業の事業内容、財務内容等を正確、公平かつ適時に開示し、投資者保護を図ろうとするのがディスクロージャー制度です。この制度の中で、後発事象の開示は非常に大きな役割を果たしていると言えます。

企業会計原則による注記の基準

企業会計原則注解[注1-3]では、以下のような後発事象を例示し、これらについては注記しなければならないと定めています。

  • 火災、出水等による重大な損害の発生
  • 多額の増資又は減資及び多額の社債の発行又は繰上償還
  • 会社の合併、重要な営業の譲渡又は譲受
  • 重要な係争事件の発生又は解決
  • 主要な取引先の倒産

これらの後発事象を開示することは、投資家ならびに関係者がその企業の財政状態や経営成績を正しく理解するうえできわめて重要です。
なお、「財務諸表等規則第8条の4」や「計算書類規則」においても注記しなければならないとする規定がみられます。

後発事象の分類とは?

後発事象は、財務諸表を修正すべき後発事象かどうかで2つに分類されます。

  • 修正後発事象(財務諸表を修正すべき後発事象)
  • 開示後発事象(財務諸表に注記すべき後発事象)

修正後発事象に該当すれば、決算書の数値が決算日以降の事象によって修正されます。
ただし、その後発事象に係る部分のみの修正となります。
また、開示後発事象に該当すれば、注記表の「重要な後発事象に関する注記」において、影響額とともに記載されます。

決算日以降に発生した事象が修正後発事象となるのか、開示後発事象となるのかついては、その事象の原因が決算日現在において存在していたかどうかで判断されます。
この判断については、個々のケースで判断することとなり、監査法人を置いている会社は監査人と検討する必要があります。

後発事象の分類

修正後発事象とは?

修正後発事象とは、決算日後に発生した会計事象で、その実質的な原因が決算日現在においてすでにわかっているものです。
決算日現在の状況に関連する会計上の判断をするうえで、より客観的な証拠を提供するものとして考慮しなければならない会計事象であるため、財務諸表の修正を行います。

例えば、決算日後に重要な係争事件が解決し、決算日において既に債務があったこととなった場合などは、損益計算書においては引当金等の繰入が、貸借対照表においては債務の計上が必要となってきます。
また、決算後に生じた得意先の倒産により、決算日においてその得意先に係る売掛金を計上していた場合は、貸倒引当金の追加計上が必要となります。

修正後発事象

開示後発事象とは?

開示後発事象とは、決算日後において発生したもので、当該事業年度の財務諸表には影響を及ぼさないが、翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼす会計事象をいいます。

開示後発事象の判断をするにあたっては、次の点に注意します。

  • 翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼす事象であること
  • 財政状態、業績及びキャッシュフローに重要な影響を及ぼす事象であること

開示後発事象は、注記表において内容や影響額、見通しなどが開示されます。
具体的な開示後発事象の例としては、例えば会社が営む事業に関する事項として、次のようなものがあります。

  • 重要な営業の譲受や譲渡
  • 重要な合併、分割、現物出資などの組織再編成
  • 重要な事業からの撤退、重要な事業部門の操業停止
  • 重要な資産の譲渡、重要な契約の締結又は解除
  • 大量の希望退職者の募集
  • 主要な取引先の倒産、主要な取引先に対する債権放棄
  • 重要な設備投資
  • 新規事業に係る重要な事象(出資、会社設立、部門設置等)

重要な後発事象とは

重要な影響を及ぼす後発事象とは、経営活動の中で臨時的、非経常的に生じる事象であり、その影響が質的・金額的にその会社にとって重要性があるものとされます。
したがって、修正後発事象として修正の対象となったり、開示後発事象として開示の対象となったりしたものは、重要な後発事象と言えます。

また、金額の見積については、信頼できる資料をもとに客観的に見積もる必要があり、見積もりができない場合には、その理由を開示する必要があります。

重要な後発事象の監査上の取り扱い

ここでは後発事象がどのように注記されるかを、開示後発事象の具体例を挙げて見ていきましょう。

例1)火災、震災、出水等による重大な損害の発生

事象発生時期: 火災、震災、出水等による損害の発生を認知したとき
注記事項は以下の通り

  1. その旨
  2. 被害の状況
  3. 損害額
  4. 復旧の見通し
  5. 当該災害が営業活動等に及ぼす重要な影響
  6. その他重要な事項がある場合にはその内容

例2)重要な係争事件の発生又は解決

事象発生時期: 訴えが提起されたとき又は解決したとき
注記事項は以下の通り

  1. その旨
  2. 事件の内容、相手の名
  3. 損害賠償請求額、その他の要求の内容
  4. 事件に対する会社の意見
  5. 裁判又は交渉の進展状況
  6. 判決、和解、示談の成立等があった場合にはその内容
  7. その他重要な事項がある場合にはその内容

例1などで影響額を見積もるにあたっては、信頼度の高い資料によって客観的に見積もることとされ、影響額を客観的に見積もることができない場合には、その旨及び理由等を開示することとなります。

後発事象についてご理解いただけたでしょうか

後発事象は、英語でSubsequent eventというそうです。
国際会計基準では、期末日後、財務諸表の公表が承認される日までの期間に発生するものをSubsequent eventといい、日本より期間が長く設定されています。企業にとって有利な事象と不利な事象の両方をいうのは海外も同じです。
自然災害にはマイナスのイメージしかありませんが、重要な係争事件の解決によって多額の補償金が入る見込みとなり、新規事業を立ち上げるなどというプラスの後発事象を、投資家たちは待っているのでしょうね。

よくある質問

後発事象とは?

決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況に影響を及ぼす会計事象のことをいいます。詳しくはこちらをご覧ください。

後発事象の分類とは?

後発事象は、財務諸表を修正すべき後発事象かどうかで、修正後発事象と開示後発事象の2つに分類されます。詳しくはこちらをご覧ください。

重要な後発事象とは?

修正後発事象として修正の対象となったり、開示後発事象として開示の対象となったりしたものは、重要な後発事象と言えます。詳しくはこちらをご覧ください。


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