• 更新日 : 2023年5月26日

流動比率と当座比率とは?目安や計算式、両者の違いを解説

流動比率と当座比率とは?目安や計算式、両者の違いを解説

会社の財務状況把握のために用いられる指標のうち、安全性を示す指標として流動比率と当座比率があります。流動比率は流動負債に対する流動資産の割合、当座比率は流動負債に対する当座資産の割合を表し、借入の返済に十分な資金が用意されているかの確認に用いられます。

流動比率と当座比率は貸借対照表から求めることができます。計算式や目安とされる数値を理解し、正しく使えるようになりましょう。

流動比率とは

流動比率は、流動負債に対して流動資産がどのぐらいあるのかを示す数値です。貸借対照表の流動資産を流動負債で割って求めます。流動資産を分子、流動負債が分母となる分数のため、流動資産を多く保有していると流動比率の値は大きく、流動資産の保有が少ないと値も小さくなります。

流動負債は急に返済が必要になった場合の対応能力が表され、数値が大きいほど対応力が高いと判断されます。反対に数値が小さいと資金繰りがつかないことから倒産する恐れがあり、安全性が低いと判断されます。

貸借対照表
資産の部負債の部
流動資産
現金及び預金
 ・・・
 ・・・


 棚卸資産


流動負債





固定負債
固定資産

 繰延資産
純資産の部
 株主資本


合計合計

流動比率の計算式

流動比率は以下の計算式を使って求めることができます。

流動比率=流動資産÷流動負債×100
    • 流動資産

流動比率の計算には貸借対照表上の流動資産がそのまま用いられます。現金や銀行預金のほか、すぐに現金化できる受取手形売掛金有価証券、棚卸資産などが挙げられます。

    • 流動負債

貸借対照表の流動負債です。1年以内に返済義務のある負債で支払手形買掛金未払金などが該当します。

業種別の流動比率

2018年度における流動比率の平均は、製造業のうち資本金1,000万円未満が158.5%、1,000万円以上1億円未満が191.9%、1億円以上10億円未満が145.9%、10億円以上が135.6%です。製造業以外は、1,000万円未満が135.5%、1,000万円以上1億円未満が163.2%、1億円以上10億円未満が143.7%、10億円以上が128.6%です。

参考:法人企業統計調査からみる日本企業の特徴 資料2 財務指標の例⑥ 流動比率|財務省

なお、中小企業を中心としたデータですが、令和3年度の業種別の流動比率は以下のとおりでした。

業種流動比率
建設業200.05%
製造業198.66%
情報通信業245.49%
運輸業・郵便業180.53%
卸売業172.90%
小売業160.73%
不動産業・物品賃貸業176.93%
学術研究、専門・技術サービス業189.18%
宿泊業・飲食サービス業154.89%
生活関連サービス業・娯楽業171.99%
サービス業他183.01%

出典:中小企業実態基本調査「令和3年確報(令和2年度決算実績)」の2.資産及び負債・純資産(法人企業) (3)産業別・資本金階級別表|経済産業省 をもとに作成

流動比率の分析・見方

流動比率を算出することで何がわかるのでしょうか。流動比率の分析や見方について5つのポイントを解説していきます。

流動比率は経営の安全性を示す

流動比率は、短期間(※1年以内)で現金化できる「流動資産」を、短期間で支払わなければならない「流動負債」で除して計算します。

つまり、流動比率が100%以上あるということは、短期間の支払いに対して現金化できる資産の方が多いということです。

流動比率を算出することで、企業の短期間での支払能力を測ることができ、短期サイクルの中で資金繰りにおいて問題が生じるリスク(経営の安全性)を知ることができます。

安全また優良とされる割合

流動比率は、一般的に120~150%以上であれば安全、200%以上だと優良だとされています。ただし、大手企業は中小企業と比べて流動比率が低い傾向にあるほか、先述したように業種でも割合に差があることに注意が必要です。流動比率が一般的に安全といわれる水準に達しないからといって、直ちに経営に問題があると判断できるわけではありません。

100%を下回ることの意味

流動比率が100%を下回るということは、短期間で現金化できる資産よりも、短期間に支払わなければならない負債の方が多いということです。100%以下だと入金額よりも出金額の方が上回り、資金ショートの発生リスクが高まります。

資金ショートとは、手元の資金が尽きてしまうことです。例えば、取引先への買掛金や支払手形の返済に遅れが生じたり、金融機関からの借入金の返済に遅れが生じたりする可能性があります。場合によっては、従業員に給与を支払えなくなったり、事務所家賃を支払えなかったりといったことも発生するでしょう。

資金ショートで資金繰りに問題が生じ返済や支払いが遅延すると、会社としての信用が落ちてしまいます。場合によっては業務を停止せざるを得ず、倒産もあり得るでしょう。流動比率が100%を割り込んでいるということは企業の存続が危険な状態で、すぐにでも改善が必要な状態を表します。

流動比率が高すぎる場合

流動比率は高い方が良いとされますが、一般的な比率と比べて高すぎる場合は流動資産の中身をよく確認する必要があります。

まず、流動比率が高すぎる場合に注意したいのが債権です。流動比率の計算には売掛金などの債権も含まれ、売掛金の回収がうまくいっていないことで流動比率が高まっている可能性もあります。

次に不良在庫です。商品や製品などの棚卸資産も流動比率の計算に含まれるため、売れない在庫を長期間抱えていることで流動比率が上がっていることもあります。

債権や棚卸資産などに特に問題がない場合は、保有する現金などの資産に比して、事業を効率的に活用できていないのかもしれません。流動比率が高い=良いとは単純に判断できませんので注意しましょう。

すぐに現金化が難しい資産に注意

流動資産には次のような資産が含まれます。

このうち現金化しやすいのは、現金預金です。取引が活発なものであれば有価証券(株式など)も比較的現金化しやすいでしょう。

一方で、現金化が難しい資産もあります。例えば、債権(受取手形や売掛金など)や短期貸付金、未収入金など、代金を回収しなければならない相手がいる資産です。取引相手の資金繰りが悪化するなどした場合、回収に遅れが生じるリスクや倒産による貸倒リスクがあります。

棚卸資産も現金化のコントロールが難しい資産です。思うように売れない商品なども中にはあり、現金化したいときに現金化できないリスクがあります。

また、比較的現金化しやすいものでも、担保として差し入れている定期預金は現金化できませんし、取得時よりも価値が大きく減少した有価証券は現金化すると損失が確定されることも注意が必要です。

以上の理由から、安全圏といわれる流動比率であっても、流動資産の構成によっては、資金繰りが悪化する可能性があり、内訳をよく把握する必要があります。

流動比率の改善方法

流動比率が高い場合に比して流動比率が100%を下回るような場合、直ちに改善が必要になる可能性があると説明しました。流動比率の改善方法や資金ショートの対策を3つ取り上げます。

債権の回収を早める

流動資産のうち売掛金などの債権が多い場合は、債権の回収を早めることで資金ショートを防止できる可能性があります。

返済が遅れているものについては、直ちに必要な措置を講じるようにしましょう。早期に連絡を行い、取引先が失念している場合は催促を、取引先の財政状況により回収が難しい場合は現在の取引を停止するなどして不良債権が増えないような対策を検討し実行します。

返済が遅れていないものについては、早期回収の手段としてファクタリング(業者に売上債権を買い取ってもらうことで早期に代金を回収するサービス)を活用するのも方法のひとつでしょう。

在庫や固定資産の適正化を図る

流動資産よりもすぐに現金化が難しい固定資産の現金化ができれば、固定資産が減少し流動資産が増えることになります。固定資産の内容を見直し、不要な不動産や過剰な設備の売却、長期保有目的で所有する有価証券の売却などを検討しましょう。

現金化しやすい流動資産を増やすには、棚卸資産(在庫)の適正化も有効です。販売できる見込みが少ない不良在庫を減らしたり、過剰在庫を減らしたりすることによって、現金化が難しい棚卸資産を圧縮します。

1年以内返済の借入金を減らす

流動比率を改善するには、流動負債の減少も有効です。流動負債には、支払手形や買掛金、短期借入金(1年以内返済予定の長期借入金も含む)、未払金などがあります。

手元資金があれば、1年以内に返済期限がくる借入金の早期返済を検討するのも良いでしょう。取引先や融資元と話がまとまるようであれば、1年以内に返済が必要な短期借入金や支払債務の支払期限の延長なども方法として挙げられます。

当座比率とは

当座比率は流動負債に対して当座資産をどのぐらい保有しているかを示す数値です。貸借対照表の流動資産から棚卸資産を除外した当座資産を、流動負債で割って求めます。当座資産を分子、流動負債を分母とする分数になるため、当座資産を多く保有していると流動比率の値は大きく、流動資産の保有が少ないと値も小さくなります。
流動資産と同じように流動負債について急に返済が必要になった場合の対応能力が表され、数値が大きいほど対応力が高いと判断されます。反対に数値が小さいと資金繰りがつかないことから倒産する恐れがあり、安全性が低いと判断されます。

貸借対照表

資産の部負債の部
流動資産
 現金及び預金
 ・・・
 ・・・



流動負債






 棚卸資産

固定資産


繰延資産

固定負債
純資産の部
合計合計

当座比率の計算式

当座比率は以下の計算式を使って用いることができます。

当座比率=当座資産÷流動負債×100
    • 当座資産

当座比率の計算に用いられる当座資産とは、流動資産から棚卸資産を除外したものです。売上計上できなければ現金化できない、適正な資産価値で計上されていない不良在庫が含まれている可能性があるなどが、棚卸資産が当座比率の計算に用いられない理由です。

    • 流動負債

流動比率の計算と同じく、貸借対照表の流動負債です。

当座比率は何パーセントが目安?

安全な当座比率は?

棚卸資産が含まれていないため、当座比率は120%程度あれば安全とされています。

当座比率が高いとき

安全性は確保されているものの、効率的に資産を活用できていない可能性があります。

当座比率が低いとき

流動負債に対して十分な返済資金が準備されていない状態です。僅かな資金繰りの悪化でも倒産する恐れがあるので、早急な改善が必要です。

流動比率と当座比率の違い

流動比率と当座比率はどちらも流動負債に対して、流動資産、あるいは当座資産をそれぞれどれぐらい保有しているかの割合を示す数値です。流動比率の分子となる流動資産には棚卸資産が含まれ、当座比率の分子となる当座資産に棚卸資産は含まれていません。当然、流動比率の方が当座比率よりも数値が大きく計算されます。

このため流動比率よりも当座比率を使った方が、より厳しく安全性を確認することができます。同じ安全性が示される数値でもこのような違いがあるので、十分に理解した上で財務状況把握に使用しましょう。

会社経営に流動比率と当座比率を役立てよう

流動比率と当座比率は、会社の安全性を示す指標です。流動負債に対する流動資産・当座資産の保有状況を表し、資金繰りの悪化による倒産を防ぐことができます。

また流動比率と当座比率によって棚卸資産の適正化や資産の効率的な活用を図ることも可能です。2つの指標を十分に理解し、経営に役立てましょう。

よくある質問

流動比率とは?

流動負債に対して流動資産がどのぐらいあるのかを示す数値です。詳しくはこちらをご覧ください。

当座比率とは?

流動負債に対して当座資産をどのぐらい保有しているかを示す数値です。詳しくはこちらをご覧ください。

流動比率と当座比率の違いは?

流動比率の分子となる流動資産には棚卸資産が含まれますが、当座比率の分子となる当座資産に棚卸資産は含まれていません。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談していただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事