• 更新日 : 2025年9月9日

建設業の会計基準とは?各会計基準の基礎知識や使用する勘定科目を紹介

建設業の会計では、一般的な会計とは異なる基準や処理方法が求められるため、正しい理解が必要です。また、適切に会計処理を行うために、建設業会計特有の勘定科目についてもおさえておきましょう。

本記事では、建設業における会計基準や勘定科目、オススメの会計ツールなどについて解説します。

建設業会計とは

建設業会計とは、一般の会計基準では対応しにくい建設業特有の商習慣に合わせて作られた、独自の会計基準です。

建設業では、工事の着工から完成、引渡までに長い期間を要します。そのため、会計の実務においては進捗度や出来高に応じた売上や原価計上を行います。

一般の会計基準について理解していたとしても、工事ごとの原価の取り扱いや継続的な進捗管理に対応できません。そのため、建設業の会計実務では独自の専門的な知識が必要となります。

また、未成工事支出金や未成工事受入金など、一般会計にはない勘定科目を取り扱うのも特徴です。

建設業の会計処理の実務を行うには「建設業経理士」の知識が必要

建設業会計は、一般会計よりも経理業務が難しいとされています。

そのため、建設業会計について詳しい知見を有した証明となる「建設業経理士」という資格の取得がオススメです。

建設業経理士を取得できる「建設業経理検定試験」には1~4級までの区分があります。1~2級に合格すると建設業経理士、3~4級に合格すると建設業経理事務士の資格を取得できます。

区分合格レベル
1級建設業の会計基準について深く理解しており、建設業の財務諸表の作成やそれに基づく経営分析が行える
2級実践的な建設業会計について修得しており、決算などの実務を行える
3級基礎的な建設業会計について修得しており、決算などに関する初歩的な実務を行える
4級初歩的な建設業会計を理解している

業務を行う上でこれらの資格が必要になるわけではありません。しかし、専門的な知識がなければ対応できない業務も多いです。

実務に対応するためにも、建設業の会計業務に従事する人は、資格に関する知識を有しておきましょう。

建設業における3種類の会計基準

建設業会計では3種類の会計基準が設けられています。売上計上を行う際には、工事の特性に応じて適切な会計基準を選ばなければいけません。

工事完成基準

工事完成基準は、工事が完成し目的物の引渡しが完了した時点で、工事収益と工事原価を一括で認識する会計基準です。

工事期間中は収益・費用を計上せず、完成・引渡時にはじめて全額を損益計算書に反映させる方式です。

工事完成基準の特徴として、会計処理のシンプルさと確実性があげられます。引渡し完了時に収益や費用を計上するため、見積もり誤差や進捗管理の複雑さがないのが利点です。

主に完成から引渡しまでの期間が短い案件や、当期中に完了する案件など、比較的小規模な取引で用いられます。

工事進行基準

工事進行基準は、長期間にわたる工事の進捗状況を見積もり、進捗度に応じて各決算日に収益や経費を計上する会計基準です。

大規模な設備建設のような長期案件であっても、各会計期間で適切に業績を反映できるのが特徴です。

また、以下のような要件を満たす工事では、工事進行基準が強制的に適用されます。

  1. 工事の着手日から契約で定められた目的物の引渡しまで1年以上の期間があること
  2. 工事の請け負い対価の額が10億円以上であること など

一方、上記の要件に該当しない工事では、工事進行基準と工事完成基準のどちらを用いるか選択できます。

原価回収基準

原価回収基準は、新収益認識基準によって新たに設けられた暫定的な収益認識手法です。

各決算日までに発生した費用のうち回収が見込まれる金額を、そのまま収益として認識します。

工事の進捗度を見積もることができない初期段階に適用される基準であり、主に工事の見積原価やスケジュールが未確定な大型・複雑な案件で用いられます。

原価回収基準は、あくまでも暫定的な会計処理であり、進捗度が見積もれるようになった段階で、工事進行基準に切り替えられるのが特徴です。

新収益認識基準とは?

新収益認識基準とは2021年4月から適用されている基準であり、以下5つのステップで売上を計上するのが特徴です。

  1. 契約の識別
  2. 履行義務の識別
  3. 取引価格の算定
  4. 履行義務への取引価格の配分
  5. 収益の認識

新収益認識基準に則って、売上を計上することで、企業ごとの収益認識の基準を統一化できます。

また、上場企業などの大手企業は、強制的に適用されるものの、中小企業は任意適用となっています。

会計処理を行う際には、自社に新収益認識基準が適用されるのかどうか、事前に確認しておきましょう。

建設業会計基準の特徴と注意点一覧

各建設業会計基準の特徴と注意点を以下の表にまとめました。

建設業会計基準特徴注意点
工事完成基準
  • 会計処理が簡単で事務負担が少ない
  • 引渡し完了という客観的事実で収益認識するため確実性が高い
  • 短期間で完成する工事に適しており契約準備時間が短縮できる
  • 工事期間中の赤字に気づきにくく完成後の損失回避が困難
  • 財務情報から企業の業績を把握できない
工事進行基準
  • 工事途中での赤字を発見できるようになり、大幅な損失を防止できる
  • 赤字予想工事では損失をほかの利益と相殺し節税効果が期待できる
  • 複数回の売上・経費計上により事務負担が増加する
  • 収益・原価総額の高精度な見積もりを継続的に行う必要がある
原価回収基準
  • 進捗度の見積もりが困難な工事でも、最低限の収益認識が可能
  • 回収見込額の範囲内で収益認識ができ、リスクをおさえられる
  • 暫定的な措置のため、継続的な進捗度検討と基準切替の手間が発生
  • 費用を収益として認識するため、直感的にわかりにくい

建設業の会計処理を行う際には、上記の注意点もおさえておきましょう。

建設業会計基準で用いられる勘定科目

建設業の会計基準では、特殊な勘定科目が用いられます。一般会計の勘定科目のうち何に相当するものなのか、具体的な仕訳例なども含めて紹介します。

完成工事高

完成工事高は、目的物を引き渡した際に計上される勘定科目です。一般会計の売上高と同様に扱われ、仕訳もほぼ同じ形式で行われます。

工事完成基準なら引渡し時に全額、工事進行基準なら工事途中でも進捗度に応じて期ごとに計上します。

また、報酬の振り込みが後日になる場合は、売掛金に相当する「完成工事未収入金」の勘定科目で仕分けするのが一般的です。

仕訳例:工事の完成物を引渡し、後日100万円振り込まれる

借方貸方
完成工事未収入金1,000,000円完成工事高1,000,000円

完成工事原価

完成工事原価は、完成工事高を得るためにかかった費用を計上する勘定科目です。一般会計の売上原価に相当します。

材料費労務費・外注費・経費の4要素を合算し、計上されます。

まず工事中の支出を「未成工事支出金」として集計し、完成・引渡し時に「完成工事原価」に振り替えて計上するのが基本です。

仕訳例:工事の完成物を引き渡した後、未成工事支出金1,000万円を完成工事原価として振り替えた

借方貸方
完成工事原価10,000,000円未成工事支出金10,000,000円

完成工事総利益

完成工事総利益は、「完成工事高-完成工事原価」で求められる粗利益を示す勘定科目です。一般会計における売上総利益に相当します。

そのため、個別に仕訳をすることはなく、工事収益から工事原価を差し引いた利益としてP/Lに記載されます。

未成工事支出金

未成工事支出金は、未完成の工事にかかった費用を記録する勘定科目です。一般会計における仕掛品に相当します。

工事完成基準なら工事中は未成工事支出金のみを集計し、完成・引渡し時に完成工事原価へ振替します。

また、工事進行基準においても各期末に、進捗分を未成工事支出金から完成工事原価に振替します。

仕訳例:工事進行基準を適用している案件で、期末に各種経費合計1,000万円を未成工事支出金に振り替えた

借方貸方
未成工事支出金10,000,000円材料費2,500,000円
労務費2,000,000円
外注費4,500,000円
経費1,000,000円

完成工事未収入金

完成工事未収入金は、完成工事高として計上していた債券の未回収分を示す勘定科目です。一般会計における売掛金に相当します。

完成・引渡し時に売上計上し、入金が翌期以降になるケースなどに用いられます。

仕訳例:前月に計上していた完成工事未収入金8,000万円が事業用口座に振り込まれた

借方貸方
預金80,000,000円完成工事未収入金80,000,000円

未成工事受入金

未成工事受入金は、未完成の工事に対して先に受け取った対価を示す勘定科目です。一般会計における前受金に相当します。

入金時においては負債として計上し、工事が完成した際には完成工事高として売上と相殺します。

また、消費税に関しては入金時ではなく、売上計上時に仮受消費税として認識しましょう。

仕訳例:1億円(消費税込み:1億1,000万円)の工事を請け負い、頭金として3,000万円受け取った。工事が完成した際、残りの8,000万円を受け取った

【頭金受領時】

借方貸方
現預金30,000,000円未成工事受入金30,000,000円

【工事完成時】

借方貸方
完成工事未収入金80,000,000円完成工事高100,000,000円
未成工事受入金30,000,000円仮受消費税10,000,000円

工事未払金

工事未払金は、工事原価における材料費、外注費などに含まれるものの、まだ支払っていない費用を指す勘定科目です。一般会計の買掛金に相当します。

仕訳例:外注業者から800万円の請求を受け、翌月に振り込む

借方貸方
外注費8,000,000円工事未払金8,000,000円

建設業の会計基準に関するよくある質問

建設業の会計基準において、よくある疑問について紹介します。要点をおさえて、建設業会計に関する理解を深めましょう。

新収益認識基準によって工事進行基準などは廃止されますか?

大企業や上場企業においては新収益認識基準が適用されます。工事完成基準や工事進行基準など、建設業会計特有の売上計上基準は廃止されます。

一方、新収益認識基準では、履行義務の充足に応じて収益が計上されます。

そのため、工事完成基準や工事進行基準などの会計方法は、新収益認識基準にも引き継がれる形となり、会計処理の方法が大きく変化するわけではありません。

また、中小企業をはじめ、新収益認識基準が適用されない建設業の会社では、これまで通り建設業会計基準で会計処理を行っていくことになるでしょう。

建設業の経理に携わるのであれば、会社の規模を問わず、建設業会計について理解を深めておく必要があります。

簿記資格を有しているから「建設業経理士」の資格は不要ですか?

「建設業経理士」の資格を有していなくとも、実務を行うこと自体は可能です。

しかし、建設業会計は通常の会計業務よりも難しく、一般会計に精通しているからといって対応できるとは限りません。

工事契約における進捗管理や原価計算、未成工事勘定の期中繰越・期末振替など、建設業会計特有の知識が求められます。

そのため、建設業で会計業務を行おうと考えているのであれば、建設業経理士の資格を取得し、専門的な知識について理解を深めておきましょう。

建設業の会計基準に対応するならツールの利用がオススメ

建設業の会計処理では、専用の会計ツールを活用するのがオススメです。

会計システムを導入することで、工事や現場ごとの損益の可視化や未成工事支出金の自動振替などが可能となり、建設業会計の事務作業が効率化します。

ほかにも、建設業にて会計ツールを導入するならば、以下のような機能の有無もチェックしておきましょう。

  • 工事台帳との自動連携
  • 工事進行基準や原価回収基準での会計処理
  • 建設業会計特有の勘定科目への対応 など

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