• 更新日 : 2025年9月2日

ポジションペーパーとは?目的や構成、分野別の役割を解説

ポジションペーパーとは、「企業が決定した会計処理や開示方針について、その根拠を文書で説明したもの」であり、言い換えると会社の会計判断の結論と根拠をまとめた文書です。

IFRS(国際財務報告基準)の導入時によく話題になりますが、日本基準であっても有用な取り組みです。ポジションペーパーは社内の指針となり、また監査人への説明資料として作成が求められるケースもあります。

※「会計判断文書」などと呼ばれることもありますが、特定のフォーマットがあるわけではなく、各社が独自に内容を決めて作成しています。

会計のポジションペーパーとは?

会計におけるポジションペーパー(position paper)とは、特定の会計問題や論点に対して、組織や個人の立場・見解を明確に示した文書のことです。

ポジションペーパーが求められる背景・目的

なぜポジションペーパーが必要とされるのか、その目的を解説します。ポイントは企業自らが会計処理の妥当性を説明できるようにしておくことです。

会計基準や監査基準に「ポジションペーパー作成義務」が明記されているわけではありませんが、企業には財務諸表を会計基準に従って作成し適切性を説明する責任があります。文書化していないと時間経過で記憶が曖昧になったり、関係者間で認識ズレが生じたり、判断根拠の内部統制上の証跡が残らないなどの問題が起こります。

ポジションペーパーとして文書化しておけば、後から内容を確認でき引継ぎに役立つほか、関係者間で認識合わせができ、重要な検討漏れや論理矛盾を防ぐ効果もあります。つまり経理部門のナレッジ蓄積と監査対応力の向上が目的と言えます。

ポジションペーパーの活用シーン(事例)

ポジションペーパーが特に有用となる具体的な場面を紹介します。代表的なケースとして以下が挙げられます。

新リース会計基準の概要と企業への影響

従来、費用処理(オフバランス)が可能だった多くのリース契約(オペレーティング・リース)が、原則として全て資産・負債として貸借対照表に計上(オンバランス化)されることになりました。

  • 企業への主な影響:
    • 財務諸表へのインパクト: 総資産と総負債が同時に増加するため、自己資本比率やROA(総資産利益率)などの経営指標が悪化する可能性があります。
    • 業務プロセスの変更: これまで対象外だった契約も含め、全てのリース契約を網羅的に把握し、使用権資産とリース負債を計算・管理する必要があり、経理部門の業務負荷が増大します。
    • 判断・解釈の必要性: リース期間の決定(例:延長オプションをどう考えるか)や、割引率の算定など、企業が会計方針を決定すべき論点が多く存在します。

このように、新基準への対応は単なる経理部門の会計処理変更に留まらず、経営判断や関連部署の協力が不可欠な全社的なプロジェクトとなります。

このような状況で、経理部門が作成するポジションペーパーは、関係者間の「共通言語」となり、プロジェクトを円滑に進める羅針盤の役割を果たします。

IFRS導入プロジェクト

IFRS適用時には、現行基準との差異を分析し自社の会計方針を決める過程で論点整理をポジションペーパーにまとめるのが一般的です。

例えば減価償却の耐用年数見直し等について、「現状の処理」「検討の背景(GAAP差異)」「論点」「結論」「根拠資料」といった項目で構成し、選択した処理が実態に合致している証拠を示します。監査法人とのすり合わせにも活用されます。

新会計基準の適用(収益認識基準など)

2021年度から強制適用の新収益認識基準対応では、各社で検討結果を文書化した「ポジション・ペーパー」を作成することが求められました。売上取引の類型ごとに契約内容や金額、適用する5ステップの論点を分析し、新たな会計処理方針を決定します。

その検討過程や結論をまとめた文書がポジションペーパーであり、契約概要・会計処理の検討過程・新しい処理方法・必要な情報などを記載します。監査人との協議でもこの資料が根拠として使われ、協議結果を踏まえ更新することもあります。収益認識以外にも、新リース基準(IFRS第16号相当)対応でも契約洗い出しから方針決定までの中でポジションペーパー作成が重要になります。

会計上の重要な判断領域

その他、無形資産の会計処理(例: 自社開発費の資産計上判断)や引当金・減損など見積もりを伴う会計処理の検討時にも、ポジションペーパーで判断根拠を整理しておくと有用です。

複雑な新規取引やグレーゾーンの会計処理では、事前に検討事項を洗い出し文書化しておくことで、後の監査での説明や社内承認プロセスがスムーズになります。実際、新収益認識に続くリース基準やその他の論点でも判断過程の記録が必要になると指摘されています。

会計のポジションペーパーの作り方(基礎編)

会計のポジションペーパーは、「誰が読んでも、なぜその会計処理を選択したのかが客観的に理解できること」をゴールとして作成します。

ポジションペーパーには決まったフォーマットはありませんが、典型的な記載項目があります。最低限、次の内容を盛り込みます: ①取引の概要(事実関係や背景情報)、②関連する会計基準の抜粋、③会計処理・開示方法の検討過程(論点と議論内容)、④最終的な結論。

例えば新収益認識の事例では「対象取引」「取引の詳細(契約内容や金額)」「判断に用いた会計基準条文」「分析・検討結果」「結論(決定した会計方針)」といった項目が含まれます。

ステップ1:準備・情報収集

書き始める前に、必要な情報をすべて集め、論点を明確にすることが最も重要です。

  1. 取引の事実関係を整理する:
    • 契約書や議事録の確認: 取引の目的、条件、金額、権利と義務などを正確に把握します。
    • 関係者へのヒアリング: 営業担当者や法務担当者など、取引に関わった人から背景や意図を聞き取ります。
    • 情報を時系列で整理: いつ、何が、どのように行われたのかを整理し、客観的な事実を固めます。
  2. 会計上の論点を特定する:
    • 整理した事実関係をもとに、「何が会計上の問題点か?」を明確にします。
    • (例:「この取引の収益はいつ認識すべきか?」「この支出は資産として計上できるか、費用として処理すべきか?」など)

ステップ2:構成に沿った執筆

集めた情報をもとに、標準的な構成に沿って文書を作成していきます。

項目記載する内容ポイント
1. タイトル「〇〇取引に関する会計処理について」など、内容が明確にわかるタイトルをつけます。日付、作成者、バージョンも記載すると管理しやすくなります。
2. 概要(取引の背景)取引の内容、当事者、金額、目的などを簡潔に説明します。予備知識がない人が読んでも、どのような取引なのか理解できるレベルで書きます。
3. 会計上の論点 (Issue)ステップ1で特定した「会計上の問題点」を明確に記述します。複数ある場合は、箇条書きで分かりやすく整理します。
4. 典拠となる会計基準判断の根拠とした会計基準、適用指針、実務対応報告などを条文番号まで正確に引用します。会社の会計方針も判断の根拠となります。
5. 検討 (Analysis)【最重要項目】<br>事実関係に対して、会計基準をどのように適用して考えたか、その思考プロセスを詳細に記述します。<br>・採用しなかった他の会計処理も挙げ、「なぜそちらは採用しなかったのか」を説明すると、より説得力が増します。「Aという事実があるので、会計基準〇条に基づきBと判断した」というように、事実と基準と解釈を明確に関連付けて書きます。
6. 結論 (Conclusion)検討の結果、会社として採用する会計処理を明確に断定的に記述します。「〇〇として処理する。」のように、あいまいな表現を避けます。具体的な仕訳を記載することも有効です。

ステップ3:レビューと承認 ✅

作成した文書は、必ず客観的な視点でレビューを行います。

  1. 社内レビュー:
    • 上司や経理部門の他のメンバーに読んでもらい、論理的に矛盾がないか、説明が不足している点はないかを確認してもらいます。
  2. 監査人との協議:
    • 特に重要性が高い取引については、監査が始まる前にポジションペーパーを監査人に提出し、事前に協議を行います。これにより、期末監査での手戻りを防ぐことができます。
  3. 最終承認と保管:
    • レビューと修正を経て、完成した文書は社内の正式な記録として承認を受け、後から誰でも参照できるように保管します。

ポジションペーパー作成のポイント

基本項目に加え、ポジションペーパーをより強固なものにするために盛り込むと良い事項もあります。

例えば、採用した処理に不利な情報もあえて記載し、その上でその方法を選択した理由を説明すること、検討した結果採用しなかった代替案と不採用の理由、過去の類似取引の処理との整合性(前期・前々期と異なる場合は理由を示す)を説明することなどです。これらは監査人が批判的に検討する中でよく指摘される点であり、事前に文書に含めておくことで説得力が増します。

また案件によっては財務諸表以外への影響(キャッシュ・フロー計算書への仕訳影響や、有価証券報告書・事業報告・統合報告書など他の開示資料への波及)も検討が必要です。ポジションペーパー作成時にそうした視点も含めておけば、後から「開示漏れ」やキャッシュ・フローへの影響見落としといった問題を防げます。

このプロセスに沿って作成することで、監査にも耐えうる、論理的で質の高いポジションペーパーを完成させることができます。

ポジションペーパー作成のコツ

効果的なポジションペーパーを作るためのポイントや運用上の工夫を紹介します。

完璧を目指しすぎない

最初から完璧なものを作ろうとすると労力が膨大になりがちです。まずは基本項目だけでシンプルに作成し、必要に応じて徐々に充実させていくのが現実的です。ポジションペーパー文化が社内になかった場合、小さく始めて徐々にレベルアップする方が定着します。

監査人を巻き込む

ポジションペーパーは社内だけで完結せず、早い段階で監査人の意見を求めながら作成・更新するのが望ましいです。監査人は企業の判断過程に関心を持っていますので、ドラフト段階で相談すれば指摘事項を事前に把握でき、監査での認識ズレを防げます。実際、監査法人から「まずポジションペーパーを作りましょう」と促されるケースもありますが、その背景には監査効率の向上と経営者による十分な検討の促進という意図があります。

社内の知見を総動員

ポジションペーパー作成には会計知識だけでなく、取引を把握する現場部門の知識も必要です。経理部内や関連部署でブレインストーミングしながら論点を洗い出し、必要な情報を集めましょう。例えば契約書の内容確認や営業担当へのヒアリングを行い、取引の実態を正しく把握することが大切です。

人材育成に活用

ポジションペーパーのドラフト作成を若手社員に任せ、上席者がレビューするプロセスは、実務を通じた会計教育の場にもなります。最初はハードルが高ければ、上司と一緒に骨子(基本項目❶~❹の箇条書き)を作ることから始めるとスムーズです。このように文書化プロジェクト自体を人材育成の機会と捉える企業もあります。

運用ルールの整備

ポジションペーパーを社内で継続的に運用するには、どの論点で作成必須とするか、誰が起案・承認するか、更新の頻度や保管方法などルール決めも重要です(※競合記事でも「運用ルールを定めよう」との指摘あり)。例えば「100万円以上の影響がある会計判断はポジションペーパー作成」など基準を設けると、経理部内での認識統一が図れます。ルール化により、忙しい決算期でも漏れなく文書化を実践できるようになります。

ポジションペーパーと内部統制・監査との関係は?

内部統制の観点

ポジションペーパーが内部統制や監査上どのような役割を果たすかを整理します。まず内部統制の観点では、重要な会計判断のプロセスを文書化して承認を得ておくこと自体が財務報告に係る統制活動の証跡になります。

特に上場企業では、経理部門が作成したポジションペーパーを上席者やCFOがレビュー・承認することで内部統制上の有効な統制手続きとなり得ます。監査人も経営者評価や監査においてその文書を閲覧することで、統制が適切に機能していると判断しやすくなります。

実際、収益認識基準の実務ではポジションペーパーの12項目構成を用いて会計処理とリスク・内部統制を一体で検討するフレームワークが提唱されています。これはポジションペーパー作成を通じて論点ごとの財務報告リスクと対応する内部統制まで併せて検討できる利点があるからです。

監査対応の観点

一方、監査対応の観点では、ポジションペーパーは監査人とのコミュニケーション・交渉を円滑にするツールです。

監査チーム内には事業を深く知らない担当者も存在するため、文章で検討経緯を示すことで意図が正しく伝わりやすくなります。会社側が十分な説明資料を準備していない場合、監査人は判断を留保したり見解の相違が生じて、最悪の場合は決算修正や開示遅延につながるリスクがあります。

逆に言えば、ポジションペーパーという共通の検討ドキュメントを介して会社と監査人が議論すれば、双方の認識差が明確になり建設的な協議が可能となります。監査人から追加資料の要求を受けて慌てるのではなく、事前に自発的に作成・共有しておくことで信頼関係の構築にも寄与するでしょう。

会計ポジションペーパー テンプレート・ひな形

このテンプレートは、どの会計基準(IFRS/J-GAAP/US GAAP)でも使用できる汎用型です。基本4要素(取引概要、会計基準、検討過程、結論)を軸に、必要に応じて代替案、不利な情報、定量影響、内部統制関連情報を追加できます。

# 会計ポジションペーパー テンプレート

## 1. 基本情報

– 件名:________

– バージョン:___(作成日:____)

– 作成者:____ レビュー:____ 承認:____

## 2. 取引概要

– 取引内容・背景:________

– 契約条件:________

– 関係部署・関係会社:________

– 対象期間:________

## 3. 関連会計基準

– 基準名/番号:________

– 該当パラグラフ:________

– 補足ガイダンス・解釈:________

## 4. 検討過程

– 論点の特定:________

– 各選択肢の概要:

– 選択肢A:________

– 選択肢B:________

– 選択肢比較(基準適合性、実務性、影響度):________

– 不利な情報・制約条件:________

– 過去処理との整合性:________

## 5. 結論

– 採用する会計処理/開示方針:________

– 採用理由:________

– 仕訳方針(例示):________

– 適用開始日・遡及要否:________

## 6. 定量影響

– PLへの影響(年間・四半期別):________

– BSへの影響:________

– CFへの影響:________

## 7. 内部統制・監査対応

– 承認プロセス(RACI):________

– 必要な証憑・資料:________

– 監査人との協議履歴:________

## 8. 付録

– 契約書写し

– 計算シート

– 関連メールや議事録

– 参考基準全文抜粋


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事

会計の注目テーマ