• 作成日 : 2025年3月28日

IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」とは

IFRS S1号は、サステナビリティ関連財務情報の開示に関する事項を定めた国際会計基準です。企業が持続可能性に関するリスクや機会を財務報告に適切に反映することで、投資家やステークホルダーから信頼を得やすくなります。本記事では、IFRS S1号の概要や適用時期、S2号との違い、日本語訳の入手方法についてご紹介します。

IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」とは

IFRS S1号とは、財務情報のうちサステナビリティ関連の情報を開示する際に用いる国際会計基準です。投資家やステークホルダーが企業のリスクや機会を正確に把握できるよう、開示の全般的な指針を示しています。

IFRS S1号の目的

IFRS S1号の主な目的は、企業のサステナビリティ関連のビジネス機会とリスクを財務情報と整合性を保ちながら開示することです。その企業が直面する環境・社会・ガバナンス(ESG)要素を含めたリスク・リターンを、投資家や金融機関などのステークホルダーが正しく評価できるよう、情報の質と比較可能性を高める指針を示しています。

これにより、企業は長期的な価値創造や持続可能な経営戦略を広く理解してもらいやすくなるのです。

IFRS S1号の適用範囲

IFRS S1号の適用範囲は、サステナビリティ関連情報を投資家に提供する必要がある広範な業種・企業が想定されています。特に、上場企業やグローバル事業を展開する企業は、国内外の投資家や金融機関からサステナビリティ情報の開示要請が強まるため、IFRS S1号の適用が望ましいと考えられています。

ただし、任意適用か強制適用かは各国・地域の規制当局が判断するため、市場の状況や自社の現状、方針を踏まえて導入を検討する必要があります。

IFRS S1号の適用時期

IFRS S1号は、2023年6月に最終基準が公表され、企業によっては2024年以降の会計期間から適用可能となりました。ただし、日本国内での導入は義務ではありません。

金融庁や企業会計基準委員会などが検討を進めており、最終的な適用時期や義務化の有無は今後の動向によって決まります。企業としては、サステナビリティ関連情報の開示体制を整えるために、早めの準備を進めることが望ましいです。

IFRS S1号とS2号の違い

IFRS S1号は、サステナビリティ関連財務情報全般に関する開示要求事項を定めたものです。一方、IFRS S2号は気候変動に特化し、気候リスクや機会に関する開示をより詳細に規定しています。

S1号が全体的な基準としてさまざまなESG要素を網羅するのに対し、S2号はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の考え方に基づき、気候関連の具体的情報を開示するための要件を整備している点が大きな違いです。

IFRS S1号の概念的基礎

IFRS S1号の概念的基礎は、「適正な表示」「重要性」「報告企業」「つながりのある情報」という4つの要素から形成されています。以下で、それぞれの概要を解説します。

適正な表示

「適正な表示」とは、サステナビリティ関連情報を財務情報と整合性を担保し、かつ正確に開示することです。企業は自社のリスクや機会を誤りなく反映し、財務諸表と矛盾がないようにする必要があります。また、投資家が合理的な投資判断を行える程度に十分な情報量を確保することが求められます。

重要性

「重要性」は、情報が投資家やステークホルダーの意思決定に影響を与える程度を表す概念です。IFRS S1号においては、サステナビリティ関連情報の中でも、特に財務状況や将来のキャッシュ・フローに大きな影響を及ぼす項目を優先的に開示することが求められます。

報告企業

IFRS S1号では、連結ベースでの報告が求められる場合が多く、親会社だけでなくグループ全体のサステナビリティ関連情報を整理して開示する必要があります。例えば、子会社や関連会社が排出する温室効果ガスなど、グループ全体のリスク管理が重要となります。単一企業に限定されない包括的な視点が求められるのです。

つながりのある情報

IFRS S1号は、サステナビリティ関連情報と財務情報の「つながり」が重視されます。例えば、気候変動リスクが売上やコスト構造に影響を及ぼすケースを具体的に示すなど、財務数値との関係性を明示することが求められます。これによって、投資家が企業の将来価値をより的確に判断できるようになるのです。

IFRS S1号のコア・コンテンツ

IFRS S1号では、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4つをコア・コンテンツとして開示することが推奨されています。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

ガバナンス

ガバナンスの開示では、サステナビリティ関連リスク・機会に対する取締役会や経営陣の監督体制が重要となります。どのような会議体でどの程度議論をしているのか、ESG課題に対する責任者や委員会の設置状況など、組織としての統制・責任分担を明確にすることが重要です。投資家やステークホルダーにとっては、リスク対応の意思決定プロセスがどれほど充実しているかを判断する材料になります。

戦略

戦略に関する開示では、企業が認識しているサステナビリティ関連リスクと機会が経営戦略や事業計画にどのように関わっているかを説明します。例えば、気候変動による原材料コストの変動や新興市場での需要増加など、具体的なシナリオ分析や将来予測を示すことが求められます。投資家やステークホルダーはこれらの情報をもとに、企業が長期的な収益力や企業価値をどのように高めようとしているかを評価します。

リスク管理

リスク管理の開示では、どのようなプロセスを通じてサステナビリティ関連のリスクを特定・評価・対応しているかを説明します。特に、気候変動リスクや資源枯渇リスク、人権リスクなど、多岐にわたるリスクをどのように優先順位づけし、具体的な対策を講じているのかを示すことが重要です。こうした取り組みが企業の財務状況や事業継続性にどの程度影響を与えるかを投資家やステークホルダーに共有する役割を果たします。

指標及び目標

指標及び目標の開示では、企業が採用する具体的なパフォーマンス指標(KPI)や、達成を目指す定量的・定性的な目標を示します。例えば、温室効果ガス排出量の削減目標や女性管理職比率の向上目標などを設定し、進捗状況を定期的に報告することが好ましいです。投資家やステークホルダーはこれらの指標を通じて、企業の取り組みが実際に成果を生み出しているかを客観的に判断できるため、透明性の高い報告が求められます。

IFRS S1号の全般的要求事項

IFRS S1号には、ガイダンスの情報源、開示の記載場所、報告のタイミング、比較情報、準拠表明といった要求事項が定められています。これらの項目を理解することで、適切な情報開示につながるので、ぜひ押さえておきましょう。

ガイダンスの情報源

IFRS S1号の開示を行う際には、既存の国際基準やフレームワーク(TCFDやGRIスタンダードなど)を参考情報として活用できます。企業はこうした公的ガイドラインを参照することで、財務情報と矛盾しない形でサステナビリティに関する重要情報を整理しやすくなります。

ただし、IFRS S1号と他のフレームワークが相反する場合には、IFRS S1号の基準を優先的に適用する必要があります。

開示の記載場所

IFRS S1号では、サステナビリティ関連情報を財務諸表と同じ報告書内で開示することが推奨されています。有価証券報告書やアニュアルレポートなど、投資家が財務情報とともにアクセスしやすい場所に記載することが望ましいです。

サステナビリティレポートなど別紙に記載する場合は、財務情報との関連性が途切れないよう、適宜クロスリファレンスを設定するなどの工夫が必要になるでしょう。

報告のタイミング

IFRS S1号は、財務報告と同じタイミングでサステナビリティ関連情報を開示することを原則としています。投資家やステークホルダーが財務情報と併せてリスクや機会を評価できるようにするためです。また、中間報告や四半期報告においても必要な情報を開示するよう求められる場合がありますが、法規制や証券取引所の規定によって異なるため、企業は該当するルールを確認することが必須です。

比較情報

IFRS S1号に基づいて情報を開示する際は、前期の数値や過去の実績と比較できるようにすることが好ましいです。例えば、温室効果ガス排出量や水使用量などの環境指標を複数年分並べて報告することで、企業の改善状況や傾向を把握しやすくなります。ただし、指標や測定方法が変更された場合は、その理由や影響を明示し、投資家やステークホルダーが適切に理解できるよう配慮が必要です。

準拠表明

企業はIFRS S1号に準拠して報告する場合、「IFRS S1号に準拠したサステナビリティ関連財務情報の開示である」ことを明確に表明する必要があります。これにより、投資家やステークホルダーは、開示内容が国際会計基準に沿ったものかどうかを簡単に判別できます。

また、他のフレームワークも併用している場合は、どの部分をどの基準に基づいて開示しているのかを整理して示すことが望ましいです。

IFRS S1号を適用するときの注意点

IFRS S1号を適用する際は、判断や測定の不確実性、誤謬(ごびゅう)の取り扱いなどに注意が必要です。以下では、代表的な3つのポイントについてご紹介します。

企業独自の判断が求められる

サステナビリティ関連情報の開示には、企業独自の判断が求められる場面が多々あります。例えば、どのリスクや機会を重要とみなし、どの程度詳細に開示するかなどは、企業の業種や事業環境によって異なります。IFRS S1号では「重要性」の原則が提示されていますが、それでも最終的な判断は企業自身に委ねられるため、組織内で合意形成を図り、根拠を明確にすることが重要です。

サステナビリティ情報の測定に不確実が伴う

気候変動など、長期的な戦略や取り組みが求められ、かつ複雑な要素が絡むサステナビリティ情報の測定には不確実性が伴います。将来シナリオの想定や、環境インパクトの算出方法などに複数の仮定が含まれるため、数字には一定の幅や誤差が生じる可能性があります。

IFRS S1号では、こうした不確実性を適切に開示し、投資家やステークホルダーがリスク評価の前提条件を理解できるようにすることが求められます。

誤謬(ごびゅう)を避ける必要がある

誤謬とは、意図しない計算ミスや表記ゆれ、開示漏れなどを指します

IFRS S1号では、財務情報と同様に、サステナビリティ関連情報においても誤謬を避けるための内部統制や検証プロセスが重要となります。例えば、温室効果ガス排出量の測定方法やデータ収集の仕組みを定期的に見直し、最新の基準や技術に沿った開示ができるかを確認する体制づくりが求められます。

IFRS S1号の日本語訳の入手方法

IFRS S1号の日本語訳については、IFRS財団の日本語版サイトなどが公開しています。翻訳がリリースされ次第、公式サイトで通知されるため、こまめに情報を確認しておきましょう。

参考:Sustainability pdf collection|IFRS

IFRS S1号はサステナビリティ情報を結び付ける重要な要素

IFRS S1号を導入すれば、サステナビリティ関連情報を財務情報と統合し、投資家やステークホルダーに正確かつ比較可能な情報の提供が可能となります。経営戦略やリスク管理、ガバナンス体制など、企業が将来どのように価値を創出し、持続可能性を高めるのかを明確に示すことで、長期的な企業価値の向上につながるでしょう。

今後、サステナビリティであることがますます求められるようになるはずです。IFRS S1号への対応は企業の信頼性と競争力を左右する重要な要素となります。


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