- 作成日 : 2025年3月28日
IFRSにおける資産除去債務とは?日本基準との違いや仕訳、割引率などを解説
資産除去債務とは、有形固定資産を取得する際、将来除去するときに見込まれる費用を見積もり、計上することです。資産除去債務は財務諸表に反映される項目ですが、主にEUで用いられている会計基準「IFRS」でも同様なのでしょうか。
今回は、IFRSにおける資産除去債務の扱いについて詳しくご紹介します。この機会に日本と海外の会計基準について見直しておきましょう。
目次
IFRSにおける資産除去債務とは
IFRSにおける資産除去債務の扱いについて確認しておきましょう。
IFRS(国際財務報告基準)とは
国際財務報告基準「IFRS(International Financial Reporting Standards)」とは、英国を拠点とする団体「IASB(International Accounting Standards Board)」が制定した国際会計基準です。
日本にも独自の会計基準がありますが、EUの企業と取引する際はIFRSを用いることが求められるため、日本企業でもIFRSを採用するところが増えています。
資産除去債務は有形固定資産の除去や原状回復に関する義務のこと
資産除去債務とは、有形固定資産を将来除去する場合に必要になると思われる費用を事前に計上するものです。貸借対照表の負債にあたり、将来発生する可能性が高いため、上場企業などは開示が求められます。
資産除去債務にあたる除去費用には、以下のようなものがあります。
- 定期借地権契約の土地に建てていた建物を除去し更地に戻すための費用
- 借りている店舗を原状回復するための費用
なお、IFRSでは、法定債務および推定的債務が資産除去債務の範囲になります。有形固定資産の利用終了、転用などの場合は資産除去債務にはなりません。
また、資産除去債務にあたる費用でも、除去費用の正当な見積もりができていない場合、計上は不要です。ただし、資産除去債務を計上していない旨を財務諸表に記載しておいてください。
IFRS第16号「リース」と資産除去債務の関係
IFRSのリース基準について、これまでは「IAS17号『リース』」が適用されていましたが、2019年より「IFRS第16号『リース』」が強制的に適用されることになりました。
IAS17号「リース」では、「リース期間が長期にわたる」「料金がリース対象資産の価値とほぼ同等で、借り手がリース対象資産を購入した場合と同じような経済効果がある」場合、ファイナンスリースに分類されていました。さらに、会計上もリースに関する資産・負債を認識する必要がありませんでした。
しかし、IFRS16号では、ファイナンスリースをその他のリースと分類せず、使用権資産、もしくはリース負債として認識することになります。
IFRS16号を正しく適用するためには、まずどの取引がIFRS16号「リース」に該当するのかを判断することが重要です。
IFRSにおける資産除去債務の会計処理・仕訳方法
IFRS16号が適用される場合、資産除去債務の会計処理・仕訳処理について確認しましょう。
オンバランス処理と仕訳
オンバランス処理を行う場合、資産計上のみならず、毎月の償却計算や利息計算およびそれらの計上が必要です。借り手になる場合の仕訳をご紹介します。
リース開始時
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
使用権資産 | ○○円 | リース負債 | ○○円 |
前払費用 | ○○円 | ||
未払金 | ○○円 | ||
引当金 | ○○円 |
「前払費用」「未払金」「引当金」がない場合は、「使用権資産」と「リース負債」は同額です。
事後測定時
利息の計上が行われる際の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
利息費用 | ○○円 | リース負債 | ○○円 |
リース料の支払いが行われる際の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
リース債務 | ○○円 | 現金預金 | ○○円 |
IFRSと日本基準の資産除去債務の違い
資産除去債務の扱いについて、IFRSと日本基準ではいくつか違いがありますので把握しておきましょう。
適用範囲の違い
IFRSでは法定債務および推定的債務となっていますが、日本基準では法律または契約上の義務およびそれに準ずるものとされています。
割引率の違い
IFRSでは毎期見直しますが、日本基準では初めに設定したものから見直しはありません。
敷金の取り扱いの違い
IFRSでは敷金の簡便的処理が認められていません。しかし、日本基準では資産除去債務を敷金の償却処理に代えることができます。
利息の表示の違い
IFRSでは、利息・配当の受取側になる場合「営業活動」もしくは「投資活動」に、支払側になる場合は「営業活動」もしくは「財務活動」になります。
日本基準では以下のいずれかです。
IFRSの資産除去債務を適用するときの注意点
IFRSの資産除去債務を適用する際の注意点を押さえておきましょう。
見積りの変更が生じた場合の会計処理に注意する
日本基準では、割引前のキャッシュフローに大きな変更が生じた場合に見直しを行いますが、IFRSでは除去債務の見積もりを毎期行います。
財務諸表の開示要件にも注意が必要
IFRSでは将来見込まれる有形固定資産除去費用を資産除去債務として財務諸表で開示する必要があります。
資産除去債務について理解を深めておこう
海外企業との取引で財務状況をチェックする際、IFRSに基づいて会計処理を行っているかが問われます。現在日本基準で会計処理している企業でも、将来海外企業との取引を検討しているのであれば、IFRSへの切り替えを早急に検討しましょう。
今回ご紹介した通り、資産除去債務の処理などIFRSと日本基準とではいくつも違いがあります。自社だけで対応するのが難しい場合は、会計ソフトや専門家の力を借り、理解を深めておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
減価償却資産の耐用年数等に関する省令で耐用年数の疑問を解決!
「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」は固定資産についての耐用年数を定めた省令です。耐用年数とは資産の寿命、すなわちその資産がどれくらいの期間にわたって利用できるかを表すものです。 固定資産は「減価償却」という手法によって、この耐用年数に…
詳しくみるパソコンは減価償却できる?計算方法や30万円未満の特例、耐用年数も解説
パソコンの減価償却は、取得価額や用途ごとに処理が異なり、判断に迷うことも多い業務です。特に法定耐用年数や特例の適用条件を誤ると、税務上のリスクが発生する可能性が否定できません。そのため正しい理解が求められます。 本記事では、パソコンの取得価…
詳しくみる【2025年実施】新リース会計基準の影響と企業の対応は?調査結果から見る実態と対策について
2027年に施行される新リース会計基準は、企業の財務報告に大きな影響を与えることが予想されます。マネーフォワードでは、新リース会計基準に関わる部門で働く会社員の方を対象に「新リース会計基準に関する調査」を実施しました。 本記事では、調査結果…
詳しくみる新リース会計基準は日本でいつから適用?実務対応のポイント
2024年9月に「リースに関する会計基準(企業会計基準第34号)」が適用指針とともに公表されました。適用対象となる企業は、2027年4月1日以降に開始する事業年度からは、新たなリース会計基準により運用されることになります。 この記事では、新…
詳しくみる中古トラックの減価償却はどうする?耐用年数や仕訳を解説
中古トラックを購入したときは、法定耐用年数に従って減価償却します。国税庁で紹介されている法定耐用年数と中古資産の計算方法を紹介するので、ぜひ参考にしてください。また、実際に減価償却する場合の仕訳例も紹介します。ぜひ正しい会計処理に活用してく…
詳しくみる定額法と定率法による減価償却費の計算方法を解説
減価償却費は、償却期間に応じて毎期の償却額を決めます。この償却額を決める方法には定額法と定率法などの償却方法があり、状況に応じて正しい方法で計算しなくてはいけません。減価償却費の計算方法や仕訳方法について具体例を挙げてわかりやすく解説するの…
詳しくみる