- 更新日 : 2025年2月28日
オペレーティング・リースで節税する仕組み・失敗例など総まとめ
リース取引のうち、オペレーティング・リースを節税目的で行う企業は少なくありません。
特に、匿名組合を通じて航空機や船舶などをリース物件として購入し、多額の減価償却費によって損失を計上する方法が一般的です。
ここでは、オペレーティング・リースによる節税の仕組みに加え、投資の失敗事例やさまざまなリスクについて解説します。
目次
「オペレーティング・リースで節税」とは?
企業の資金繰りや市場環境などのさまざまな観点から、必要な設備や備品を購入するのではなく、リース取引によって調達するケースが多いです。
その一方で、オペレーティング・リースを利用した「節税目的」でのリース取引を活用する企業も少なくありません。
具体的には、航空機や船舶のリースなどがその代表例です。日本国内でも「日本型オペレーティング・リース」と呼ばれ、自社の税負担を軽減するためのリース事業への参入が活発に行われてきました。
ここでは、オペレーティング・リース契約の概要や会計処理、それらのリース取引がなぜ節税スキームとして利用されているのかについて確認しましょう。
そもそもオペレーティング・リース取引とは
現行のリース会計基準では、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2種類に分類します。
ファイナンス・リースでは、借手がリース物件を自社の資産として購入した場合と同様に取り扱います。そのため、貸借対照表には「リース資産」や「リース債務」として計上され、実質的に物件を分割払いで購入したものとみなして会計処理を行います。
これに対してオペレーティング・リースは、リース物件にかかるリスク・リターンの大部分を貸手が負う取引です。借手の貸借対照表には「リース資産」や「リース債務」を計上しない(オフバランス)処理が原則となります。
現行のリース会計基準では、以下の2つの要件を満たす場合には、ファイナンス・リースに該当し、それ以外のリースをオペレーティング・リースとして処理します。
- リース期間の途中で解約できないこと
- リース物件の使用に伴う費用を借手が実質的に負担すること
これらの観点からも、ファイナンス・リースが売買取引に近い取引形態であるのに対し、オペレーティング・リースはレンタルに近い取引と言えるでしょう。
リース料の設定方法の違い
ファイナンス・リースとオペレーティング・リースでは、対価となるリース料の設定方法にも違いがあります。
ファイナンス・リースでは、貸手はリース物件の購入価額や付随費用を回収できるよう、リース料を設定します。一方、オペレーティング・リースでは、リース期間終了後の残存価額をあらかじめ査定して、その残存価額を差し引いた額をリース料として回収します。
このように、リース物件の残存価額を差し引くことで、ファイナンス・リースに比べると、オペレーティング・リースのほうがリース料収入は少なくなります。そのため、オペレーティング・リースの場合には、貸手は最終的にリース物件を売却したり、再リースしたりすることで、投資額の回収を図るケースが大半です。
このような取引の側面から、航空機や船舶、ヘリコプター、コンテナなど、長期的に使用できるうえ、売却時にも値崩れしにくい資産が、オペレーティング・リースの対象物件として選ばれやすいという特徴があります。
オペレーティング・リースが節税目的で使われる理由
オペレーティング・リースの場合、各期のリース料収入は貸手の売上として計上される一方で、貸手はリース物件を自らの固定資産として計上し、減価償却によって費用化します。
基本的に一定の金額で収益計上されるリース料とは異なり、減価償却費の計算については、固定資産ごとの耐用年数によって計算できます。そのうえ、定率法を採用している場合には、固定資産を取得して間もないうちから、多額の減価償却費を計上することも可能です。
また、リース期間が満了した際には、そのリース物件を売却することで、残存価額以上の売却代金を受領できるケースもあるでしょう。
このような背景から、リース物件を購入してオペレーティング・リースとして活用することで、「初期に大きな減価償却費を計上して課税所得を圧縮する」という節税スキームに用いられる事例も少なくありません。
ただし、リース物件の売却時には、その売却益に対して法人税などが課税されるため、オペレーティング・リースを活用する場合には、目先の節税だけでなく売却時点での税金対策(出口戦略)もセットで検討することが重要です。
オペレーティング・リースによる具体的な節税効果は?仕組みは?
オペレーティング・リースを活用した節税スキームについては、企業が自らリース物件を運用するのではなく、投資先である匿名組合によって管理・運営されるケースが一般的です。
ここでは、日本型オペレーティング・リースの仕組みや、効果的な活用事例、出口戦略の具体例について解説します。
日本型オペレーティング・リースの仕組み
日本型オペレーティング・リースとは、投資家が匿名組合に出資を行い、その匿名組合が航空機や船舶などのリース物件の購入や運用を行うビジネスモデルです。
リース物件の運用を行う匿名組合では、オペレーティング・リース契約に基づくリース料収入に対し、減価償却費を差し引くことで損益計算を行います。これによって計算された匿名組合の損益は、出資者である投資家に対し、出資割合に応じた分配金として帰属することとなります。
多くの場合、匿名組合は投資家から集めた資金や金融機関からの融資によって、航空機や船舶などの大型のリース物件を購入し、オペレーティング・リースとして運用します。
リース初年度から数年にわたっては、特に定率法では多額の減価償却費を計上できるため、リース料収入を上回るケースが一般的です。このように、匿名組合側で損失が発生することで、投資家に対しても損失として分配されるため、投資家は本業の利益と相殺し、自らの課税所得を圧縮することが可能です。
その後、リース期間が満了した場合には、そのリース物件を売却することで、匿名組合側ではまとまった売却益(キャピタルゲイン)が発生することとなります。それによって、その分配金を受け取る投資家についても課税所得が増加するため、別のリース案件の損失で打ち消したり、退職金や修繕費などの費用と相殺したりするケースが多いです。
「リース料収入<減価償却費」を活用した課税の繰延べ
日本型オペレーティング・リースのように、節税商品として取り扱われるオペレーティング・リースについては、リース期間の序盤に多額の減価償却費を計上して意図的に損失を発生させることで、納税額を圧縮する効果を発揮します。
特に現時点や近い将来の課税所得を圧縮したい場合に用いられるケースが多く、まとまった減価償却費を計上することにより、即効性のある税負担の軽減策として活用されます。
ただし、リース初期は減価償却費が大きく、損失が発生しやすい一方で、定率法の場合には、時の経過とともに減価償却費が次第に減少します。そのため、リース期間の後半には、減価償却費よりもリース料収入の方が大きくなり、かえって課税所得が増加する可能性も高まります。
また、最終的にリース物件を売却した場合には、売却時点におけるリース物件の帳簿価額は僅少であるため、まとまった売却益が計上されることとなります。
これらの側面を考慮すると、オペレーティング・リースの活用については、「節税」ではなく「課税の繰延べ」としての性質が強い取引形態だと言えるでしょう。
なお、平成17年度税制改正により、匿名組合からの損失分配金のうち、出資額を超える部分については、法人税の計算上は損金不算入となるため、注意が必要です。
事業承継のための自社株対策
日本型オペレーティング・リースなどのスキームについては、法人税の負担軽減だけでなく、贈与税や相続税対策として、自社株の評価額を引き下げる際に活用される場合もあります。
投資家である企業がオペレーティング・リースによって損失を発生させることで、一時的に自社株の評価額を引き下げられるため、そのタイミングで自社株を後継者へ承継する方法が一般的です。
退職金原資としての活用
オペレーティング・リースによる節税スキームについては、将来においてリース物件を売却した際に発生することが見込まれる売却益に対する「出口戦略」が必要不可欠です。
出口戦略が定まっていないと、最終的に多額の売却益に対して課税されるため、場合によっては、かえって全体の納税額が増加する可能性もあるでしょう。
このような「課税の繰延べ」における出口戦略の代表例としては、退職金への充当が挙げられます。リース物件の売却益を代表者などの退職金の資金源とすることで、利益を相殺できるだけでなく、退職金の支払いによるキャッシュフローの悪化を防ぐ効果も期待できます。
オペレーティング・リースの失敗事例は?
節税目的でオペレーティング・リースを活用する際には、いくつかのリスクがあります。
オペレーティング・リースの節税スキームを導入したものの、当初想定していたリターンが得られず、かえって大きな損失を被るケースもあるため、以下のような失敗事例についても理解したうえで、慎重な判断を行いましょう。
リース先の経営破綻
航空機リースなどでは、リース先の企業が経営不振に陥り、リース料の支払いが滞ったり、代わりとなるリース先を確保できなかったりする事例もあります。
リース先が倒産しても、リース物件は匿名組合へ返却されますが、新たな借手が見つかるまでの期間もメンテナンス代や保険料などのコストは発生し続けます。
また、経営破綻に伴い、弁護士費用などを負担するケースでは、投資時点で想定していた収益が得られずに元本割れを起こす事例もあります。
売却価額の下落
オペレーティング・リースは、最終的にリース物件を売却し、投資を回収することが前提となるビジネスモデルです。そのため、リース期間終了後に売却する計画の物件が想定した金額で売れないと、投資家の損益計画は崩れます。
航空機や船舶は市場の需給バランスや技術革新、事件・事故などによるブランドイメージの低下で短期間に評価が変動するリスクがあり、売却価額が下がることで、節税効果で得たメリット以上の損失を被った事例も存在します。
オペレーティング・リースで節税する際に注意すべきリスク
オペレーティング・リースについては、効果的に活用すれば税負担の繰延べや軽減につながる一方で、さまざまなリスクも存在します。
以下の代表的なリスクを把握したうえで、十分な効果が期待できるかどうかを検証しましょう。
キャッシュフローの流動性低下
オペレーティング・リースでは、長期契約の場合、リース期間が10年を超えるケースもあります。
リース期間中は投資額を自由に引き出すことができないため、自己資金の流動性が著しく損なわれる可能性も考慮しなければなりません。
特に経営環境が大きく変化し、本業での資金需要が高まった場合には、キャッシュフローの流動性低下が重大な影響を及ぼすリスクもあるでしょう。
元本保証がない
オペレーティング・リースでは、出資者の元本は一切保証されません。
そのため、リース先の倒産や、リース物件の資産価値低下によって売却価額が大幅に下落した場合には、当初の出資金を回収できず、元本割れとなる可能性も考えられます。
為替変動のリスク
オペレーティング・リースでは、リース先が海外企業のケースが一般的です。そのような場合には、リース料や売却代金が外貨建てとなるため、為替変動リスクが発生します。
円安局面では利益が増える一方、円高になれば売却益やリース料が目減りすることになり、投資効果が薄れる可能性もあります。
リース物件の資産価値低下
オペレーティング・リースの対象となる航空機や船舶については、さまざまな要因によって資産価値が増減しがちです。
たとえば、大規模なテロ事件や事故の発生、旅行業界の低迷、環境規制の強化、カントリーリスクなどにより、需要が急激に落ち込む可能性もあります。
最終的にリース物件を売却し、投資を回収することが前提となるため、リース物件の資産価値が低下した場合には予定した売却益を確保できず、投資家が大きな損失を被るケースもあります。
新リース会計基準適用後はどうなる?
「新リース会計基準」とは、リースに関する新たな会計処理のルールであり、2027年4月からの適用が予定されています。
新基準によって、借手側はファイナンス・リースやオペレーティング・リースの区分にかかわらず、原則としてすべてのリース取引のオンバランス化が求められ、上場企業や大企業を中心に計画的な準備や対策が必要とされています。
その一方で、リースの貸手側については、現行の会計基準と同様に、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分けて会計処理を行います。
オペレーティング・リースに関しては、収益計上に関するリース期間の判定方法が一部変更されたものの、現行の賃貸借処理は継続されます。そのため、新リース会計基準導入後も、オペレーティング・リースによる節税スキーム自体は存続することが見込まれています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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