- 更新日 : 2025年2月20日
経理マニュアルの作り方やポイントを解説!見本・テンプレートつき
経理マニュアルとは、経理業務を標準化し、属人化やミスを防ぐための指針となる文書です。業務が煩雑でミスが減らない、引継ぎに問題があると感じているなら、経理マニュアルがその解決に役立ちます。
この記事では、作成の手順や押さえておきたいポイントを詳しく解説し、効率的に業務を進める方法を解説します。
目次
経理マニュアルとは
経理マニュアルとは、企業が日常的に行う会計・経理業務の手順やルールをわかりやすくまとめた文書のことです。経理部門の業務を効率化し、属人化のリスクを下げるうえでも非常に重要な役割を果たすものといえます。
経理マニュアルを作成する目的
経理マニュアルを作成する第一の目的は、経理業務の標準化です。担当者ごとに手順や方法が異なっていると、ミスが生じやすくなるだけでなく、急な担当変更の際に混乱を招きかねません。あらかじめ経理の一連の流れを整理し、作業手順や使用する書式を定義しておけば、誰でも同じ手順で業務を進められます。
さらに、経理業務は専門的な知識を必要とし、正確性が求められる分野です。マニュアルを通じて手順を明確にし、誰が担当しても一定の品質で業務を遂行できる体制を整えることは、業務全体の信頼性を高めるうえで欠かせません。
特に中小企業では経理担当者が一人の場合も多いため、経理マニュアルを整備しておくことで、トラブル時のリスクを最小限に抑え、スムーズな業務運用が可能になります。
経理マニュアルと経理規程の違い
経理マニュアルとよく混同されやすいものに「経理規程」があります。経理規程は、企業が定める経理関連のルールや権限、承認フローなどを記した正式な文書です。主に役員会や株主総会での承認を経て発効するケースも多く、経理部門の社内統制上の根拠を示すための文書といえます。
一方で経理マニュアルは、規程を具体的な業務手順に落とし込み、日常業務で用いる操作方法や帳票の書き方など、実務に即した説明をまとめたものです。したがって、経理規程は「企業としての規則」、経理マニュアルは「実務における作業手引き」という位置付けといえるでしょう。
経理マニュアルを作成するメリット
経理マニュアルを作成することで得られるメリットは複数ありますが、ここではその中でも代表的なものを紹介します。
- 経理事務の属人化を防止できる
- 経理事務の引継ぎがスムーズにできる
- 経理事務のノウハウを社内で共有できる
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
経理事務の属人化を防止できる
経理事務が特定の担当者だけに依存していると、その担当者が休職や退職をした際に業務が滞る可能性があります。属人化が進むほど、引継ぎに時間や手間がかかるうえ、担当者しかわからないノウハウが散逸するリスクも否定できません。
経理マニュアルに具体的な業務手順を落とし込み、使用するファイルの場所や入力方法、承認の流れなどを明記しておけば、誰が担当しても一定の質とスピードで業務を遂行できます。その結果、企業としての経理体制が安定し、外部からの急な監査対応もスムーズに行えるようになる可能性が高まります。
経理事務の引継ぎがスムーズにできる
担当者が異動や退職で交代する際、後任者がマニュアルを見ながら学習できれば、業務の段取りや使う資料のポイントなどを効率よく把握できます。人から教わるだけでは見落としがちな細かい操作方法や注意事項も、マニュアルにまとめておけば後から振り返って確認しやすいでしょう。業務の引継ぎ時に発生しがちな情報の欠落や認識の齟齬も防げます。
さらに、担当者同士のやり取りの手間を減らせ、新任者が自発的に不明点を把握できるため、社内の生産性向上にもつながります。とりわけ、経理経験の浅い担当者を迎える際に、経理マニュアルがあることで作業に対する安心感も得られるでしょう。
経理事務のノウハウを社内で共有できる
経理担当者の頭の中に蓄積されがちな実務に即した経理作業のノウハウを、マニュアルによって社内で共有できる点も大きなメリットです。
自社固有の会計ソフトの設定や、経理規程による承認ルートなど、外部の汎用的な文書だけでは把握しきれない部分こそマニュアル化しておくべきといえるでしょう。また、イレギュラー対応や効率よく業務を進めるコツなどを共有することで、部門全体の業務品質向上が期待できます。
経理マニュアルの作り方・手順
経理マニュアルは、一度作って終わりではなく、企業の状況変化に応じて更新・改善していく必要があります。ここでは、初めてマニュアルを作る際に参考となる大まかな手順を示します。
業務内容を洗い出す
最初に、企業内の経理業務をすべて洗い出しましょう。現場で日々行われている業務を、時系列やプロセスごとに細分化してリストアップします。
日次の入出金管理、月次の試算表作成、年次の決算や税務申告など、いずれも重要な業務でありながら、担当者の頭の中だけに留まっている可能性があります。組織全体でヒアリングを行いながら、可能な限り詳細に洗い出すことで、後の工程がスムーズになります。
このステップで時間をかけておくと、マニュアル作成後の修正や追加作業も減り、効率的に進められるでしょう。
作業の手順を整理する
業務を洗い出したら、次は作業ごとの手順を分解し、わかりやすい流れに整理します。請求書を発行する場合を例にとると、取引内容の確認、請求書の作成、上司への承認、得意先への送付、入金確認など、一連のステップが連続的に発生します。これを時系列に並べ替えつつ、どの部署・担当者がどのタイミングでどのツールや書類を使うのかを明記するのが重要です。
曖昧になりやすい承認権限や処理期限なども、ここで整理しておくとマニュアルに落とし込みやすくなるでしょう。業務量が多岐にわたる場合は、部門ごとや業務カテゴリーごとに分類する方法が効率的です。
マニュアルの構成を作成する
作業手順を整理できたら、それをベースにマニュアルの構成を作ります。構成とは、マニュアル全体の章立てや見出しの設定を指します。具体的には、「総則」「日次業務」「月次業務」「年次業務」「各種管理業務」「システム操作」などの大項目を定め、それぞれの下で詳細な手順を説明する構成を考えます。
マニュアルを効果的に活用するためには、次の6要素を含めることが推奨されます。
- 目的:業務の意義や目的を明確に示す
- 実施事項:その業務で具体的に何を行うかを整理
- 基準:業務を進める際のルールや判断基準
- 手順:業務の進め方をステップごとに詳しく説明
- 方法:使用するツールやシステムの操作方法
- ナレッジ:注意事項やトラブルシューティングなどの実務知識
これらの要素を盛り込むことで、マニュアルが単なる作業指示書ではなく、業務の全体像を把握できる包括的なガイドとなります。
さらに、マニュアル利用者が自分に関係する部分を迅速に探せるよう、目次や索引を活用し、マニュアル全体の使い勝手を向上させる工夫も大切です。
マニュアルの本文を作成する
構成が固まったら、実際に本文を作成していきます。この段階では、できるだけ具体的な文言と手順を記述することが望ましいでしょう。
各業務に必要な帳票の名称やファイルパス、システムへのログイン手順など、実務で用いる情報を詰め込みます。専門用語は必要に応じて注釈を加え、担当者だけでなく管理部門や他部署の関係者も理解できるよう配慮しましょう。
マニュアルの運用・改善を継続する
経理マニュアルは、作りっぱなしでは意味がありません。実際に運用を始めると、想定外の作業が発生したり、法改正による変更が必要になったりと、随時手直しを加える場面が出てきます。
そこで定期的にマニュアルの利用状況をモニタリングし、担当者から意見を集めながらアップデートを行う運用体制を整えることが大切です。組織規模が拡大したり、新しい事業を始めたりすると、経理処理の範囲や手続きも変化します。こうした変化に適応できるよう、少なくとも年に一度はマニュアルの内容を見直すとよいでしょう。
経理マニュアルを作成するときのポイント
経理マニュアルを完成させるためには、単に手順を並べるだけでなく、使いやすさや汎用性を考慮する必要があります。ここでは、特に留意しておきたい3つのポイントを紹介します。
図やフローチャートで作業の流れを明確にする
文章のみで複雑な経理フローを説明しようとすると、読み手が途中で混乱する可能性があります。そこで、工程が多い業務や部門間の連携が必要な業務に関しては、図やフローチャートを用いると効果的です。
シンプルな図を挿入するだけでも、全体の流れや役割分担がひと目でわかり、作業の抜け漏れを防ぎやすくなります。ただし、あまり詳細すぎる図を入れすぎると文書自体が煩雑になるため、業務の規模感に合わせた適度な表現を選ぶことが肝心です。
エクセルなどのテンプレートを活用して記載内容を統一する
経理業務は、エクセルや会計ソフトなどのテンプレートを活用することがおすすめです。月次試算表の作成テンプレートや各種帳票のフォーマットをあらかじめ用意し、それらをマニュアル内で参照する形式にしておくと、担当者ごとのばらつきを抑えられます。
また、フォーマットを利用することで数値の入力ミスを減らし、業務にかかる時間を短縮できるメリットもあります。
ミスやトラブルの対応についても記載する
入力間違いや取引先からの入金遅延などのミスやトラブルに対して、どのように対応するかをあらかじめマニュアルに記載しておくと、現場での混乱を最小限に抑えられます。
請求書の誤記が判明した場合にどの承認フローで修正すればよいか、税務申告の期限直前にエラーが発生した場合はどの担当者に連絡すべきかなど、具体的な対応策を明示しましょう。トラブルシューティングをマニュアルに組み込むことで、担当者は落ち着いて対処しやすくなり、結果として企業全体のリスク管理体制が向上します。
経理マニュアルの見本・サンプル
ここでは、経理マニュアルを具体的に構成するときの見本・サンプルとして、想定される大項目を紹介します。実際には、企業規模や業種によって内容が異なるため、それぞれの環境に合わせて細部をカスタマイズしてください。
総則
最初に、マニュアル全体の目的や適用範囲、定義を示す「総則」を設けます。このパートでは、マニュアルを運用する意義や基本方針を明確にしておくと、利用者が本書の重要性を認識しやすくなるでしょう。経理業務における正確性、適時性、機密保持の重要性などもここで述べておきます。
さらに、会計ソフトの名称や、経理規程で頻出する用語を一覧でまとめておくなど、用語や略称の統一ルールを示しておくと、後続の章で混乱が生じにくくなります。
日次業務
日々の現金出納や入出金管理、請求書や領収書の処理など、日次単位で行う基本的な業務をまとめる部分です。振込の確認や売掛金・買掛金の管理、経費精算の受付といった業務が該当します。
日次業務は経理業務の中心となるため、担当者が変更しても一貫したルールで運用できるよう、作業手順を詳細に記載しておくことが重要です。それぞれの業務における担当部署や承認者が明確になるように、フローを示しておきましょう。
特に現金を扱う業務は不正やトラブルが起こりやすいため、責任区分をはっきり記載し、定期的なチェック体制についても記載しておくことをおすすめします。
月次業務
この部分では、月末時点での売上や支出の集計、試算表の作成、給与計算など、毎月実施する業務を記載します。月次決算に向けて必要となる資料の収集や、会計ソフトへの仕訳入力の締め切りなども明示すると、部門間の連携がしやすくなります。
月次の振り返りや修正仕訳の発生理由を整理する機能も持たせると、正確な試算表の作成だけでなく、予算管理や資金繰りの改善にもつながります。
年次業務
年度末の決算や税務申告、法人住民税・消費税などの申告書作成、さらに株主総会関連の書類準備など、年単位で実施する業務をまとめます。
決算においては、会計事務所や監査法人が関与する場合も多いため、外部専門家との連絡方法や資料提出スケジュールも記載すると便利です。申告書の作成では、国税庁が公表している各種様式をダウンロードする手順や、提出期限の確認方法などを詳細に示すと、担当者が迷わず対応できるでしょう。また、決算後の報告事項や留意点なども整理しておくと、次年度以降のスムーズなスタートにもつながります。
年次業務、特に決算は重要度の高い業務です。マニュアルにおいてもある程度のボリュームを割き、重点的に説明しましょう。
各種管理業務
経理が担当することの多い固定資産管理や在庫管理、銀行口座の管理、さらには請求書や領収書の原本管理などをまとめるパートです。これらの管理業務は、日次や月次、年次といった周期的な観点だけではなく、随時発生するイレギュラー対応が求められるケースもあります。
そのため、正しく管理しないと決算時に修正作業が増え、余計な税務リスクを抱える可能性が高まります。また、書類や各種電子データの保管場所や保存期間についても触れておきましょう。
システム操作
会計ソフトや経費精算システム、さらには売上管理システムなど、経理部門で使用するソフトウェアの操作方法についてまとめる項目です。
ログイン方法やデータのエクスポート・インポート手順、バックアップの保存場所など、システム特有の操作を画像や画面キャプチャとともに説明すると、担当者の習得が早まります。
ソフトウェアのバージョンアップがあった場合などは随時更新する必要がありますが、ここを明確にしておくと、システムの使い方がわからず業務が滞るリスクを最小限に抑えられるでしょう。操作ミスが起きやすい箇所は注意点として強調し、作業の流れを段階的に示す工夫があるとさらに使いやすくなります。
トラブルシューティングや、各システムのサポート窓口なども含めておきましょう。
その他
上記以外に、企業独自のルールや特殊な取引がある場合には「その他」の項目として整理しておくのがおすすめです。例えば海外支店や海外取引先との決済ルール、補助金や助成金に関する処理方法、あるいは社内での費用精算に関する特別ルールなどが当てはまります。
会社特有の慣習や過去からの運用ルールなどは、経理マニュアルの中でも専用のパートを設けておくと理解しやすく、確実に引継ぎできるようになります。
経理マニュアルに使える無料テンプレート
マネーフォワード クラウドでは、経理マニュアルに使えるテンプレートをご用意しております。無料でダウンロードできますので、ぜひお気軽にご利用ください。
属人化や引継ぎに悩んでいるなら経理マニュアルの作成を検討しよう
経理マニュアルは、経理作業の標準化と属人化の防止、そして業務効率化を実現するための重要なツールです。作成にあたっては、官公庁や公的機関のガイドラインにも目を通し、最新の法改正情報を踏まえてアップデートを欠かさないようにしましょう。
自社の経理が属人化している、担当者の交代でトラブルが多い、税理士や監査法人とのやり取りがスムーズにいかないなどの課題がある場合は、ぜひ経理マニュアルの作成を検討してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
IFRSにおける損益計算書とは?日本基準との違いや改正内容を解説
IFRSの損益計算書は、日本基準と異なり包括利益を重視することから、包括利益計算書ともいわれます。IFRSの損益計算書を作成するには、日本基準との違いを理解しておくことが重要です。IFRSと日本基準の損益計算書の主な相違点や作成方法などにつ…
詳しくみるコンビニでも買える収入印紙についての知識
マイホームなどの高額なものを購入した時に収入印紙を貼った領収書をもらったことなどあるかと思います。収入印紙はもっと様々な場面で必要になります。 どんな場合に収入印紙を貼らなければいけないのか、どこで収入印紙を買えば良いのかわからないという方…
詳しくみる60年ぶりの農協監査制度改革!全中の監査権廃止で日本の農業の何が変わるのかを徹底解説!
2015年2月8日に、政府と全国農業協同組合中央会(以下、全中と表記)の間で全中がこれまで、全国各地にある700に上る地域農協に対して独占的に有していた監査権を廃止することで合意がまとまりました。また、この他にもいくつかの改正点が合意されま…
詳しくみる会計ソフトのランニングコストはどんなものがある?削減するには?
個人・法人を問わず、経営を行っていく上で決して無視できないのが、帳簿や会計の存在です。昨今では情報データの多さやその利便性から会計ソフトを使用して会計処理を行うことが当たり前になっています。 ゆえに会計ソフトのランニングコストは、経営上軽視…
詳しくみる棚卸資産回転率(回転期間)とは?高い程いいの?計算や経営分析方法を解説
小売業の利益を上げるためにカギとなるのが棚卸資産回転率の指標です。 例えばスーパーでは、商品を仕入れて棚に並べ、売り切れになるまでのことを1回転といいます。一定の期間でこの回転が何回行われているかを数値で表しているのが棚卸資産回転率です。 …
詳しくみるわかりやすくて簡単な会計ソフトを比較する15のポイント
会計ソフトとは、伝票作成や総勘定元帳などの会計処理を効率よく行い、データとして管理するためのソフトウェアです。さまざまな会計ソフトがありますので、自社に合った会計ソフト選びが重要なポイントになります。 わかりやすい操作で、簡単に会計処理を行…
詳しくみる