- 更新日 : 2024年8月8日
勘定残高の確認方法と決算締めの流れ
期末になると資産の棚卸が必要だといわれますが、棚卸の方法は複数あり、どのように評価するのが適当なのかよくわからない場合も多いでしょう。
この記事では勘定残高の締め処理が必要となる背景や具体的な勘定残高の評価方法などについてご紹介します。締め処理の全体像や各残高評価方法を知って、決算に向けて備えましょう。
目次
勘定残高とは
勘定残高とは、決算書における勘定科目の期末残高のことです。
それぞれの勘定科目は、毎日の取引を通じて仕訳が切られ、日々変動しています。期末日の時点で残っている残高が、それぞれの勘定科目の期末残高となります。
ただし、期末日には勘定残高に修正を加える「締め処理」というものが必要となります。
勘定残高の締め処理が必要となる理由
勘定残高の締め処理とは、期末日における各勘定科目の金額を確定させることを意味します。
また、勘定科目が確定する段階で一部の勘定科目には修正が行われます。
これは、修正を行わない残高が、必ずしも企業の財務状況を適切に表すとは言い切れないためです。
たとえば、日々の取引によって期末日における現金の金額が「100万円」と帳簿に記載されていたとします。しかし、実際には紛失などによって現金が99万円しか残っていない、というケースもあるでしょう。
この場合には、決算書上の数字を事実としての数字に修正しなければなりません。このような目的で締め処理が必要になるのです。
残高の評価方法
期末日において、各勘定残高を「企業会計基準」が求める数値に修正する必要があります。ここでは、主要な勘定科目の残高評価方法について確認します。
1.現金および預金
現金は、実際に保有している金額が決算書上も計上されなければなりません。そのため、忙しいと後回しにせず「現金実査」を行い、今いくらの現金があるのかを数えます。
なお、預金については銀行残高を確かめる必要があります。銀行に残高証明を依頼したり通帳に記載したりして残高確認を行います。
2.棚卸資産
棚卸資産は、「実際にいくつ保有しているのか」「金額はいくらなのか」という2つの視点が必要になります。
数量については、期末日において棚卸をすることで確認できます。また金額については、「いくらで仕入れたのか」という情報が必要になります。
実際に仕入れた金額で期末棚卸資産を評価する方法を「個別法」と呼びます。
ただし実務上煩雑となるため、先に仕入れた棚卸資産から順次払い出したと仮定して取得原価を算定する「先入先出法」などの評価方法も認められます。
さらに、期末日において「正味売却価額」が「帳簿価額」を大きく下回る場合には、市場価額まで金額を引き下げる(低下法)必要があります。
3.売掛金
売掛金については、得意先に対して「残高確認」を行うのが一般的です。
得意先が「買掛金」として認識している金額と、自社が「売掛金」として認識している金額に齟齬がなければ、基本的には帳簿上の金額が正しいという根拠になります。
相違がある場合には差異分析を行い、あるべき数値に修正する必要があるでしょう。
また、期末日において売掛金が貸し倒れる可能性がある場合には、貸倒引当金の計上要否を検討する必要もあります。
4.借入金
借入金は預金と同様に、銀行から残高証明を入手することが一般的です。
5.未払費用等、経過勘定の評価
たとえば借入などがある場合、期末日において未払いとなっている分の利息が生じているケースが多いでしょう。
このような場合には、期末日の時点で計上すべき利息額を見積もり、未払費用として計上する必要があります。
残高締め処理全体の流れ
ここまでで各勘定科目の残高評価について確認しました。次に、帳簿全体の締め処理を確認しましょう。
1.損益振替
損益振替とは、当期の売上高、受取利息などの「収益項目」および売上原価、給与などの「費用項目」を、「損益」勘定に移し替える(転記する)処理のことです。このような処理をする理由は2つあります。
(1)収益・費用は当期にかかるものであり、翌期にはまたゼロからスタートさせるため
(2)損益勘定に振り替え、その後「繰越利益剰余金」勘定へ集計するため
収益および費用は、損益計算書に計上される項目ですが、この損益計算書は当年度1年分の成績表になります。
これを翌期に繰り越してしまうと、翌期の成績がさらに良くなってしまうため、残高をゼロにする必要があるのです。
2.決算振替
決算振替とは、損益振替によって集計された「損益」勘定を、「繰越利益剰余金」に集計することです。
一年分の儲けである「利益」は、会社にとっての純資産となりますから、儲けとなった純資産を示す繰越利益剰余金に含めることになります。
なお、利益が赤字だった場合には、繰越利益剰余金から差し引くことになります。
3.資産・負債・純資産・収益・費用すべての勘定を締め切る
上記の結果、収益・費用に属する勘定科目は、すべて損益勘定へ振り替えられ、残高はゼロとなりました。
一方、資産・負債・純資産に属する勘定科目については、「次期繰越」として翌期に繰り越されることとなります。
決算締め処理の趣旨を理解し、勘定残高を固めましょう
以上、決算締め処理の全体像と、各勘定残高の評価方法をご説明しました。
決算締め処理は、どうしても「漏れ」が生じやすくなります。このようなリスクを回避するためには、締め処理の趣旨を理解して棚卸することが大切です。
また、勘定科目ごとに期末評価の方法は異なりますから、勘定科目ごとに「期末に何をすべきなのか」を事前に知っておくと、期末決算での負担が軽減されるでしょう。
よくある質問
勘定残高とは?
決算書における勘定科目の期末残高のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
残高の評価方法とは?
期末日において、各勘定残高を「企業会計基準」が求める数値に修正する必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
残高締め処理全体の流れは?
まず、損益振替を行い、次に決算振替を行います。そして、最後に資産・負債・純資産・収益・費用すべての勘定を締め切ります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
将来キャッシュフローとは?計算方法と現在価値との違い
将来キャッシュフローとは、ある企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの総額です。企業価値を算定する際に用いられます。将来キャッシュフローを現在価値に割り引いたものが、その企業の現在の事業価値と評価できるのです。この記事では将来キャッシ…
詳しくみる連結決算の対象となる条件は?義務付けられている親会社の定義も解説
連結決算業務をスムーズに行うには、どのような会社が対象になるかを理解しておくことが重要です。一部の会社においては連結決算が義務付けられており、適切な会計処理が求められます。 連結決算の対象になるのは原則として子・関連会社です。とはいえ、必ず…
詳しくみる総資産とは?種類や決算書の記載場所、分析方法などをわかりやすく解説
総資産とは、決算日時点で会社が持っているすべての資産を合計したもののことです。総資産は、流動資産・固定資産・繰延資産の3つの種類の資産に分けられます。総資産からわかることや純資産との違いについてわかりやすく解説します。 総資産とは 総資産と…
詳しくみる法人事業概況説明書の提出は義務!記載内容と書き方を解説
法人は確定申告の際に、確定申告書とは別にいくつかの添付書類を提出しなくてはなりません。例えば貸借対照表や損益計算書などの財務諸表、勘定科目内訳明細書などです。 この添付書類の中に、法人事業概況説明書という書類があります。ここでは、法人事業概…
詳しくみる損益法とは?財産法との違い、計算式、メリット・デメリットをわかりやすく解説
一定期間にどれだけの利益(損益)を得ることができたかを把握することは、企業にとって必要不可欠です。実は、一定期間の損益を計算する方法はひとつではなく、損益法と財産法の2つがあり、一般的には損益法を使って計算します。 そこで、ここでは損益法を…
詳しくみるROEとROAとは?違いや目安、分析方法の解説
財務指標の中で、似ているものにROEとROAがあります。どちらも投資家が注目する指標で、企業分析に役立ちます。しかし、計算方法や分析の方法は異なるため、両者の概要と違いを理解しておくといいでしょう。この記事では、ROEとROAの概要や目安と…
詳しくみる