- 更新日 : 2024年8月8日
法人税等調整額とは?仕訳事例でわかりやすく解説
法人税は、法人の各事業年度の所得に課される税金です。ここでいう法人の所得とは、会計上の利益(収益-費用)とは異なります。
法人が一般的に妥当とされる企業会計で計算した利益は、必ずしも法人税法に定める方法で計算されていないためです。そのため、会計上の利益に法人税法による調整を行い、所得を計算します。
法人税等調整額とは、法人税の課税所得と会社の会計上の利益との差を適切に期間配分するために使用します。
目次
法人税等調整額は「税効果会計」に従って発生
法人税の課税所得は、必ずしも会社の会計上の利益とは一致しません。この差額をより合理的に期間配分するための会計手続きを税効果会計といいます。
つまり、税引き前当期純利益に「法人税等調整額」を加算または、減算することにより法人税等合計額を調整します。
税効果会計の調整対象
会計上の利益と法人税の課税所得の差異には、一時的なものと永久的なものがあります。一時差異とは会計と税務の適応の差異が将来解消されるもので、永久差異とは解消の見込みがないものです。
税効果会計の対象になるのは一時差異だけです。
主な一時差異は、貸倒引当金繰入超過額、減価償却費、退職給付引当金、賞与引当金、繰越欠損金等です。
また、一時差異は将来減算型と将来加算型の2つに分けられます。
将来減算一時差異
将来減算一時差異は、一時差異が発生した年の税引前当期純利益に差異の部分を加算し、差異が解消される年に税引前当期純利益から減算します。
将来加算一時差異
将来加算一時差異は、一時差異が発生した年の税引前当期純利益に差異の部分を減算し、差異が解消される年に税引前当期純利益に加算します。
法定実効税率
税効果会計の「法人税等調整額」を計算するには法定実効税率が必要です。法人実効税率とは法人が支払う法人税、住民税、事業税を合算した税率です。
具体的な計算方法は次のとおりです。
法定実効税率 = (法人税率×(1+住民税率)+事業税率 )/(1+事業税率)
繰延税金資産と繰延税金負債
将来減算一時差異と将来加算一時差異に法定実効税率を乗じて、繰延税金資産と繰延税金負債の計算を行います。
「繰延税金資産」は、一時差異が解消する事業年度における税金の前払額です。一方で「繰延税金負債」は、一時差異が解消する事業年度における税金の未払額となります。
1.繰延税金資産に計上する金額:将来減算一時差異 × 法定実効税率
2.繰延税金負債に計上する金額:将来加算一時差異 × 法定実効税率
それぞれの仕訳は次のようになります。
1.将来減算一時差異
発生時 : (借方)繰延税金資産/(貸方)法人税等調整額
解消時 : (借方)法人税等調整額/(貸方)繰延税金資産
2.将来加算一時差異
発生時 : (借方)法人税等調整額/(貸方)繰延税金負債
解消時 : (借方)繰延税金負債/(貸方)法人税等調整額
税効果会計適用例
次の事例で、税効果会計の適用によって損益計算書がどのように変化するか計算方法を説明します。
ただし税法上減価償却費は100までしか認められないため損金不算入額200がある。
税効果会計適応前の損益計算書
・税引前当期純利益 : 収益500-減価償却費300=200
・法人税 : (税引前当期純利益200+損金不算入額200)×40%=160
・当期純利益 : 税引前当期純利益200-法人税160=40
・税引前当期純利益に対する法人税率 : 法人税160/税引前当期純利益200=80%
税効果会計適応後の損益計算書
次に税効果会計を適用して調整を行います。
・繰延税金資産 : 損金不算入額200×40%=80
以下の仕訳を行います。
・(借方)繰延税金資産 80 /(貸方)法人税等調整額80
・調整後の法人税 : 法人税160-法人税等調整額80=80
・当期純利益 : 税引前当期純利益200-調整後の法人税80=120
・引前当期純利益に対する法人税率 : 調整後の法人税80/税引前当期純利益200=40%
税効果会計適応前の法人税率80%に比べ、税効果会計適後は「法人税等調整額」により税負担率が40%となり、実際の税率との差がなくなります。
このように、企業会計と税務の差をなくすのが税効果会計です。
税効果会計と法人税の納税額
税効果会計を採用し会計上の利益と法人税の所得の差異を期間配分したことにより、損益計算書の当期純利益(税引後)が変更されます。
ただし、実際に支払う法人税等の納税額は変わりません。なぜなら、税効果会計は税引き後の当期純利益を損益計算書上で調整する手続きだからです。
「法人税等調整額」を使った税効果会計はあまりなじみのないものですが、健全な会社経営のため、ひいては株主や投資家に、より正しい会社の財政状態を示すために大変重要なものです。
要するに、当期純利益(税引後)をより企業会計に近づける手続きと考えるとわかりやすいでしょう。
関連記事
・税効果会計における法定実効税率の考え方
・法人税の法定実効税率を徹底解説!
よくある質問
法人税等調整額はどのように調整する?
税引き前当期純利益に「法人税等調整額」を加算または、減算することにより法人税等合計額を調整します。詳しくはこちらをご覧ください。
法定実効税率の計算方法は?
「法定実効税率 = (法人税率×(1+住民税率)+事業税率 )/(1+事業税率)」です。詳しくはこちらをご覧ください。
繰延税金資産とは?
一時差異が解消する事業年度における税金の前払額のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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