• 作成日 : 2025年3月28日

IFRS第16号「リース」と日本基準の違いをわかりやすく解説

IFRS第16号と現行の日本の会計基準との大きな違いは、企業のリース契約をどのように財務諸表に反映するかという点です。この記事では、IFRS第16号の概要や強制適用の有無、リース判定や仕訳例などをわかりやすく解説します。

IFRS第16号「リース」とは

IFRS第16号とは、国際会計基準審議会(IASB)が策定した会計基準です。リース契約において借手側がほぼすべてのリースを貸借対照表に計上するという手続きを定めています。

IFRS第16号はいつから日本に適用される?

IFRS第16号は、諸外国では2019年1月1日以降に開始する事業年度から強制適用されています。日本国内では任意適用となっており、上場企業やグローバル企業を中心に導入が進められています。

日本のリース会計基準(リース取引に関する会計基準)とは異なる点があるため、IFRSに移行する際には社内でリース契約の再判定や追加資料の整備が必要になります。金融庁や企業会計基準委員会が公表するガイドラインを確認しながら導入を進めることが重要です。

IFRS第16号は強制適用される?

現状日本においてIFRSは第16号も含めて「強制」ではなく、「任意適用」となっています。企業がIFRSを採用する場合、自社の連結財務諸表においてIFRS第16号を含むIFRSの全基準を適用することになります。

とはいえ、日本基準のリース会計との違いは無視できないため、将来的にグローバルでの資金調達や企業間比較を重視する企業にとっては、IFRS導入のメリットが大きい場合もあります。なお、なお、2027年4月1日開始事業年度からは第34号「リースに関する会計基準」が強制適用となります。

IFRS第16号と日本基準の違い

IFRS第16号と日本基準(リース取引に関する会計基準)では、リース判定のプロセスや貸借対照表・損益計算書への計上方法などが異なります。主な違いを詳しく見ていきましょう。

リース判定

IFRS第16号では、企業が「資産を使用する権利」を実質的に支配しているかどうかに着目し、リースか否かを判定します。使用権を得ている期間中、どの程度意思決定権を持つのか、あるいは経済的便益を享受できるかが重要な基準となります。

企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」では、リース取引が「ファイナンス・リース」か「オペレーティング・リース」かを判定し、ファイナンス・リースであれば原則として資産計上を行います。資産の特定、使用を支配、経済的便益のほとんどすべて、使用を指図する権利が移転しているかどうかに加え、リース料総額を基に区分するなど、IFRSより細かい分類基準が存在します。

貸借対照表(財政状態計算書)

IFRS第16号において借手側は、原則としてすべてのリース(短期リースや少額資産リースを除く)について使用権資産とリース負債を計上します。使用権資産は減価償却資産のように減価償却を行い、リース負債は金利によって増加し、リース料支払いによって減少します。

一方、日本基準ではファイナンス・リース取引においては資産計上を行いますが、実質的所有権移転型かどうかで処理が異なります。オペレーティング・リースの場合は原則資産計上を行わず、賃貸借取引として扱われます。

損益計算書(包括利益計算書)

IFRS第16号では、リース契約に基づく費用は、「使用権財産の減価償却費」と「利息費用(リース負債)」に分けて認識されます。

日本基準では、ファイナンス・リース取引の際には減価償却費と利息相当額を分けて計上するケースがありますが、オペレーティング・リースは賃借料として一括処理します。実質的所有権移転型かどうかで会計処理が異なるため、IFRSと比べると複雑な区分が存在します。

キャッシュ・フロー計算書への影響

IFRS第16号では、リース料支払いによるキャッシュ・フローは、リース負債の元本返済部分は「財務活動」として扱い、利息部分は「営業活動」または「財務活動」として区分するなど、企業の選択が認められています。これによって、純粋な営業キャッシュ・フローが増える傾向があります。

日本基準の場合、元本返済額部分は「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載し、利息相当額については、企業が採用した支払利息の表示区分に従って記載するよう定められています。また、利息相当額部分を区分計算していない場合は、支払リース料を「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する必要があります。

IFRS第16号を適用した場合の会計処理の変更点

日本企業がIFRS第16号を導入すると、借手側・貸手側双方でリース取引の扱いが大きく変わります。以下で主な変更点をご説明します。

借手側の会計処理の変更点

リース資産を計上する場合は、原則として使用権資産を貸借対照表に計上し、減価償却します。リース負債を計上する場合は、同時にリース負債を認識し、支払予定リース料を現在価値に割り引いて計上します。それ以降は利息費用の発生とリース料の支払いによって負債残高を減らします。

なお、契約期間が12か月以下のリース契約や、使用権資産の金額が明らかに小さい場合は、使用権資産・リース負債を計上せず、賃借料として費用計上が認められます。

貸手側の会計処理の変更点

貸手側(リース会社など)は、IFRS第16号においても「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の分類を維持します。ファイナンス・リースはリース債権(受取リース料の現在価値)を認識し、元利金の返済を通じて債権を回収していきます。オペレーティング・リースの場合はリース資産を貸手の資産として計上し、減価償却費を認識しながらリース料収益を認識します。

IFRS第16号を適用した場合の仕訳例

ここからは、日本企業がIFRS第16号を採用する際の仕訳例を紹介します。実際の運用では、契約内容や延長オプションなどの有無を踏まえ、個別でしっかりと検討しましょう。

リース開始時の仕訳例

リース契約期間は5年、リース料総額の現在価値は1,000万円、うち貸手に支払う合計金利相当額は200万円と想定します。

仕訳例(借手側)

借方貸方
使用権資産1,000万円リース負債1,000万円

ここで、使用権資産は有形固定資産などの区分科目として計上し、リース負債は金融負債に分類します。

リース負債の利息と減価償却の仕訳例

利息費用の発生時

例えば、利息が33,333円発生した場合、決算時に以下のように仕訳をします。

借方貸方
支払利息200,000円未払利息33,333円

※リース負債の残高に対して一定の金利をかけた金額を計上。

リース料支払い時

月額20万円を支払う際、33,333円をリース利息費用として認識し、残りの166,667円をリース負債の元本返済として計上します。

借方貸方
リース負債166,667円現金預金200,000円
未払利息33,333円

減価償却費の計上時

IFRS第16号では、借手はリース契約に基づく使用権資産を認識し、その資産をリース期間にわたって減価償却します。

例えば、前提条件であるリース料総額の現在価値1,000万円を使用権資産として計上し、リース期間が5年(60か月)の場合、直接法で減価償却すると、月次の減価償却費は下記のようになります。

借方貸方
減価償却費166,667円使用権資産166,667円

この仕訳により、使用権資産の帳簿価額が毎月166,667円ずつ減少し、減価償却費として損益計算書に反映されます。なお、実際の会計処理では、残存価値やリース契約の変更なども考慮されるため、状況に応じた調整が必要です。

リース契約の変更・再評価時の仕訳例

契約期間の変更やリース料の再交渉など、リース条件が大きく変わる場合は、リース負債および使用権資産の再評価が必要です。

例えば、前述の例でリース期間が延び、追加のリース料総額の現在価値が200万円増加した場合を想定してみましょう。

借方貸方
使用権資産200万円リース負債200万円

この仕訳では、リース契約の変更により、使用権資産およびリース負債が増加したことを反映しています。延長オプションの行使などにより、企業が追加的に支払う義務が生じた分、既存の数値に加算されます。

リース資産の減損処理と簿価調整の仕訳例

仮に使用権資産の帳簿価額が1,000万円で、減損テストの結果、回収可能価額が900万円と判断された場合、100万円の減損損失を認識する例を示します。

借方貸方
減損失100万円使用権資産100万円

減損テストにより、使用権資産の回収可能価額が帳簿価額を下回る場合、その差額を減損損失として計上します。ここでは、1,000万円-900万円=100万円の減損損失を計上しています。

同時に、使用権資産の帳簿価額を減額し、減損後の価額(900万円)とするため、減損損失分を使用権資産から控除します。IFRSでは、将来的に回収可能価額が改善した場合、減損損失の戻し入れ(リバーサル)が認められる場合があります。ただし、のれんに対する戻し入れは認められていません。

IFRS第16号の導入でリース会計が変わる

IFRS第16号と日本基準の違いを理解することで、企業はリース取引に関する財務諸表の表示や管理手法を見直すきっかけとなります。借手側は使用権資産とリース負債を計上することでバランスシートへのインパクトが大きく変わり、経営指標や資金調達コストにも影響を及ぼします。

企業の経理担当者は、リース判定から仕訳例までIFRS第16号の内容を十分に把握し、必要に応じて内部プロセスやシステムを整備して対応していくことが重要です。


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