- 更新日 : 2025年4月23日
減価償却不足とは?発生する理由や確認方法・解消方法、損金算入などを解説
減価償却不足とは、会計によって算出された償却費の数字が、税務上の償却費の限度額を下回ることを指します。本記事では、減価償却不足がどのようなときに発生するのか、その原因や具体的な対策について解説します。
また、減価償却不足の有無を確認するための方法も一緒に取り上げるため、興味を持った方はぜひ最後までご覧ください。
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減価償却不足とは
減価償却不足とは、会計上の償却費のほうが税務上の償却限度額より小さくなることです。たとえば、とある償却資産の法定償却限度額が50万円であるにもかかわらず、30万円しか減価償却費を計上していない場合、減価償却不足とみなされます。
なお、足りない分の金額のことは減価償却不足額と呼びます。今回挙げた例の場合、減価償却不足額は20万円です。
減価償却不足はなぜ発生する?
会計において、減価償却不足が発生する要因はさまざまです。具体的にどのような要因で発生するか、以下で解説します。
計算ミスや手続きの不備
代表的な要因として、単純な計算ミスの可能性が挙げられます。減価償却費の計算は、使用する数値が細かく複雑です。
まず、計算をするにあたって、法定耐用年数や償却率などの数値を使用します。法定耐用年数は減価償却資産の種類ごとに異なっており、同じ種類でも使用目的や使用されている素材によって変化します。
たとえば、同じ木造の建物でも事務所用であれば法定耐用年数は24年、しかし店舗用や住宅用のものは22年です。また、償却率も、減価償却資産の耐用年数や取得時期によって異なります。
これらの要因から、計算の過程でヒューマンエラーが発生するケースは、決して珍しくありません。
会計基準や税法の改正に対応していない
計算にとくに問題がない場合は、会計基準や税法の改正に対応できていない可能性を疑いましょう。会計基準や税法は、定期的に変更が加えられています。
しかし、経理担当者や税理士が変更を把握していない、使用している会計ソフトやシステムの更新の遅れなどが原因で、新しい会計基準や税法に対応できていないケースも少なくありません。改正に対応できなければ、当然算出される減価償却費は誤った数値になります。
経営判断で意図的に減価償却費を抑えている
ミスではなく、あえて償却不足の状態にしているケースもあります。償却不足には、本来計上する経費が減少し利益を増やすことができるため、一見黒字の企業に見せかけられるというメリットがあります。
赤字の企業と黒字の企業、金融機関が融資したくなるのは、間違いなく後者の企業です。そこで、赤字の企業や収支のバランスがギリギリの企業は、償却不足を発生させることで短期的な利益を向上させ、融資を引き出そうとする場合があります。
ただし、税負担の増加や損益の不透明化など、事業を続けるうえで無視できないデメリットも存在する点に注意が必要です。
減価償却不足を確認するには決算書のどこを見る?
減価償却不足の有無を確認するにあたって、参考となるのが決算書です。決算書とは、企業の一定期間の経営状態や財務状況がわかる書類のことで、財務諸表とも呼ばれます。
決算書にはさまざまな種類がありますが、それぞれの書類ごとに注目する項目は以下のとおりです。
貸借対照表
貸借対照表とは、企業の財務状況を示す書類です。資産、負債、純資産の3つの要素を明確に示していることから、バランスシートとも呼ばれます。
貸借対照表の注目すべき項目は、固定資産の金額です。固定資産の帳簿価額が高すぎる場合、減価償却不足が発生している可能性があります。
損益計算書
損益計算書とは、企業の1年間の経営成績を示す書類です。企業はもちろん、青色申告をする個人事業主も必ず作成しなければなりません。
損益計算書で注目すべき項目は、減価償却費です。不自然に少なくなっている場合、減価償却不足の疑いを持ったほうがよいでしょう。
キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書とは、企業のキャッシュ・フロー、つまりお金の流れを示す書類です。一定の会計期間におけるお金の流れを営業活動、投資活動、そして財務活動の3項目で表示しており、これによってお金の増減の理由を明確にできます。
償却不足の有無をチェックする場合は、営業活動にある減価償却費の項目に注目してください。正常であれば、営業活動に対する減価償却費の割合は極端に低くならないため、低くなっているときは注意が必要です。
固定資産台帳
固定資産台帳とは、固定資産を取得したときの状況や減価償却の履歴を記録している台帳です。会計帳簿における補助簿の一種であり、固定資産ごとの償却状況を確認すれば、減価償却費が適正に処理されているかわかります。
減価償却不足の解消方法
減価償却不足には企業にとってメリットもありますが、あまり長期間にわたって発生するとデメリットが大きくなるため、基本的に早い段階で解消したほうがよいです。以下では、減価償却不足を解消する具体的な方法について解説します。
当期に不足額を計上する
解決方法の1つとして、当期に不足分を計上する方法が挙げられます。素早く調整ができるほか、調査のリスクを下げられる点もメリットです。ただし、一気に不足分を計上する関係上、利益が大幅に減少してしまう点がデメリットとして挙げられます。
どのような影響が出るのか、またどのような手続きをしなければならないのか把握したうえで選択しましょう。
過年度の帳簿を修正する
有効な解消方法の1つとして挙げられるのが、過年度の帳簿の修正です。具体的には、減価償却累計額を再調整しましょう。過去の計上漏れを修正することで、決算書の正確性が高まります。
なお、修正によって税務申告に影響が出る場合は、修正申告や更正の請求が必要です。また、修正申告をするにあたって延滞税が課されるほか、更正の請求には期限が設けられている点に注意しましょう。
減価償却不足額の計算方法
減価償却不足額を調べたいときは、本来計上すべき減価償却費と実際に計上した減価償却費との差額を求めましょう。
たとえば、新車で自動車を300万円で取得した場合、自動車の法定耐用年数は6年のため、定額法で減価償却費を算出すると以下のような結果になります。3,000,000×0.167=501,000
もし実際の減価償却費が40万円だった場合、以下の計算式で減価償却不足額を求めます。
501,000-400,000=101,000
今回のケースにおける減価償却不足額は、101,000円です。
減価償却不足額の損金算入が認められる条件
損金算入とは、法人税の計算をする際、企業の収益から差し引ける費用や損失のことです。損金算入によって課税所得が減少し、税の負担を減らせます。
減価償却費は償却限度額の範囲内であれば問題なく損金算入でき、また償却不足額が発生していても除却や売却時に損金算入されます。。
申告書の記載方法などの処理が複雑となるため、事前に税理士をはじめとする専門家からアドバイスを提供してもらいましょう。
減価償却不足を防ぐためのポイント
あとで損金算入ができたとしても、余計な作業であることに変わりはないため、特別な事情がない限り減価償却不足は発生させないほうがよいです。以下では、減価償却不足を発生させないためのポイントについて解説します。
固定資産台帳の管理を徹底する
まずは、固定資産台帳の管理を徹底しましょう。固定資産の管理がいい加減なせいで、減価償却不足が発生するケースは珍しくありません。
問題が発生してもすぐ把握できるように、定期的に見直しを実施しましょう。頻繁に固定資産の取得と処分を行う現場では、とくに重要です。
また、スムーズに見直しができるように、誰が見てもわかるような形で記録を残すようにしましょう。
最新の会計基準や税法を把握する
最新の会計基準や税法も、しっかり把握しましょう。仕事が忙しいせいで、会計基準や税法の情報のアップデートが遅れてしまうこともあります。
その場合は、従業員の間で勉強会を開催するのがおすすめです。従業員のスキルアップにつながるのはもちろん、従業員同士が交流を深める機会にもなります。
ただし、場所の確保や当日の進行管理などの手間も発生するため、従業員の負担にならない範囲を探りながら行いましょう。
減価償却費の計算に会計ソフトを活用する
単純な計算ミスが原因で、減価償却不足が発生するケースもあります。それを防ぐためには、会計ソフトの導入がおすすめです。
マネーフォワード クラウドでも、クラウド型の会計ソフトを提供しています。銀行やクレジットカードと連携すれば、明細情報を自動で取得し、データ入力までしてくれます。無料トライアルも実施しているため、興味を持った方はぜひ試してください。
償却不足の発生は十分防げる
以上、償却不足の概要をはじめ、発生理由や対処法などについて取り上げてきました。償却不足は意図的に発生する場合もありますが、不注意が原因で発生した場合は帳簿の修正をはじめ、対応に手間と時間が必要になります。
しかし、帳簿管理の徹底や会計ソフトの導入などでヒューマンエラーの予防ができれば、償却不足の発生を防ぐことは十分可能です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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