• 作成日 : 2025年3月3日

償却原価法を満期保有目的債券に適用する理由や計算方法をわかりやすく解説

償却原価法を満期保有目的債券に適用する理由は、その保有目的に関連しています。満期保有目的債券は満期まで必ず保有するものであり、満期に額面金額になるように購入価額から額面金額に近づけていく必要があるためです。

本記事では、償却原価法を満期保有目的債券に適用する理由や計算方法について解説します。

償却原価法を満期保有目的債券に適用するのはなぜ?

ここでは、償却原価法が満期保有目的債券に適用される理由について解説します。

償却原価法とは

償却原価法とは、償還金額より高く(または安く)取得した場合に差額を損失(または利益)として償還時に一度に計上するのではなく、所有期間に応じて計上して毎期均等額を貸借対照表価額に加減する方法のことです。

この場合の利益は有価証券利息に計上され、損失は有価証券利息をマイナス処理します。

償却原価法と時価評価の違い

時価評価とは、保有している資産価値をその時点における価格をもとに評価することです。時価とは公正な評価額のことであり、市場における取引価格や気配または指標などが該当します。一方の償却原価は、前述したとおりです。

貸借対照表価額においては、時価での評価が一般的です。しかし、取得差額が金利調整差額と認められる債券では、償却原価法を適用して時価と償却原価との差額を評価差額として処理します。

満期保有目的債券とは

満期保有目的債券とは、満期まで所有することを前提として保有する社債やその他の債券のことです。国債や社債などが該当します。

満期保有目的債券では、取得原価を貸借対照表価額とします。

満期保有目的債券に償却原価法を適用する理由

満期保有目的債券に償却原価法を適用する理由は、その保有目的に関係しています。満期まで保有することが目的の満期保有目的債券の成果は、満期時の償還額の受け取りと利息の受け取り分です。

満期時には額面金額で償還してもらえます。つまり、満期の時点では額面金額である必要があるため、保有期間で購入価額から額面金額に近づけていきます。

債券金額と取得金額との差額が金利調整部分である場合には、償却原価法に基づいて貸借対照表価額を調整しなければなりません。そこで用いるのが、償却原価法というわけです。

償却原価法による満期保有目的債券の計算方法

償却原価法の計算方法を、利息法と定額法それぞれで確認していきましょう。

計算の条件は、以下のとおりです。

  • 額面金額:1万円
  • 取得価額:9,300円
  • 期間:3年
  • クーポン利率:年3%
  • 実効利子率:年:5.6%
  • 利子支払い:年1回

それぞれ詳しく見ていきましょう。

定額法での計算方法

定額法での計算方法は次のとおりです。

【1年目:利払日】

債券自体の利息:10,000×3%=300円

定額法では、取得価額と額面金額の差額を求め、毎期均等に加減していく必要があります。

1年分の差額は次の式で計算できます。
(10,000円-9,300円)×12ヶ月/36ヶ月=233円

【2年目:利払日】

定額法では毎年均等に加減するため、2年目も1年目と同じで差額は233円です。

【3年目:利払日】

3年目も差額は234円(端数は調整)です。

投資有価証券の簿価を集計すると、3年後に額面金額の1万円になっています。

利息法での計算方法

利息法では、まず有価証券利息を計算します。有価証券利息とは、国債や地方債、社債などの債権から生じる有価証券の受取利息のことです。

有価証券利息:9,300×5.6%=521円
債券自体の利息:10,000×3%=300円
投資有価証券:521-300=221円

【2年目:利払日】

2年目で発生するのは利払のみです。2年目以降は複利になるため、注意しましょう。

有価証券利息:(9,300+221)×5.6%=533円
投資有価証券:533-300=233円

【3年目:利払日】

3年目も2年目同様に計算します。

有価証券利息:(9,300 + 221 + 233) × 5.6% = 546円
投資有価証券:546-300=246円

投資有価証券の簿価を集計すると3年後に額面金額の1万円になっていることがわかります。

償却原価法による満期保有目的債券の決算整理仕訳

償却原価法による満期保有目的債券の決算整理仕訳について解説します。ここで紹介する値は、前項に沿ったものを使用しています。

定額法

定額法における仕訳方法は、次のとおりです。

【1年目:債券の購入】

借方貸方摘要
投資有価証券9,300円現金預金9,300円債券の購入

【1年目:利払日】

借方貸方摘要
現金預金300円有価証券利息300円利息受け取り
投資有価証券233円有価証券利息233円取得価額と額面金額の差額

【2年目:利払日】

借方貸方摘要
現金預金300円有価証券利息300円利息受け取り
投資有価証券233円有価証券利息233円取得価額と額面金額の差額

【3年目:利払日】

借方貸方摘要
現金預金300円有価証券利息300円利息受け取り
投資有価証券234円有価証券利息234円取得価額と額面金額の差額

【3年目:償還】

借方貸方摘要
現金預金10,000円投資有価証券10,000円償還

利息法

利息法における仕訳方法は、次のとおりです。

【1年目:債券の購入】

借方貸方摘要
投資有価証券9,300円現金預金9,300円債券の購入

【1年目:利払日】

借方貸方摘要
現金預金300円有価証券利息521円有価証券利息受け取り
投資有価証券221円

【2年目:利払日】

借方貸方摘要
現金預金300円有価証券利息533円有価証券利息受け取り
投資有価証券233円

【3年目:利払日】

借方貸方摘要
現金預金300円有価証券利息546円有価証券利息受け取り
投資有価証券246円

【3年目:償還】

借方貸方摘要
現金預金10,000円投資有価証券10,000円償還

償却原価法を満期保有目的債券に適用する場合の注意点

償却原価法を満期保有目的債券に適用する場合の注意点について解説します。主な注意点は、次の2つです。

  • 有価証券利息の取り扱いに注意する
  • 2年目以降の会計処理に注意する

注意点を押さえて、ミスなく処理できるようになりましょう。

有価証券利息の取り扱いに注意する

有価証券利息の取り扱いには、注意が必要です。有価証券利息とは、国債・地方債・社債などの債権から生じる受取利息のことです。これらの利息は、有価証券利息の勘定科目で管理する必要があります。

有価証券利息と関連のある勘定科目としては、受取配当金が挙げられます。株式の配当金から得られる利益は、受取配当金で処理するようにしましょう。

2年目以降の会計処理に注意する

利息法を用いて有価証券利息を算出する場合は、2年目以降の会計処理に注意が必要です。

1年目は、取得価額×実効利子率で有価証券利息を求められますが、2年目以降は複利になるため、(取得価額+取得年〜前年までの有価証券利息)×実効利子率で計算します。

償却原価法を満期保有目的債券に適用する際には注意が必要

満期保有目的債券は、満期まで持っていれば額面金額で償還してもらえます。そのため、満期に額面金額になるよう、償却原価法を適用し調整が必要です。

償却原価法には、利息法と定額法があります。原則的に適用されるのは利息法で、利息法を用いる場合には、2年目以降の会計処理は複利になることには注意が必要です。

本記事で紹介した計算方法を参考に、適切な処理ができるようになりましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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