• 更新日 : 2025年2月28日

資産除去債務と税務調整について

法令や契約などによって発生する固定資産の除去費用については、あらかじめ資産除去債務として財務諸表に表示する必要があります。ただし、資産除去債務に関する費用については、税務上は損金処理のタイミングが異なるため、税務調整を行わなければなりません。

ここでは、資産除去債務における会計と税務の違いや、税務調整の方法について解説します。

資産除去債務とは?

資産除去債務とは、貸借対照表において負債として表示される科目であり、有形固定資産に関する将来の除去費用を現在価値に換算したものです。

まずは、資産除去債務の概要や資産除去債務を計上する場合の手順を理解して、適切な対応を徹底しましょう。

資産除去債務の概要

資産除去債務とは、将来発生することが見込まれる資産の除去費用を見積もり、それを現在価値に割り引いたうえで、負債に計上する会計処理のことです。

除去費用については、法令や契約に基づいて法律上の義務が発生するものが対象となり、アスベストの除去費用や賃貸借契約に基づく原状回復費用などが挙げられます。したがって、企業が自主的に行う除去費用は、資産除去債務に該当しません。

資産除去債務については、2010(平成22)年4月1日以降の事業年度から適用された「資産除去債務に関する会計基準」に基づいて会計処理を行う必要があります。それ以前も、電力業などの特定の業界においては、解体引当金などの形で計上されていましたが、現在では上記の会計基準に基づく統一的な会計処理が求められています。

■「資産除去債務に関する会計基準」が導入された背景

  1. 国際的な会計基準への整合性
    国際会計基準IFRS)では、資産除去債務が既に採用されており、日本も国際基準との調和を図る
  2. 費用の合理的な期間配分
    将来の除去費用を発生時に一括で処理するのではなく、資産の耐用年数にわたって費用配分することで、期間損益計算をより正確に行う

なお、資産除去債務の計上については、上場企業やその連結子会社などが主な対象です。中小企業などの場合には、必ずしも貸借対照表へ表示する必要はありません。

資産除去債務の計算方法

資産除去債務に関する会計処理を行う場合には、以下のような手順に則って計上額を計算します。

  1. 将来キャッシュフローの見積もり
    当該有形固定資産の撤去や処分に要する費用を合理的に見積もります。たとえば、過去の実績や業者の見積金額などを参考にします。
  2. 割引率の決定
    将来キャッシュフローを現在価値に換算するための割引率を設定します。具体的には、無リスクかつ税引前の利率を用いることとなり、利付国債の流通利回りなどを基準とするケースが一般的です。
  3. 現在価値への割引
    見積もった将来キャッシュフローを割引率で割り引き、資産除去債務として計上すべき現在価値を計算します。

なお、将来キャッシュフローについては、以下のような情報をもとに算出します。

  • 除去作業に必要な平均的な費用
  • 資産取得時に見積もられた除去費用のデータ
  • 類似資産の過去の除去費用実績
  • 投資決定時の除去費用の見積もり
  • 除去作業を行う業者からの見積もり情報

将来キャッシュフローには、直接的な除去費用だけでなく、当該資産の保管や管理など、除去するまでの関連費用も含まれます。ただし、法人税などの影響額を含めない点には注意が必要です。

また、インフレ率や予測値の乖離リスクも反映し、技術革新や法規制の変更による影響も合理的に見積りが可能な場合には、これらも計算に加味します。

なお、将来の除去費用については、月日の経過に伴い、企業の事業状況や外部環境の変化に応じて変動するケースも少なくありません。将来キャッシュフローの見積変更が生じた場合には、資産除去債務についても調整が必要となるため、企業は定期的なモニタリングが求められます。

資産除去債務の会計処理

資産除去債務を計上する場合には、固定資産の購入時に負債として表示すべき金額を計算するだけでなく、毎期の決算時にも仕訳計上を行う必要があります。

具体的には、以下の流れに沿って適切な会計処理を行いましょう。

購入時の仕訳処理

固定資産の購入時に資産除去債務を計上する場合には、将来キャッシュフローの見積額を現在価値に割り引いて負債として計上すべき金額を算定します。具体的には、資産除去債務として計上する金額と同額を有形固定資産の帳簿価額に加算します。

借方貸方
有形固定資産×××円資産除去債務×××円

※(監修者免責)ここでは、具体的な計算方法というより、仕訳の全体像のみをシンプルに提示するため、具体的な金額は避けて作成しています。

この仕訳を計上することで、固定資産の取得価額には、実際の購入価格だけでなく将来負担すべき除去費用の現在価値が上乗せされます。資産除去債務の額が取得価額に加算されることにより、それぞれの耐用年数にわたって減価償却費として各事業年度に費用配分されます。

決算時の仕訳処理

決算時には、資産除去債務の帳簿価額に基づき利息費用を計上する必要があります。これは、時間経過とともに負債の現在価値が増加することを財務諸表へ的確に表示するためのものです。具体的な仕訳は以下のとおりです。

借方貸方
利息費用

減価償却費

×××円

×××円

資産除去債務

減価償却累計額(間接法の場合)

×××円

×××円

毎期の決算時に利息費用を計上することで、資産除去債務の帳簿価額が増加するため、時間の経過とともに増加する将来キャッシュフローの現在価値をより正確に反映することが可能です。

一方、資産除去債務に対応する除去費用として加算された有形固定資産の取得価額については、耐用年数にわたって減価償却費として費用配分されます。これにより、除去費用についても資産の使用期間全体を通じて適切に費用化できるため、期間損益計算の透明性が向上します。

除去時の仕訳処理

資産除去債務の対象となった資産を除却した場合には、資産除去債務を取り崩し、実際に発生した除去費用を現金または預金から支払います。具体的な仕訳は以下のとおりです。

借方貸方
資産除去債務×××円現金預金×××円

実際に固定資産を除去したことで、これまで計上してきた資産除去債務の帳簿価額と実際の支出額が相殺されて資産除去債務は消滅します。

なお、実際の除去費用が資産除去債務の残高と異なる場合には、その差額は「履行差額」として損益計算書上の収益または費用に計上されます。

資産除去債務の税務上の取扱いについて

資産除去債務は、会計基準に基づいて計上される負債科目ですが、このような会計処理と税務上の取扱いは異なります。

具体的には、会計と税務において、固定資産の除去費用に関する損金算入のタイミングに違いがあることで、法人税計算では税務調整が必要となります。

税務における損金算入時期の考え方

法人税法では、損金算入の基準として「債務確定主義」が採用されています。これは、債務が確定したと認められる時点でのみ損金算入が認められるという考え方に基づいています。

この観点から、税務上は資産除去債務について以下のように扱われます。

  • 資産取得時
    固定資産の取得時点では、将来発生する除去費用に関する債務が確定しているとは認められないため、税務上は損金として認められません。したがって、会計上における資産除去債務の計上による減価償却費や利息費用については、税務上は損金には該当せず、課税所得に加算する必要があります。
  • 資産除去時
    資産を実際に廃棄・処分した時点で、第三者に対する債務が確定します。したがって、除去費用については、除却時点で初めて税務上の損金算入が可能となります。

税務調整の方法

会計基準では、資産除去債務は将来発生が見込まれる除去費用を財務諸表に反映することを目的として、法律上の義務が発生した時点で認識します。これにより、資産除去債務に関する会計処理の一環として、決算時において減価償却費や利息費用が各期の費用として計上されます。

一方で、税務上においては実際の支出が発生する除去時点でようやく損金として認められます。このような会計と税務の差異が生じることで、法人税などを計算する場合には、以下のような税務調整を行わなければなりません。

  • 別表4(所得調整)
    会計上で費用計上された利息費用や減価償却費については、別表4で加算することにより、課税所得が増加します。
  • 別表5(1)(帳簿価額の調整)
    資産除去債務として計上された負債額や、両建て処理によって固定資産の帳簿価額に上乗せされた額については、別表5(1)で調整を行うことで、税務上は資産除去債務が計上されていない状態に戻すこととなります。

なお、資産除去債務の税務調整により、会計上認識された費用と税務上の損金が一致しないため、一時差異が発生します。この差異に基づき、税効果会計によって繰延税金資産または負債を計上することとなります。

税務調整の具体例

資産除去債務に関する税務調整について、以下では具体例を用いて、その内容を確認しましょう。

◎前提条件

■ 固定資産について

  • 取得価額(建物):3,000
  • 取得年月日:×1年4月1日(事業供用日も同日とする)
  • 耐用年数:3年
  • 残存価額:ゼロ
  • 減価償却方法:定額法
  • 3年後の除去費用:1,000
  • 割引率:3%

会計上の処理

建物取得時には、将来の除去費用である1,000を現在価値に割り引いて、資産除去債務として計上すべき金額を計算します。

借方貸方
建物3,915現金預金

資産除去債務

3,000

915(※1)

(※1)1,000(割引前将来キャッシュフロー)÷【1+3%(割引率)】^3≒915

なお、毎期の決算時に計上する減価償却費や利息費用の内訳については下表のとおりです。

■ 各事業年度における費用の内訳

事業年度減価償却費(※2)利息費用(※3)除去費用
×2年3月31日1,305280
×3年3月31日1,305280
×4年3月31日1,305290
合計3,915850

(※2)減価償却費:3,915÷3年=1,305

(※3)利息費用:(資産除去債務+過年度の利息費用合計)×3%によって計算

したがって、減価償却費と利息費用の合計額は「3,915+85=4,000」となり、建物の取得価額3,000に除去費用1,000を加えた金額と一致します。

税務上の処理

税務処理においては、債務確定主義に基づいて、会計による資産除去債務の計上がなかったものとして、課税所得を計算しなければなりません。

そのため、各事業年度において計上すべき損金については下表のとおりです。

■ 各事業年度における損金の内訳

事業年度減価償却費(※)利息費用除去費用
×2年3月31日1,00000
×3年3月31日1,00000
×4年3月31日1,00001,000
合計3,00001,000

(※)減価償却費:3,000÷3年=1,000

損金計上額としては、減価償却費3,000と除去費用1,000の合計4,000となり、会計処理と同額になりますが、損金算入のタイミングが大きく異なります。

会計上における資産除去債務による減価償却費の増額分や利息費用については、税務上は損金処理が認められず、実際に除去費用を支出した際にまとめて損金算入することとなります。

税務調整

法人税を計算する際には、会計にて計上された資産除去債務の仕訳処理を取り消すために、以下のような申告調整を行う必要があります。

1. ×2年3月期

➀ 別表4

  • 減価償却超過額:305(加算・留保)
  • 利息費用否認:28(加算・留保)

税務上は上記の2つを加算することで、資産除去債務に関連する費用を除外して所得計算を行わなければなりません。

➁ 別表5(1)

区分期首現在利益積立金額当期の増減差引翌期首現在利益積立金額
建物▲915

305

▲610
資産除去債務915

28

943

別表5(1)では、当初の資産除去債務915の計上がなかったものとしたうえで、別表4で損金から除外した費用についても反映することで、資産除去債務の計上分を取り消します。

2. ×3年3月期

➀ 別表4

  • 減価償却超過額:305(加算・留保)
  • 利息費用否認:28(加算・留保)

➁ 別表5(1)

区分期首現在利益積立金額当期の増減差引翌期首現在利益積立金額
建物▲610305▲305
資産除去債務94328971

3. ×4年3月期(除却年度)

➀ 別表4

  • 減価償却超過額:305(加算・留保)
  • 利息費用否認:29(加算・留保)
  • 減価償却超過額認容:915(減算・留保)
    ※305×3期分=915
  • 利息費用認容:85(減算・留保)
    ※28+28+29=85

実際に固定資産を除却したタイミングで損金計上が認められるため、これまで損金不算入として加算してきた減価償却費や利息費用をまとめて減算処理します。

➁ 別表5(1)

区分期首現在利益積立金額当期の増減差引翌期首現在利益積立金額
建物▲3053050
資産除去債務9711,000290

別表4にて減算・留保とした915+85=1,000を資産除去債務から取り崩すことで、別表5(1)における資産除去債務が消滅します。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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