- 更新日 : 2024年8月8日
海外子会社と連結決算を行う際の会計処理|換算処理やポイントも解説
近年、大企業だけではなく中小企業およびベンチャー企業でも投資やM&Aによる海外進出が増加しています。しかし、海外子会社を会計上適切に管理できていない企業も多いのが現状です。海外子会社では、言語や文化の壁から正確かつ迅速なデータ把握が困難でありミスや不正も起きやすいといえます。適正な会社経営のためには、海外子会社における会計上のルールや義務を正しく理解することが必要です。
そこで本記事では、海外子会社と連結決算を行う際の会計処理をくわしく解説しました。換算基準となる為替レートや海外における連結決算の問題点と対策もお伝えしますので、子会社の管理にお困りの企業の方はぜひ参考にしてください。
目次
連結決算とは
連結決算とは、親会社を中心とした企業グループ全体で統一した会計処理を行うことです。基本的に、親会社の決算期間に合わせ年1回の連結決算日を基準として財務諸表を作成する流れとなっています。
原則として、存外子会社(海外子会社)を含む一定の割合・条件下で意思決定権を支配しているすべての企業が連結決算の対象です。
連結決算は、企業グループ全体の財政状況や経営成績を正確に公開することを目的としています。もし事業活動を通して生じた資金の流れ(キャッシュフロー)が別個の会計方針で表示されていると、外部からでは会社の状況が正確に把握できません。
連結決算を行えば、投資家が企業の実態を把握しやすくなるだけではなく、事業拡大の根拠を対外的にアピールできます。また、連結決算における売上・利益からはグループ間取引が除外されるため、利益の意図的な操作を防止することが可能です。
なお、連結決算について詳細は以下の記事をご参考ください。
海外子会社で連結決算を行う際の会計処理
現行の会計基準では、海外にある子会社だとしても同じ環境・性質の下で行われた取引は同一の会計方針の適用が原則です。といっても、IFRS(国際財務報告基準)もしくはUS GAAP(米国会計基準)に従って財務諸表を作成している場合、当面の間は会計基準が統一されていなくても問題ありません。
ただし、海外子会社において以下5つのケースに該当する場合はIFRSやUS GAAPの基準で作成していたとしても連結決算を行う際に修正が必要です。
- 未償却のれんがある
- 退職給付会計における数理計算上に相違がある
- 研究開発費を資産に計上している
- 投資不動産の時価評価と固定資産の再評価いずれかを行っている
- 資本性金融商品における公正価値の事後変動をその他の包括利益に表示する選択をしている
(参考:連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い|企業会計基準委員会)
例外として、修正額の重要性が極めて小さい場合は修正しなくても構いません。海外子会社の会計方針を途中で親会社に統一させる際は、変更内容・理由や影響額などを注記することが義務付けられています。
海外子会社との連結決算における為替の換算方法
為替の換算では、財務諸表の種類によって異なるレートを用いなくてはならないため、実務の際はお気をつけください。
なお、海外子会社との連結決算時に基準とする為替換算は簡便化してもよいこととなっています。国内と国外では決算のベースとなる通貨が異なるため円貨に換算する必要があるとはいえ、刻々と変動を続ける為替レートに合わせて膨大な取引を処理するのは経理業務が煩雑になりすぎるからです。
以下では、損益計算書と貸借対照表における円貨換算時に採用する為替レートをそれぞれ説明します。
損益計算書の換算
収益・コストから成る利益を記載する損益計算書を海外子会社で作成する場合は、原則として期中平均レート(AR)で外貨を円貨に換算しなければなりません。ARとは、事業年度内における1年間の平均相場です。
もしくは、決算期日のレートでの換算が容認される場合もあります。例外として、親・子会社間で発生した取引の通貨を換算する際は親会社が採用している為替レートに合わせます。
貸借対照表の換算
貸借対照表では、資産・負債と純資産で為替レートの使い分けが必要です。
資産・負債を外貨から円貨に換算する場合、決算期日時点の為替レートで換算します。一方、純資産における為替換算の基準となるのは事実が発生したときの為替レートが基準です。つまり、株式取得時と取引発生時とでは換算基準となる為替レートが同じではありません。
なお、貸借対照表上で生じた差額は「為替換算調整勘定」で処理しなければなりません。為替換算調整勘定とは、連結決算における換算差額を調整するため親会社と子会社等の持分相当額を異なる科目で計上することです。
為替換算調整勘定については、こちらの記事でくわしく紹介していますのでぜひご一読ください。
海外子会社との連結決算でよくある課題
国内企業とは異なり、海外に拠点がある子会社では文化の相違から決算処理上のトラブルが非常に起こりやすいといえます。
海外子会社との連結決算で頻繁に起こる問題として、代表的なものは以下2点です。
- 日本の親会社と現地スタッフの連携が難しい
- 海外子会社の決算書に不備がある
上記の問題がなぜ起こるのかを理解し、トラブル防止に努めてください。
日本の親会社と現地スタッフの連携が難しい
海外子会社には外国人スタッフが多いことから、日本語が通じず連携がうまくいかないおそれがあります。多少は日本語を理解できたとしても、日本語特有の微妙なニュアンスがうまく伝わらないこともめずらしくありません。
言語の壁は、決して軽視できない問題です。例えば、海外子会社に「すぐ」や「早く」などの曖昧な指示を出してしまうと、感覚や責任感の違いから決算書の提出が予定より遅れる可能性があります。また、日本語が使える経理担当者がいないと決算業務の円滑な進行は見込めません。現地の外部監査法人などに依頼する必要が生じ、余計なコストがかかります。
さらに、親会社と子会社に時差がある場合、勤務時間のズレから思うように連絡が取り合えないケースもあるでしょう。親会社が地域によるさまざまな相違を理解し、適切な方法で子会社をサポートすることが大切です。
海外子会社の決算書に不備がある
海外にある子会社から送られてきた決算書は、徹底的にチェックしたほうがよいでしょう。親会社の監視や指導が行き届きづらい海外子会社では、不十分な管理体制や業績アップへのプレッシャーによる決算時の不正などのリスクが否めません。現地から提出された決算書を確認する中で、各科目の過大・過小粉飾や横領などの問題が懸念されます。
また、親会社と海外子会社とではコンプライアンス意識が異なります。現地の経理担当者が日本のコンプライアンスをよく理解していないと、親会社による監査との間にさまざまなくいちがいが生じかねません。
逆に、日本よりも厳しい基準が設けられている国にある子会社でなかなか監査に通らないケースもあります。管理の方法や基準の統一を徹底しないことには、親会社の苦労は絶えません。
海外子会社との連結決算を行う際のポイント
海外子会社の管理には、多くの課題があります。すべての子会社との連結決算が原則として定められている以上は、親会社側が管理しやすくなる工夫やサポートが欠かせません。
海外子会社との連結決算時、トラブル抑制に有効な対策は以下の2つです。
- 定期的に月次決算の報告書を提出してもらう
- 管理体制を強化する
各対策方法のポイントを説明します。
定期的に月次決算の報告書を提出してもらう
海外子会社には、定期的に月次決算の報告書を提出してもらうことを推奨します。
本来であれば、実際に現地へ赴き経営状況を直接チェックしたいところです。現地の雰囲気を肌で感じ、親会社による監査の目を光らせることでコンプライアンス意識の向上に繋がります。接する機会を多く持てば、現地スタッフとの温度差が埋められ信頼感が育まれることも海外子会社に親会社が出張するメリットです。
しかし、海外となるとそう頻回には訪問できない場合もあるでしょう。とはいえ、トラブルは長期間に渡って放置されたままだとどんどん悪化するため、できる限り迅速に解決できるのが最善だといえます。
そこで、定期的に報告させればトラブルの早期発見が可能です。こまめなチェックで一つひとつの問題へ真摯に向き合うことで、適切に対応できるようになるでしょう。また、こまめに決算をまとめておくと、本決算時の手間が省けます。報告のタイミングとしては、月次にすると管理しやすいのでおすすめです。
管理体制を強化する
相互不理解によるトラブルや不正を防ぐためには、管理体制の強化が不可欠です。管理体制を強化することで、現地赴任・出張の数を増やさずとも経理業務が一定のレベルに保てます。
具体的な管理体制の強化対策は、次のとおりです。
- コンプライアンスを周知徹底
- 親会社からの連絡への対応期限を定める
- 親会社と同じ監査法人に依頼する
- 会計ソフトの統一
重点ポイントを事前にアナウンスしておくことで、親会社の要望を汲んでもらいやすくなります。また、対外的にコンプライアンス・ファーストの姿勢を示せるようになり、企業の信用性が高まる効果が期待できるでしょう。
コミュニケーション上の齟齬の解消には国や文化に左右されづらい数字をベースとした具体的な指示が必要です。親・子会社間の監査法人の統一は、日程共有が容易になるだけではなく子会社にとって監査上の疑問点を相談しやすい環境づくりに繋がります。
当面の間は会計基準が別でも構わないとはいえ、いずれは合わせなければなりません。同一の会計ソフトをグループ全体に適用すれば、会計基準の統一が容易です。クラウド型の会計システムなら、遠距離でもリアルタイムで情報が共有できます。
まとめ
親会社が海外子会社と連結決算を行う際は、会計方針・基準の統一が原則です。一部の例外規定はありますが、別基準とできるのはあくまで当面の間だけであり早急な対応が求められます。海外子会社との連結決算時の注意点は、実務の簡便化を狙いとして財務諸表によって円異なる貨換算の為替レートが決められていることです。
また、現地スタッフとの連携強化や不備・不正の抑止力として、決算書は月次で報告させたほうがよいでしょう。さらに、親会社の監視の目を隅々まで行き届かせるためには、現行の管理体制の見直しも重要なポイントだといえます。
グループ全体の会計基準の統一には、クラウド型の会計ソフトの導入も有効な手段です。クラウド上での一括した会計管理により、海外子会社の経営状況がリアルタイムで可視化され業務効率化が実現します。複数の対策を組み合わせ、海外子会社の管理体制を強化して経営の適正化を目指しましょう。
よくある質問
連結決算とは?
連結決算とは、企業グループ全体で統一した会計処理を行うことです。対象となる全子会社の経営状況をまとめ、連結財務諸表を作成します。
連結対象となる子会社は?
連結決算の対象となるのは、原則として親会社の支配がおよぶすべての子会社・関連会社です。海外子会社ももちろん連結決算の対象です。例外として親会社からの支配が一時的であるときは連結決算に含める義務はありません。また、決算に与える影響が極めて小さい、もしくは利害関係者の意思決定を著しく妨げる場合も、連結決算の対象外です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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