- 更新日 : 2024年8月8日
連結決算における相殺処理の必要性|ケース別の仕訳や子会社の基準も紹介
連結決算を行うにあたって、必要性や状況に応じた相殺方法がわからない方もいるのではないでしょうか。連結決算は、親会社と子会社すべてをひとつの大きな組織として見た際のお金の流れが理解できるものであり、どういう財務状況にあるのか理解できます。相殺できる状況として、投資関係にある場合やグループ内部で取引がある場合などが挙げられるでしょう。
本記事では、連結決算について解説したうえで、相殺処理を行う必要性や仕訳の方法などを解説します。子会社に該当する基準も解説するため、 連結決算の相殺処理について詳しく知りたい経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
連結決算とは
連結決算とは、企業グループ全体を1つの組織として考え、全体の財務状況や経営状況を把握するために行う会計処理のことです。
会計処理で作成される財務報告書を連結財務諸表といいます。
1964年から1965年の間に、日本では親会社が子会社を使った不適切な会計処理が続出しました。
正しい財務状況を反映する連結財務諸表の重要性が次第に理解されるようになり、1978年3 月期以降の事業年度開始から、企業は資料の作成が義務づけられています。
連結決算で相殺処理を行う必要性
連結決算では、親会社と子会社間の取引を相殺消去します。二重計上を防ぎ、財務状況を正確に示すために必要です。
本項では、相殺処理が必要なケースを4つ紹介します。
- 投資と資本の相殺
- 取引の相殺
- 債権債務の相殺
- 未実現利益の相殺
それぞれ相殺が必要な理由を解説します。
投資と資本の相殺
投資と資本の相殺では、親会社が子会社に投じた投資額と子会社の資本(株主資本)は相殺処理されます。
親子会社間の投資関係や負債関係を排除し、企業グループ全体としての財務状況を表現するために必要です。たとえば、親会社が100万円を投じて子会社の株式を100%所有しているとします。親会社の単独財務諸表上では、100万円は「投資」として計上可能です。
一方、子会社の単独財務諸表上では、親会社から受け取った100万円は資本になります。そのため、連結決算を行う際には投資関係を排除するために相殺される仕組みとなるのです。
取引の相殺
取引の相殺では子会社に商品を売ったり、子会社が商品を売ったりした場合、内部取引になります。内部取引は、全額を打ち消す処理が必要です。
たとえば、親会社が子会社に対して100万円の商品を販売したとします。親会社にとっては売上が生まれ、子会社は商品を購入します。
売上と購入は互いに打ち消し合い、取引が存在しないようにしなければなりません。
債権債務の相殺
親会社が子会社に対して資金を貸している場合、子会社に対する債権が生じます。一方、別の取引で子会社から商品を購入している場合、親会社には債務が発生します。
債権と債務の相手が同一であるため、債権と債務を相殺可能です。
たとえば、親会社が商品を提供し100万円の債権を持つ一方、子会社からのサービスで50万円の債務を負っています。相殺すれば、親会社は50万円を受け取るだけで済みます。
未実現利益の相殺
未実現利益の相殺は、内部取引によって生じた利益がグループ全体から見てまだ実現していない場合に用いられます。
たとえば、子会社に100万円で原材料を販売し、原材料の原価が50万円だったとします。親会社から見れば、取引によって50万円の利益が得られるでしょう。
しかし、子会社が原材料を使って製品を作り、製品を売却していない場合、親会社の50万円の利益は外部へ販売されていない以上未実現となります。
未実現利益は相殺することで、グループ外部に対する利益だけが反映されます。
連結決算で相殺処理を行う場合の仕訳
相殺処理を行う必要性について解説しましたが、仕訳方法も理解しなければなりません。
ここでは、以下4つの仕訳方法を紹介します。
- 投資と資本の相殺
- 取引の相殺
- 債権債務の相殺
- 未実現利益の相殺
それでは、順番に解説します。
投資と資本の相殺
投資と資本の相殺が必要となる場合の仕訳方法を紹介します。
親会社が100%出資している場合と仮定して、100万円出資して会社を設立した場合の仕訳は以下のとおりです。
借方 | 貸方 |
資本金 100万円 | 子会社株式 100万円 |
親会社は、子会社の株式を購入し、子会社は親会社から受けた払い込みを資本金で処理します。親会社の出資割合が100%でない場合は、非支配株主持分の調整を行う必要があります。
取引の相殺
連結決算において、連結会社間で行われる取引は実質的に内部取引となるため、連結財務諸表上では相殺処理を行います。
親会社が子会社に100万円分の商品を売却した場合を以下の表で解説します。
借方 | 貸方 |
売上高 100万円 | 仕入 100万円 |
連結決算では、親会社と子会社間の取引が相殺処理により消去される仕組みです。
債権債務の相殺
親会社が子会社に期末時点で100万円貸している状態にある場合、相殺の仕訳は以下の表になります。
借方 | 貸方 |
借入金 100万円 | 貸付金 100万円 |
連結財務諸表を作成する際には、内部取引は存在しないとみなされます。連結上の適切な仕訳は取引がなかった(仕訳なし)という状態になります。
未実現利益の相殺
未実現利益とは、会社がまだ実際に利益として手に入れていないが、将来的に得られると期待される利益のことです。
例えば、親会社が子会社に100万円で商品を売却し、商品の原価が80万円だったとします。親会社の利益は20万円(100万円 – 80万円)となりますが、子会社が商品を売却して初めて実現する利益であるため、未実現利益になります。
以下は、連結決算時の未実現利益の相殺を示した表です。
借方 | 貸方 | 摘要 |
売上高 100万円 | 売上原価 100万円 | 損益取引相殺消去 |
売上原価 20万円 | 商品 20万円 | 未実現利益の消去 |
買掛金 100万円 | 売掛金 100万円 | 債権債務相殺消去 |
上記の連結消去仕訳により、親会社が計上した売上高100万円と売上原価80万円は全額消去され、子会社の商品100万円から親会社の利益20万円を控除した80万円が連結貸借対照表の商品として計上されます。
連結決算を行う子会社の基準
連結決算を行う子会社の基準は以下のとおりです。
- 議決権の過半数を所有している
- 議決権を40%〜50%所有した上で緊密者の議決権や役員関係が一定の条件を満たしている
- その他一定の条件を満たしている
子会社の選定基準は、主に所有している議決権の割合とその他の条件で決まります。しかし、単純な議決権の所有割合だけではなく、関係性を考慮に入れた上で行われます。
基準を満たしていても、以下のような場合は、対象外となる場合もあります。
- 親会社による支配が一時的な会社
- 小規模経営のため重要性が低いと判断される企業
- 連結によって投資家が意思決定を誤るリスクが高い企業
親会社が一時的に議決権の多数を握っていても、将来的に支配が続かない会社や全体の経営への影響が小さいと判断される企業は連結対象外です。
連結によって投資家が意思決定を誤るリスクが高いと判断される企業も連結対象から除外されます。
まとめ
連結決算は、グループ全体の財務状況を明らかにする報告方法です。親会社と子会社の財務情報を統合し、全体の利益や資産などを評価します。
連結決算が正確に行われないと、財務状況の理解が不十分となり、誤った投資判断やビジネス戦略を導く可能性があります。正確に行わないと、罰金や法的処置を受ける可能性があるため注意しましょう。
よくある質問
連結決算で相殺消去するのはなぜ?
連結決算では、グループ全体の経済的な活動と状況を正確に反映するために、親会社と子会社間での内部取引を相殺消去します。 取引では、会社の会計がそれぞれ記録されます。取引を相殺消去し、同じ取引が二重に計上されることを防ぐことが目的です。
連結決算を行う子会社の基準は?
連結決算を行う子会社の基準は以下のとおりです。
- 議決権の過半数を所有している
- 議決権を40%〜50%所有した上で緊密者の議決権や役員関係が一定の条件を満たしている
- その他一定の条件を満たしている
連結決算日はいつ?
連結決算日とは、連結財務諸表を作成する際の基準となる特定の日付のことです。日付は、親会社の会計期間に従って年に一度設定されます。 もし、子会社の決算日が連結決算日と異なる場合でも、連結決算日にあわせて適切な手続きにより決算を行う必要があります。 全ての子会社の財務情報が同じ日付で一致し、連結財務諸表に正確な情報を残すためです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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