- 更新日 : 2025年2月20日
二重責任の原則はなぜ必要か?
監査に関わる仕事を担当している人であれば、「二重責任の原則」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。二重責任の原則は、日本の監査制度を信頼できるものにするために欠かせないルールです。本記事では、二重責任の原則の概要や、なぜ二重責任の原則が必要なのかという観点から内容を説明しています。監査業務に詳しくない人でも分かるように簡単に説明していますので、ぜひ参考にしてください。
二重責任の原則とは
二重責任の原則では、経営者は財務諸表の作成に責任を負い、監査人は意見表明責任を負うということが規定されています。二重責任の原則は、財務諸表の作成者と監査人の責任分担を明確にするための原則です。「原則」となっていますが、二重責任の原則は監査制度の基本となる考え方を表したものです。そのため、一切の例外は想定されていません。
「二重」という言葉から、1つのものに対して経営者と監査人の双方が責任を負うような印象を持たれがちです。しかし、二重責任の原則が意味するのはその逆で、あくまで「2つのものに対してそれぞれの責任が発生する」という状況を指しています。
二重責任の原則においては、監査人は監査結果には責任を持ちますが、企業から提出された財務諸表が正しいかどうかまでは責任を持つ必要がありません。そのため、会計監査後に企業のミスで財務諸表が間違っていたことが発覚しても、それに気付かなかった監査人の責任を追及することはできないのです。これは「あくまで適正な財務諸表を作る責任は経営者(企業)側にある」ということを明確にしています。
監査人は財務諸表の作成や修正ができない
「監査人は会計処理のミスを見つけても指摘するだけで修正してくれないのはなぜ?」と思ったことがある人もいるかもしれません。二重責任の原則においては、財務諸表の作成は企業の領分であると考えられているため、監査人は財務諸表に誤りを発見した場合でも、自ら修正ができません。監査人は、どんな理由があっても財務諸表の作成者になってはならないのです。
例えば、決算書類には「継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)」の注記が付されることがあります。この注記は監査人が書くものと思われがちですが、実際に注記を付すのは企業側です。監査人は会社が開示した情報をもとにその適正性の審査を行うのが役割なのです。
ここで監査人に求められる責任とは、会社の継続性を保証することではなく、ゴーイング・コンサーンの注記が正しく付されているかを評価することである点に注意が必要です。
二重責任の原則で期待できる効果
二重責任の原則には、経営者(企業)と監査人(監査法人)の責任範囲を明確にする効果があります。経営者(企業)が財務諸表の作成を行い、監査人(監査法人)は監査結果のみに責任を負うため、監査業務に集中できるのです。
また経営者は、財務諸表に間違いがあったとしても責任を監査人に求めることができません。このように二重責任の原則には、経営者が正確な財務諸表を作る責任を明確にする効果もあります。つまり「ミスを見つけられなかった監査法人にも責任がある」という甘い考えは、財務諸表の作成において許されないということです。
財務諸表に虚偽記載があったとしても、監査人はそれを見破れなかった責任を負うことはないと説明しました。しかしそうはいっても、監査法人は財務諸表に不自然な点があっても無視をしてよいということには決してなりません。財務諸表に不自然な点があれば、それは当然指摘事項になります。監査法人から指摘を受けた場合は、書類にミスがないかよく確認し、修正などの対応を真摯に検討しましょう。
二重責任の原則はなぜ必要か
もし二重責任の原則がなかったとすると、経営者が自分で作った財務諸表を自分で監査する「自己監査」を行うことも可能になってしまいます。自己監査は抑止力が働かないため、第三者に対して何の信頼性も担保できません。
自己監査が行われた財務諸表が認められれば、それを提出された銀行や投資家、税務署などの関係者が不利益を被る可能性が高くなります。二重責任の原則は自己監査を禁止し、財務諸表の信頼性を高めるための論拠として欠かせないものなのです。
なお、二重原則の原則が想定しているのは、会社法で定められた法定監査です。内部統制などのために行う任意監査は、この限りではないため注意してください。内部監査には法的な規定がないため、組織内部で選出したメンバーが監査を行うことが可能とされています。
二重責任の原則は監査制度を支える大原則
二重責任の原則は、表面的な言葉の印象によって実際の意味が誤解されやすい言葉です。そのため、ひとつの物事に対して企業と監査法人が共同で責任を負うと思っていた人も多いのではないでしょうか。本記事を最後まで読んだ人は、経理・会計担当者として財務諸表の作成には重い責任を持たなければならないということが理解できたのではないでしょうか。
虚偽のない財務諸表を作成することは、会社への信頼を維持するために遵守するべきルールです。嘘や間違いを起こさないことを意識し、正しい会計処理を行っていきましょう。
よくある質問
二重責任の原則とは?
二重責任の原則とは、経営者は財務諸表の作成に責任を負い、監査人は意見表明責任を負うことをいう。作成者と監査人の責任分担を明確にするための原則。詳しくはこちらをご覧ください。
二重責任の原則はなぜ必要?
もし二重責任の原則がなかったとすると、経営者が自分で作った財務諸表を自分で監査する「自己監査」を行うことも可能になり、抑止力が働かなくなるため。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
督促状とは?書き方や例文、督促が届いた場合の対応方法
期日までに取引先から入金がない場合は入金催促メールを送り、いつ入金してもらえるかを確認します。しかし、メールを送っても連絡がない、もしくは新たな入金期日を伝えられたがそれでも入金がない状態が続いた場合は督促状を送り、入金を促す必要があります…
詳しくみる費消率とは?計算方法や具体例、企業の財務管理に重要な理由を解説
費消率とは、企業が商品やサービスを提供するために実際に使用した資源の割合を示す指標です。本記事では、費消の意味や消費との違いから、費消率の計算方法や具体的な事例、そして企業の財務管理において費消率がなぜ重要なのかを解説します。 費消(ひしょ…
詳しくみる事前確定届出給与とは?役員賞与を損金算入して節税できる?期限や記載方法は?
経営者など役員に対する報酬や賞与は、一般社員の給与とは異なり、税務上の規定に従って支給されなければ損金算入できません。役員報酬は金額が大きくなりがちなため、損金算入として扱わなかった場合、納税負担額や資金繰りにも悪影響を及ぼします。 このよ…
詳しくみる所得税とは?所得の種類から計算方法、納税方法までわかりやすく解説!
会社からもらった給料や、自分の事業で稼いだお金、アパートの家賃収入など、収入全般に対しては所得税が課税されます。所得税は収入の種類によって税率や計算方法が異なるため、収入の種類が多い人ほど計算が困難です。 所得税はどのような収入に対して、ど…
詳しくみる所得割額と均等割額との合計で算出される住民税 その意味や計算方法を解説
会社に勤める方なら通常、「特別徴収」といって毎月給与から天引きされている住民税。住民税を特別徴収されていない方は、自治体から届く納税通知書で原則として年4回(6月、8月、10月、翌1月)の納付期限までに自分で納税していることでしょう。 この…
詳しくみる期ずれとは?リスクや原因、修正方法をわかりやすく解説
期ずれとは、その年度に計上するべき売上・経費を、別の年度に計上してしまうことです。期ずれが発生すると税務調査で指摘を受け、加算税の支払い対象になることもあるため、十分な注意が必要です。本記事では、期ずれのリスクや原因、修正方法を解説します。…
詳しくみる