- 更新日 : 2025年2月20日
ヘッジ会計でリスク回避!メリットと仕組みを解説
企業としてリスクの少ない投資活動や安定した資産管理を望むなら、ヘッジ会計について知っておきましょう。
ここでは、企業の会計・財務担当者が知っておきたいヘッジ会計の概要や適用条件などの基本ポイントを解説します。
目次
ヘッジ会計はどんな時に必要?
株式・債券・外国為替・預貯金など、資産運用のための金融商品は多岐にわたりますが、これらには以下のようなリスクが付きものです。
・金利変動
・価格変動
このようなリスクをできる限り回避(ヘッジ:hedge)するため、デリバティブと呼ばれる金融派生商品を利用するケースが増えています。
ヘッジ会計とは、デリバティブによるリスク回避(リスクヘッジ)の効果を、きちんと会計に反映させるための処理方法のことです。
デリバティブとは?
まず、デリバティブ(derivative)とは日本語で「派生的な」という意味で、株式や債券などの大元の金融商品から派生したものであることを示しています。
あらゆるニーズに対応したデリバティブが開発されていますが、代表的なものは以下の3種類です。
・先物取引:
現時点の取り決め価格で将来売買することを約束する取引のことで、商品先物や為替予約などが挙げられます。
・オプション取引:
「現時点の取り決め価格で将来売買する」ことを前提に、「買う権利」または「売る権利」を売買する取引のことで、株価オプションや金利オプションなどがあります。
・スワップ取引:
ある時期だけ固定金利と変動金利を交換(スワップ:swap)するなど、金利や通貨などの将来のお金の流れ(キャッシュフロー)を一定期間交換する取引です。
デリバティブは価格変動など将来起こり得るリスクを想定し、資産運用のリスクを分散・回避したい時に有効な手段と捉えられています。
また、デリバティブは少ない投資額で多くの利益を得るなど投機的な目的で行われることもありますが、判断を誤ると大きな損失につながることがあります。デリバティブは高度で専門的な知識が必要であることも併せて知っておきましょう。
損益計上のタイミングを合わせる
価格変動リスクのある資産保有している場合に価格変動リスクを回避または抑えたい場合に、デリバティブ取引を用いることがあります。なお、デリバティブ取引は、会計処理上は期末に時価で評価し、評価差額を当期損益に計上することが原則となっています。
ヘッジ会計とは、ヘッジ手段であるデリバティブとヘッジ対象の資産の損益を、同じ会計期間に反映させるための特別な処理方法のことを言います。
ヘッジ会計の2つの処理方法
デリバティブに伴う損益と、ヘッジ対象である資産の損益を計上するタイミングを合わせるヘッジ会計には「繰延(くりのべ)ヘッジ」と「時価ヘッジ」という2種類の方法があります。
繰延ヘッジ
本来時価で評価・計上されるデリバティブの損益計上のタイミングを、ヘッジ対象である資産の損益が判明するまで繰り延べる(延期する)方法であり、日本におけるヘッジ会計の原則的な処理方法とされています。
時価ヘッジ
繰延ヘッジとは逆に、ヘッジ対象である資産の損益を計上するタイミングを、デリバティブなどのヘッジ手段の損益が発生するタイミングに合わせる方法です。
時価ヘッジを用いることができるケースは限定的であるなどの理由から、日本では例外的な取り扱いとなっています。
ヘッジ会計を使用するための要件
ヘッジ会計を行うかどうかは基本的に企業側の任意ですが、無条件での実施は認められておらず、以下のような事前・事後の要件を満たす必要があります。
事前テスト(事前要件)
デリバティブなどのヘッジ取引を始める前にクリアしなければならない要件は「事前テスト」と呼ばれ、ヘッジ会計を行う目的や有効性を文書により明確化することが求められています。
つまり、ヘッジ対象となる資産について企業としてどのようなリスクを想定し、どのような手段を用いてリスクを回避しようとしているのか、という点をあらかじめ文書で示しておくということです。
したがって、「リスクがあるかもしれないから、とりあえずヘッジ会計にしておこう」という場当たり的な対応は認められず、企業として正式にヘッジ取引の目的・手段や予測した有効性を事前に明らかにした上で、初めてヘッジ会計の適用が認められるのです。
事後テスト(事後要件)
実際にヘッジ取引を行った後も、継続的にリスクヘッジに高い有効性があるかどうかをチェックする必要があり、「事後テスト」と呼ばれています。
一般的に、ヘッジ対象となる資産の時価の変動額に対し、ヘッジ手段であるデリバティブに伴う時価の変動額の割合(変動比率)が80~125%の範囲内であれば高い有効性があると認識されます。
まとめ
為替変動や価格変動に伴う資産運用のリスクを回避するためにデリバティブを行う場合、その効果を会計上、適切に反映させるために用いられるのがヘッジ会計です。
ヘッジ会計を行うと、デリバティブに伴う損益とヘッジ対象である資産の損益を計上するタイミングを合わせることができ、損失の相殺も期待できます。
なお、ヘッジ会計を採用するかどうかは企業の任意ですが、実施にあたっては目的や有効性をあらかじめ文書化するなどの事前テストや、効果の継続性を証明する事後テストをクリアする必要があります。
近年、さまざまなリスクを回避するために複雑なヘッジ取引が増えており、ヘッジ会計も難易度が高まっていると言われています。ヘッジ会計を導入する際は、高度な会計処理に対応できるよう、企業内の人員配置を含めた体制づくりから始めましょう。
関連記事
・繰延ヘッジ損益
・法人成りのメリットとデメリット
・法人税の課税対象と時価会計の関係
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
工業簿記と商業簿記の違いを解説!難易度やおすすめの勉強方法も
製造業などでは、製造原価計算のため工業簿記を使用します。生産現場を持つ製造業における収益最大化・コスト管理に工業簿記は欠かせません。工業簿記では商業簿記にはなかった考え方もあり、特に「原価」というものの考え方がよく理解できます。この記事では…
詳しくみる倒産防止共済の別表10(7)の書き方・記載例は?掛金の損金算入に必要
倒産防止共済(正式名称:中小企業倒産防止共済制度)は、中小企業者等が取引先の倒産リスクに備えるための共済制度です。この共済掛金として会社等が拠出した金額は、法人税法上損金となり、確定申告ではこの拠出金に関して別表10(7)の提出が求められま…
詳しくみる連結貸借対照表の利益剰余金の求め方とは?手順をわかりやすく解説
連結貸借対照表の利益剰余金とは、資本連結がある企業グループが生んだ利益を積み立てた金額のことを意味します。通常の会計処理でも利益剰余金は純資産として処理しますが、連結会計をする場合は複雑な計算処理が必要となります。 今回は、連結貸借対照表の…
詳しくみる会計ソフトを導入しても税理士は不要にならない、その理由を解説
この記事では「確定申告が不安で税理士に依頼するかどうか悩んでいる方」、「税理士費用が高いと感じている方」に向け、会計ソフトを使えば税理士は不要になるかどうかを説明していきます。 帳簿から申告までの業務 日本国内で事業を行っている個人事業主ま…
詳しくみる香川で経理代行サービスを依頼するには?依頼先や対応範囲、費用などを解説
香川県で事業を営む方々、日々の経理業務に追われ、本業に集中できないと感じることはないでしょうか。人材の確保や、インボイス制度・電子帳簿保存法といった度重なる法改正への対応は、特に中小企業や個人事業主にとって大きな負担となりがちです。 こうし…
詳しくみる海外子会社からの配当の益金不算入とは?目的やメリット、会計処理を解説
海外子会社からの配当の益金不算入とは、配当金の95%相当額を益金に算入しない(非課税になる)制度です。日本国内の税務上の処理になります。本記事では、益金不算入の対象になる海外子会社や会計処理の方法、源泉税の取り扱いについて解説します。 海外…
詳しくみる会計の注目テーマ
- 勘定科目 消耗品費
- 国際会計基準(IFRS)
- 会計帳簿
- キャッシュフロー計算書
- 予実管理
- 損益計算書
- 減価償却
- 総勘定元帳
- 資金繰り表
- 連結決算
- 支払調書
- 経理
- 会計ソフト
- 貸借対照表
- 外注費
- 法人の節税
- 手形
- 損金
- 決算書
- 勘定科目 福利厚生
- 法人税申告書
- 財務諸表
- 勘定科目 修繕費
- 一括償却資産
- 勘定科目 地代家賃
- 原価計算
- 税理士
- 簡易課税
- 税務調査
- 売掛金
- 電子帳簿保存法
- 勘定科目
- 勘定科目 固定資産
- 勘定科目 交際費
- 勘定科目 税務
- 勘定科目 流動資産
- 勘定科目 業種別
- 勘定科目 収益
- 勘定科目 車両費
- 簿記
- 勘定科目 水道光熱費
- 資産除去債務
- 圧縮記帳
- 利益
- 前受金
- 固定資産
- 勘定科目 営業外収益
- 月次決算
- 勘定科目 広告宣伝費
- 益金
- 資産
- 勘定科目 人件費
- 予算管理
- 小口現金
- 資金繰り
- 会計システム
- 決算
- 未払金
- 労働分配率
- 飲食店
- 売上台帳
- 勘定科目 前払い
- 収支報告書
- 勘定科目 荷造運賃
- 勘定科目 支払手数料
- 消費税
- 借地権
- 中小企業
- 勘定科目 被服費
- 仕訳
- 会計の基本
- 勘定科目 仕入れ
- 経費精算
- 交通費
- 勘定科目 旅費交通費
- 電子取引
- 勘定科目 通信費
- 法人税
- 請求管理
- 勘定科目 諸会費
- 入金
- 消込
- 債権管理
- スキャナ保存
- 電子記録債権
- 入出金管理
- 与信管理
- 請求代行
- 財務会計
- オペレーティングリース
- 新リース会計
- 購買申請
- ファクタリング
- 償却資産
- リース取引