- 更新日 : 2025年9月2日
研究開発費とは?定義や資産計上できるケースの解説
研究開発費とは新技術や新製品の発見に支出した試験研究費や、市場の開拓や資源開発のコストの記帳に用いる勘定科目です。
研究開発費に該当するか否かは、実質的に判断します。既存製品の改良・改善の場合、著しい変更でなければ含めるのは不可です。
一定の条件を満たす研究開発費は費用ではなく資産として処理します。今回は研究開発費の種類や資産計上が認められるケース、具体的な仕訳例について解説します。
研究開発費とは
研究開発費とは新製品や新技術を開発したときや、改良を行ったときに使用する勘定科目です。
研究開発に要した人件費、原材料費、設備費などが該当します。研究とは新しい知識の発見を目的とした「計画的」な研究を意味し、開発はゼロから独創的に製品やサービスを生み出すケースと、既存の製品を改良する2パターンに分かれます。
研究開発費と開発費が示すものは同じではありません。研究開発費は企業が自ら研究開発を行った際の費用で、開発費は市場開拓や新技術の開発を行ったときの費用を表しているのが特徴です。原則として研究開発費は発生時にすべて費用として計上しなければなりませんが、開発費は繰延資産としても問題ありません。
研究開発費は金融庁の「研究開発費等に係る会計基準」で具体例や会計処理の基準が示されています。本会計基準が発表される前は企業が投じた研究開発費は任意に繰延資産として計上可能でした。将来的に研究が実を結び、企業に利益をもたらすと期待できるためです。
しかし、研究開発が必ずしも売上アップにつながるとは限りません。実際に成果が出ずに損失につながった事例も数多く存在し、資産ではなく費用処理が適切だと判断され、会計処理にも変化が生じました。一部例外はありますが、研究開発費は経費として処理すると覚えましょう。
もう一つ、研究開発費の大きな論点が税額控除です。法人を対象とし、1年間に負担した研究開発費の一定割合を法人税額から控除できます。一般的な研究開発費の税額控除制度では、試験研究費×控除率で税額控除の額を求めます。
試験研究費と研究開発費はほぼ同じ意味を持ちますが、外部から資金を受けている場合や人文・社会科学関連の研究費は対象外です。研究開発費の税額控除は、試験研究費が増加した場合に最大で法人税額の25%までを上限として控除できます。
また試験研究費の割合が10%を超える企業では、さらに法人税額の10%を上限として税額控除に上乗せが可能です。ほかにも国や大学との共同研究をはじめ、一定の条件を満たす試験研究が対象のオープンイノベーション型もあります。
控除率が高めで中小企業の研究に特化した「中小企業技術基盤強化税制」という制度も研究開発費の税額控除の一種です。
参考:金融庁 研究開発費等にかかる会計基準
参考:国税庁 No.5441 研究開発税制について(概要)
研究開発費に計上できる支出
研究開発費等にかかる会計基準では研究開発費の具体例が以下のように示されています。
- 従来にはない製品等を導き出すための調査研究費
- 新たな知識の調査、探求を受けた製品化と業務化を行うための活動費
- 従来の製品との著しい違いを生み出すための製造方法の具体化に投じた費用
- 従来と異なる原材料の使用方法もしくは部品の製造方法の具体化に投じた費用
- 既存の製品や部品の従来との異なる使用方法の具体化に投じた費用
- 工具、治具、金型等について従来とは異なる使用方法の具体化に投じた費用
- 新製品の試作品の製作および実験、設計に投じた費用
- 商業生産に必要なパイロットプラントの設計や、建設等の計画に投じた費用
- 取得済みの特許をもとに新製品を製造するための技術的活動に投じた費用
研究開発費に含むか否かは、実質的に考えて研究・開発に当たるかどうかで判断します。従来製造・提供していた範囲にとどまらず、まったく新たなものを産み出す探求活動や、既存商品・サービスの著しい改善も対象です。
研究開発費に計上できない支出
研究開発費等にかかる会計基準では研究開発費にできない具体例が以下のように示されています。
- 製品の量産化のための試作に要した費用
- 製品の品質改良や製造工程の改善に要した費用
- 品質管理や完成品の検査などの活動に要した費用
- 既存製品の修正(設計変更や仕様変更)に要した費用
- 特許や実用新案権の出願に要した費用
- 外国等から技術を導入し製品を製造する際の費用
現在製造中の製品や業務を前提として著しいとはいえない改良・改善に投じたコストは、研究開発費には該当しません。
研究開発費を資産計上できるケース
研究開発費は原則として費用に計上しますが、例外的に資産計上できる場合があります。
第一に、開発費のうち開発したものに資産的価値が認められるときです。開発費の効果が翌年以降におよび、経常的な費用ではなく特別に支出したものと認められる場合、繰延資産に該当します。
たとえば研究中に製作した試作品が広告として利用できるなら、資産価値を有します。同様に、研究開発の過程で生じた模型がコレクションの価値があるときも繰延資産に含められるでしょう。
開発費を繰延資産として資産計上した場合、効果が持続する期間において償却を行う必要があります。
次に紹介するのが、試験研究費のうち工業化研究に当たる場合です。試験研究費は税制上の用語で、製品の品質改良や製造工程の改善に関する費用を含まないのが研究開発費との違いです。
研究開発費のうち基礎研究や応用研究に関する費用は損金に算入できます。一方で工業化研究に要する費用は製造原価に該当します。また、明らかに工業化研究に当たる試験研究費は、固定資産や棚卸資産として資産計上が可能です。
3つ目に紹介するのが、企業結合で研究開発費の対価を取得するケースです。企業結合で受け入れた被取得企業の資産は費用計上が原則ですが、研究開発費は例外的に資産計上が認められる場合があります。
最後に紹介するのは、研究開発を外部に委託するケースです。リソースや人材不足を理由に社内で研究開発を行うのが難しい場合、研究やリサーチを外部に委託することがあります。
事前に報酬を委託先に支払った場合、前渡金として資産計上が可能です。ただし一度は資産としてカウントしますが、最終的には費用に振り替えます。委託研究の成果は委託側に帰属するため、成果品の検収や請負費用の清算のタイミングで費用計上の処理を行います。
研究開発費を資産計上できないケース
原則、研究開発費のうち資産的価値がないものは資産計上できません。たとえば研究中に製作した試作品や模型の多くは、それ自体に資産的価値がないものがほとんどであるため、固定資産とはみなしません。
また特定の研究開発にのみ使用され、他の目的に使用できない特許権や機械装置などの原価はたとえそれらの資産価値があっても、取得時点で研究開発費として処理します。たとえ希少な材料をふんだんに使用し、製作に多額の費用を投じていても、試作品や模型に価値がなければ資産とはいえないでしょう。
研究開発費の仕訳例
研究開発費の代表的な仕訳例を3つ紹介します。
1.研究目的で機械設備を購入した場合
例)試験研究のために200万円で機械設備を購入し、現金で支払った
借方 | 貸方 | 摘要 | |||
---|---|---|---|---|---|
研究開発費 | 2,000,000円 | 現金 | 2,000,000円 | ワクチン開発のため機械設備購入 |
決算のタイミングで機械ごとの法定耐用年数に応じて、減価償却を行います。
2.調査会社への支払い
例)事業展開のための市場調査を調査会社にアウトソーシングし、報酬として500万円を支払った
借方 | 貸方 | 摘要 | |||
---|---|---|---|---|---|
研究開発費 | 5,000,000円 | 現金 | 5,000,000円 | 市場調査代金 |
3.ソフトウェアの開発
販売目的でソフトウェアを開発した場合、原則として発生時に費用処理します。具体的には製品化の目途が立った段階から資産の計上が認められ、その以前に生じた費用は投資が無事に実るとは確定していないため、研究開発費として処理するのが特徴です。
β版の企画・設計や製品マスタが完成するまでの研究費をはじめ、その後であっても著しい改良であれば研究開発費として処理できます。たとえば量産決定後の機能強化やコピーの制作に要する費用などが該当します。
例)市場販売目的でソフトウェアを開発し、製品マスタ完成までに1,000万円を支出した
借方 | 貸方 | 摘要 | |||
---|---|---|---|---|---|
研究開発費 | 10,000,000円 | 未払金 | 10,000,000円 | ソフトウェア開発費用 |
維持管理に要した費用は発生時に費用処理します。製品の販売に要する費用は「棚卸資産」へ、販売後は「売上原価」に振り替えましょう。
研究開発費は資産計上できる場合がある
研究開発費等にかかる会計基準には、対象となるケースとならないケースが記載されています。判断に迷う場合でも、基準の内容に照らし合わせれば答えが出る可能性は高いでしょう。
まったく新しい製品・サービスを産み出した場合のみならず、既存商品の著しい改良・改善も含まれます。資産的価値が認められる場合、棚卸資産や固定資産として資産計上が可能です。資産計上できると減価償却によって節税につながるため、きちんと分類するのがポイントです。
よくある質問
研究開発費とは?
新製品や新技術の開発、既存製品の改良に要した人件費や原材料費、設備費等が該当します。詳しくはこちらをご覧ください。
研究開発費を資産計上できるケースとは?
資産的価値が認められると資産計上でき、具体的には「試験研究費のうち工業化研究にあたる場合」「外部に試験研究を委託する場合」などが該当します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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