- 更新日 : 2025年2月20日
外貨建取引と外貨建取引等会計処理基準について解説
一般的な商取引では、取引金額は「円建て」で行うのが通常です。しかし、海外の企業との取引では「ドル建て」「ユーロ建て」といったような外国通貨で行うこともあります。今回は外貨建て取引と、国内において外貨建取引を会計処理する際のガイドラインである「外貨建取引会計処理基準」について解説していきます。
外貨建取引とは
外貨建取引とは、取引に関係する売買価額や取引価額 が、外国通貨により表示されている取引のことです。
インターネット環境の普及に伴う商取引のグローバル化が進むなかで、外貨建てで取引を行うケースが増加しています。海外の企業と直接取引がない会社でも「外貨建投資信託」にみられるように、国内より利率のよい金融商品に投資することで、間接的に外貨建取引と関わることもあるのではないでしょうか。
外国通貨により取引を行う場合には、まず外貨を円換算して経営取引を記録する必要があります。
円換算する際に用いる換算レートは銀行によって異なりますので、基本的には主要銀行のレートを適用するのが一般的です。外貨建ての取引日が休日の場合には、直前の営業日における為替レートに基づいて算定することができますし、取引の都度、為替レートを確認するのが面倒な場合には、レートの月平均や月末、週末のレートなどに基づいて計算することもできます。
外貨建取引を行う場合の前提として 、日本国内の外貨建取引等会計処理基準や法人税法などの基準を遵守する必要があります 。外貨建取引には外貨建債権債務も含まれていますが、これは契約上の債権額および債務額を外貨で支払いを行う債権債務のことを指します。
外貨建取引等会計処理基準とは
外貨建ての取引を日本円に換算する際も、もちろん日本国内の会計ルールに従って行わなければなりません。そのルールを示したのが「外貨建取引等会計処理基準」です。
「外貨建取引等会計処理基準」が生まれた背景
「外貨建取引等会計処理基準」とは、金融庁の諮問機関である企業会計審議会が定めた外貨建て取引に関する日本国内のルールです。
企業が外貨建ての商取引を財務諸表に反映させるためには、その外貨建取引を日本円に換算する必要があります。
なぜなら、それぞれの企業が自分勝手な為替レートを用いたのでは、企業間の正確な比較対比をすることが難しくなるためです。また、自社にとって有利になるよう為替レートを意図的に適用したとなれば利益操作にも繋がりますので、財務諸表の明瞭性、健全性が損なわれることになります。
以上のような問題を解決するためにはまず、換算に関する統一されたガイドラインを示さなければなりません。そこで企業会計審議会が定めたのが「外貨建取引等会計処理基準」です。
「外貨建取引等会計処理基準」の概要
処理基準が示す、外貨建取引等の実務におけるポイントは次の3点です。
1.外貨建取引時の換算処理
外貨建取引を国内の財務諸表に反映させるためにまず行うのが、取引時点における円換算です。
原則としては、取引発生時点における為替相場を用いることになります。
例:100ドルの商品を掛取引で仕入れた(仕入時点の為替レートは1ドル100円)
100ドル×100円=10,000円
ここで問題となるのが「どの為替レートを使うか?」です。
取引当日の為替レートといっても、為替レートは以下のように複数があります。
- TTS(Telegraphic Transfer Selling Rate)
- TTB(Telegraphic Transfer Buying Rate)
- TTM(Telegraphic Transfer Middle Rate)
電信売相場と呼ばれ、金融機関が顧客に対し外貨を売る際に用いる相場です。
電信買相場と呼ばれ、金融機関が顧客から外貨を購入する際に用いる相場です。
電信仲値相場と呼ばれ、海外の外国為替市場を参考に、各金融機関が毎営業日の午前10時頃に発表する為替レートです。為替相場に大きな変動がない限り、TTMのレート」は1日中一定となります。TTMは、TTSとTTBの中間値(仲値)です。
上記のうち、取引当時の換算で用いるのは、原則として仲値である「TTM」です。
(ただし、継続適用を前提に例外としてTTS、TTBを適用することも認められています。)
外貨建取引は、取引が発生する都度TTMによりレート換算するのが原則です。
2.代金決算時点で取引時から為替レートが変動した場合
掛取引でよくあるパターンですが、実際の取引と代金決済にタイムラグがあるため、代金決済時に帳簿価額との差額を生じてしまいます。
そこで、代金決済時点で再度、外貨建債権を評価の見直し(評価替え)をする必要が生じます。
例:100ドルで仕入れた商品の買掛金を決済した(仕入時点のTTMは1ドル100円、代金決済時点のTTMは1ドル150円)
再評価により生じた差額は「為替差損益」として計上しなければなりません。
3.決算期末時点における換算
毎年決算期末日時点で、帳簿に残っている外貨建債権についても将来的にはレート換算により決済されていきます。したがって期末時点で再評価をしなければなりません。
例:100ドルで仕入れた商品の買掛金残高50ドル分(簿価5,000円)を決算期において再評価した(決算期末時点のTTMは1ドル110円)
なお、外貨建て資産・負債が複数あり、差益と差損の両方が生じる場合にはそれぞれを相殺するひつようがある点も注意しましょう。
外貨建取引は換算のタイミングが重要
外貨建取引には、「TTM」という為替レートと「取引日」「決済日」「決算日」3つの換算時期があるのは理解いただけたでしょうか。換算のタイミングを間違えれば為替差損益がそのまま会社全体の損益に影響を及ぼしますので、注意しましょう。
よくある質問
外貨建取引とは?
取引金額が外貨建で表記される取引です。詳しくはこちらをご覧ください。
外貨建取引等会計処理基準とは?
外貨建取引を円換算するにあたって、全ての企業が従うべきルールです。詳しくはこちらをご覧ください。
外貨建取引を換算するタイミングは?
「取引日」「決済日」「決算日」の3つです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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