- 更新日 : 2025年4月1日
約束手形の支払期日は60日に短縮!当日持ち込みの方法や3営業日を過ぎた場合の対応も解説
約束手形は日本の企業間取引で広く使われていますが、その取り扱いを誤ると資金繰りや信用に大きな問題が生じます。特に、支払期日のルールや銀行への持ち込み手続きを正確に理解しておかないと、思わぬトラブルに発展することがあります。この記事では、約束手形の支払期日の基本ルールや、銀行へ持ち込む際の具体的な方法、万が一期日を過ぎてしまった場合の対応策やリスクについて詳しく解説します。はじめて手形を扱う方でも理解しやすいようにまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
約束手形の支払期日とは
約束手形の支払期日とは、手形の振出人(支払人)が、手形に記載された金額を手形の所持人(受取人)に支払うことを約束した日付のことです。約束手形は、企業間の信用取引でよく使われる決済手段のひとつで、手形を受け取った側は、この支払期日に銀行に手形を持ち込むことによって、現金化することが可能になります。
支払期日になるまでは、手形は現金としては使えません。つまり、支払期日とは約束手形が「お金に換えられる日」となります。
約束手形の支払期日は、振出人が支払いを確実に行う義務を負う日でもあり、この日までに支払いの準備を整えておかなければなりません。一方で、手形を受け取った側も、この日付を厳密に管理し、期限内に銀行へ持ち込むことで、支払いを受けることが可能になります。
約束手形の支払期日と手形サイト
約束手形の支払期日は、「手形サイト」と呼ばれる期間を基準に設定されます。例えば、「手形サイト60日」という表現がある場合、手形を振り出した日(振出日)の翌日を起算日として数え始め、60日目が支払期日となります。
つまり、手形サイトとは、「支払期日まで何日間あるか」を示す重要な期間のことであり、この期間の設定によって、取引先との資金のやり取りのタイミングが決まるため、資金繰りにも大きく影響します。
約束手形の支払期日は60日以内へ短縮
これまで日本の企業間取引では、約束手形の支払期日は通常30日から120日程度で自由に設定されていました。特に大企業と中小企業間の取引では、支払期日が90日や120日など長期に設定されるケースも少なくありませんでした。
しかし、2024年11月に施行された法律改正によって、この支払期日が「原則60日以内」に短縮されました。この改正の目的は、支払期日が長く設定されることで資金繰りに苦しむ中小企業の負担を軽減することにあります。手形の期間が長ければ、それだけ資金回収までの期間が延びるため、中小企業にとっては運転資金が不足しやすくなり、経営を圧迫する要因となっていました。
今回の改正によって、手形の支払期日が60日以内に統一されることで、特に中小企業側が手形を早く現金化でき、経営を安定化させる効果が期待されています。ただし、このルールには例外も設けられることがありますので、企業間取引を行う際には、取引先との契約内容や最新のルールについてしっかりと確認しておくことが重要です。
今後、手形取引を行う際は、従来の慣行ではなく、最新の法律に従った60日以内という原則に則って支払期日を決定する必要があります。
約束手形の支払期日「3営業日以内」とは
約束手形の支払期日について、「3営業日以内」というよく表現が使われます。これは、約束手形を現金化するために、支払期日当日を含めて3営業日の間に銀行へ持ち込む必要があるというルールを示しています。営業日とは、銀行が実際に窓口業務を行っている日のことを指し、土曜日・日曜日・祝日などの銀行が休業の日は含まれません。
例えば、ある約束手形の支払期日が水曜日だった場合には、その水曜日が1営業日目、翌日の木曜日が2営業日目、さらにその翌日の金曜日が3営業日目となり、この3日間のうちに銀行へ持ち込むことで手形の取り立て手続きを行うことができます。
この期間(3営業日以内)を超えてしまうと、銀行での取り立てができなくなり、その後は手形の振出人に直接請求をする必要が生じ、回収リスクが高まります。したがって、必ず3営業日以内に銀行に持ち込みましょう。
約束手形の当日持ち込みとは
約束手形の当日持ち込みとは、約束手形の支払期日に、受取人(手形所持人)がその手形を指定された銀行に持ち込んで現金化することです。
約束手形に記載された支払期日は、振出人(手形を発行した側)がその手形金額を支払う義務を負う日であり、受取人側にとっては、手形を現金に換えることが可能になる日を意味します。
手形の支払期日は厳格な期限であるため、原則としてその日に銀行に手形を持ち込むのが望ましいです。ただし、実務上は支払期日を含めて「3営業日以内」であれば銀行で通常の取り立て手続きを行うことができます。それでも、手形記載ミスや銀行側での処理時間などを考えると、支払期日当日もしくは遅くとも翌営業日までに銀行に持ち込むことが安全です。
約束手形の当日持ち込みの方法
約束手形の支払期日に銀行で取り立て手続きを行い現金化するには、以下のような流れで進めるのが一般的です。
必要書類を準備する
約束手形を銀行に持ち込む前に、必要な書類や持ち物を準備します。通常、以下の書類や持ち物が必要です。
まず、必ず必要となるのが約束手形の原本です。銀行では原本がなければ手続きができないため、紛失や破損がないよう大切に保管しておきましょう。また、手形には裏書(手形の裏側に譲渡や取立のための署名・捺印をすること)が必要な場合がありますので、事前に漏れなく記入しておきます。
手続きを行う人の本人確認書類も必要です。個人の場合は運転免許証や健康保険証、法人の場合は、基本的に代表者の本人確認書類に加えて法人の代表者印や法人印(社印)が必要になります。銀行によっては印鑑の提示を求められないケースもありますが、原則として法人印は持参するようにしましょう。
銀行の窓口で手続きを行う
準備した書類と手形を持参して、約束手形に記載された「支払場所」である銀行の窓口へ行きます。銀行へ到着したら、窓口担当者に「約束手形の取り立て・決済をお願いします」と伝え、手形原本および必要書類を渡します。
ここで注意すべきなのは、必ず手形に記載された支払場所(銀行名と支店名)を確認することです。異なる銀行や支店に持ち込んだ場合、原則として手形の決済手続きが行えないため、支払場所を間違えないよう再確認が必要です。
銀行での受付と取り立て手続き
銀行では受け取った約束手形の内容を慎重に確認します。確認するポイントとしては、記載内容の不備(支払期日、金額、振出人、受取人など)、裏書が適切にされているかなどです。これらの記載事項に問題がなければ銀行側で手続きが進められます。
万一、記載漏れや誤りがある場合、当日中に現金化できなくなるリスクがあります。事前に手形の記載内容をよく確認しておくことが大切です。
現金化(口座入金)手続き
銀行での手続きが順調に進めば、手形金額は通常、持ち込んだその日のうちに指定した銀行口座に振り込まれます。ただし、振込時間については銀行によって異なり、当日の夕方に入金されるケースが一般的です。手形の金額が少額の場合など、一部銀行では現金で直接受け取ることが可能な場合もありますが、多くの場合は口座振込で対応されます。
約束手形の当日持ち込みで注意すべきポイント
約束手形を支払期日に銀行に持ち込む際には、次のようなポイントを意識して対応すると、トラブルなく現金化が行えます。
銀行の営業時間を確認する
約束手形の決済手続きは、銀行窓口の営業時間内に行わなければなりません。一般的な銀行窓口の営業時間は平日の9時から15時です。この時間を過ぎて銀行に手形を持ち込むと、翌営業日の取り扱いとなってしまい、当日の現金化ができなくなります。そのため、余裕を持って早めの時間帯に銀行に手形を持ち込むようにしましょう。
支払場所(銀行名・支店名)を間違えない
約束手形には必ず「支払場所」として銀行名と支店名が記載されています。支払場所に指定されている銀行・支店以外では約束手形を決済することはできません。手続き当日に支払場所を間違えてしまうと、時間的なロスが発生し、当日の決済が困難になります。必ず事前に支払銀行と支店を再確認しておくことが重要です。
裏書の有無や記載不備を入念に確認する
手形の裏書(譲渡や取立ての署名や捺印)が必要な場合は、銀行に持ち込む前に必ず確認しましょう。また、約束手形の記載事項(支払期日、金額、振出人の署名・押印など)が間違いないことをしっかり確認しておくことが重要です。記載漏れや誤りがあると、当日に決済できない場合があります。特に裏書については後から追加するのが難しいため、丁寧に確認してから銀行へ持ち込みましょう。
約束手形の支払期日を過ぎた場合のリスク
約束手形の支払期日を過ぎてしまうと、企業の資金繰りを中心に、様々なリスクが発生します。期限の遅れはただの手続き上のミスでは済まず、時には重大な経営問題へと発展してしまう場合もあります。ここでは、約束手形の支払期日を超過した場合に企業が直面する具体的なリスクについて詳しく解説します。
資金繰りへの悪影響
約束手形は本来、支払期日に銀行で現金化できることを前提として企業の資金計画に組み込まれています。そのため、支払期日を過ぎて現金化が遅れると、本来入金されるべき資金が企業に入ってこない状態になります。
その結果、企業は手形の現金化を前提として準備していた他の支払いや仕入れ、給与の支払いなどが滞る可能性が出てきます。この資金不足が原因で他の取引先への支払いができず、結果的に企業の資金繰りが連鎖的に悪化することがあります。こうした状況が続けば企業の経営に深刻な影響を及ぼし、最悪の場合、倒産リスクにも発展します。
不渡り・倒産リスクの増加
約束手形が支払期日を過ぎても決済できない場合には、振出人(手形を発行した企業)の経営状態が悪化している可能性も考えられます。特に支払期日を過ぎて銀行で取り立てができなくなった場合、手形を受け取った企業(受取人)は振出人に直接支払いを求める必要がありますが、振出人がすでに資金繰り難や倒産危機に陥っている場合、回収が困難になりかねません。
さらに、手形が回収不能となり「不渡り」となった場合には、その売掛金は回収不能な損失として処理される可能性が高く、受取側の企業経営にも甚大な悪影響を及ぼす恐れがあります。
法的措置に伴うコストと手間の増加
手形の支払いが遅延した場合、振出人との交渉がうまくいかないと、最終的には法的措置を検討せざるを得ないことがあります。この場合には、裁判や支払督促などの法的手続きを行うための費用や、弁護士費用が新たに発生します。
また、こうした法的手続きには非常に時間がかかるため、本業以外の部分で労力を割かれることになり、生産性にも悪影響を及ぼします。さらに、法的手続きを行うことで取引関係の悪化や信用問題が表面化し、企業の社会的評価にも悪影響が出る可能性があります。
信用や取引関係の悪化
約束手形が決済されずに不渡りとなったり、決済遅延が発生したりすると、企業の信用にも影響を与えます。特に金融機関からの信用評価が低下すれば、将来的な融資が困難になり、資金調達が難しくなる可能性があります。
また、取引先からの信頼も損なわれるため、現在の取引を継続できなくなったり、新規取引先を開拓することが難しくなったりする可能性があります。企業間取引において「信用」は非常に重要な要素であり、一度失った信用を取り戻すには多くの時間と労力を要します。
約束手形の支払期日を過ぎた場合の対応
約束手形の支払期日を過ぎてしまった場合、銀行での通常の取り立て手続きが行えなくなるため、次のような対応策を検討し実施する必要があります。
手形の振出人へ直接請求を行う
手形の支払期日を過ぎた場合、最初に検討すべき方法は手形を振り出した企業(振出人)への直接請求です。この直接請求では、振出人と連絡を取り、支払い遅延の理由を確認した上で支払いを求めます。
一般的に振出人との交渉では、以下のような方法が考えられます。支払い遅延に至った経緯や事情を確認した後、振出人に対して新たに手形を再発行してもらうよう依頼する、あるいは銀行振込など別の決済方法で速やかに支払ってもらう交渉を進めます。
しかし、振出人側の資金繰りが厳しい場合、必ずしもこうした交渉が成立するとは限りません。
銀行に相談・個別対応を依頼する
支払期日から3営業日を超えると銀行での通常の手続きは行えなくなりますが、それでも銀行に相談を行うことで、振出人との交渉についてアドバイスや情報を得られる場合があります。
ただし、この対応はあくまで助言に留まり、具体的な手形の回収や交渉そのものを銀行が代行することは基本的にありません。そのため、受取人側が主体となり、自ら振出人と交渉しなければなりません。
訴訟などの法的措置を検討する
振出人との直接交渉がまとまらず、支払いがされない場合、法的措置を検討します。具体的には裁判所に訴訟を起こして支払いを強制する方法や、支払督促という制度を利用して支払いを求める方法などがあります。
しかし、訴訟などの法的措置には時間的・金銭的負担が伴うため、これらの方法を選択する際には、費用対効果や回収可能性をよく考慮する必要があります。
約束手形の支払期日を過ぎないためのポイント
約束手形の支払期日を厳守するために、企業が事前にとれる対策には次のようなものがあります。
約束手形の支払期日を厳格に管理する
まず、約束手形の支払期日を社内で厳格に管理することが重要です。カレンダーや経理ソフトなどを活用し、支払期日の事前通知設定をするなど、忘れない仕組みを作っておくことが効果的です。
事前に手形の内容をしっかり確認する
手形が発行された時点で、振出日や支払期日、銀行の支払場所を十分に確認することが重要です。記載内容に誤りや漏れがないかを確認することで、直前のトラブルを防ぐことができます。
取引先企業の信用情報を定期的に確認する
定期的に取引先企業の信用情報を確認し、経営状況に変化がないかチェックすることで、不渡りリスクを早期に察知し、迅速な対策を取ることが可能になります。
期日前の銀行持ち込みを検討する
約束手形は銀行に事前に預ける「取立委任」を利用することで、期日当日にトラブルなく決済できるよう準備することができます。手形を事前に銀行へ預けておけば、当日持ち込みのミスや遅れを避けられます。
以上のような対策をしっかりと行い、手形の支払期日を厳守することで、経営上のリスクを回避することができます。
約束手形は2026年度末に廃止予定
政府は、決済システムの効率化とリスク軽減のため、2026年度末を目途に紙媒体の約束手形と小切手の利用を廃止する方針を示しています。これに伴い、電子記録債権(通称:でんさい)がその代替手段として推奨されています。
でんさいは、紛失や盗難のリスクがなく、印紙税も不要であり、手続きの電子化による効率化が期待できます。支払期間についても、紙の約束手形と同様に60日以内への統一が推奨されており、今後、このルールが浸透すると考えられています。
今後は、この電子記録債権の利用が主流になると考えられ、事業者においては、その仕組みや利用方法を理解し、移行に向けた準備を進めることが重要となります。
約束手形の支払期日はしっかりと管理しましょう
約束手形は、支払期日を厳格に管理し、銀行への持ち込み方法を正しく理解しておくことが重要です。期日を過ぎると銀行での取り立てが困難となり、資金繰りの悪化や企業信用の低下、不渡りリスクなど深刻な影響が出ます。これらを避けるためには、事前に期日管理を徹底し、取引先の信用情報にも注意を払うことが必要です。2026年度末には紙の手形が廃止され電子記録債権(でんさい)への移行が進むため、今後の取引に向けても制度の変化にしっかり備えておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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