• 作成日 : 2025年3月31日

IFRSにおける引当金とは?日本基準との違いや計上要件、測定方法などを解説

IFRSにおける引当金とは、国際会計基準(IFRS)の枠組みで計上される将来の損失や支出に備えるための負債を指します。IAS第37号やIFRS第16号などに基づいて認識・測定され、日本の会計基準とは計上要件や割引処理などが異なります。この記事では、IFRSにおける引当金の定義や計上要件、日本基準との違いなどを詳しく解説します。

IFRSにおける引当金とは

IFRSにおける引当金とは、将来にわたって発生が見込まれる支出や損失を財務諸表に適切に反映するために計上される負債のことです。IAS第37号などでその要件や測定方法が定められています。

IFRSとは

IFRS(International Financial Reporting Standards)とは、国際会計基準審議会(IASB)が策定・公表している会計基準の総称です。世界各国で適用が進んでおり、日本でも金融庁の方針により上場企業を中心に任意適用が認められています。

財務諸表をグローバルに比較可能な形で提供するため、原則主義を基本としつつ、重要な会計項目について詳細なガイドラインを設けています。引当金の認識や測定については、主にIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」が基本指針となります。

IFRSにおける引当金の定義(IAS第37号)

IAS第37号において、引当金(provisions)は、「将来にわたり発生が見込まれる債務のうち、金額や時期が不確実なもの」と定義されています。具体的には、以下の3つの要件をすべて満たす場合に負債として計上します。

  1. 過去の事象に起因する現在の債務が存在すること
  2. 資源の流出を伴う経済的便益の消費が発生する可能性が高いこと
  3. 債務の金額を合理的に見積もることができること

将来の修繕や補償といった不確実な支出も、会計上は負債として計上します。

IFRSにおける引当金の具体例

IFRSにおいては、以下のようなケースで引当金が認識される可能性があります。

  • リストラクチャリング:事業再編に伴う解雇予告や閉鎖費用など
  • 法的債務や契約上の義務:訴訟や契約違反による損失見込み
  • 資産除去債務(解体費用など):将来的に発生する設備の撤去コスト
  • 製品保証:販売した製品に対する修理・交換費用の見積もり

これらの引当金は、IAS第37号の基準に沿った測定と開示が求められます。

IFRSにおける引当金の計上要件

IFRS(IAS第37号)では、以下の3つの条件を満たす場合に引当金を計上します。

  1. 企業が過去の事象により法的または推定的に現在の債務を負っていること
  2. 当該債務を履行するために資源(経済的便益)が流出する可能性が高いこと
  3. 債務の金額を合理的に見積もり可能なこと

特に「推定的債務」は、法的に確定していなくても企業側が責任を認めている場合なども含まれるため、日本基準より広範な考え方となります。

IFRSにおける引当金の測定方法

IFRSでは、引当金の測定方法として一般的に「期待値法」と「最頻値法」が挙げられます。企業の状況や利用可能な情報に応じて、これらを使い分ける必要があります。

期待値法

期待値法(Expected Value Method)とは、将来の支出が複数のシナリオで発生する可能性がある場合に、各シナリオの発生確率と見積額を乗じた合計を算定する方法です。

例えば、複数のリスクレベル(軽度・中度・重度など)に応じて発生コストが異なる場合や、訴訟の結果によって賠償額が変動する場合などに用いられます。結果として、企業は加重平均された合理的な金額を引当金として計上することになるのです。

最頻値法

最頻値法(Most Likely Outcome Method)とは、将来発生する可能性が最も高い単一の金額を引当金として計上する方法です。

例えば、訴訟の結果が500万円、1,000万円、2,000万円など複数の判決パターンで想定される場合は、最も確率が高い判決金額を採用します。期待値法に比べて計算はシンプルになりますが、リスクのばらつきが大きい場合には、期待値法のほうがより現実に近い評価となることもあります。

IFRSにおける引当金の会計処理

IFRSでも、リース物件の原状回復費用など将来発生が見込まれる義務的支出を「引当金」として計上するケースがあります。

会計処理の手順としては、引当金を認識する際にまず対応する費用または資産の増加(減価償却が必要な場合あり)と併せて仕訳を行います。その後、引当金を定期的に再測定し、見積もりの変更があれば修正仕訳を行います。リース終了時や債務確定時には、実際の支出と差異があれば残高を調整します。

IFRSと日本基準の引当金の違い

IFRSと日本基準では、引当金の計上範囲や測定方法が異なります。以下では、主な項目について具体的な違いを見ていきましょう。

貸倒引当金の違い

日本基準では「注解18」に基づき、貸倒実績率などの過去データに応じて貸倒引当金を計上するのが一般的です。

一方、IFRSでは「期待信用損失モデル(ECL: Expected Credit Loss)」が導入され、債権の発生時点から予想損失を見積もる考え方が適用されます。そのため、景気動向やマクロ経済指標など幅広い情報を反映し、早期に貸倒リスクを計上する点が特徴です。

推定的債務の違い

IFRS(IAS第37号)では、法的には確定していなくても、企業が過去の行為により実質的に責任を負うと判断できる場合(推定的債務)も引当金の対象になります。

一方、日本基準では法的確定が重視される傾向が強く、実質的責任の認識範囲がIFRSより狭い場合があります。このため、IFRSのほうが企業に厳格な負債認識を求める場面があるといえます。

リストラクチャリング引当金の違い

IFRSでは、リストラクチャリング引当金を計上するために「正式な経営計画の公表・実施開始」など具体的な要件が定められています。

一方、日本基準では「将来の実施計画が具体化しているかどうか」を総合的に判断するケースが一般的です。IFRSのほうが、要件が詳細で、リストラクチャリングの内容が明確であれば早めに引当金を認識しやすいという特徴があります。

資産除去債務の違い

資産除去債務は、日本基準では「資産除去債務に関する会計基準」に基づき、固定資産の除去にかかる費用を負債として計上します。

IFRSでも同様に引当金の一種として扱われますが、取得時に資産除去債務を割引処理し、割引率やキャッシュフローを定期的に見直す点が強調されています。日本基準においても割引処理が行われますが、IFRSのほうが再測定の頻度や見積もりの変更に関する開示が厳密である場合があります。

現在価値への割引の違い

IFRS(IAS第37号)では、将来支出が発生する時期が特定できる場合やその金額が有意に異なる場合には、現在価値へ割引して引当金を計上します。

一方、日本基準では、割引計算があまり広く実務上行われておらず、名目額で計上するケースが多いです。そのため、IFRSを適用する企業は、金利や発生時期などを踏まえてより精緻な会計処理が求められます。

ポイント引当金の違い

日本基準では、ポイント引当金を「販売促進費用」として計上するか、売上高を一旦控除したうえで「ポイント引当金」を計上するケースが見られます。

一方、IFRSでは、顧客との契約から生じる権利義務に基づいて、収益認識基準(IFRS第15号)と併せて検討することが多いです。ポイント発行は一種の将来負債(サービス提供義務)とみなされ、割引価値や回収可能性を考慮する場合もあります。

IFRSの引当金と予想信用損失モデルの違い

IFRSの引当金(IAS第37号)と、貸倒引当金に適用される「予想信用損失モデル(ECL: Expected Credit Loss)」は、対象や目的が異なります。

IAS第37号は法律上もしくは推定的に発生する可能性のある義務全般をカバーするのに対し、予想信用損失モデルは金融商品(売掛金や貸付金など)の信用リスクを評価して引当金を計上します。

IFRSの引当金を適用するときの注意点

IFRSの引当金を適用するにあたっては、いくつかの注意点があります。以下で詳しく見ていきましょう。

引当金と偶発負債を区別する

IAS第37号では、偶発負債(contingent liability)は、将来発生する可能性が低い、あるいは金額を合理的に測定できない場合と定義されています。その場合は引当金として認識せず、財務諸表の注記のみで対応します。一方、資金流出の可能性が高く、金額を見積もれる場合は引当金として計上します。偶発負債と引当金の線引きが曖昧にならないように、事実関係を慎重に評価することが重要です。

賞与引当金や修繕引当金は引当金に計上されない

IAS第37号では、従業員ボーナス(賞与)や修繕費用などは通常の損益計算や費用認識で処理するため、一般的には「引当金」としては扱いません。日本基準では「賞与引当金」「修繕引当金」が設けられていますが、IFRSではそれらを必ずしも引当金として認識しない点が大きな相違点です。ただし、将来支出の義務化が法的・実質的に確定している場合は、別途考慮されるケースもあります。

引当金の金額は現在価値でなければならない

IFRS(IAS第37号)では、将来発生する支出の時期が特定可能で、その金額が大きい場合は、割引計算によって現在価値に見積もることが原則とされています。例えば、10年後に設備撤去費用が発生する場合は、適切な割引率を用いて現在価値を算定し、その金額を引当金として計上します。日本基準では割引処理が必須ではない場合もあるため、IFRSへの移行時には会計方針の大幅な変更が必要となるケースがあります。

将来義務を適切に捉えるIFRSの引当金

IFRSにおける引当金は、企業が将来に負うリスクや債務をより厳密に財務諸表へ反映するための重要な仕組みです。計上要件や測定方法、日本基準との違いを把握しておくことで、国際的に比較可能な財務情報を提供できるようになります。

特に貸倒引当金の予想損失モデル、リストラクチャリング引当金の認識要件、現在価値への割引処理などは、日本基準とは異なる点が多いため注意が必要です。経理担当者の方は、IAS第37号やIFRS第16号の要件を確認しながら、整合性ある会計処理を心がけましょう。


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