- 更新日 : 2024年8月8日
W/R比率とは?日本の卸売構造の特徴を解説します
W/R比率という指数をご存じですか?W(wholesale/ホールセラー)は卸売業、R(retailer/リテイラー)は小売業のことで、W/R比率(wholesale /retail sales ratio)とは卸売販売額に対する小売販売額の比率を示したものです。これは「卸小売比率」ともいわれており、この数値によって卸活動の大きさを測ることができます。
今回はW/R比率とは何か、また、どのようなことを知るために利用されているのかを解説します。また、日本はW/R比率が高い理由と今後の展望について考えてみたいと思います。
W/R比率の算出方法
W/R比率の算出方法は、年間卸売総販売高÷年間小売総販売高で導き出されます。たとえば、この比率が高いということは一体どういう意味を持つのでしょうか。
単純に卸売総販売高÷小売総販売高で試算してみると、生産者が50円で卸売業者Aに販売し、その卸売業者が自社の利益2割(10円)を乗せて60円で小売業者に販売、小売業者は自社の利益2割(12円)乗せて72円で販売したとします。卸売業の総販売高は60円で小売業は72円で販売するので、W/R比率は60÷72≒0.83です。
これが卸売業者を3社経由(各業者の利益は2割と仮定)して消費した場合、卸売業者Aが60円、卸売業者Bが72円、卸売業者Cが86円、小売業者が103円で販売するので、W/R比率は(60+72+86)÷103≒2.12となります。ですから、W/R比率が高ければ高いだけ、小売販売高に占める卸売販売高の割合が大きいということになるのです。それは卸売業者間で販売が繰り返されているということで流通経路が長い、流通段階が多いと言えます。
日本のW/R比率は?
日本のW/R比率は、3~4の値です。これは、アメリカやヨーロッパ諸国に比べてかなり高い値です。他国に比べて生産者から消費者にわたるまでの段階が多く、卸売段階での販売額が重複されて計算されており、販売総額が大きくなっている、言い換えれば、中間マージンが多い国なのです。しかし、W/R比率を単純に用いて流通経路が多いと決めつけるのは早計です。留意すべきことがふたつあります。
W/R比率が高い理由
ひとつは、卸売販売総額には貿易財、生産財、中間財、原材料など国内消費に向かわないものを含んでいることです。ですから、これらを除いて消費財に関する卸売販売額だけで計算してみる必要があります。消費財にも業務用があるので厳密に比較するのは困難であり、あくまでも試算ですが、日本は2強、アメリカは1強になります。この計算方法で見ると、日本のW/R比率は下がりますが、それでもまだ日本の流通経路は長いということになります。
二つ目の問題は、W/R比率から、流通経路の長さとは別の意味があるかもしれないということです。日本はアメリカとW/R比率に大きな差がありますが、これは日本の卸売段階が多いという理由だけではないかもしれないという見解です。というのも、卸売店舗密度と小売店舗密度の比率については、日本とアメリカに大きな差はありません。つまり、卸売業者の段階が多いのではなく、卸売と小売の1店舗当り販売額の格差がアメリカに比べて大きいことを意味しています。日本は小売店舗の大規模化の割合が低く、逆に、総合商社に代表される大規模卸売業者があるのが特徴です。これは、諸外国に比べてW/R比率が大幅に高い要因のひとつだと考えられます。
まとめ:日本の卸売構造の特徴
上記にみたように、日本においては、従業員10人未満の小規模な商店数の構成比が高く、対する卸売業の販売額に関しては、100人以上の大規模卸が大きな割合を占めています。しかし、全体的な傾向としては、アメリカ、西ドイツ、イギリス、フランス、イタリアに比べて卸売は多段階です。その理由としては、総合商社の存在や仲介業者の役割が小さいという背景があります。
ところで、日本の物流費は40兆円強とされています。このうちおよそ半分がメーカーの自家物流費、残り半分が運輸業への委託費となっています。つまり、荷主から直の自社輸送が半分、残りの半分は元請けから下請け、孫請け、曾孫請けと2~3段階を踏んでいると考えられるわけです。日本の今後の流通構造の肝は物流の改革なのかもしれません。
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よくある質問
W/R比率の算出方法は?
年間卸売総販売高÷年間小売総販売高で導き出されます。詳しくはこちらをご覧ください。
日本のW/R比率は?
3~4の値で、これは、アメリカやヨーロッパ諸国に比べてかなり高い値です。詳しくはこちらをご覧ください。
W/R比率が高い理由は?
卸売販売総額には貿易財、生産財、中間財、原材料など国内消費に向かわないものを含んでいることや、W/R比率から、流通経路の長さとは別の意味があるかもしれないということが挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。
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