• 更新日 : 2025年7月22日

新リース会計基準の早期適用ポイントは?メリット・デメリットも解説

「新リース会計基準」の早期適用とは、2027年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度から原則適用となる新基準を、2025年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から任意で適用することを指します。

新リース会計基準の概要

2024年9月に企業会計基準委員会(ASBJ)から「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)およびその適用指針が公表されました。

この新基準の最大のポイントは、これまでオフバランス処理されてきたオペレーティング・リース取引が、原則として「使用権資産」と「リース負債」として貸借対照表(B/S)に計上(オンバランス化)される点です。これにより、企業の財務状況がより実態に即して開示されるようになります。

※オペレーティング・リース取引は原則オンバランス化されますが、12 か月以内の短期リースと金額的重要性の乏しい少額リースは免除規定によりオフバランス処理が認められます。

※多くの実証研究で資産・負債の把握精度が向上すると報告されていますが、業種や指標によって効果の大小は異なります。

適用時期

  • 強制適用: 2027年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から
  • 早期適用: 2025年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から可能

早期適用のメリットとデメリット

メリット

  • 準備期間の確保: 強制適用まで十分な時間を確保できるため、システム改修や業務プロセスの見直しなどを余裕を持って進められます。
  • 先行者利益: 業界内でいち早く新基準に対応することで、投資家や取引先からの評価向上、およびグローバルな会計基準への対応力をアピールしやすくなるでしょう特にIFRSをすでに採用している企業や海外子会社が多い企業にとっては、グループ全体の会計処理の統一が図りやすくなります。
  • 段階的な移行: 早期適用期間中に問題点を洗い出し、本格適用までに改善することで、スムーズな移行が可能になります。
  • 財務諸表の比較可能性向上: IFRSを採用している企業や海外子会社との財務諸表の比較可能性が高まります。

※先行適用が必ず投資家・取引先の評価を高めるという一貫したエビデンスは確認できません。業種・財務体質によって市場反応は正負まちまちであることをご留意ください。

デメリット

  • 経理処理負担の増加: リース契約の識別、リース期間や割引率の決定など、実務上の負担が増加します。
  • 自己資本比率の低下: リース負債がオンバランスされることで総負債が増加し、自己資本比率が低下する可能性があります。これにより、金融機関からの融資交渉に影響が出る可能性も考えられます。
  • 税法への対応: 会計と税務の差異が生じるため、税効果会計税務申告書作成において複雑な調整が必要になります。

※銀行によってはリース調整後の指標を用いるため、実際の交渉影響は企業ごとに大きく異なります。

新リース会計基準の早期適用が有効な企業

主に以下のような企業が早期適用を検討するメリットが大きいと考えられます。

なぜ早期適用が有効な企業が「IFRSを採用している企業」「海外子会社が多い企業」「十分な準備期間を確保したい企業」の3つなのか、それぞれの理由を説明します。

1. IFRSを採用している企業

  • 会計処理の親和性: 新リース会計基準は、国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」に非常に近い内容です。IFRSを既に適用している企業は、リースに関する会計処理の考え方や概念が新基準と類似しているため、新たな基準への適応が比較的スムーズに進みます。公認会計士監修!便利な「新リース会計基準対応 TODO チェックリスト」「リース判定管理シート」「新リース会計基準 社内影響調査リスト」の3点をご用意しています。
  • システム・プロセスへの影響最小化: IFRS適用時にリース会計に関連するシステム改修や業務プロセスの見直しを既に行っている場合が多く、新日本基準への移行による追加的な負担が相対的に小さくて済みます。

※IFRS 16 とほぼ同一の会計モデルを採用していますが、①無形資産リースの除外、②少額リースの数値基準(1契約300万円目安)の維持、③割引率決定手順など一部で日本独自の取扱いが残ります。

2. 海外子会社が多い企業

  • グループ会計の統一性: グローバル企業では、本社が日本の会計基準、海外子会社がIFRSなど異なる会計基準を適用していることがあります。新日本基準を早期適用することで、IFRSを採用している海外子会社のリース会計処理と、親会社および日本国内子会社のリース会計処理との間の差異が縮小し、グループ全体の連結財務諸表作成における調整作業が簡素化されます。
  • 比較可能性の向上: グループ内での財務情報の比較可能性や管理会計上の統一性が向上し、より精緻なグループ経営判断が可能になります。

3. 十分な準備期間を確保したい企業

  • 複雑な業務・システム改修: 新リース会計基準の導入は、リース契約の洗い出し、データ入力、会計処理の変更、システム改修など、多岐にわたる複雑な作業を伴います。特にリース契約数が膨大であったり、多様な種類のリース契約を保有していたりする企業にとっては、これらの準備に相当な時間とリソースが必要です。
  • リスクの分散と平準化: 強制適用まで待つと、他の多くの企業も同時期に準備を進めるため、ITベンダーやコンサルティング会社のリソースが逼迫したり、費用が高騰したりする可能性があります。早期適用することで、これらのリスクを回避し、計画的に準備を進めることができ、スムーズな移行が可能になります。
  • 従業員のトレーニング: 新しい会計基準や業務プロセスに対応するためには、経理部門だけでなく、リース契約に関わる営業、購買、法務などの部門の従業員に対する広範なトレーニングが不可欠です。早期適用によって、十分な時間をかけてトレーニングを実施し、従業員の理解度を高めることができます。

※なお、現在公表されている調査は主に定性的ヒアリングであり、“リソース逼迫回避” を裏付ける統計データは確認できないことを免責いたします。

新リース会計基準の早期適用に向けた一般的な流れ

新リース会計基準の早期適用は、強制適用に先駆けて準備を進めるため、計画的かつ段階的なアプローチが重要です。

1. 影響分析とプロジェクト計画の策定

まず、新リース会計基準が自社に与える影響を詳細に分析します。

なお、この流れは一般的なものであり、企業の規模やリース取引の状況によって、各フェーズで必要となる作業や期間は異なります。早期適用には相当の準備が必要となるため、計画的に進めることが成功のポイントとなります。

  • 現状把握と影響分析:
    • 現在保有しているリース契約(特にオペレーティング・リース)の洗い出しと、その契約内容の精査。
    • 新基準適用による財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)への影響(使用権資産、リース負債の計上額、自己資本比率への影響など)の試算。
    • 既存の業務プロセス(契約管理、経理処理など)やシステムへの影響を評価。
    • 不動産賃貸借契約など、これまでリースとして認識していなかった契約の識別。
  • プロジェクトチームの立ち上げ:
    • 経理部門を中心に、法務、情報システム、各事業部門など、関連部署の担当者を含めた横断的なプロジェクトチームを組成します。
  • プロジェクト計画の策定:
    • 早期適用までのスケジュール、予算、担当者、各フェーズでの具体的なタスクと目標を明確にします。

2. 会計方針の決定と業務プロセスの見直し

影響分析の結果に基づき、具体的な会計処理方針を決定し、それに合わせて業務プロセスを見直します。

  • 会計方針の決定:
    • リース期間の決定方法、割引率の算定方法、変動リース料の取り扱い、短期リース・少額リースの簡便処理の適用可否など、新基準における会計処理の具体的な方針を決定します。
    • 特に、リースと非リース(サービス契約など)の識別基準を明確にします。
  • 業務プロセスの設計・見直し:
    • リース契約の識別から、契約情報の収集、会計システムへの入力、仕訳、開示資料作成に至るまで、一連の業務プロセスを新基準に沿って再構築します。
    • 各部署からの情報収集方法や連携体制を確立します。
  • 社内規定・マニュアルの整備:
    • 新会計方針や新業務プロセスを反映した社内規定やマニュアルを作成し、関係者への周知徹底を図ります。

3. システム対応とデータ整備

新基準に対応するためのシステム改修や新たなシステムの導入、および必要なデータの整備を行います。

  • システム改修・導入:
    • リース契約情報を管理し、使用権資産やリース負債の計算、仕訳処理、開示に必要な情報を出力できる会計システムやリース管理システムの改修または導入を検討します。
    • 既存データとの連携や移行計画も重要です。
  • データ整備:
    • 既存のリース契約に関する情報を、新基準で求められる粒度で整理し、システムに入力できるよう整備します。契約期間、リース料、残存価額、更新オプションなどの詳細情報が必要です。
  • テスト運用(ドライラン):
    • システムが適切に機能するか、業務プロセスが円滑に回るかを確認するため、実際のデータを用いてテスト運用(ドライラン)を実施します。これにより、潜在的な問題点を早期に発見し、改善します。

4. 社内トレーニングと開示準備

新基準への理解を深めるための社内トレーニングを実施し、開示準備を進めます。

  • 社内トレーニング:
    • 経理担当者だけでなく、リース契約に関わる営業、法務、購買などの関係部署の従業員に対し、新基準の概要、自社の方針、変更された業務プロセスなどについてトレーニングを実施します。
  • 開示準備:
    • 新リース会計基準適用後の財務諸表における注記情報(リースに関する詳細情報など)の作成準備を進めます。
    • 適用初年度の期首仕訳の作成準備も行います。

5. 早期適用開始

上記の準備が整った上で、早期適用を開始します。

  • 期首からの適用:
    • 新リース会計基準は、期首からの適用が求められます。期中や期末からの適用は認められません。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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