- 作成日 : 2025年4月30日
商品廃棄損やロスの仕訳は必要?計上の仕方や勘定科目を具体例つきで解説
売れ残ってしまった商品をどう扱うかは、多くの会社にとって悩ましい問題です。商品をずっと保管していても、その分のコストがかかり続けますし、時間がたてば価値も下がってしまいます。やむを得ず商品を廃棄する場合には、きちんとした会計処理が必要です。
この記事では、「商品廃棄損(しょうひんはいきそん)」の仕訳について、なぜ必要なのか、どのように記帳すればよいのか、税金の考え方や日々の在庫管理のヒントまで、わかりやすく紹介していきます。
目次
商品廃棄損とは?
商品廃棄損とは、会社が保有する商品を廃棄したときに発生する損失のことです。たとえば、以下のような商品が対象です。
- 長く売れ残っている商品
- 壊れた商品
- 古くなり価値が下がった商品
モデルチェンジなどにより今後販売の見込みがない商品商品は持っているだけで、保管費や管理業務にかかる人件費が発生し続けます。売れる見込みがない場合は、廃棄を含めた早めの判断が必要になります。
商品廃棄損の仕訳はなぜ必要?
会計の面から見た必要性
商品を販売できずに廃棄した場合、その原価を帳簿に正しく記録することで、売上と費用のバランスがとれた正確な利益を把握できます。仕訳をしないままにすると、実際の売上原価や在庫商品が正しく把握できず、結果として正しい損益計算ができません。
また、「商品廃棄損」という勘定科目を使って記録しておけば、どれくらいの商品が廃棄されたかを数字で把握できます。廃棄が多かった月や時期を管理することで、仕入れ方や在庫管理を見直すきっかけにもなります。
税金の面でのメリット
廃棄した商品については、原則として税務上の「損金」として認められます。損金が増えると、課税される所得が減り、法人税などの税金も少なくなります。これは会社にとっての節税につながります。
また、廃棄のために専門業者へ処分を依頼した場合、その費用も損金として認められます。ただし、税務上で認められるには、領収書や請求書といった証拠を保管し、適正に処理をする必要があります。
財務体質の改善
不良在庫を抱えている状態は、企業の財務体質にとって決して好ましいものではありません。売れる見込みのない商品が棚卸資産として計上されたままになっていると、資産の効率的な活用を妨げ、企業の健全性を損なう可能性があります。不要な在庫商品を廃棄し、その損失を計上することで、帳簿上の資産が整理され、実態に即した財務状況を示せるようになります。
さらに、不良在庫の保管には、倉庫の賃料や管理に関わる人件費など、様々なコストがかかり続けます。これらのコストは、利益を圧迫する要因となります。不良在庫をなくすことで無駄な費用を減らし、使っていないスペースを有効に活用できます。
税務調査への備え
商品廃棄損は、税務調査において比較的チェックされやすい項目の一つです。なぜなら、意図的に在庫を過剰に廃棄したように見せかけて、利益を操作する不正が行われる可能性も否定できないからです。そのため、税務署は、商品廃棄損の計上について、その理由や実態を厳しく確認することがあります。
このような税務調査に適切に対応するためには、商品廃棄に至った経緯について社内決裁を経ておくなど明確に説明できるようにしておくこと、そして実際に廃棄が行われたことを証明する書類をしっかりと保管しておくことが重要になります。
商品廃棄損を仕訳する流れ
商品を廃棄する際には、廃棄の理由を明確にし、社内の承認を得ることが原則です。品質の劣化や破損、長期間売れ残っていることによる陳腐化、モデルチェンジによる販売終了など、具体的な理由を社内記録として残しておきます。
社内での承認手続き(稟議など)を経て、廃棄を決定します。廃棄を行う際には、適切な処分方法を選択し、「廃棄証明書」や「処理費用の領収書」などの証拠書類をそろえます。これらは、税務調査の際に廃棄の事実を証明する書類となります。
仕訳では、廃棄によって発生した損失を費用として計上し、同時に棚卸資産などの資産を減らす処理を行います。処分費用が発生した場合は、適切な勘定科目で区分し、廃棄損と混同しないよう注意が必要です。
商品廃棄損の会計処理で使う勘定科目
原則として、商品を廃棄した際の損失は、「商品廃棄損」という勘定科目を用いて会計処理を行います。この勘定科目は、損益計算書上、原価性がない場合には、「営業外損失」や「特別損失」等の区分に分類されます。特別損失とは、その期に臨時的または偶発的に発生した損失であり、通常の営業活動から生じる損失とは区別されます。
商品廃棄は、毎期必ず発生するものではないと考えられるため、特別損失として処理されるのが一般的です。
ただし、もし毎期のように廃棄が出る場合は、発生頻度や内容、金額に応じて「売上原価」や「販売費および一般管理費」や「営業外費用」などの区分で処理することもあります。これは、継続的に発生する損失を「特別損失」として処理してしまうと、企業の経常的な収益力を正しく評価できなくなるためです。
また、廃棄する商品の量がごくわずかで、一般ごみとして処分するような場合には、「雑損失」勘定を用いて処理することも認められています 。どの勘定科目を使用するかは、廃棄の状況や企業の会計方針によって判断されます。
商品廃棄損に関連する勘定科目(仕入、売上原価、特別損失など)
商品廃棄損の仕訳を理解する上で、関連するいくつかの勘定科目についても把握しておきましょう。
仕入
「仕入」とは、企業が販売を目的として商品や材料を購入した際に発生する費用のことです。これは、勘定科目の五要素(資産、負債、純資産、収益、費用)のうち、「費用」に分類されます。
商品を仕入れ、検収した時点では、その商品は「棚卸資産」として貸借対照表の資産の部に計上されます。そして、その商品が販売された際に、棚卸資産から売上原価へと振り替えられるのが一般的な流れです。商品を廃棄する際には、この棚卸資産の残高を減らすための会計処理が必要となります。
商品管理上は上記の流れですが、実際の会計処理では月次決算などのタイミングで期首棚卸資産を売上原価に振り替え、期末棚卸資産を商品に振り替えます。
売上原価
「売上原価」とは、実際に販売された商品の原価です。売上高から売上原価を差し引くことで、売上総利益(粗利)が計算されます。商品廃棄損を、誤ってこの売上原価に計上してしまうと、本来販売された商品の原価と廃棄された商品の損失が混同してしまい、正確な原価管理が行えなくなります。
(廃棄された商品が本来売上原価に含まれるべき在庫である場合には、売上原価とすることもあります。)
また、売上原価が増加することで利益率が低下し、金融機関からの評価にも影響が出る可能性も指摘されています。したがって、商品を廃棄した際の損失は、状況をよく判断した上、本来の売上原価とは区別して処理する必要があります。
特別損失
「特別損失」は、営業活動とは直接関係のない、臨時的な損失を計上するための区分です。たとえば、固定資産の売却損、災害による損失、盗難による損失などが該当します 。商品廃棄損は、通常、この特別損失として計上されることになります。ただし、前述の通り、毎期継続して発生するような場合は、特別損失とは見なされないことがありますので注意が必要です。
【ケース別】商品廃棄損の仕訳例
ここでは、商品廃棄損の仕訳例を見ていきましょう。
ケース1:不良在庫を廃棄した場合
帳簿価額が10万円の不良在庫を廃棄した場合の仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
商品廃棄損 | 100,000円 | 棚卸資産(商品など) | 100,000円 |
この仕訳により、商品廃棄損という費用が発生し、同時に棚卸資産という資産が減少します。なお、実際に使用する貸方科目は、「商品」「製品」などの貸借対照表の勘定科目となります。また、期中に仕入れたものを廃棄する場合には、貸方に「仕入」勘定を使用します。
ケース2:消費税の対象となる商品を廃棄した場合
廃棄そのものは消費税の課税対象外なので、消費税の処理は不要です。
仕入時に消費税について仕入税額控除を受けていた場合でも、廃棄によってその控除を調整する必要はありません。
ケース3:廃棄費用が発生した場合
上記のケース1に加え、廃棄処理業者に1万円の処理費用を現金で支払った場合の仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
商品廃棄損 | 100,000円 | 棚卸資産(商品など) | 100,000円 |
支払手数料 | 10,000円 | 現金預金 | 10,000円 |
ここでは、商品廃棄損に加えて、廃棄にかかった費用を「支払手数料」などの科目で別途計上しています。
ケース4:一般ごみとして処分した場合
少量の売れ残り商品を一般ごみとして処分した場合(帳簿価額3千円)の仕訳例です。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
雑損失など | 3,000円 | 棚卸資産(商品など) | 3,000円 |
この場合、「商品廃棄損」ではなく「雑損失」という科目を使用することがあります。貸方科目は「棚卸資産」として「商品」のほか、「仕入」などを使用します。
ケース5:個人事業主が商品を廃棄した場合
個人事業主が仕入金額5万円の商品を廃棄した場合の仕訳例です。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
商品廃棄損 | 50,000円 | 仕入 | 50,000円 |
その期の途中で仕入れた商品等を廃棄する場合には、貸方は「仕入」となりますが、青色申告の場合で前期以前で棚卸資産として計上したものを廃棄する場合には貸方は「商品」などの棚卸資産となります。
貸方は「雑費」が一般的です。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
雑費 | 50,000円 | 仕入 | 50,000円 |
個人事業主の場合、商品を廃棄した際には、仕入勘定からその金額を直接差し引くような仕訳を行うことが多いです。ただし、この場合においても雑費を計上した根拠資料は保存しなければなりません。
不良在庫の廃棄以外の処分方法による仕訳の違い
不良在庫の処分方法は、単に廃棄するだけではなく、状況によっては、他の方法を選択することで、損失を最小限に抑えられる可能性もあります。
セール販売した場合の仕訳
不良在庫を少しでも現金化したい場合には、割引セールという形で販売することも考えられます。この場合の仕訳は、通常の販売取引と同様に行います。たとえば、1万円で仕入れた商品を8千円で販売した場合の仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金預金 | 8,000円 | 売上高 | 8,000円 |
売上原価 | 10,000円 | 棚卸資産(商品など) | 10,000円 |
この仕訳では、売上高が8千円、売上原価が1万円となり、結果として2千円の損失が発生したことがわかります。上記2行目の仕訳は、会計ソフト利用時においては、個別に起票しないのが一般的です。(以下、売上原価の仕訳については同様です。)また、市場価値が仕入価格よりも下落している場合には、事前に棚卸資産評価損を計上することもあります 。
また、「売上の値引き」として表す場合もあります。上記1行目の仕訳を次のように分けて表し、値引きがあったことを明らかにします。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金預金 | 8,000円 | 売上高 | 10,000円 |
売上値引き | 2,000円 |
買取業者に依頼した場合の仕訳
不良在庫の中には、専門の買取業者に買い取ってもらえるものもあります。この場合も、セール販売と同様に通常の販売取引として処理します。たとえば、帳簿価額2万円の商品を5千円で買い取ってもらった場合の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金預金 | 5,000円 | 売上高 | 5,000円 |
売上原価 | 20,000円 | 棚卸資産(商品など) | 20,000円 |
この場合、売上高は5千円、売上原価は2万円となり、1万5千円の損失が発生したことになります。
税務調査に備えて商品廃棄に必要となる書類
税務調査に備えて、商品廃棄に関する以下の書類をしっかりと準備しておきましょう。
- 廃棄した理由説明書:なぜその商品を廃棄する必要があったのか、具体的な理由を記載した書類。
- 廃棄した棚卸資産の明細表:廃棄した商品の名称、数量、購入金額、購入時期などをリストアップした書類。
- 廃棄する直前の写真(日付入り):廃棄前の商品の状態を示す写真。
- 廃棄業者に引き渡す際の写真(日付入り):廃棄業者に商品を引き渡した状況を示す写真。
- 廃棄業者の請求書、領収書:廃棄にかかった費用を証明する書類。
- 廃棄証明書(廃棄業者が発行):廃棄が適切に行われたことを証明する書類。
- 社内稟議書など、廃棄を決定した経緯を示す書類:廃棄の意思決定プロセスを明らかにする書類。廃棄方法や時期も明らかにしておく。
これらの書類を揃えておくことで、税務署からの問い合わせや調査に対して、根拠を持って説明ができます。
商品廃棄の仕訳を適切にしよう
商品廃棄損の仕訳は、会社の経営を正しく見えるようにする大切な手続きです。廃棄した商品を適切に記帳すれば、利益の計算も正しくなり、税金を払いすぎることも防げます。また、税務調査への対応や、無駄なコストの削減にもつながります。
商品が売れないまま残ってしまったときには、廃棄以外にもセール販売や買取業者への依頼といった方法も検討できます。無理に保管し続けるよりも、早めに動くことで損失を減らせます。
そのためにも、日頃から在庫を見直し、適切なタイミングで処分の判断ができるようにしておくことが大切です。仕訳とあわせて、在庫管理も見直していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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