- 更新日 : 2025年9月4日
IFRSにおけるファクタリングの会計処理・仕訳は?売掛金・借入金に要注意
ファクタリングとは、売掛債権をファクタリング会社に買い取ってもらうサービスのことです。ファクタリングの会計処理は、日本基準とIFRSで異なります。IFRSのファクタリングの扱いや仕訳、関連する項目として、サプライヤー・ファイナンスの一種であるリバースファクタリングについて解説します。
目次
IFRSにおけるファクタリングとは
ファクタリングとは、売掛債権を売却することで資金化する方法のことです。日本では、ファクタリングは基本的に債権の売却として扱われますが、IFRSではファクタリングの定義が異なります。IFRSにおけるファクタリングについて、概要を解説します。
IFRSとは
IFRSとは、国際会計基準審議会が策定する国際財務報告基準のことです。グローバルな会計基準として、EU域内の上場企業を中心に適用が進んでいます。日本では独自の日本基準に基づき会計処理を行うこととなっています。近年では、日本基準とIFRSの差異を縮小させるコンバージェンスが進められるようになりました。
IFRSにおけるファクタリングの定義
IFRSでは、ファクタリングを借入金として扱います。ファクタリングを利用した段階では、売掛債権が他社に移転したにすぎず、金融機関に貸し倒れリスクが移転したわけではないためです。IFRSでは、売掛債権を担保に資金を調達したものとして、借入金の扱いになります。
IFRSにおけるファクタリングの会計処理
ファクタリングには、取引先の介入がない2者間ファクタリングと、取引先を交えて行われる3者間ファクタリングがあります。ここでは、2者間ファクタリングを利用した場合の、ファクタリングの利用から返済にかけての会計処理を紹介します。
ファクタリング会社からの入金時の仕訳
ファクタリング会社を利用して、手数料を差し引いた入金を受けた場合、IFRSでは、対象の売掛債権を借入金とする会計処理を行います。
(仕訳例)ファクタリングを利用して売掛金100万円分の資金調達を行った。手数料として請求書の金額の8%が差し引かれ、残額は普通預金に入金された。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 920,000円 | 借入金 | 1,000,000円 |
売上債権売却損 | 80,000円 |
売掛先からの入金時の仕訳
IFRSでは、売掛金を売却する仕訳を行わないため、売掛先からの入金に影響が生じません。そのため、通常の売掛金の入金と同じように仕訳を行います。
(仕訳例)売掛金100万円について、売掛先から普通預金に入金があった。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 1,000,000円 | 売掛金 | 1,000,000円 |
ファクタリング会社への返済時の仕訳
ファクタリング利用時に、売掛金を担保とした借入金として計上する仕訳を行っていました。そのため、ファクタリング会社に売掛金分を返済する際は、借入金が解消されたものとして会計処理を行います。
(仕訳例)売掛先からの入金が確認できたため、普通預金からの振り込みにより、ファクタリング会社に100万円の返済を行った。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
借入金 | 1,000,000円 | 普通預金 | 1,000,000円 |
IFRSと日本基準のファクタリングの違い
IFRSと日本基準のファクタリングの扱いの違いを解説します。
売掛金の消滅条件(オフバランス処理)の違い
オフバランスとは、貸借対照表(バランスシート)から資産や負債を消滅させることです。現実的には資産や負債でありながら、貸借対照表から切り離された資産などのことをいいます。
IFRSと日本基準では、売掛金の消滅(オフバランス)の条件が異なります。まず、日本基準については、ファクタリング利用時に売掛金を売却するものと考えるため、契約内容にもよりますが、基本的にファクタリングで資金調達を実現した時点で売掛金は消滅します。
一方、IFRSでは、ファクタリングで資金調達をしても売掛金をオフバランスにできません。売掛金を担保に借入を行うと考えるため、売掛金は貸借対照表上に残ったままとなるためです。IFRSでは、ファクタリングの返済が行われた際に売掛金を消滅させるため、貸借対照表のオフバランス化は期待できません。
借入金として計上するかの違い
ここまで解説してきたように、日本基準とIFRSではファクタリング利用時の会計処理に違いがあります。日本基準の場合、売掛金を買い取ってもらうことで資金調達を行った際は、売掛金の売却として会計処理を行うため、借入金の計上はありません。保証型のファクタリングを利用した場合でも、保証に対する手数料を支払ったものとして考えるため、借入金の計上はありません。
一方、IFRSでは、ファクタリングは借入金として扱うことから、ファクタリングの契約締結時に借入金を計上する会計処理を行います。
IFRSにおけるリバースファクタリングとは
ファクタリングに関連して、IFRSとリバースファクタリングの関係について解説します。
リバースファクタリングはサプライヤー・ファイナンスのひとつ
IAS第7号及びIFRS第7号において、開示が要求される「サプライヤー・ファイナンス契約」とは、仕入先に対する債務について、資金提供者が支払いを行い、契約に従って、利用者が支払いに同意する契約のことです。リバースファクタリングとは、仕入先に対する買掛債権を一時的にファクタリング会社に立て替えてもらうサービスです。
リバースファクタリングも、サプライヤー・ファイナンスの一種といえます。IFRSでは、サプライヤー・ファイナンス契約に関して、契約条件や表示科目、支払期日のレンジなどについて開示することが求められています。
IFRSにおけるリバースファクタリングの会計処理
IFRSにおいて、リバースファクタリングの会計処理をどのように行うのか明確な決まりはありません。関連する負債をどのように財務諸表に表示するのか、どのような関連情報を財務諸表に記載すべきか、複数の議論があります。
上記を踏まえ、リバースファクタリングの会計処理を行う場合は、契約の一部である負債の大きさや性質などの総合的な判断で区分することが必要です。また、買掛金のオフバランスについては、いつ行うべきか慎重な判断が求められます。つまり、リバースファクタリングの会計処理は、決まった形があるものではなく、状況に応じて行う必要があるということです。
IFRSではファクタリングは借入金として扱う
ファクタリングについて、日本の会計基準とIFRSには違いがあります。日本の場合、債権買取型のファクタリングは、売掛金を売却したものとして扱うため、基本的に契約締結にともない売掛金は消滅します。一方、IFRSでは売掛金を担保とした借入金の扱いになるため、契約締結の時点で売掛金が消滅することはありません。IFRSと日本基準では会計処理が異なることを確認しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
購買管理の5原則に必要な準備とは?フローや注意点を解説
購買管理は、企業が必要とする原材料や部品、商品などを外部から調達するための一連の業務を指します。発注のタイミングや仕入先の選定、コストの最適化、在庫の調整などが含まれます。これらを効果的に進めるための基本となるのが「購買管理の5原則」です。…
詳しくみる売上債権回転率とは?計算式や目安と平均、売上債権回転期間の求め方まで解説
経営指標の一つに「売上債権回転率」があります。 さて、この指標はどのような時に役に立つのでしょうか? この記事では、売上債権回転率の計算式や値の目安、平均値、さらには売上債権回転期間についてもわかりやすく解説します。 売上債権回転率とは? …
詳しくみる反面調査とは?税務調査との違いや企業が押さえておくべき注意点を解説
突然「反面調査が入ります」と連絡があると、多くの経営者が戸惑います。 「どの範囲まで調べられるのか」「断れるのか」と不安に感じるのも当然です。実際、反面調査は自社ではなく取引先を対象におこなわれるものですが、その内容次第では自社の取引にも注…
詳しくみる口座振替・収納代行とは?仕組みや選び方を解説
集金業務の負担を軽減する方法として、口座振替とコンビニ払いの2つが代表的です。いずれも手間なく入金確認まで完了できるため、煩雑な業務から開放され、本業に注力しやすくなります。仕組みやメリット、選び方を紹介するので、ぜひ参考にしてください。 …
詳しくみるリベートとは?キックバックとの違いや種類・会計処理方法を解説
リベートとは、メーカーや卸売業者が、小売店やその他の取引業者に対して、代金の一部を取引高に応じて払い戻すことを指します。 仕組みを理解することで、経営判断やコスト管理にも役立てることが可能な仕組みです。 しかし、リベートとキックバックの違い…
詳しくみる小切手は2026年度末までに廃止予定!理由や電子記録債権(でんさい)などの代替手段を解説
2026年度末(2027年3月末)に、紙の小切手が完全に廃止されます。小切手は日本企業の取引で長年使われてきましたが、効率性の問題や不渡り・紛失などのリスクから電子決済への移行が求められています。この変化は、企業だけでなく、小切手を使ってい…
詳しくみる