• 作成日 : 2025年3月31日

IFRSの収益認識基準とは?日本基準との違いをわかりやすく解説

IFRSの収益認識基準とは、売上収入の計上に関する基準です。IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に規定されています。IFRSの収益認識の特徴や日本基準との比較、IFRSの収益認識の導入のポイントについて解説します。

IFRSにおける収益認識基準とは

IFRSにおける収益認識基準とは、売上計上に関する会計基準のことです。IFRSや収益認識の概要について解説します。

IFRS(国際財務報告基準)とは

IFRS(International Financial Reporting Standards)は、国際会計基準審議会が策定している国際的な会計基準です。日本語で国際財務報告基準といいます。前身のIAS(国際会計基準)の一部は現在も有効で、順次IFRSに改訂されています。日本では独自の日本基準が用いられていますが、IFRSとの差異をなくすような会計基準の見直しも進められています。

IFRSの収益認識基準とは売上計上に関する会計基準のこと

IFRSの収益認識基準は、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に定められた事項です。IFRS第15号には、収益認識までの具体的なステップや適用範囲、契約コストの扱い、契約変更の会計処理などが示されています。

日本では、長らく企業会計原則による収益認識である実現主義が採用されてきましたが、IFRS第15号の公表を受け、「収益認識に関する会計基準」が整備されました。

IFRSと日本基準の収益認識の違い

IFRSと日本基準の収益認識について解説します。

売上計上のタイミングの違い

日本では、売上計上のタイミングとして、企業会計原則に規定される「実現主義」が原則として採用されてきました。実現主義とは、取引が実現した時点で収益を認識する方法です。実現主義においては、商品引き渡し時点での収益認識のほか、商品出荷時の収益認識や検品後の収益認識が認められていました。

しかし、収益認識に関する会計基準が導入され、収益認識は履行義務の充足により行われることになります。収益認識に関する会計基準は、IFRSに沿った内容となっており、いずれも収益認識の方法は履行義務の充足によります。なお、収益認識に関する会計基準は上場企業及び会社法上の大会社等公認会計士監査が義務付けられている会社等では強制適用となりますが、中小企業では実現主義により収益認識を行うことも可能です。

売上高と売上収益の違い

収益に関しては、日本基準では売上高、IFRSでは売上収益が用いられます。売上高は、収入の総額を示す金額です。

一方、IFRSの売上収益は総額ではなく、販売促進費などを値引きとみなして、売上から控除して売上収益とする点が異なります。

IFRS第15号の収益認識の5ステップ

IFRS第15号では、収益認識を以下の5ステップに分けて行います。

  1. 顧客との契約を識別する
  2. 契約における履行義務を識別する
  3. 取引価格を算定する
  4. 取引価格を契約の履行義務に配分する
  5. 履行義務の充足時に収益を認識する

ステップ1 顧客との契約を識別する

IFRS15号の収益認識は、一定の契約に該当しない場合は適用されません。一定の契約とは、法的に強制可能で、かつ、下記のすべての要件を満たす契約です。契約の形態は問われず、強制可能性があれば、口頭による契約なども含まれます。

  • 当事者が契約してそれぞれの義務を確約している契約
  • 権利や支払条件を識別できる契約
  • 対価の回収可能性が高い契約
  • 経済的実質がある契約

また、契約については、複数の契約が結合して行われることがあります。IFRS15号に規定する契約に該当する場合は、結合した契約を単一のものとして識別するかどうかの判断も必要です。識別対象になるのは、同一時期に同一の顧客と締結した複数の契約です。以下の要件を満たさない場合は単一の契約として扱い、いずれか1つ以上満たす場合は契約を結合して1つの契約として認識します。

  • パッケージとして交渉されている契約である
  • 対価の金額が他の結合する契約に左右されるものである
  • 単一の履行義務である

ステップ2 契約における履行義務を識別する

契約を認識した後は、履行義務を認識します。履行義務とは、契約により顧客に財またはサービスを提供する約束のことです。IFRS15号の収益認識では、履行義務の充足を認識の基準としています。履行義務をもって会計単位とするため、契約ごとの識別が必要です。

履行義務は、以下のいずれかに該当する場合に識別します。

  • 別個の財またはサービス
  • 一連の別個の財またはサービス(メンテナンスサービスなどが該当)

つまり、履行義務は、提供する財やサービスごとに識別することになります。

ステップ3 取引価格を算定する

IFRS第15号の収益認識に関わる取引対価とは、企業が財またはサービスと引き換えに権利を得られると見込まれる対価の額から、第三者のために回収した金額を控除した金額です。第三者のために回収した金額とは、売上税の一部などです。なお、取引価格の算定時には、以下の4つの要因の検討を要します。

  • 変動対価
  • 重大な金融要素
  • 現金以外の対価
  • 顧客に支払われる対価

変動対価とは、リベートや返品権などを含めた、変動する可能がある対価のことです。発生の可能性が高く、重大な収益の戻し入れが生じない可能性が高いと認められる場合は、変動対価の額を取引対価に含める必要があります。

重大な金融要素とは、合意した支払時期により生じる対価の額と販売価格との差額のことです。当事者の信用特性を考慮して割引率を算定し、対価の金額を調整することが求められます。ただし、支払時期と移転時期との期間が1年以内の場合、金額の調整は要求されていません。

現金以外を対価として受け取る場合は、適切な価値の測定が必要です。IFRS第15号では、現金以外の対価を公正価値で測定します。合理的な見積もりが難しい場合は、独立販売価格を参考に取引対価を算定します。

顧客に支払われる対価とは、クーポンを含む対価のことです。対象となる対価が区別できない財またはサービスの場合、あるいは公正価値を合理的に見積もれない場合は、取引対価の減額として認識します。公正価値を合理的に見積もれる場合は、超過する部分について取引価格の減額として認識します。

ステップ4 取引価格を契約の履行義務に配分する

当事者間の取引価格を算定した後は、履行義務ごとに取引価格を配分します。原則として、取引価格の配分は、独立販売価格の比率により行われます。

独立販売価格とは、顧客に対して財やサービスを販売する場合の金額のことです。個別に販売している財やサービスについてはその価格を認識します。直接的に取引価格を観察できない場合は、取引価格の総額から観察可能な独立販売価格の合計額を控除して見積もる「残余アプローチ」などの方法を使って独立販売価格を求めます。

個別の財やサービスの独立販売価格を算定した後は、取引価格に対する独立販売価格の比率の計算が必要です。比率に基づき、取引価格を履行義務に応じて配分します。なお、取引価格の配分にあたっては、値引きや変動対価の考慮が必要です。

ステップ5 履行義務の充足時に(または充足するにつれて)収益を認識する

履行義務に配分した取引価格については、履行義務の充足に従い収益を認識します。履行義務の充足とは、財またはサービスの支配が顧客に移転することです。

履行義務の充足は、一定期間にわたる充足と一時点における充足に分けられます。一定期間にわたる履行義務の充足に該当するのは、反復して提供されるサービスや顧客の注文による資産の建設などです。一定期間にわたる充足については、アウトプット法またはインプット法により進捗度を測定し、進捗に応じて収益を認識します。

一時点における充足とは、顧客に支配が移転した時点で収益をすべて認識することです。支配がいつ移転したかどうかは、IFRS第15号の以下の指標を考慮して認識します。

  • 顧客が物理的に占有していること
  • 顧客が法的所有権を有していること
  • 顧客が資産に関する便益とリスクの両方を有していること
  • 顧客が支払いを行う義務を負うこと
  • 顧客が資産を検収したこと

IFRSの収益認識基準に対応する方法

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」が公表されたことで、IFRSの収益認識の基準との差異はほとんどなくなりました。つまり、IFRSの収益認識の基準を適用するということは、日本の収益認識に関する会計基準に対応することになります。

なお、収益認識に関する会計基準は、上場企業及び会社法上の大会社等公認会計士監査が義務付けられている会社等では強制適用となりますが、中小企業では強制とはなっていません。中小企業では、企業会計原則による従来の収益認識が認められています。

従来の会計処理からIFRSの収益認識基準に対応するには、履行義務の充足を重視した収益認識のステップの理解が必要です。これにより、会計処理や業務フローの見直しが必要になります。場合によっては、利用している会計システムなどの見直しも検討事項となるでしょう。

IFRSの収益認識基準に対応するときの注意点

従来の会計処理からIFRSの収益認識基準を適用する場合は、収益認識の時期に注意が必要です。IFRSの収益認識基準では、収益の認識時期は履行義務の充足が行われたときとされています。履行義務の充足とは、財やサービスの支配が顧客に移転したときです。

特に、実現主義により出荷ベースで収益を認識していた場合は注意しましょう。出荷段階では財やサービスの支配が移転したことにはならないため、大幅な業務フローの見直しが必要です。

また、IFRSの収益認識基準では、基礎となる取引価格の算定において、変動価格や顧客に支払われる対価などを考慮することが求められます。クーポンやポイントを発行する場合は取引価格からの減額が必要になることもあるため、金額の算定に注意しましょう。

IFRSに費用認識に関する基準はある?

費用認識については、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」のように、大項目としての規定はありません。ただし、研究開発費やのれんの償却など、費用認識の有無について個別に会計処理が定められているものもあります。

IFRSの収益認識基準で重要なのは履行義務の充足

IFRSの収益認識基準で重要なポイントとなるのが、履行義務の充足です。日本基準については、収益認識に関する会計基準が公表される以前は、企業会計原則における実現主義で会計処理が行われていました。収益認識に関する会計基準は、IFRSの収益認識基準に沿った内容となっているため、履行義務の充足を収益の認識のポイントとする部分などは共通しています。


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