- 作成日 : 2025年3月28日
IFRSにおける持分法とは?適用範囲や日本基準との会計処理の違いを解説
IFRSにおける持分法とは、関連会社やジョイントベンチャーに関する投資の会計処理のことをいいます。日本基準にも持分法は存在しますが、適用範囲などがIFRSとは異なるため、注意が必要です。本記事では、IFRSと日本基準の持分法の違いや会計処理などを解説します。
目次
IFRSにおける持分法とは
IFRSにおける持分法とは、投資を最初に取得原価により認識し、投資者の持分(投資先の純資産に対するもの)の変動に合わせて帳簿価額を修正する方法です。これは、IFRSの前身であるIAS第28項第3項において定義されています。
IFRSと日本基準の持分法の違い
持分法は、連結決算に関連するものです。関連会社などに関して、親会社に帰属する部分のみ連結させる方法のことをいいます。ここでは、IFRSと日本基準の持分法の違いについて解説します。
適用範囲の違い
IFRSと日本基準では、持分法が適用される範囲が異なります。日本基準において持分法が適用されるのは、非連結子会社と関連会社です。非連結子会社とは、子会社ではあるもののグループ全体での影響力が低いなどの理由から連結対象から外されている会社のことです。
関連会社は、子会社以外で事業の方針などに重大な影響を与える会社のことです。日本基準では、関連会社について細かな規定があり、以下のいずれかに該当する場合(子会社を除く)は関連会社とします。
- 議決権の100の20以上を所有している
- 議決権の100分の15以上20未満の所有で一定の要件に該当する
- 自己が所有する議決権と緊密な関係の者などが所有する議決権が合わせて100分の20以上で一定の要件に該当する
IFRSでは、関連会社とジョイントベンチャーへの投資に対して持分法が適用されます。
投資損益の表示の違い
持分法の投資損益とは、持分の変動によって生じた損益のことです。日本基準とIFRSでは、投資損益の表示が異なります。
日本基準において、投資損益が表示されるのは、営業外収益または営業外費用の区分です。投資損益を一括して表示することが求められます。
IFRSでは、営業外収益や営業外費用などの区分はありません。投資損益は、損益計算書(包括利益計算書)に独立した項目として表示することが求められます。
なお、IFRSの投資損益の表示については、IFRS第18号が公表されたことに伴ない変更が生じることになりました。2027年1月1日以降に開始する事業年度においては、IFRSを適用する場合、新たに設けられた「営業」、「投資」、「財務」の区分のうち、「投資」区分への投資損益の表示が求められます。
IFRSにおける持分法の適用範囲
IFRSの持分法の適用範囲である、関連会社とジョイントベンチャーについて解説します。
関連会社
IFRSでは、金融投資に関して、子会社、共同支配事業、共同支配企業、関連会社、金融資産に分けて会計処理を行う必要があります。IFRSに規定されている関連会社とは、共同で支配していない投資先のうち、重大な影響力を有する投資先です。ただし、子会社を除きます。
投資先に対して、直接または間接的に議決権の20%以上を保有する場合、原則的に重大な影響力を有していると推定されます。ただし、議決権の保有が20%未満であった場合でも、経営機関に参加しているなど重要な影響力の存在を証明できる場合は例外です。重大な影響力があると推定して関連会社と認識することもあります。
ジョイントベンチャー
企業を共同で支配する場合、IFRSでは共同支配事業(ジョイントオペレーション)と共同支配企業(ジョイントベンチャー)に分類する必要があります。持分法の適用対象になるのは、ジョイントベンチャーです。
ジョイントベンチャーは、純資産に対する権利有する取り決めによるものです。一方、ジョイントオペレーションは、資産に対する権利と負債に対する義務を有する取り決めをいいます。
IFRSにおける持分法の会計処理
関連会社とジョイントベンチャーの持分法の会計処理は同じです。
まず、関連会社やジョイントベンチャーに対して投資を行なった時点で、投資額を取得価額として貸借対照表(財務状態計算書)に表示します。
さらに、毎期、持分法による損益の認識が必要です。投資先である関連会社やジョイントベンチャーの当期包括利益については、持分に応じて損益を認識します。当期包括利益がプラスのときは、投資損益として利益を認識し、帳簿価額を増額します。投資先から配当金の支給があったときは逆の会計処理が必要です。投資先の配当金総額のうち持分を投資損益として損失を認識し、帳簿価額を減額します。
IFRSにおける持分法の投資損益の表示
IFRSによる持分法を適用する場合、損益計算書(包括利益計算書)、貸借対照表(財政状態計算書)のいずれにおいても、関連する項目が表示されることになります。
損益計算書での表示
IFRSを適用した損益計算書(包括利益計算書)では、「持分法による投資損益」として、対象の事業年度の損益の額が表示されます。ただし、IFRSでは日本基準のように投資損益をどこに表示するかの規定がなかったため、企業によって表示する場所にばらつきがあるという問題が生じていました。
先述したように、IFRS第18号で、営業・投資・財務の3つの区分が追加されたことで、表示場所が指定されることになります。IFRS第18号適用後は、投資区分に「持分法による投資損益」を表示します。
貸借対照表での表示
IFRSでは、持分法が適用される関連会社やジョイントベンチャーへの投資額は、貸借対照表(財政状態計算書)の非流動資産に分類します。「持分法投資」として、取得価額にこれまでの変動額が反映された金額が表示されます。
IFRSの持分法を適用するときの注意点
持分法適用後の関連会社やジョイントベンチャーの純損益は、親会社の損益として認識します。ただし、営業利益や営業損失として認識しない点に注意が必要です。親会社の損益として認識するものの、あくまでも投資で得た損益として考えるためです。
IFRSでは、これまで投資損益の表示場所の規定はありませんでしたが、IFRS第18号の適用により、投資区分に持分法による投資損益を表示することになります。
IFRSの持分法は日本基準と適用範囲などに違いがある
持分法は、日本では、連結決算に関わる非連結子会社や関連会社の会計処理方法として用いられます。IFRSでは、持分法の対象範囲が関連会社とジョイントベンチャーになっており、対象範囲が異なります。
また、財務諸表の表示も日本基準とIFRSでは異なるため、IFRSを適用する際は注意が必要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
創業期の事業を「早く」「大きく」する『財務』のチカラ 6.資金調達力の育て方
起業家は、「財務」を知ることで、もっと事業を発展させることができます。この連載では、起業家が創業からもつべき「財務」の視点・考え方について、シリーズでお伝えしていきます。 第4回、第5回で、事業投資の大切さ、事業投資をすることで事業が「早く…
詳しくみる会計ソフトのセキュリティが心配…クラウド型とインストール型の安全性を徹底解説!
ほとんどの企業では、利便性の高さなどから会計ソフトを導入していることと思います。これまでは、パソコンにインストールして使用するインストール型、あるいは表計算ソフト(Excel)を使った会計管理が主流でした。しかし、クラウド型に移行する企業も…
詳しくみる持ち帰りとイートインスペース利用、軽減税率の適用基準や罰則は?
2019年10月、消費税が10%に上がるにともない、生活に密接にかかわる飲食物については、そのほとんどが現行の消費税のまま8%に据え置かれる、軽減税率の措置が取られることが決まっています。 しかし、同じ飲食物でもすべてが対象になる訳ではあり…
詳しくみる単利・複利とは?計算式は?合計積立金額をシミュレーションしよう
金融商品には、単利で計算するものと複利で計算するものがあります。どちらで計算するかによって、殖えるお金も異なるため、単利と複利の計算式の違いを理解しておくことが大切です。 本記事では、単利と複利の計算式とはどのようなものなのかを紹介します。…
詳しくみる会計ソフトのランニングコストはどんなものがある?削減するには?
個人・法人を問わず、経営を行っていく上で決して無視できないのが、帳簿や会計の存在です。昨今では情報データの多さやその利便性から会計ソフトを使用して会計処理を行うことが当たり前になっています。 ゆえに会計ソフトのランニングコストは、経営上軽視…
詳しくみるクラウドが描く未来。東欧の小国エストニアから税理士が消えたわけ
確定申告のシーズンを終え、多くの人が会計の世界に触れ、改めて、確定申告は面倒だと感じた方も多いのではないでしょうか。実は、世界には確定申告をする必要がない国があります。 もちろん、政府が機能していないわけではありません。ヨーロッパの東欧、バ…
詳しくみる