• 作成日 : 2025年3月28日

IFRS第9号「金融商品」とは?分類・測定方法や日本基準との違いも解説

海外企業と取引する場合、国際会計基準IFRS(International Financial Reporting Standards)」適用が必須になっている場合が多いため、日本でも導入企業が増えつつあります。

今回は、金融商品の扱いについて規定された「IFRS第9号」について解説します。これからIFRS導入を検討している企業の方、IFRSについて理解を深めたい方はぜひ参考にしてください。

IFRS第9号「金融商品」とは

IFRS第9号「金融商品」では、金融商品の扱いについて規定されています。

IFRS第9号の目的

IFRS第9号の主な目的は、企業が保有する金融資産を会計処理する際に明確化することです。

IFRS第9号の適用範囲

IFRS第9号の適用範囲は、以前適用されていた「IAS第39号」と同じ範囲です。

IFRS第9号の適用時期

現行の「IFRS第9号」は2018年1月1日以降に開始した事業年度から適用されています。

ただし、2024年5月に国際会計基準審議会はIFRS第9号及び第7号について「金融商品の分類及び測定に関する基準の改訂」を公表しており、2026年1月1日以降開始する事業年度からは改訂分が適用となる予定です。

IFRS第9号の主な内容

IFRS第9号の主な内容をご紹介します。

金融商品の分類・測定方法

IFRS第9号では、売掛金、預金、有価証券、デリバティブなどが金融資産の定義を満たすのであれば、全て「償却原価」「FVOCI」「FVTPL」のいずれかに分類する必要があります。

また、全ての金融資産は分類結果により「公正価値」もしくは「償却価値」で測定されます。具体例は以下の表でご確認ください。

  • 償却原価
    実効金利法による償却原価で測定
  • FVOCI
    実効金利法による償却原価で測定、かつ公正価値で測定
  • FVTPL
    公正価値で測定し、評価差額は純利益となる
  • FVOCI(株式等)
    公正価値で測定し、評価差額はその他の包括利益となる

予想信用損失モデル

IFRSでは、信用リスクに応じて金融資産を「予想信用損失モデル」という3つのステージに分類します。さらにステージに応じて減損損失の見積もりをします。ステージごとの認識については以下をご覧ください。

  • ステージ1
    当初認識
  • ステージ2
    ステージ1よりも減損損失額が増加した状態信用格下げなど、著しい信用の悪化が認められる
  • ステージ3
    ステージ2よりも減損損失額が増加した状態債務不履行など、信用毀損の証拠が発生する

ヘッジ会計の変更

IFRS第9号では、ヘッジ会計について次のように適格要件を設けています。

  • ヘッジ手段やヘッジ対象が基準の要請に照らし合わせて適格である
  • ヘッジ関連が有効性の要件を満たしている
  • ヘッジ関連やヘッジの実行に関して、開始時点でリスク管理や戦略について公式な指定と文書化が行われている

IFRS第9号と日本基準の違い

IFRS第9号と日本の会計基準の違いを確認しましょう。

貸倒引当金の計上方法の違い

貸倒引当金の処理の違いは、以下の通りです。

  • IFRS第9号
    予想信用損失から損失を測定する予想損失モデルを適用し、貸倒引当金を計上する
  • 日本基準
    過去の貸倒実績率から算出された貸倒引当金を計上する

金融資産の減損判定の違い

金融資産の減損判定にも違いがあります。

  • IFRS第9号
    • 取得原価で計上されている資産についての減損損失は「損失」と判定される
    • 再評価モデルで計上されている資産についての減損損失は「再評価の減損」となる
  • 日本基準
    • 減損損失=損失と判定される
    • 再評価モデルの判定はなし

利益の計算方法の違い

利益の計算方法の違いもあります。

  • IFRS第9号
    資産から負債を引いて算出される純資産の増加額が利益となるという「資産負債アプローチ」を採用
  • 日本基準
    純利益が増えれば純資産が増加するという「収益費用アプローチ」を採用

IFRS第9号を適用するときの注意点

日本の会計基準からIFRSに変更した場合、金融資産の分類や今までとは異なる方法での貸倒引当金の算出など多くの作業が生じます。また、新たな規定の策定作業も必要になるでしょう。

導入当初は会計に携わる従業員や経営陣の負担が大幅に増える可能性があるため要注意です。

IFRS第9号の原文・日本語訳の入手方法

IFRS第9号を含めたIFRS基準書の原文は、以下の方法で入手できます。

日本語訳も、国際会計基準審議会のWebサイトか書籍(中央経済社発行)にて入手可能です。

グローバルな事業を展開するなら、IFRS第9号を理解しましょう

以前は日本独自の会計基準に則った会計処理が主流でしたが、海外との取引が盛んになるにつれ、国際基準であるIFRSを導入する企業も増えています。

グローバルに事業展開する企業が多くなった現在、IFRSを理解しておくことは非常に重要です。特にIFRS第9号の「金融商品」では、企業が保有する金融資産の分類について規定されているため、バランスシートや損益計算書の内容に大きく影響する可能性があります。

企業会計を深く理解するためにも、改めてIFRS第9号について学んでおきましょう。


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