- 作成日 : 2025年3月3日
無税償却とは?有税償却との違いや種類、要件、メリット、活用事例を解説
無税償却とは回収できなくなった金銭債権を、税金がかからない形で処理する手続きのことです。税務上は損金として扱え、課税対象となる所得から不良債権を差し引けます。
本記事では、無税償却の概要や無税償却の種類、無税償却の要件などについて解説します。無税償却のメリット・デメリットも紹介するので、参考にしてください。
目次
無税償却とは
まずは無税償却の概要について解説します。無税償却とは、取引先が経営不振などに陥ることで回収不能になった金銭債権(いわゆる不良債権)に対して、税負担のない形で処理する方法のことです。
金銭債権に該当する勘定科目には、次のようなものがあります。
景気低迷の影響で取引先・融資先の経営状況が悪化して、債権に損失が発生するおそれがあります。通常、債権の見込み損失金額を計上する際は損金算入できないため、余分に税金を支払わなければなりません。
しかし、一定条件を満たすことで、例外的に不良債権を無税償却できるルールが定められています。それにより、無税償却では不良債権を会計上損失として計上します。また、税務上損金として扱うことにより、課税対象となる所得から不良債権を差し引けるようになる点もメリットです。
無税償却と有税償却の違い
不良債権の処理方法は、大きく分けて次の2つです。
- 無税償却
- 有税償却
有税償却とは、会計上は不良債権を損失として処理するものの、税務上は損金と認められない処理方法のことです。有税償却では、不良債権は課税対象になります。
有税償却においては、法人税の課税における所得計算結果に影響が及ぶという点には注意が必要です。損金不算入の金額が大きくなればなるほど、法人税の課税対象額も大きくなるため、税額も高くなってしまいます。
つまり、無税償却と有税償却の違いは、税金がかかるか、かからないかにあります。会計上損失とするのは両者共通で、税務上損金となるのが無税償却、損金にならないのが有税償却という仕組みです。
また、それぞれの目的も異なります。
無税償却と減価償却の違い
減価償却についても、有税償却や無税償却という単語を使用することがあります。しかし、無税償却というのは一般的には減価償却のことをいうのではなく、売掛金や貸付金などの債権を償却することを指します。これらを混同しないよう、注意しましょう。
減価償却について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご参照ください。
無税償却の種類
無税償却の種類は、直接償却と間接償却の2つがあります。
直接償却
直接償却とは、不良債権全額を貸借対照表から消去し、税務上損金として扱う処理方法のことです。貸借対照表から不良債権が消えることで財務状況の改善が見込まれるため、総資産利益率の向上などが期待できます。ただし、直接償却が認められる要件は厳しいため、注意が必要です。
また、直接償却の方法には、次の3つがあります。
- 私的整理:債権者が無償で債権放棄する行為。
- 法的整理:裁判所管轄のもと実行する倒産手続きで、民事再生や破産などが該当する
- 債権売却:不良債権を売却する行為
間接償却
間接償却とは、貸借対照表に不良債権を残しつつ、税務上は損金として処理する手続きのことです。間接償却は、融資先の経営状態が悪化した段階で実施されるのが特徴です。不良債権を貸倒引当金として計上し、経営破綻した時点で取り崩します。
無税償却の要件
無税償却の要件は、次のとおりです。
直接償却の要件
直接償却を実行できる要件は、大きく分けて3つあります。
- 会社更生法や民事再生法に基づく法的整理が実施された場合
- 債務の支払い能力がないことが明確である場合
- 債権の完全な返済が不可能な場合
会社更生法や民事再生法に基づく法的整理が実施された場合
直接償却できる要件のひとつが、会社更生法や民事再生法に基づく法的整理が実施された場合です。法的整理が認可されると、再生計画等で切り捨てられる債権金額が直接償却可能な対象となります。
また、書面で債務免除決定がなされた場合や、債権者・行政や金融機関などの第三者のいずれかによる協議決定がなされた場合も、直接償却の対象です。
なお、書面の場合は債務超過が相当期間(一般には3年以上)継続し、弁済不能と認められる場合に限ります。協議決定は合理的基準であることが必要です。
債務の支払い能力がないことが明確である場合
債務の支払い能力がないことが明確である場合も直接償却できる要件として該当します。いわゆる事実上の貸倒れの状態を指します。
このとき適用されるのは、全額回収不能と認められる場合のみです。
債権の完全な返済が不可能な場合
直接償却を実行できる要件として、債権の完全な返済が不可能な場合があります。具体的には、債務者が明らかに債務超過に陥っており、度重なる催促を行っても支払いをしない場合や、債務者と1年以上にわたって取引停止している場合です。
書面で債務者へ債務免除通知を行えば、直接償却が認められます。
間接償却の要件
間接償却の要件は、次のとおりです。
- 合理的基準を満たすと認められる場合
- 破産手続き開始の申立てなどが行われた場合
- 回収見通しが絶望的な場合
合理的基準を満たすと認められる場合
間接償却の要件として、合理的基準を満たすと認められる場合が挙げられます。合理的基準とは、民事再生や会社更生、特別清算の認可決定のほか、私的整理による協議決定がされた場合などです。
この場合、5年以内(翌事業年度の開始日から5年以内)で弁済可能な予定額を除いた額が対象となります。
破産手続き開始の申立てなどが行われた場合
破産・特別清算・会社更生・民事再生の申立てが行われた時点でも、間接償却可能です。また、電子交換所や電子債権記録機関による取引停止処分が実行された際も、間接償却の対象となります。
この場合の損金算入限度額は、対象債権金額の50%です。
回収見通しが絶望的な場合
回収見通しが絶望的な場合も、間接償却の要件として認められます。ただし、無税償却として認められるのは、回収不能と判断された金額だけです。債権全額ではないため、注意しましょう。
無税償却のメリット
無税償却のメリットは、無税償却が認められれば税負担軽減につながる点が挙げられます。無税償却では不良債権を会計上損失として計上し、税務上は損金として扱えるため、課税対象から不良債権を差し引けます。
通常不良債権は、損金にできないものです。そのため無税償却は、税金面で有利であるといえるでしょう。
無税償却のデメリット
メリットである税金面で有利な点の裏返しとして、無税償却は脱税行為に利用される恐れがあります。それを防ぐための要件が詳細に定められている点が、無税償却のデメリットです。
また、会計上費用として計上した貸倒損失を税務上損金算入できない場合は、有税償却となるため課税所得額を減らす効果は生じません。つまり、有税償却となると利益が減少した部分の法人税も支払っていることになります。
しかし、有税償却した金額分を繰延税金資産として計上できれば、法人税の先払いとも捉えられるためマイナスばかりであるわけではないことは、あらかじめ理解しておきましょう。
無税償却を活用した事例
無税償却を活用した事例を2つ解説します。
- 三井住友銀行
- 中国銀行
それぞれ詳しく見ていきましょう。
三井住友銀行
三井住友銀行では、2004年度に将来リスクへの対応策として、貸倒引当金の積み増しを含めた「バランスシートのクリーンアップの総仕上げ」を実施しました。
それにより、6,036億円を部分直接償却でき、金融再生法に基づく不良債権残高は 9,601億円、不良債権比率は 1.7%となりました。
中国銀行
中国銀行では、不良債権への対応としてリスク管理債権額に対して再生支援活動を通じたランクアップや直接償却ならびに債権売却によるオフバランス化の実施などによって、2019年3月末残高は688億円(前期比23億円減少)になったと発表しました。
この結果、貸出金残高に占める比率は、前期比0.1ポイント低下し2019年3月末で1.4%になっています。
無税償却を活用するポイント
無税償却を活用する主なポイントは、次の2つです。
- サービサーへの債権売却を活用する
- 専門家に相談を依頼する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
サービサーへの債権売却を活用する
無税償却を活用するには、サービサー(債権回収会社)への債権売却も検討しましょう。サービサーとは、法務大臣の許可を得て債権管理回収を実施している専門会社のことです。銀行などの貸付債権以外にも、ファクタリング業者の金銭債権やクレジット債権なども回収対象となっています。
以前は、弁護士のみに許された業務でした。しかし、「債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)」の施行により、許可を得た民間業者でも業務が可能になっています。
サービサーに不良債権を売却すれば、売却価格と簿価の差額分を売却損として損金計上できます。不良債権を売却で放棄しつつ、売却損の金額だけ利益を圧縮できるというわけです。
専門家に相談を依頼する
無税償却を活用する際には、専門家への相談も検討しましょう。無税償却は、回収が見込めない不良債権がある場合に有用な手段です。
しかし、税金面とのバランスを取る必要があります。厳格な要件が定められているため、実行可能な場面は限られているのが現状です。無税償却の実施を検討するのであれば、専門家に相談してすすめていくことをおすすめします。
無税償却を実施する場合には専門家への依頼がおすすめ
無税償却とは、回収不能になった金銭債権を税負担のない形で処理する方法のことです。同じく不良債権を処理する方法として、有税償却もあります。無税償却と有税償却の違いは、税金の有無と目的などです。
また、無税償却には直接償却と間接償却の2種類が存在し、それぞれで実行できる要件が定められています。実行要件も厳格に決められているため、もし無税償却を活用しようとしている場合には、専門家への依頼がおすすめです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
【新リース会計基準】無形固定資産やソフトウェア、クラウドへの影響・実務対応は?
「新リース会計基準」が公表され、2027年4月1日以後に開始する事業年度からは、一部の企業に対して強制適用されることとなりました。 新リース会計基準では、従来の会計基準からリースの定義が見直され、リースの範囲が大きく拡大することが想定されま…
詳しくみる少額減価償却資産とは?特例の対象についても解説
時間の経過とともに価値が減少する資産を、税法上「減価償却資産」といいます。 減価償却資産に該当する資産は、原則として減価償却(一時に費用とするのではなく耐用年数に応じて費用に計上すること)が必要です。ただし、取得価額の低い少額資産は会計処理…
詳しくみる資産除去債務と減損会計について分かりやすく解説!
固定資産に関する将来の除去債務を表す資産除去債務と、固定資産の価値下落を反映するための減損会計には密接な関係があります。 除去費用は、資産除去債務の計上根拠となるだけでなく、減損会計でも考慮しなければならないため、慎重な対応が求められます。…
詳しくみる中古住宅の減価償却を解説!耐用年数や計算方法は?
固定資産を取得する際は、減価償却を理解することが大切です。不動産を事業用に利用したり、建物を売却したりする際は、正しい減価償却計算のもと会計処理や税金の計算を行います。本記事では、中古の建物の減価償却方法について、耐用年数や計算方法、耐用年…
詳しくみる法人と個人事業主で減価償却の方法は異なる?計算方法などを紹介
一般的に法人の減価償却費の計算方法は定率法、個人事業主は定額法とされていますが、資産の種類によって変わるため注意が必要です。減価償却における法人と個人事業主の違いについて、計算方法と申請方法、任意性の3つのポイントに分けて説明します。 法人…
詳しくみるバイクの減価償却まとめ – 中古車の耐用年数は新車と異なる
業務にバイクが必要なときは、バイクを購入した費用を経費として計上することが可能です。10万円未満であれば消耗品費の勘定科目を用いて仕訳します。10万円以上のときは資産となるため耐用年数で減価償却することが基本です。 また、青色申告している個…
詳しくみる会計の注目テーマ
- 勘定科目 消耗品費
- 国際会計基準(IFRS)
- 会計帳簿
- キャッシュフロー計算書
- 予実管理
- 損益計算書
- 減価償却
- 総勘定元帳
- 資金繰り表
- 連結決算
- 支払調書
- 経理
- 会計ソフト
- 貸借対照表
- 外注費
- 法人の節税
- 手形
- 損金
- 決算書
- 勘定科目 福利厚生
- 法人税申告書
- 財務諸表
- 勘定科目 修繕費
- 一括償却資産
- 勘定科目 地代家賃
- 原価計算
- 税理士
- 簡易課税
- 税務調査
- 売掛金
- 電子帳簿保存法
- 勘定科目
- 勘定科目 固定資産
- 勘定科目 交際費
- 勘定科目 税務
- 勘定科目 流動資産
- 勘定科目 業種別
- 勘定科目 収益
- 勘定科目 車両費
- 簿記
- 勘定科目 水道光熱費
- 資産除去債務
- 圧縮記帳
- 利益
- 前受金
- 固定資産
- 勘定科目 営業外収益
- 月次決算
- 勘定科目 広告宣伝費
- 益金
- 資産
- 勘定科目 人件費
- 予算管理
- 小口現金
- 資金繰り
- 会計システム
- 決算
- 未払金
- 労働分配率
- 飲食店
- 売上台帳
- 勘定科目 前払い
- 収支報告書
- 勘定科目 荷造運賃
- 勘定科目 支払手数料
- 消費税
- 借地権
- 中小企業
- 勘定科目 被服費
- 仕訳
- 会計の基本
- 勘定科目 仕入れ
- 経費精算
- 交通費
- 勘定科目 旅費交通費
- 電子取引
- 勘定科目 通信費
- 法人税
- 請求管理
- 勘定科目 諸会費
- 入金
- 消込
- 債権管理
- スキャナ保存
- 電子記録債権
- 入出金管理
- 与信管理
- 請求代行
- 財務会計
- オペレーティングリース
- 新リース会計
- 購買申請
- ファクタリング
- 償却資産
- リース取引