- 更新日 : 2024年8月8日
将来キャッシュフローとは?計算方法と現在価値との違い
将来キャッシュフローとは、ある企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの総額です。企業価値を算定する際に用いられます。将来キャッシュフローを現在価値に割り引いたものが、その企業の現在の事業価値と評価できるのです。この記事では将来キャッシュフローの意味や計算方法、現在価値との違いについて解説します。
目次
将来キャッシュフローとは
将来キャッシュフローとは、ある企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの総額です。企業価値を算定するために用いられます。
企業価値の算定にはいくつもの考え方がありますが、一つの考え方として、事業価値と非事業資産(金融資産など)の合計額とするものがあります。
この事業価値を算出する際に、将来キャッシュフローが用いられるのです。
具体的には、事業価値は以下のステップを経て算出されます。
- 将来キャッシュフローを予測する
- 各年度の将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて合算する
将来価値と現在価値の違い
上述のとおり事業価値の算出にあたっては、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて用います。将来価値と現在価値はどのように違うのでしょうか?
たとえば、現在手もとに100万円があるとして、この100万円の価値が1年後の将来にいくらになるかを考えてみましょう。確定的な金利が年間10%であったとすると、100万円を預ければ1年後には、
で計算されるとおり、110万円になります。すなわち、金利が10%の場合には、100万円の1年後の将来価値は110万円になるのです。
それとは逆に、1年後の110万円は、金利が同様の場合には、
となり、100万円の現在価値に割り引けることになります。ただし、将来価値を現在価値に割り引く際には、金利ではなく「割引率」の用語を使います。
3年後の500万円の現在価値は、割引率が10%なら、
500万円 ÷(1+0.1)÷(1+0.1)÷(1+0.1)
=500万円 ÷ (1+0.1)^3
(※ ここで「^3」は「3乗」、一般に「^n」は「n乗」のこと)
で、約376万円になるのです。
なお、割引率は、企業価値を評価する人が期待するリターンの比率を使用するのが本来のやり方です。ただし、実務的には、以下の方法が用いられることもあります。
- 任意の一定の比率(10%など)を設定
- 株式市場のデータを利用して設定
さらには、株式市場などでは現れないリスクを考慮し、より保守的に設定される場合もあります。
将来キャッシュフローの現在価値の計算方法
将来キャッシュフローの現在価値の実際の計算方法を、前述の2つのステップに沿って見ていきましょう。
1. 将来キャッシュフローを予測する
将来キャッシュフローの予測に際しては、まず企業の事業計画を反映させた予想貸借対照表・予想損益計算書を作成します。予想貸借対照表・予想損益計算書は夢物語では信頼性に乏しいため、説得力のあるものを作らなければなりません。
そのうえで、借入などの財務活動で得られる現金収入を含まない、純粋に事業だけで得られるキャッシュフローである「フリーキャッシュフロー(FCF)」を、以下のように計算します。
ここで、式の各項の意味は以下のとおりです。
- 営業利益×(1-税率)
本業から得られた利益である営業利益から、税金分を差し引いた金額。 - +減価償却費
減価償却費は営業利益に含まれますが、現金支出を伴わないため足し戻します。 - ±正味運転資本増加額
売掛金や買掛金は回収・支払に時間がかかるため、通常営業活動に投下される資金から、現金が必要になる部分を差し引いて「運転資本」を以下のように計算する。 - 運転資本=(売上債権+棚卸資産+その他流動資産)-(仕入債務+その他流動負債)
この運転資本の前年度からの増減。 - -設備投資額
固定資産への更新・新規の投資額を差し引く。
このFCFは、5年間、7年間、10年間などの期間にわたって年度ごとに計算し、それ以降は最終年度のFCFがそのまま続くとして計算します。
具体例
ここで例として、5年間の将来FCFが以下のようだったとしてみましょう。
年度 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 |
---|---|---|---|---|---|
FCF(百万円) | 100 | 100 | 100 | 150 | 150 |
割引率は10%とします。
また、6年後以降は、5年後と同じ150百万円がそのまま無限に続くと仮定します。このように同じ金額の将来価値が継続的に続く場合の「残存価値」は、以下のように計算されます。
(※ この計算方法は、無限等比級数の公式から出てくるものです)
これより、6年目以降の各年で150百万円が続く場合、割引率が10%なら、5年目の時点から見た残存価値は、
と計算されます。
2. 将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて合算する
次に、上で見た各年の将来キャッシュフロー(将来FCF)を、現在価値に割り引き、合算します。将来FCFの現在価値の、一般的な割引方法は以下のとおりです。
この式より、各年の将来FCFの現在価値と合計額は、以下のように計算されます。
年度 | 計算式 | 将来FCFの現在価値 |
---|---|---|
1年後 | = 100百万円 ÷(1+0.1)^1年後 | 約90百万円 |
2年後 | = 100百万円 ÷(1+0.1)^2年後 | 約83百万円 |
3年後 | = 100百万円 ÷(1+0.1)^3年後 | 約75百万円 |
4年後 | = 150百万円 ÷(1+0.1)^4年後 | 約103百万円 |
5年後 | = 1,650百万円 ÷(1+0.1)^5年後 | 約1,025百万円 |
合 計 | 約1,376百万円 |
6年目以降の残存価値1,500百万円は、5年目の時点から見たものなので、5年目の金額150百万円に加えてあります。各年度の将来FCFの現在価値を足し合わせた約1,376百万円が、この企業の現時点での事業価値であることになります。
将来キャッシュフローと事業価値の意味を理解しよう
ある企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの総額である将来キャッシュフローは、現在価値に割り引くことにより事業価値を算定できます。将来キャッシュフローと事業価値の意味を理解し、業務に活かしていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
決算書のエクセルでの作り方を解説!そのまま使えるテンプレートも紹介
決算書とは、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書のような一会計期間の会社の財政状態などがわかる書類のことです。決算関係の書類はエクセルでも作成できます。エクセルを利用して作成するメリットや作成方法について紹介します。 決算書とは …
詳しくみる収支報告書とは?収支報告書と決算報告書の違いや書き方を具体例別に紹介!
収支報告書とは、企業や団体などの組織や、飲み会や部活動などの集まりでの収支を記録した書類です。決算報告書よりも簡潔な内容とすることが多いですが、お金の出入りや運営状況の判断材料になるため、組織の外部・内部のどちらにとっても重要な情報源となり…
詳しくみる評価勘定とは?代表的な勘定科目の貸倒引当金や評価勘定法などをわかりやすく解説!
評価勘定とは、ある勘定科目を評価する目的で使用する勘定科目のことです。具体的に、どのような勘定科目を指すのでしょうか。この記事では、評価勘定の概要や評価勘定に含まれる代表的な科目、評価勘定のような特殊な勘定科目のグループについて、わかりやす…
詳しくみる決算調整とは?具体的な調整内容や申告調整との違いを解説
決算調整は、減価償却費の計上仕訳等を作成して当期の決算書を確定させる処理です。この記事では、決算業務における決算調整の概要や実際にどういった調整方法なのかを解説します。 本記事で、決算調整の具体的な調整内容や申告調整との違いについても確認し…
詳しくみる利益率とは?計算方法や目安、改善・分析のポイントを解説
売上高に対する利益の割合を利益率といいます。利益率は、売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率、売上高税引前当期純利益率、売上高当期純利益率の5種類に分類されます。会社がどれだけの利益を出しているのか、会社の収益性を知るための重要…
詳しくみる事業における収支計画書とは?テンプレをもとに書き方や記入例を解説
収支計算書とは、事業によって生じる収入と支出を算出し、どの程度の金額が手元に残るかを示す書類です。借入金も収入として考えるため、実際に使える金額を具体的に把握できます。 この記事では、収支計画書の書き方や作成する際に注意したいポイントをまと…
詳しくみる