- 更新日 : 2025年2月19日
特殊商品売買の基本と仕訳をわかりやすく解説
特殊商品売買とは、商品売買の中でも通常とは異なる販売、購入形態をとる売買をいいます。
「特殊な商品」の売買ではなく、商品販売形態、購入形態などが一般と異なるものです。
この記事では、特殊商品売買の種類や仕訳についての基本を解説します。
特殊商品売買については、平成28年より日商簿記2級の出題範囲外となったため、多くの人が見るのは簿記1級を勉強するときからになりました。
しかしながら、商品販売形態はますます複雑化の一途をたどっています。ここで各種特殊商品売買について、仕訳や勘定科目など基本的なことを理解し応用力を養っておきましょう。
特殊商品売買とは
商品販売は、一般にその商品の引き渡し時に売上を計上しますが、特殊商品売買はこの特例的な方法となります。
ここで紹介するのは、予約販売、未着品売買、委託販売、受託販売、割賦販売、試用販売
の6種類です。
これらのうち未着品売買、委託販売、試用販売においては、手許商品と特殊な形態をとる商品とを区別して仕訳します(これを「手許商品区分法」と言います。)したがって、通常の商品販売では使わなかった商品勘定科目が使用されます。
予約販売 | 商品の販売前に予約を取って、買主から予約金を受領します。(前受金) その後、商品を買主に引き渡す商品売買の形態をいいます。 |
未着品売買 | 商品を受け取る前に、運送業者などから商品の引換券のような役目を果たす「船荷証券」「貨物代表証券」などを受け取ります。 この証券等を受け取った場合に「未着品」として仕訳します。 |
委託販売 | 商品の生産者などが、商品の販売のみを他の業者に「委託」し、委託先の販売に応じて手数料を支払い、売上を計上する取引形態をいいます。 |
受託販売 | 上記の委託販売における受託者の立場で、受託者が委託者の商品を販売する形態をいいます。 |
割賦販売 | 商品の代金を複数回に分割して受領する販売形態です。 |
試用販売 | 先に、顧客に試しに商品を使ってもらい、商品を買い取るかどうかを決めてもらう販売形態です。 |
なお、令和3年4月から「収益認識に関する会計基準」が適用されましたが、中小企業における会計処理は、従来どおりの企業会計原則等による会計処理が認められています。
ここでは、中小企業に許容されている従来どおりの会計基準に則って説明することとします。
収益認識に関する会計基準を踏まえた会計処理については、別の機会に譲ります。
さらに割賦販売、委託販売、試用販売などでは従来会計処理が複数あるため、より複雑な方法もありますが、この記事では、ベーシックな仕訳が追えるようになることを目指します。
特殊商品売買の仕訳(中小企業対象)
特殊商品売買について、例を挙げながらそれぞれの特殊商品売買取引について説明します。個々の取引については、仕訳方法が複数存在するものもありますが、基本的な方法での例示となります。
なお、仕訳はすべて税込みで、一般の売上や仕入などは原則掛取引とし、単位は円とします。
予約販売
予約販売の例
- 商品Aの予約販売を行い、顧客から商品Aの代金5,000を現金で受け取った。
- 商品A(原価4,000)が届いた。
- 商品Aを顧客に引き渡した。
【仕訳】
【解説】
- 予約販売は先に現金を受領しますので、前受金勘定を使います。
予約販売の場合は、手許商品との区別などが発生しないため、特殊な勘定科目は使用しません。 - 仕入時は一般的な仕訳と変わりませんが、③の売上時にはすでに受領している前受金が消し込まれます。
未着品売買
未着品売買の例
① 商品B(原価6,000)を注文し、X商店から商品Bの船荷証券を受け取った。 ② 商品Bが到着したので船荷証券と引き換えに引き取り、その際、引取費用を1,000支払った。 ③ 商品B(売価8,000)を顧客に販売した。 | |
① 商品B(6,500)を注文し、Y商店から商品Bの船荷証券を受け取った。 ② 商品Bを船荷証券のまま、7,500で顧客に販売した。 |
【仕訳】
【解説】
「未着品」とは、まだ買手に到着していない商品のことをいいます。
「未着品」勘定が発生するのは、船荷証券(貨物引換証)を受領したときであり、「未着品」勘定が相殺されるのは、対象となる商品が届いたときか、船荷証券のまま販売したときです。
パターン1は、商品Bが届いてから顧客に販売するのに対し、パターン2は船荷証券のまま(商品Bの到着を待たずに)顧客に販売する取引となっています。船荷証券が手元にあるときは「未着品」勘定残高は残ります。
未着品を売り上げた場合、一般の売上と区別するため「未着品売上」を使いますが、補助科目などで区別しても問題ないかと思います。
パターン1では②の段階で、すでに商品到着により未着品ではなくなっているので、仕入の相手勘定となり、パターン2では②の段階で船荷証券が売れたので、未着品がなくなり仕入となります。
委託販売
委託販売の例
- 商品C(原価9,000)は委託販売のため、委託先に送付し発送料500を現金で支払った。
- 商品Cが販売され、委託先から売上計算書(売上高20,000、手数料1,500)が送付された。
【仕訳】(委託側の仕訳)
【解説】
- 手もとにある商品(委託品)を委託先に送付する際、仕入を「積送品」勘定に振替えます。
この例では、委託者が発送費用を負担していますが、取引によってさまざまです。 - 受託者が委託品を販売した日をもって売上の実現とし、売上を計上します。一般の売上と区別するために、「積送品売上」、「積送品売掛金」とします。この例の場合は、売上高の総額を計上していますが、手取り額(この場合は18,500)を売上の額とする「純額法」という方法もあります。
受託販売
受託販売の例
- 委託者より受託販売のため、商品C(原価9,000)が送られ、受け取った。
- 商品Cを現金20,000で販売した。
- 商品Cにつき、売上計算書(売上高20,000、手数料1,500)を委託元に送付した。
- 委託者に売上代金を支払った。
【仕訳】(受託側の仕訳)
【解説】
- 商品Cが届いた時点では、預りものが届いただけであり、仕訳は発生しません。商品Cの所有権はあくまで委託者であるからです。
- 委託された商品を売り上げた場合は、受
- 受取手数料が受託側の売上高を意味します。受託販売勘定は、委託者に対する債権及び債務を表したものです。
- 委託者に対して、預かっている残金を支払う場合には、残りの受託販売勘定と相殺します。
託側の売上にはなりません。現金を受領しても預り金と同じ意味になります。
割賦販売
割賦販売の例
割賦販売においては、販売基準や回収基準の他にも、回収基準到来基準などがあります。
なお、収益認識に関する会計基準において割賦基準は認められていません。
- 商品D(売価180,000)を12ヶ月の月賦にて販売した。
- 商品Dにおける第1回目の月賦金15,000を現金で受け取った。
【仕訳①】販売基準
【仕訳①解説】
- 販売時に売価全体の売上を計上します。割賦となる売掛金については、割賦売掛金の他、割賦未収金、割賦販売契約などの勘定科目を使うことがあります。
- 入金があった部分の割賦売掛金の消込をします。
【仕訳②】回収基準
【仕訳②解説】
- 販売時においては、割賦販売したことを覚えておくために対照勘定法*により、割賦仮売上を計上します。(仮売上は備忘記録であり、損益計算書の売上にはなりません)
- 回収があった時に売上を計上し、備忘記録である仮売上を取り崩していきます。
*対照勘定法 備忘記録のために賃借一対となる対照的な勘定を用いる会計処理方法のこと
試用販売
試用販売の例
- 商品E(原価2,000、売価3,500)につき試用販売を行い、顧客に送付した。
- 顧客より、商品Eを買い取るという通知を書面で受けた。
【仕訳】
【解説】
- 試用品となる商品を顧客に送付した場合は、仕入から試用品勘定に振替えます。
もし、顧客が買い取らず商品が戻ってきた場合には、①の逆仕訳をします。 - 顧客が買取の意思を示した場合には、試用品売上とし、同時に①の仕訳を振り戻します。
書面などで顧客の買取の意思を明確にすることが大切です。
特殊商品売買は、商品の流れを中心に考えよう
特殊商品売買のなかでは、予約販売が一番理解しやすいかと思います。一方で未着品売買、委託販売、試用販売については、それぞれ「未着品」、「積送品」、「試用品」などがでてきて複雑に見えます。
しかしながら、対象となる商品が外部から移動し、外部へ出ていくまでの流れを中心に追っていけば、自然と仕訳の手法についてつかんでいけるでしょう。なお大企業の方は、特殊商品売買についても「収益認識に関する会計基準」の適用となりますので、特殊商品売買についてもさらに理解を深める必要があるでしょう。
よくある質問
特殊商品売買とは?
特殊商品売買とは、商品売買の中でも通常とは異なる販売、購入形態をとる売買をいいます。詳しくはこちらをご覧ください。
特殊商品売買における予約販売の仕訳のポイントは?
予約販売は先に現金を受領しますので、前受金勘定を使い、売上時にはすでに受領している前受金を消し込みます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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