- 更新日 : 2025年4月23日
サッカー界の「脱税ベストイレブン」!? 大会の裏でちらつく“お金の疑惑”
6月14日に開幕した、4年に1度のサッカーの祭典。日本代表は、初戦で強豪コロンビアを相手に見事勝利を収め、セネガルにも善戦。残す対戦相手はすでに予選敗退が決まっているポーランドで、日本は引き分け以上で決勝トーナメントへ進出します。
世間の熱量がヒートアップする一方、大会に花を添えるスター選手の「お金の話題」も事欠きません。今大会でも目が離せないスーパースター、クリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシは、開幕早々にも“お金にまつわる疑惑”について報じられています。
目次
これが「脱税ベストイレブン」!?
初戦から圧巻のハットトリックを見せつけたポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドは先日、かねてからの脱税疑惑に対して罰金1880万ユーロ(約24億1500万円)を支払うことでスペイン当局と合意したとAFP通信などに報じられました。円換算は報道時のレートです。
またアルゼンチン代表のリオネル・メッシも、タックスヘイブン(租税回避地)の利用者情報などが含まれる「パナマ文書」の新たな書類が流出したことで、再び税逃れの疑いにかけられています。
近年、脱税疑惑が報じられた11人の選手たち
すでに疑いが晴れたり、罰金支払いに応じたなどの解決済みのケースも含め、近年脱税の疑惑を報じられたサッカー選手を調べると有名選手がズラリと並びます。ここではその疑いをかけられた金額が大きい順に11人を並べました。
脱税疑惑額:6330万レアル(約22億3500万円)
報道内容 :所得税にかかわる脱税疑惑、ブラジル裁判所が税務当局の告発退ける
参考 :ロイター「サッカー=ネイマール脱税疑惑、ブラジル裁判所が当局の告発退ける」
脱税疑惑額:1470万ユーロ(約19億円)
報道内容 :肖像権収入にかかわる脱税疑惑、1880万ユーロ(約24億1500万円)の罰金支払い
参考 :サッカーキング「C・ロナウド、脱税問題は約24億円の罰金で収束…収監は回避」
脱税疑惑額:560万ユーロ(約7億2000万円)
報道内容 :肖像権収入にかかわる脱税疑惑、820万ユーロ(約10億6000万円)の罰金支払い
参考 :AFP「モナコのファルカオ、アトレティコ時代の脱税で計820万ユーロを支払う」
脱税疑惑額:410万ユーロ(約5億3200万円)
報道内容 :肖像権収入にかかわる脱税疑惑、25万2000ユーロ(約3270万円)の罰金支払い
参考 :フットボールチャンネル「メッシ、脱税による懲役刑に代えて罰金支払いが合意。収監免れ3千万円支払いへ」
脱税疑惑額:200万ユーロ(約2億6000万円)
報道内容 :肖像権収入にかかわる脱税疑惑、アロンソは無実主張
参考 :AFP「昨年引退のX・アロンソ氏、脱税で禁錮5年を求刑される」
脱税疑惑額:155万ユーロ(約2億1000万円)
報道内容 :肖像権収入にかかわる脱税疑惑、罰金81万5000ユーロ(約1億円)の罰金支払い
参考 :サッカーキング「脱税容疑のマスチェラーノが声明発表『解決を迎えた』…感謝も示す」
脱税疑惑額:130万ユーロ(1億6000万円)
報道内容 :肖像権収入にかかわる脱税疑惑、200万ユーロ(2億5000万円)の罰金支払い
参考 :サッカーキング「ディ・マリアに禁固刑16カ月の判決…続く脱税事件、収監は回避へ」
脱税疑惑額:98万ユーロ(約1億3200万円)
報道内容 :肖像権収入にかかわる脱税疑惑、脱税額と約59万ユーロ(約7900万円)の罰金支払い
参考 :フットボールチャンネル「サンチェス、バルサ時代の脱税で懲役16ヶ月の刑確定。収監の可能性は…?」
脱税疑惑額:約87万ユーロ(約1億円)
報道内容 :肖像権収入にかかわる脱税疑惑
参考 :AFP「スペイン検察、モドリッチを脱税罪で訴追 肖像権収入めぐり」
脱税疑惑額:約54万ユーロ(約7200万円)
報道内容 :肖像権収入にかかわる脱税疑惑、約14万ユーロ(約1900万円)の有罪判決
参考 :フットボールゾーン「元ポルトガル代表DFが脱税容疑で有罪判決 懲役7カ月、罰金1900万円の実刑確定」
脱税疑惑額:50万ユーロ(約6600万円)
報道内容 :肖像権収入にかかわる脱税疑惑、脱税額を支払い
参考 :AFP「レアルのマルセロ、法廷で約6600万円の脱税を認める」
脱税疑惑額:330万ユーロ(約4億2700万円)
報道内容 :肖像権収入にかかわる脱税疑惑、80万ユーロ(約1億400万円)の罰金支払い
参考 :フットボールチャンネル「モウリーニョ、罰金『1億円』支払い。脱税問題和解で懲役刑は回避」
「肖像権収入」の申告漏れが多い理由
前述の脱税報道から明らかなように、肖像権収入の申告漏れや脱税が多数を占めていることが分かります。この肖像権収入とは何か、プロスポーツ選手専門のファイナンシャルプランナーで税理士の國井隆さんはこう説明します。
「『(1)肖像等を報道・放送において使用すること』『(2)選手の肖像等を使って広告宣伝・広報・プロモーション活動をすること』『(3)選手の肖像等を利用してマーチャンダイジング(商品化)を行うこと』の利用対価として得る収入が、肖像権収入と考えられます。
実は、肖像権自体は法律で明確に定義されているものではないため、議論になるケースも多いです。
日本サッカー協会の場合は、選手契約書を公開しており、第8条に 『選手の肖像等の使用』の項目を設けています。
内容を細かく見ると、肖像、映像、氏名を合わせて肖像等としており、具体的には前出の3点の使用方法を想定していると考えられます。定額である場合、一定のパーセンテージである場合など、契約形態はさまざまで、この点は海外のサッカー選手も同様でしょう」(國井さん)
肖像権収入の申告漏れが多い理由についてはこう語ります。
「形のない財産権(無体財産権)であるため、地域間の移転が契約書1通で容易にできることが、課税当局ともめる一因になっているのではないでしょうか」(國井さん)
また、スペインのクラブチームに所属する選手の脱税報道も目立ちますが、その背景にはスペインの経済状況が影響していると言います。
「スペイン課税当局のサッカー選手への肖像権収入の申告漏れ問題は、最近メディアを騒がしています。背景には、タックスヘイブンを使った過度な節税スキームに当局が『待ったをかけた』ということがあるのでしょう。
サッカーは世界的なスポーツですが、もちろん税制は国ごとに違います。高額な肖像権収入についてタックスヘイブンを利用して税逃れをすることは、世界的なリーグとクラブチームがあるスペインでは見過ごせないということだと思います。
また、スペインは2012年に経済危機に陥っています。今でも失業率が15%を超えるスペインでは、貧富の格差が広がる要因の一つに『タックスヘイブンの活用』があると考えられています。国を挙げてタックスヘイブン対策をしているのも、スペインの選手に脱税報道が多い理由です」(國井さん)
なぜ超高収入のスーパースターに脱税報道が多い?
別の共通点として、超高収入のスーパースターに脱税報道が多数見られます。公認会計士で税理士の深堀宗敏さんは、まず、報道における“脱税”の意味をこう解説します。
「報道で言われている“脱税”とは、本来納めるべき税金よりも少なく申告納税していたことを指します。税務調査で処理の誤りなどの指摘を受けた場合、意図的ではなくとも追加納税をすることは、実はそう珍しくないことなのです」(深堀さん)
これを踏まえて、スター選手の脱税報道が増える要因を3点指摘します。
「あくまで推測ですが、1点目としては、そもそもの納税額が多いことが要因として考えられます。
例えば、スペインを例に挙げると、累進税率制度(所得が増えれば増えるほど、適用される税率が上がる制度)を採用しており、最高税率が40%を超えています。したがって、高収入であればあるほど、納税額は増加するのです。そのため、ちょっとした計算間違いや税務当局と税務処理について見解のズレがあるだけで、納税額が増えることがあります。
2点目は、収入の種類が多く管理が難しいことです。
スター選手になると、CM出演料など収入源が多岐にわたり、さまざまな会社と契約を結ぶことになります。管理が煩雑になることから、一般的にはマネジメント会社と契約を交わすようです。
マネジメント会社が本人に代わって収入面の管理をしますが、契約が複雑であったり、国をまたぐ契約の場合は各国の税制などを考慮する必要があり、大変難易度の高い作業になります。そのため処理の誤りが起きやすい状況にもなるのです」(深堀さん)
意図的に納税額を減らそうとしている可能性も
1~2点目は会計処理のミスが主な要因とされていましたが、3点目は故意の操作について指摘します。
「3点目は、意図的に納税額を減らそうとしている可能性です。
前述の事例の中には、節税を試みた例もあるようですね。結果的に租税回避とされているようですが、納税額を減らすために税率の低い国を使って、節税を試みようとしているようです。
その処理方法が、法律に照らし合わせた処理と異なっている場合には、処理の誤りとして指摘を受け(=脱税)、結果として追加で納税することになります。
なので、意図的かそうでないかに関わらず、結果として納税額が多い人が税金の処理を間違えると、税務当局から指摘受ける金額も比例して大きくなります。
スター選手のネームバリューと金額のインパクトから、こういった脱税報道が増えるのではないでしょうか」(深堀さん)
会計士・税理士・行政書士・公認システム監査人・ファイナンシャルプランナー/税理士法人オフィス921
1965年生まれ、東京都出身。筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻前期博士課程修了。1988年に早稲田大学卒業後、旅行会社勤務を経て、1991年に公認会計士2次試験合格。同年に青山監査法人/プライスウォーターハウス入所。1996年に公認会計士・税理士國井事務所設立及び株式会社オフィス921設立。
公認会計士・税理士/深堀宗敏税理士事務所
PwC税理士法人にて申告書作成業務、M&A、オーナー企業の事業承継対策等に関する会計・税務コンサルティング業務に従事。深堀宗敏税理士事務所を開業。現在、税務実務経験とシステム開発の経験を生かし、クラウドサービスについてのアドバイスを会社のみならず、会計事務所に対して多数行なっている。
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