• 更新日 : 2024年4月11日

建設業会計の特徴とは?仕訳や勘定科目の具体例を簡単に解説!

建設業会計の特徴とは?仕訳の具体例や会計ソフトの選び方まで徹底解説!

建設業は、商品やサービスを提供する一般的な業種と異なり、特殊な受注形態を持っています。そのため、会計処理にも特殊な処理や判断が求められ、複数の工事を請け負っているとさらに処理が煩雑になってしまいます。

複雑な処理に時間がかかりやすいからこそ、建設業の経理にはクラウド型の会計ソフトがおすすめです。

この記事では、特殊な建設業の会計処理とその具体例、建設業の経理におすすめのクラウド会計ソフトの特徴について紹介します。

建設業会計の特徴

建設業会計とは?

建設業は、「工事の着工から完成引渡しまで長い期間を要する」といった特殊性を持っています。売上高を計上するまでのサイクルが他の業種と比較して長く、完成した際には一度に多額の売上高が計上されることになります。

建設業であっても会計処理は一般的な企業と同じく「企業会計原則」がベースとなりますが、上記のような特殊性を勘案した独特な会計基準が設けられています。これを「建設業会計」といいます。

「建設業会計」は基本的に工業簿記に調整を加えたものと理解することができますが、勘定科目の表記が「売上高→完成工事高」「仕掛品→未成工事支出金」など変更されていたり、売上高の計上基準が「工事完成基準」と「工事進行基準」の2種類を選択適用可能であったりするなど、特殊な知識と仕訳が要求されます。

建設業の企業で正しい会計処理を行うために、国土交通大臣の登録経理試験として「建設業経理事務士」という資格が設けられるほどです。

次節では、建設業会計の特徴と会計処理の流れについて具体的に解説していきます。

特殊な工事契約

建設業の多くは、基本的に完成と同時に対価を得る「請負契約」で営業しています。請負契約は建設業以外でも見られますが、工事開始から引き渡しまで長期間にわたることが、建設業とほかの請負契約との大きな違いです。
また、建設業は、注文を受けてから工事に着手する形が採られており、生産したものを販売する製造業と異なる点も特殊といえるでしょう。

会計基準に基づく特殊な会計処理が必要な場合も

このような契約形態の建設業では、企業会計基準「工事契約に関する会計基準」によって特殊な会計処理(工事契約の処理)をする部分があります。工事契約に関する会計基準において工事契約を適用する必要があるとされるのは、以下に該当する建設業、そして受注制作のソフトウェアです。同基準が適用される工事契約としては、ビルの建設など、大きな請負工事をイメージするとわかりやすいかもしれません。

・請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等
・基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うもの

【引用】企業会計基準委員会|工事契約に関する会計基準

会計処理は工業簿記の原価計算に近い

工事契約に関わる分のうち、完成工事原価又は未成工事支出金の部分は原価計算によって金額を出します。原価計算に含めるのは、それぞれの工事に要した材料費労務費、経費、外注費です。
さらに決算時は、完成工事原価報告書としてそれぞれの項目(材料費、労務費、経費、外注費)ごとに集計します。完成工事原価報告書とは、製造業の製造原価報告書のようなものです。

工事進行基準と工事完成基準の2つの認識基準

通常の会計処理では売上は原則として実現時(商品を引き渡し売掛金としたときなど)、費用は発生時に認識することになっています。ただし、工事契約については、通常の収益や費用の認識と異なり、工事が長期にわたるという点で2つの認識基準が設けられているのがポイントです。
工事の進行途中でも毎期末ごとに収益と費用を認識して損益計算書に反映させる「工事進行基準」と、引き渡し時に収益と費用を認識して損益計算書に反映させる「工事完成基準」があります。
2つの基準のうち、工事収益総額、工事原価総額、決算日における進捗度を合理的に見積もることができる(完成時の原価の見積り額に対してどのくらいの原価が投入されたかなど)場合は工事進行基準を適用することができます。
なお、工事進行基準は

(1)工事単位で工事完成基準との選択適用が可能
(2)赤字工事においてもその適用が認められる

といった特徴もあります。

なお、請負金額が10億円を超えるなど一定の場合については工事進行基準が強制適用になります。
工事契約を結ぶ建設業では、このように工事ごとの原価計算だけでなく、収益と費用の認識にも注意して会計処理を行わなくてはなりません。

建設業で特徴的な勘定科目

建設業は引き渡しまでに時間がかかり、その間に多額のお金の動きが発生するという事情があるため、経理方法だけでなく勘定科目も他の業種とは異なる特殊なものを使います。
ここからは建設業特有の勘定科目とその意味を見ていきましょう。また、他業種で行われる一般会計の勘定科目との関係についてもご説明します。

完成工事高

完成工事高とは完成した工事の対価として得られる売上のことです。一般会計における「売上高」にあたります。呼び方が異なるだけで、完成工事高も売上高もほとんど同じ意味合いです。

50,000千円で工事契約していた建物の引き渡しが完了し、売上がすべて後日入金される場合は、以下のように完成工事高を処理します。

借方貸方
完成工事未収入金50,000千円完成工事高50,000千円

完成工事原価

完成工事原価は建設業特有の勘定科目で、一般会計における「売上原価」に相当し、前述の完成工事高を得るために直接的に支払ったコストのことを指します。

具体的には材料や素材などの購入にかかった「材料費」、工事に要する人員の給料や福利厚生費、手当などの「労務費」、設計費や水道光熱費通信費、重機や機材の減価償却費などの「経費」、作業を外注したときに外注先に支払う「外注費」といった費用が完成工事原価に含まれます。なお、販管費(工事を受注するためにかかった費用)や一般管理費は完成工事原価には含まれません。

工事進行基準を適用している工事契約で引き渡しが完了したため、未成工事支出金30,000千円を完成工事原価に振り替えた場合は以下のように処理します。

借方貸方
完成工事原価30,000千円未成工事支出金30,000千円

完成工事総利益

完成工事総利益とは完成工事高から完成工事原価を差し引いたものを指します。いわゆる「粗利益」と呼ばれるものです。完成工事高がそのまま完成工事総利益になるわけではないことに注意が必要です。

未成工事支出金

未成工事支出金は完成工事原価に計上していない工事費用(材料費、労務費、経費、外注費など)のことを指します。一般会計における「仕掛品」に相当します。建設業ではどうしても工事に時間がかかりますが、工事が決算をまたいだときには未成工事支出金として計上します。

工事進行基準を適用しているA工事に要した材料費3,000千円、労務費5,000千円、経費2,000千円を未成工事支出金に計上した場合は以下のように処理します。

借方貸方
未成工事支出金10,000千円材料費3,000千円
労務費5,000千円
経費2,000千円

完成工事未収入金

完成工事未収入金とは計上済みの完成売上高のうち未回収のものを指し、一般会計における「売掛金」に相当します。工事が完成して代金が翌期に入金されるというケースでは、未成工事未収入金として計上します。

たとえば未成工事支出金のうち10,000千円が当座預金に入金された場合は以下のように処理します。

借方貸方
現金預金10,000千円完成工事未収入金10,000千円

未成工事受入金

未成工事受入金とは未完成の工事の対価として受け入れたお金のことを指します。まだ引き渡しが終わっていない工事の請負代金の一部を受け取った場合は、未成工事受入金で計上します。一般会計における「前受金」に相当します。

工事進行中に、完成後の対価のうち10,000千円が当座預金に入金された場合は以下のように処理します。

借方貸方
現金預金10,000千円未成工事受入金10,000千円

工事未払金

材料費や労務費などの工事原価のうち、まだ支払いを済ませていないものを指します。一般会計の「買掛金」や「未払金」に相当します。なお、販管費や一般管理費などは含まれません。

進行中の工事で材料費が1,000千円、外注費1,000千円が発生し、これらを後日支払う約束をした場合、以下のように処理します。

借方貸方
材料費1,000千円工事未払金2,000千円
外注費1,000千円

建設業会計の仕訳(会計処理)の具体例と注意点

次に、建設業でよくみられる仕訳の具体例を紹介します。

工事契約特有の勘定科目を使った仕訳

完成工事高との仕訳
50,000千円で工事契約していた建物の引き渡しが完了した。(売上はすべて後日入金される。)

借方
貸方
完成工事未収入金50,000千円完成工事高50,000千円

完成工事原価の仕訳
工事進行基準を適用している工事契約で、引き渡しが完了したため、未成工事支出金30,000千円を完成工事原価に振り替えた。

借方
貸方
完成工事原価30,000千円未成工事支出金30,000千円

完成工事未収入金の仕訳
完成工事未収入金のうち、10,000千円が当座預金に入金された。

借方
貸方
現金預金10,000千円完成工事未収入金10,000千円

未成工事支出金の仕訳
工事進行基準を適用しているA工事に要した材料費3,000千円、労務費5,000千円、経費2,000千円を未成工事支出金に計上した。

借方
貸方
未成工事支出金10,000千円材料費3,000千円
労務費5,000千円
経費2,000千円

工事未払金の仕訳
進行中の工事において、材料費1,000千円、外注費1,000千円が発生した。いずれも後日支払う契約である。

借方
貸方
材料費1,000千円工事未払金2,000千円
外注費1,000千円

未成工事受入金の仕訳
工事進行中に、完成後の対価のうち10,000円が当座預金に入金された。

借方
貸方
現金預金10,000千円未成工事受入金10,000千円

※長期にわたる工事契約の場合、完成前に分散して対価を受け取れるような契約を結ぶことがあります。

原価計算に関わる仕訳

材料費、労務費、経費、外注費の計上額は、工事ごとに未成工事支出金、または直接、完成工事原価に振り替えます。ここでは、振り替える前の各項目が発生したときの仕訳を見ていきましょう。

材料費の仕訳
工事で使用する材料5,000千円を仕入れ、代金は掛けとした。

借方
貸方
材料費5,000千円工事未払金5,000千円

労務費の仕訳
工事に従事する従業員に給与2,000千円を現金で支払った。

借方
貸方
労務費2,000千円現金預金2,000千円

経費の仕訳
工事で発生した水道光熱費等1,000千円を現金で支払った。

借方
貸方
労務費1,000千円現金預金1,000千円

外注費の仕訳
工事の一部を下請け業者に依頼した。外注費は1,000千円で、代金は掛けとする。

借方
貸方
外注費1,000千円工事未払金1,000千円

建設業でみられる引当金

勘定科目内容
完成工事補償引当金引き渡した目的物に契約の不適合があった場合の出費に備えるために計上する引当金。引き渡した目的物に責任を負うという意味では、製品保証引当金と同じようなイメージです。
完成工事補償引当金を計上する際は、ほかの引当金と同様、繰入額(費用)を貸方に計上します。
(仕訳例)
完成工事補償引当金繰入額 ××/完成工事補償引当金 ××
工事損失引当金工事にあたって、将来損失が見込まれる場合に計上する引当金です。
すでに計上されている損益の額を差し引いて原価に繰り入れます。
工事損失引当金は、金額を合理的に見積もることができ、発生の可能性が高い場合でないと計上できない点に注意が必要です。
(仕訳例)
 完成工事原価 ××/工事損失引当金 ××
環境対策引当金環境対策の支出に備える引当金です。
ポリ塩化ビフェニルの処分やアスベストの撤去などで使われます。
(仕訳例)
 環境対策引当金繰入額 ××/環境対策引当金 ××

※上記の各種引当金は、要件さえ満たせば建設業会計で計上することは認められていますが、法人税法上の損金にはなりません。(損金不算入)

そのほかの仕訳

勘定科目内容
通信費電話代やインターネット料金などにかかる費用
(仕訳例)通信費 ××/現金預金 ××
広告宣伝費広告掲載料など
(仕訳例)広告宣伝費 ××/現金預金 ××
消耗品費事務用品など金額の小さい消耗品の購入費
(仕訳例)消耗品費 ××/現金預金 ××

工事契約にかかわるものは、材料費、労務費、経費、外注費のいずれかに計上しますが、工事契約以外の費用は上記のように一般的な勘定科目に計上します。

建設業だからこそ会計ソフトはクラウド型がおすすめ

ここまで建設業で見られる特殊な会計処理、仕訳について説明してきましたが、複雑な処理が必要な建設業だからこそ、会計ソフトはクラウド型がおすすめです。クラウド型だと以下のようなメリットがあります。

自動取得に対応している

クラウド型の会計ソフトは、ほとんどがクレジットカードデータの自動取得、インターネットバンキング利用のある銀行口座データ自動取得に対応しています。自動取得したデータは金額をもとに簡単に仕訳登録ができますし、自動仕訳に対応しているものなら自動的に仕訳まで行ってくれるので後は確認するだけです。建設業は現金預金の取引も多いため、自動取得によるデータの取り込みは経理の工数削減に役立つでしょう。

資金繰りに活かせる

自動取得や自動仕訳など、クラウド型会計ソフトの機能で工数が減ることにより、リアルタイムに近い状態で会計処理が実行できるようになります。クラウド型会計ソフトの中にはキャッシュフローを可視化してくれるものもあるので、経営状況の確認や資金繰りが目で見て分かるようになります。特に、長期の請負契約が特徴でもある建設業で資金繰りをどうするかは重要なポイントです。

税理士とやりとりしやすい

クラウド型はインターネット環境とログイン情報があれば、会社にいなくても確認できます。そのため、データを税理士事務所に持っていかなくてもネットワーク上で顧問税理士と情報を共有できるようになります。

建設業におすすめのクラウド型会計ソフト

建設業で会計ソフトを使うならクラウド型がおすすめですが、クラウド型なら何でもよいわけではありません。建設業の会計処理を便利にしてくれるような会計ソフト選びが重要です。この項では、会計ソフト選びで見ておきたい2つのポイントを紹介します。

製造原価科目に対応している

材料費や労務費などの製造原価科目、また建設業で使う工事契約に関する科目があらかじめ設定されていると便利です。ただし建設業向けでなくても、勘定科目や補助科目の追加や削除ができる自由度の高い会計ソフトであれば問題ありません。建設業向けでない場合は、科目や税区分の設定がしやすいか確認しておきましょう。また、決算書まで会計ソフト上で作成することを考えると、完成工事原価報告書も作成できると便利です。

他システムと連携できる

請求書作成システムや勤怠管理システム、給与システムなど、ほかのシステムと連携できる会計ソフトなら、システムに入力されたデータが自動的に会計ソフトに反映されるようになります。事務的な処理を軽減できるだけでなく数字がそのまま反映されるため、数字的なミスを減らすのにも便利です。原価計算もしやすくなります。

建設業にあった会計ソフトを選びましょう

建設業の複雑な会計処理を行うなら、自動取得などの便利な機能がついたクラウド型の会計ソフトがおすすめです。クラウド型にもさまざまなものがありますので、ほかシステムとの連携も確認して、できるだけ経理処理の負担を軽減してくれるようなものを選ぶようにすると良いでしょう。

よくある質問

建設業会計とは?

基本的には工業簿記に調整を加えたものですが、正しい会計処理を行うためには特殊な知識と仕訳が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。

建設業特有の勘定科目は?

完成工事高、完成工事原価、完成工事未収入金などがあります。詳しくはこちらをご覧ください。

建設業におすすめの会計ソフトは?

複雑な会計処理が要求されるので、自動取得などの便利な機能がついたクラウド型の会計ソフトがおすすめです。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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