中小企業の事業承継をM&Aで行う際の実務フローと注意点

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中小企業の経営者がリタイアし、事業承継を行う際には、これまでは経営者の子供や経営の中枢を担ってきた社員が事業を継ぐ形で行うことが一般的でした。

しかし、日本全体の景気の低迷などによって中小企業に将来性を見出すことができなかったり、地方の中小企業を継ぐことに先行きが見えず、都市部へ出ていって事業承継を拒否したりするケースが増えていており、従来型の事業承継はなかなか行えなくなってきています。

そのような状況の中で、新たな事業承継の方法として注目されているのが、「M&Aを行うことによる事業承継」です。

M&Aと聞くと、実行後の譲渡先による大幅な人員削減や給与削減などのネガティブなイメージが先行してしまう方も多いでしょう。しかし、友好的なM&Aならば、事業承継後にこのような急進的な改革を行うことはほぼなく、現在の社員の士気を削がないように雇用条件を維持した形で事業を承継することが多くなっています。

M&Aによる事業承継とはいったいどのようなものなのか、さらに実際にM&Aによる事業承継を行う際の実務フローはどうなるのかという点について、詳しく解説していきます。

M&Aの現況

M&Aと聞くと、大企業が海外企業との間で行うイメージが強いという方もいらっしゃることでしょう。ですがM&Aは中小企業でも盛んに行われており、金額は大企業の方が大きいため金額比率では大型案件の方が多くなっていますが、件数比率では中小企業のものがおよそ3割(※)を占めるまでになっています。
(※参考:山田ビジネスコンサルティング監修(2016)「よくわかる中小企業のM&A活用法」日本経済新聞出版社P30-31)

さらに、現在行われているM&Aの大部分を占めているのは国内企業間におけるM&Aであり、海外企業との間で行うM&Aはむしろ少数派であることが現状です。

小さな会社を経営している方であっても、国内企業間で小規模なM&Aを行うことが十分に可能であることは、統計的にも十分に証明されているのです。

事業承継で行われるM&A

中小企業で行うような事業譲渡のM&Aとは、単一事業の全部、もしくは複数事業の一部か全部を売却するようなものをいいます。

事業譲渡のM&Aは事業ごと買収するものになるため、事業の運営会社が変わります。ですから、事務所の賃貸契約など、契約関係は再締結を行うことになります。従業員との雇用契約に関しても同様であり、その際に契約条件を見直す場合もあります。

ただ、前述したとおり従業員の士気を削いでしまうようなことは基本的には行いませんので、従業員の不利になるような形で雇用契約を行うことは少なくなっています。

事業譲渡のM&Aでは会社のすべての事業を買い取るような場合もありますが、事業の一部だけを買い取ることの方が多くなっています。

不採算事業は縮小して売り手が持ったままにする、あるいは不採算事業は廃業するといったことが普通です。また、事業を売却した資金で不採算事業のテコ入れを行ったり、負債を清算したりといったことも普通に行われています。

事業承継におけるM&Aの実務

実際にM&Aを行っていくうえで、実務フローは以下のようになります。

(1)M&Aについての検討・方針決定
(2)M&A仲介会社・アドバイザーの選定
(3)売却価格の資産・買い手候補の模索
(4)買い手候補の絞り込み
(5)買い手候補への企業情報提供
(6)トップによる合議・基本合意
(7)買収監査の実施
(8)条件交渉
(9)最終契約・従業員への説明
(10)統合作業(PMI)

実務フロー内においてはすべての工程が重要になりますが、特に「M&A仲介会社・アドバイザーの選定」「最終契約・従業員への説明」に関してはM&Aの行く末を占うものになると言えます。

「M&A仲介会社・アドバイザーの選定」では、M&Aの専門的なアドバイスを受けながら実務を進めていくために、全国にある「事業引継ぎセンター」などの紹介を受けて外部専門家とアドバイザリー契約を行います。

契約後、実際に事業譲渡をどういった形で行っていくのかについて、専門的なアドバイスを受けながら進めていくことになります。

条件交渉を済ませてM&Aが大詰めを迎えた段階で、売り手は「最終契約」を行うこととなります。契約に関する情報は機密事項であり、この段階において外部に情報が漏れてしまうと、M&Aが破談になってしまう可能性があります。

また、契約が無事に済んだら、従業員に対して説明会を開催し、会社の譲渡によって雇用契約がどうなっていくのかということを詳細に説明する必要が出てきます。

M&Aの実務における注意点

これらのM&Aの実務を行っていくうえで、注意しなければならないポイントが以下のようにいくつか存在します。

・アドバイザリー契約の形態を確認する
・契約後の統合作業を円滑に行う

アドバイザリー契約を行う際には、契約形態がその会社にのみM&A先探しを任せることになる「専任」か、同時に複数の支援会社を利用できる「一般」かという部分をよく検討し、契約する必要があります。

また、最終契約を行った段階でM&Aが完結するわけではありません。最終契約後には実際に事業を引き継いだり、実質的な経営をどのように行うか検討したりする「PMI」と呼ばれる統合作業が待っています。

PMIを進める際に、どのような順序で、どのように統合を進めていくかということは事前に詰めて協議しておく必要があります。契約後の流れをスムーズに行えば、従業員への影響も少なくて済みます。

まとめ

少子化や過疎化などの影響により、今後もM&Aによる事業承継の事例はますます増えていくことが予想されます。M&Aを行っていく際には、まずは実際のM&Aの実務フローを押さえることが重要です。

ほとんどの経営者の方が初めて経験することになるM&Aの際には、信頼できる専門家によるアドバイスも不可欠となります。

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※掲載している情報は記事更新時点のものです。

監修:三井 啓介 (公認会計士 / 税理士)

税理士法人ゆびすい
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