• 作成日 : 2025年7月2日

FASS検定とは?試験形式や日程、難易度、勉強時間、問題集の活用方法などを解説

経理や財務の仕事に携わる上で、「自分のスキルレベルはどのくらいだろう?」「もっと実務に役立つ知識を身につけたい」と感じることはありませんか?特にキャリアの浅い方や、これから経理職を目指す方にとって、自身のスキルを客観的に把握し、次のステップへ進むための指針は重要です。

そこで注目されているのが、FASS検定(経理・財務スキル検定)です。FASS検定は、単なる知識の暗記ではなく、実務遂行能力に焦点を当てた、比較的新しい形のスキル検定です。

本記事では、経理初心者やFASS検定について詳しく知りたい方に向けて、その概要からメリット、学習方法まで分かりやすく解説します。

FASS検定の概要

FASS(ファス)検定(経理・財務スキル検定)は、経済産業省の「経理・財務サービス・スキルスタンダード」に準拠し、一般社団法人日本CFO協会が主催・運営しています。

このスキルスタンダードは、経理・財務分野における業務プロセスを標準化し、個々のスキルを可視化することを目的として策定されました。

FASS検定は、このスタンダードに基づき、個人の経理・財務に関する実務知識やスキルレベルを客観的に測定するための試験です。知識の有無だけでなく、「実務でどれだけ通用するか」という実践的な能力を図ることに重きを置いている点が特徴です。

FASS検定が測定するスキル

FASS検定は、経理・財務の実務スキルを以下の4つの分野で構成されており、それぞれの習熟度を測定します。

  1. 資産分野
    売掛金管理、在庫管理、固定資産管理、ソフトウェア管理など、企業の資産に関する業務知識を問います。日々の取引記帳から管理プロセスまで、幅広い知識が求められます。
  2. 決算分野
    月次業績管理、単体決算業務、連結決算業務、外部開示業務など、企業の決算に関わる一連の業務知識を評価します。正確な財務諸表を作成し、報告するためのスキルが中心です。
  3. 税務分野
    法人税消費税、法人住民税・事業税、固定資産税・償却資産税、税効果会計など、企業活動に伴う各種税金の計算・申告に関する知識が問われます。税法に関する理解と実務への適用能力が試されます。
  4. 資金分野
    現金出納管理、手形管理、有価証券管理、売掛債権管理(回収)、買掛債務管理(支払)、資金繰り管理、融資業務、債権管理など、企業のキャッシュフローや資金調達・管理に関する知識が網羅されています。

これらの4分野を網羅的に評価することで、個人の経理・財務スキルの全体像を客観的に把握することが可能です。

FASS検定の試験形式

FASS検定は、CBT方式を採用しています。全国の指定されたテストセンターで、コンピューターを使用して受験します。

  • 問題数:試験本体 100問 ※オプション科目 FP&A(経営企画スキル) 20問
  • 試験時間:試験本体 90分 ※オプション科目(任意受験) 30分
  • 出題形式:四肢択一式

客観的な評価が可能であり、受験者にとっても都合の良い日時や場所を選びやすいというメリットがあります。

※2025年6月時点の情報

FASS検定の受験方法

FASS検定の申し込みは、基本的に日本CFO協会の公式ホームページから行います。個人申し込みと団体申し込みがあります。受験料は変動する可能性があるため、必ず公式ホームページで最新情報を確認してください。

FASS検定の試験会場・日程

全国各地にあるCBTテストセンターで受験可能です。試験日も比較的自由に選択できる場合が多いですが、会場や時期によっては混み合うこともあるため、早めの予約をおすすめします。

FASS検定のレベル判定と難易度

FASS検定の最大の特徴は、合否判定がないことです。試験結果は、総得点(最高800点)に応じて、以下の5段階のレベルで評価されます。

  • レベルA(689点~800点)
    経理・財務分野の業務全体を理解し、自信を持って業務を遂行できるレベル。業務改善や後進の指導も期待できる。
  • レベルB(641点~688点)
    各分野の業務について、ほとんどの業務を理解し、業務を遂行できるレベル。標準的な業務は独力で対応可能。
  • レベルC(561点~640点)
    各分野の業務について、部分的な業務は理解し、指示のもとであれば業務を遂行できるレベル。定型的な業務はこなせるが、応用力には課題がある場合も。
  • レベルD(441点~560点)
    実務経験が浅い、または限定的であり、業務遂行には支援が必要なレベル。基礎知識の習得や経験の蓄積が求められる。
  • レベルE(~440点)
    さらなる自己研鑽が必要なレベル。経理・財務の基本的な概念から学習する必要がある。

上記のレベル判定により、受験者は自身のレベルを客観的に把握し、どの分野のスキルアップが必要かを知るための具体的な指針を得ることができます。

FASS検定は意味ない?受験するメリット

「FASS検定は国家資格でもないし、本当に意味があるの?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。特に、日商簿記検定のような一般的な資格と比較すると、その価値について疑問を持つこともあるでしょう。

しかし、FASS検定は他の資格とは異なる視点から実務スキルを客観的に評価するという明確な目的を掲げています。受験者個人にとっても、人材を評価する企業にとっても、多くのメリットを提供します。決して「意味がない」ものではなく、むしろ現在の経理・財務パーソンにとって価値ある指標となり得るでしょう。

では、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?個人と企業、それぞれの視点から見ていきましょう。

個人のメリット

FASS検定の受験は、個人のキャリアにおいて以下のような具体的な利点をもたらします。

  1. 客観的なスキル証明
    自身の経理・財務スキルを「レベルA~E」という客観的な指標で示すことができます。単なる経験年数や自己評価ではなく、標準化された基準に基づいた評価であるため、履歴書や職務経歴書に記載することで、転職や就職活動において説得力のあるアピールポイントとなります。「レベルB以上」などを目標に設定することも有効です。
  2. 実務能力のアピール
    試験内容は「資産」「決算」「税務」「資金」という実務の主要4分野を網羅しており、実際の業務に即しています。そのため、知識だけでなく、実務を遂行する能力があることを効果的に示すことができます。特に実務経験が浅い方にとっては、ポテンシャルをアピールする材料になります。
  3. 自己分析と学習目標の設定
    試験結果(オプションの分野別評価を含む)を通じて、自身の強みと弱みを具体的に把握できます。「決算は得意だが、税務の知識が不足している」といった分析ができれば、今後の学習計画やキャリアプランをより具体的に、効率的に立てる上で役立ちます。これは、合否のみで評価される試験では得難いメリットです。
  4. キャリアアップのきっかけ
    企業によっては、昇進・昇格の参考要件や、部署異動(例:経理未経験者の経理部への異動)の判断材料としてFASS検定のレベルを活用するケースがあります。また、自身のスキルレベルを把握することで、より専門性の高い業務への挑戦意欲にもつながります。

企業のメリット

企業が社員にFASS検定の受験を推奨したり、採用基準に取り入れたりすることには、以下のようなメリットがあります。

  1. 客観的なスキル評価
    社員の経理・財務スキルを統一された基準で客観的に評価できます。これにより、感覚的になりがちな人事評価や、戦略的な人材配置(タレントマネジメント)の精度を高めるための参考資料として活用できます。
  2. 効果的な人材育成
    社員全体のスキルレベルや、部署・個人ごとの分野別の強み・弱みをデータとして把握できます。これにより、画一的ではない、より効果的でターゲットを絞った研修プログラムの策定や、個々のレベルに合わせた育成計画(OJT含む)を立てることが可能になります。
  3. 組織全体のスキル標準化
    特に複数の拠点を持つ企業や、M&Aを経た企業などでは、部門や拠点間で経理担当者のスキルレベルにバラつきが生じがちです。FASS検定を共通の指標とすることで、組織全体の業務品質の底上げと標準化を図り、ガバナンス強化にも貢献します。
  4. 採用基準としての活用
    経理・財務職の採用時に、応募者が持つ実務スキルレベルを測る客観的な指標の一つとして活用できます。これにより、入社後のミスマッチを減らし、即戦力人材の獲得や、ポテンシャル採用における育成計画の立案に役立ちます。

このように、FASS検定は個人の成長と企業の組織力強化の両面に貢献する、意義のある検定試験と言えるでしょう。

FASS検定の勉強方法

FASS検定でより高いレベルを目指すためには、計画的な学習が不可欠です。

公式テキスト・問題集の活用

最も基本となるのは、日本CFO協会が発行している公式学習ガイドや公式問題集を活用することです。試験範囲や出題傾向を把握し、体系的に知識をインプット・アウトプットすることが重要です。特に、各分野のキーワードや実務上のポイントを意識しながら学習を進めましょう。

分野別の対策と弱点克服

FASS検定は4分野から網羅的に出題されます。模擬試験や公式問題集を解く中で、自分がどの分野に強く、どの分野に弱いのかを分析しましょう。苦手分野については、公式学習ガイドを読み返したり、関連書籍で知識を補ったりするなど、重点的な対策が必要です。

継続的な学習と実務経験の連携

FASS検定は実務スキルを測る試験であるため、日々の業務を通じて知識を深めることも大切です。学習した内容が実際の業務でどのように活用されているかを意識することで、理解度は格段に深まります。また、新しい会計基準や税制改正など、常に最新情報をキャッチアップする姿勢も重要です。

FASS検定の勉強時間の目安

FASS検定の合格に必要な勉強時間は、個人の知識レベルや実務経験、目標とするレベル(A~E)によって大きく異なります。

そのため、一概に「〇〇時間必要」と断言することは難しいですが、以下に一般的な目安を示します。

  • 経理実務未経験者や経験の浅い方
    日商簿記3級程度の知識がない場合は、まず簿記の基礎を学んでからFASS対策に入る方が効率的な場合もあります。
  • 日商簿記2級程度の知識や数年の実務経験がある方
    既に基礎知識があるため、FASS特有の分野(特に税務や資金の一部など)や、知識の網羅性を高める学習が中心になります。公式テキスト・問題集を一通りこなすことを目標にすると良いでしょう。
  • 豊富な実務経験があり、レベルAやBの高レベルを目指す方
    苦手分野の克服や、最新の会計基準・税制改正のキャッチアップに重点を置くことになるでしょう。

重要なのは、時間数だけにとらわれず、公式テキストや問題集をしっかり理解し、自分の言葉で説明できるレベルまで落とし込むことです。まずは公式学習ガイド等で自身の現在地を確認し、目標レベルとのギャップを埋めるための計画を立てることをおすすめします。

FASS検定と他の経理資格の違い

経理系の資格として代表的なものとして日商簿記検定があります。FASS検定と日商簿記検定は、目的や評価方法が異なります。

  • 日商簿記検定
    主に簿記の原理原則や仕訳、財務諸表作成の基礎的な知識・技能を体系的に習得することを目的とし、合否で判定されます。経理の基礎固めとして非常に重要です。
  • FASS検定
    経理・財務に関する実務全般の知識・スキルを網羅的に測定し、レベルで評価します。日商簿記で得た知識を、より実践的な場面でどう活かせるか、という視点が加わります。

どちらが良いか悪いかではなく、それぞれの目的に合わせて活用することが重要です。簿記検定で基礎を固め、FASS検定で実務対応力を図るといった組み合わせも有効でしょう。

FASS検定で経理・財務スキルを可視化しよう

FASS検定は、あなたの経理・財務スキルを客観的に可視化し、キャリアアップやスキルアップのための道筋を示してくれる「羅針盤」のような存在です。合否の判定がないため、プレッシャーをあまり感じず自分の実力を試すことができます。

経理初心者の方も、経験者の方も、自身のスキルレベルを確認し、強みと弱みを把握することで、より効果的な学習やキャリアプランニングが可能になります。ぜひFASS検定の受験を検討し、ご自身の成長とキャリアの可能性を広げてみてはいかがでしょうか。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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