• 作成日 : 2025年3月28日

IFRSにおけるのれんとは?日本基準との違いや償却しない理由、会計処理などを解説

企業のブランド価値を表すのが「のれん」です。会計処理の際は、時価評価純資産と買収価額の差で表されます。

日本の企業会計では馴染みがあるのれんですが、国際的な会計基準IFRS」ではどのように扱うのでしょうか。今回はIFRSにおけるのれんの扱いについて解説します。

IFRSにおけるのれんとは

初めに「のれん」の扱いについてご紹介します。

のれんの定義

のれんとは、企業の「技術力」「ノウハウ」「ブランド力」「信用力」のような無形固定資産のことです。主に企業買収・合併の際に発生し、会計処理を行う際は、貸借対照表に「のれん」と記載されます。

のれんの会計処理上の扱いは日本基準とIFRS(国際基準)で異なりますので、後ほど詳しく解説します。

のれんの具体例

1,000万円の資産を持つ企業を3,000万円で買収した場合、差額の2,000万円が「のれん」となります。つまり、2,000万円は企業のブランド力、信用力、技術力とみなす、ということです。

IFRSと日本基準ののれんの会計処理の違い

のれんとは何かを理解したところで、IFRSと日本基準、それぞれののれんの会計処理について見ていきましょう。

のれんの償却

日本基準ではのれんを20年以内の期間で定額法により償却することとなっており、償却の際は「販売費および一般管理費」で記載します。

しかし、IFRSではのれんの償却は行いません。ちなみに、のれんの価値が大きく下がったときは減損処理が行えます。

のれんの減損テスト

のれんの減損テストとは、のれんの回収可能額を試算するというものです。

日本基準の場合、資産価値の下落が考えられる場合に行いますが、IFRSでは毎期テストを行う必要があります。

負ののれんの会計処理

負ののれんとは、企業の買収価格が企業の純資産を下回る際に発生します。

日本基準では、発生した期に特別利益として処理されますが、IFRSでは、営業利益として処理されます。このような処理になるのは、IFRSに営業利益と特別利益の区別がないためです。

のれんの減損損失の戻し入れ

日本基準、IFRSともにのれんの減損損失の戻し入れは認められていません。

IFRSでのれんを償却しない理由

IFRSではのれんの償却を行いません。その理由を押さえておきましょう。

償却方法の根拠がないため

日本基準ではのれんの償却期間について「20年以内の期間」と定めています。しかし、IFRSでは期間の根拠がない、という理由から償却を行いません。また、どのようにのれんの価値が減っていくのかの見積もりが難しいという理由もあります。

収益力が変わらないため

のれんを償却するのは、時間が経過するにつれ、収益力が下がっていくという考えがあるためです。

しかし、IFRSではのれんの収益力は将来にわたって変わらないと考えています。よって償却が行われません。

IFRSによるのれん非償却のメリット

のれん償却を行わないメリットは次の通りです。

  • 営業利益が圧迫されない
  • M&Aを積極的に行える
  • 会計処理がシンプルになる

詳しく解説します。

営業利益が圧迫されない

のれんの償却を行うと、償却した分だけ営業利益が減少します。償却を行わないことで、営業利益の圧迫を避けられます。

M&Aを積極的に行える

のれんの償却をしないでおくと営業利益に影響が出ません。そのため、M&Aを積極的に行えます。

会計処理がシンプルになる

のれん償却に関する処理が不要になるため、会計処理がシンプルになります。

IFRSによるのれん非償却のデメリット

以下のように、のれん非償却にはデメリットもあります。

  • のれん減損がないため、特別損失が高くなる可能性がある
  • 自社の資産との区別がつきにくい

のれん減損がないため、特別損失が高くなる可能性がある

定期的にのれんの償却を行わない場合、損失が発生した際に減損処理を行う必要があります。その際、いきなり大きな額の特別損失が出る可能性もあるため注意しなければなりません。

自社の資産との区別がつきにくい

のれんの償却を行わないことで、M&A後に作った資産との区別がつきにくいというデメリットもあります。

IFRSによるのれんの減損テストの方法

IFRSでは、のれんの償却を行う必要がありませんが、減損テストを行う必要があります。実施時期や方法を確認しましょう。

実施時期

IFRSでは、のれんの減損テストを毎年1回行わなければなりません。テストの時期は「10月末」のようにあらかじめ決めておき、毎年その時期に行います。

ただし、のれんの減損が発生しそうなことが判明したら、テスト時期でなくても減損テストを行う必要があります。

実施の方法

減損テストでは、回収可能価額を算定します。回収可能価額は以下のいずれか高い方です。

  • 処分コスト控除後の公正価値
  • 処分コスト控除後の使用価値

上記のいずれかが帳簿価額より高いと、資産の減損はないということです。

減損テストを省略することは可能?

IFRSの前身「IAS」の36号によると、以下の条件を全て満たしていれば減損テストの省略は可能とされています。

  • 当該単位を構成する資産および負債が、直近の回収可能価額の計算のときから著しく変化していないこと
  • 直近の回収可能価額の計算結果が、帳簿価額に比べて相当程度大きいこと
  • 直近の回収可能価額の計算時点以降に発生した事象および変化のあった状況の変化を分析した結果、当該資金生成単位についての現在の回収可能価額が、現在の帳簿価額を下回る可能性が非常に低いこと

ただし、この条件を全て満たしていると認められるのは非常に難しいといえます。現状では、のれんの減損テストの省略はほとんどない、と考えておくのがよさそうです。

IFRSを適用する場合ののれんへの影響

IFRSを適用する場合、のれんにどのような影響があるのでしょうか。

利益が大きくなる

IFRSではのれんの償却がないため、その分利益が大きくなります。結果として、新たなM&Aにつながる可能性が高くなります。

M&Aの効果がわかりやすくなる

IFRSでは毎年減損テストを行うため、買収した資産でどの程度の利益(損失)が発生したかが明確になります。よって、M&Aの効果がわかりやすく、経営の意思決定がしやすくなります。

IFRS適用を検討する際はのれんの会計処理について確認しておこう

IFRSは日本基準と異なり、のれんの償却が行われません。その代わりとして毎年減損テストを行います。減損テストを行うと、買収した資産でどのくらいの利益が発生したかがわかるというメリットがあり、次のM&Aや経営戦略につながる可能性があります。

また、国際的な取引を行う企業ではIFRSでの会計が求められることもあり、今後、IFRS適用企業の増加も予想されます。IFRS移行を検討するならば、今のうちにのれんの会計処理などを確認しておきましょう。


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