- 作成日 : 2025年6月13日
小規模宅地等の特例とは?評価額を最大80%下げる方法
小規模宅地等の特例とは、土地の相続で一定の要件を満たした場合、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。被相続人と同居していた配偶者や親族が主な対象ですが、一定条件をクリアすれば、別居していた親族にも適用されることがあります。
本記事では、小規模宅地等の特例の内容や適用対象、特例を受ける際の注意点について解説します。
目次
小規模宅地等の特例とは?
小規模宅地等の特例とは、被相続人が事業や居住のために使用していた土地を相続した場合、一定の要件を満たすことで相続税評価額を最大80%減額できる制度のことです。残された家族が、家や事業を引き継ぎやすくすることを目的としています。
適用されれば相続税の負担を大幅に軽減でき、特に自宅や事業用地を引き継ぐ相続人にとって大きなメリットです。
たとえば、評価額3,000万円の自宅用の土地(330㎡以内)を子どもが相続し、この特例を使った場合、評価額が600万円(3,000万円×20%)まで下がり、相続税が大幅に軽減されます。
小規模宅地等の特例を利用できる対象は?
この制度はすべての相続人が無条件で使えるわけではなく、一定の要件を満たした人のみが対象となります。
相続人の立場や状況によっては、小規模宅地等の特例を利用できる場合と、利用できない場合があるため、注意が必要です。
ここでは、どのような相続人が特例の適用対象となるのかを解説します。
配偶者
被相続人の配偶者は、実際にその宅地に居住していたかどうかにかかわらず、無条件で特例の適用を受けられます。特別な手続きや厳格な条件を満たす必要はなく、安心して自宅を相続できる仕組みです。
これは、配偶者が相続において最も保護されるべき存在であることを反映したものであり、ほかの親族に比べて要件が大幅に緩和されています。
同居親族
相続が発生した際に、被相続人と一緒に暮らしていた親族は、小規模宅地等の特例の対象となることがあります。ただし、適用を受けるには「実際に共同生活を送っていたか」が重要なポイントです。たとえ住民票の住所が同じでも、実際には別居状態であった場合には、同居と認められず、特例の適用対象外となります。
一方で、住民票の登録住所が異なっていても、実質的に同居していた事実が証明できれば、特例の適用を受けることが可能です。
それ以外
被相続人と別居している親族でも、特定の条件を満たせば、特例を適用することが可能です。この特例は「家なき子特例」と呼ばれます。
家なき子特例を受けるためには、以下の条件をクリアする必要があります。
- 配偶者や同居している相続人がいないこと
- 相続が発生する3年前までに、以下の条件の持ち家に住んだことがないこと
- 相続人本人もしくはその配偶者の持ち家
- 相続人の3親等以内の親族の持ち家
- 相続人本人と特別の関係がある一定の法人の持ち家
- 相続した土地を相続税申告の期限まで所有し続けること
- 相続開始時に現在住んでいる家を過去に所有したことがないこと
最初の条件は、相続人が未婚または配偶者がすでに亡くなっているケースに該当します。
2の条件では、相続人本人とその配偶者が持ち家を持っていないことが求められ、賃貸物件に住んでいることが条件です。
3の条件では、相続した土地について、相続開始から相続税の申告期限である10ヶ月間は継続して保有している必要があります。
これは、あくまでその土地を実際に使い続けることを前提とした制度です。そのため、特例を適用した直後に売却してしまうようなケースは、本来の趣旨にそぐわないと判断されます。
小規模宅地等の特例が適用される土地は?
小規模宅地等の特例が適用される土地は、「特定居住用宅地等」「特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等」「貸付事業用宅地等」に分けられます。それぞれに、要件や限度面積が定められています。
特例が適用される土地について、詳しくみていきましょう。
特定居住用宅地等(住んでいた土地)
被相続人が自宅として使っていた宅地等に対する特例です。
対象となる土地は、次の3つで、いずれも個人名義でなければなりません。
- 一軒家が建っている土地
- 購入マンションが建っている土地
- 二世帯住宅が建っている土地
限度面積は330㎡、減額割合は80%と定められています。
たとえば、330㎡以下で評価額が5,000万円の土地を相続した場合、次の金額が減額されます。
課税対象になるのは、土地評価額5,000万円から減額分4,000万円を差し引いた1,000万円です。
なお、土地が330㎡を超える場合には特例がまったく適用されないのではなく、330㎡までが80%引きとなり、それを超える部分には特例は適用できず、通常の評価額となります。
特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等(事業に使用していた土地)
被相続人が個人事業(貸付用を除く)や同族会社として使っていた宅地等に対する特例です。
次のいずれかに該当する土地が対象となります。
- 被相続人が事業に使っていた土地
- 被相続人と生計を一にする親族が事業に使っていた土地
限度面積は400㎡、減額割合は80%と定められています。
たとえば、400㎡以下の面積で土地評価額7,000万円の土地を相続した場合、次の金額が減額されます。
課税対象になるのは、土地評価額7,000万円から減額分5,600万円を差し引いた1,400万円です。
土地が400㎡を超える場合、400㎡までが80%引きとなり、それを超える部分は通常の評価額となります。
貸付事業用宅地等(貸していた土地)
被相続人が賃貸マンションやアパート、貸駐車場など、貸付用としていた宅地等に対する特例です。
次のいずれかに該当する土地が対象となります。
- 被相続人が貸付事業に使っていた土地
- 被相続人と生計を一にする親族が貸付事業に使っていた土地
限度面積は200㎡、減額割合は50%と定められています。
たとえば、200㎡以下で評価額3,000万円の土地を相続した場合、次の金額が減額されます。
課税対象になるのは、土地評価額3,000万円から減額分1,500万円を差し引いた1,500万円です。
土地が200㎡を超える場合、200㎡までが50%引きとなり、それを超える部分は通常の評価額となります。
小規模宅地等の特例を受けるための注意点
二世帯住宅の場合や相続時精算課税制度で相続した場合など、特例を受ける際に注意したい点があります。
ここでは、小規模宅地等の特例を受けるときの注意点を解説します。
二世帯住宅の場合
被相続人と二世帯住宅に居住していた場合、内部で行き来ができるか否かにかかわらず、同居親族と扱われます。構造上区分された二世帯住宅であっても、建物全体が一体の住宅として利用されている実態があれば、同居親族として小規模宅地等の特例を認められるということです。
しかし、区分所有登記がされている場合、法的に別々の建物とみなされるため、小規模宅地特例は受けられません。区分所有登記とは、一棟の建物の各専有部分の所有権を登記することです。それぞれの所有権の割合を登記簿に記載する共有登記とは異なります。共有登記であれば同居扱いとなり、小規模宅地等の特例が適用されます。
相続時精算課税制度で相続した場合
相続時精算課税制度を利用して贈与された土地には、小規模宅地等の特例を適用できません。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母が、20歳以上の子や孫に対して土地などを贈与する際に選択できる、贈与税に関する制度です。
小規模宅地等の特例は、土地を相続または遺贈によって取得した場合に適用される制度ですが、相続時精算課税制度を利用した場合は「贈与」によって土地を取得したことになります。そのため、この特例の対象外となります。
小規模宅地等の特例の申請方法
小規模宅地等の特例を受けるためには、必要書類を準備し、相続税の申告時に相続申告書とあわせて税務署に提出する必要があります。
特例の申請方法について、詳しくみていきましょう。
必要書類
小規模宅地等の特例を受けるために必要な書類は、共通で必要な書類と、宅地の種類ごとに必要な書類に分けられます。
共通で必要な書類は、以下のとおりです。
- マイナンバー確認書類
- 身元確認書類
- 相続税申告書の添付書類
- 遺言書コピーまたは遺産分割協議書のコピー
- 相続人全員の印鑑証明書
- 宅地の種類別の必要書類
さらに、宅地の種類ごとに必要な書類があります。たとえば、特定居住用宅地等を適用する場合でも、被相続人と同居していたのか、二世帯住宅に住んでいたのか、「家なき子特例」を利用するのかなどによって、必要な書類は異なります。
適用要件や必要書類を事前によく確認し、準備を進めておくようにしましょう。
申請の流れ
小規模宅地等の特例の申請は、相続税の申告時に、相続申告書とあわせて税務署に提出します。この特例を受けるには相続税の申告が必要であり、たとえ特例の適用によって相続税がゼロになる場合でも、必ず相続税の申告を行わなければなりません。
申請の期限は、相続税の申告期限と同じで、原則として「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内」です。
小規模宅地等の特例は、条件にあえば大きく節税できる
小規模宅地等の特例を活用すれば、相続税評価額を最大で80%減額できるため、大幅な節税が可能です。特例の適用があるかどうかで、相続税の負担は大きく変わってきます。
適用には細かい要件が定められているため、専門家にも相談しながら、自分のケースが該当するかどうかをしっかり確認しましょう。また、申告書の提出期限や手続きの流れについても、十分に把握しておくことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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