• 作成日 : 2025年5月28日

配賦率とは?間接費における計算方法や配賦基準の決め方などをわかりやすく解説

配賦率とは、複数の部門や製品に共通してかかる間接費を、合理的な基準に基づいて割り振る際に用いられる比率のことです。原価計算管理会計をはじめ、簿記の学習や実務においても頻繁に登場する重要な考え方です。この記事では、配賦率の基本的な意味から、計算方法、配賦基準の決め方、具体例、配賦率の種類まで、初学者にもわかりやすく解説します。

配賦率とは

配賦率とは、複数の部門や製品に共通してかかる間接費を一定の基準に基づいて割り振る際に用いられる比率のことです。

具体的には、光熱費、オフィスの賃料、管理部門の人件費など、特定の部門や製品に直接的に紐付けることが難しい間接的な費用を、売上高、従業員数、使用時間、面積、生産量といった合理的な基準に基づいて各部門や製品に割り当てる際に、配賦率が用いられます。

このように間接費を配賦することで、製品やサービスのコストをより正確に把握することが可能になり、適切な価格設定や利益管理に繋がります。

配賦と按分の違い

「配賦(はいふ)」と似かよった言葉に「按分(あんぶん)」があります。どちらも割り振るという意味合いを持ちますが、配賦が「一定基準に応じて費用を分けた後、対象に対して負担させる」ことを指すのに対し、按分は「一定基準に応じて分ける」行為そのものを指します。原価計算においては、まず何らかの基準で費用を按分し、その按分した費用を各部門や製品の原価として配賦する(負担させる)という流れで理解するとよいでしょう。

配賦と割賦の違い

「割賦(かっぷ)」も配賦と混同しやすい言葉の一つです。いずれも漢字の見た目が似ていますが、意味する内容や使用される場面は大きく異なります。

配賦は「共通の費用などを、基準に応じて各部門や製品に割り振って負担させること」を指すのに対し、割賦は「代金の支払いを複数回に分けて行うこと(分割払い)」を意味します。

配賦が原価計算や管理会計の分野で用いられるのに対して、割賦は主に販売や契約の分野で使用される用語です。たとえば、家電や自動車の購入において代金を毎月分割で支払う方法が「割賦販売」にあたります。

配賦率の計算方法

ここでは、配賦率を実際にどのように計算するのかを、手順を追って解説します。

1. 配賦対象となる間接費を特定する

まず、どの間接費を配賦の対象とするのかを明確にします。間接費とは、特定の製品や部門に直接結びつけることが難しい費用のことで、以下のような項目が該当します。

  • オフィスや工場の賃料
  • 電気・水道・ガスなどの光熱費
  • 共通で使用される機械の減価償却費
  • 管理部門の人件費
  • 共通材料の消耗品費

2. 配賦基準を決定する

次に、特定した間接費をどのような基準で割り振るかを決定します。配賦基準は、間接費の発生と関連性の高い指標を選ぶ必要があります。一般的な配賦基準としては、以下のものがあります。

  • 労働時間
  • 機械稼働時間
  • 売上高
  • 従業員数
  • 使用面積
  • 生産量

配賦基準の決め方は、コストの発生原因との因果関係を考慮して行うことがポイントです。

3. 配賦基準の総額を計算する

決定した配賦基準について、すべてのコスト対象における合計値を計算します。たとえば、配賦基準が労働時間であれば、対象となる労務費に係る総労働時間を合計します。

4. 配賦率を計算する

以下の計算式を用いて、「配賦率」を算出します。

配賦率 = 総間接費 ÷ 配賦基準の合計

5. 各コスト対象に間接費を配賦する

算出した「配賦率」を用いて、各コスト対象に間接費を配賦します。配賦額は、以下の計算式で求められます。

配賦額 = 配賦率 × 各コスト対象の配賦基準量

配賦率の具体的な計算例

ある会社では、労務費として配賦すべき間接費の合計が600,000円、3つの部門の労働時間の合計を600時間とします。このときの配賦率は、以下のように求められます。

配賦率 = 600,000円 ÷ 600時間 = 1,000円/時間

たとえば、A部門の労働時間が100時間だった場合、その部門に配賦される間接費は以下のようになります。

配賦額 = 1,000円 × 100時間 = 100,000円

このように、配賦率を用いることで、各部門や各製品に間接費を合理的に割り振れます。

配賦率を正しく計算するメリット

配賦率を適切に計算することによって、結果的に企業の経営判断やコスト管理の質に大きな影響を与えます。以下では、配賦率を正しく計算することで得られる主なメリットを整理して解説します。

原価計算の精度が向上する

適切な配賦率を用いることで、部門ごと、または製品やサービスごとの実際のコストを正しく把握できます。とくに間接費の原価への影響は見えにくい部分であるため、適切に配分しないと原価が歪んでしまいます。配賦率が正しく設定されていれば、製品ごとの原価構成が明確になり、採算性の分析や価格設定に信頼を持たせられます。

部門別・製品別の収益性分析が可能になる

企業活動を部門や製品単位で細かく分析するためには、それぞれにかかっている原価をできるだけ正確に算出する必要があります。配賦率が適切であれば、間接費も含めた収益性の評価が可能になり、どの部門や製品が利益を生んでいるかを明確に把握できます。

適切な経営判断に繋がる

正しい配賦率を使って得られた原価情報は、経営者や管理者が意思決定を行う上で重要な根拠となります。たとえば、無駄なコストや原価における改善点が明確になって、製品の販売価格を決定したり、非採算部門の見直しを行ったりする際に、正確な原価情報があれば判断の質が大きく向上します。

配賦率を正しく計算するための注意点

配賦率は、製品や部門に間接費を合理的に配分するための重要な指標です。しかし、実務の現場では誤った認識や運用ミスが原因で、適切な原価が得られないケースも少なくありません。ここでは、配賦率を正しく計算・活用するために注意すべきポイントを解説します。

配賦基準の決め方に注意する

自社の実態に合った配賦基準を選定することが最も重要です。

基準の選定により、各部門や製品への負担額が大きく変わるため、客観的で合理的な基準を選定しなければなりません。たとえば、機械の稼働によって生じる減価償却費に対して「売上高」を配賦基準にしてしまうと、実態とズレが生じます。減価償却費の配賦としては、機械の使用時間や稼働時間、または部門の従業員数や製品ごとの工数などから基準を選択するのが一般的です。間接費の発生原因と強い因果関係がある配賦基準を選ぶことが重要です。関連する部門の担当者と協議し、納得感のある基準設定を行うことも、実務上のスムーズな運用に繋がります。

配賦率と配賦基準は定期的に見直す

事業内容や経営環境、組織構造、作業フローの変化に伴い、配賦の前提条件も変わっていきます。にもかかわらず、配賦率や基準を数年間見直さないというのは避けたいところです。最低でも年に1回程度は配賦基準と配賦率の妥当性を確認し、必要に応じて更新を検討することが重要です。配賦率や配賦基準の妥当性については関係者と共有し、現状の配賦率・配賦基準について関係者が説明できるようにしておきましょう。

表計算ソフトやERPシステムを活用する

正確性や妥当性を追求するあまり、配賦方法が過度に複雑になってしまうと、運用や管理が難しくなります。配賦に使うデータや計算は、表計算ソフトやERPシステムなどを活用することで、自動化やミスの削減が期待できます。とくに配賦対象が多い場合や、複数部門にまたがる計算を行う場合には、こうしたツールの導入が効果的です。

配賦率の種類

配賦率の計算に慣れてきたら、状況に応じた使い分けも重要になります。配賦率には、計算のタイミングや目的によっていくつかの種類があり、それぞれ特徴や用途が異なります。

ここでは、実務や試験でもよく登場する「予定配賦率」「実際配賦率」「正常配賦率」の3つについて、違いや使いどころを整理しておきましょう。これらはいずれも配賦率ではありますが、その意味や用途が異なります。

予定配賦率

予定配賦率とは、一定の会計期間の開始前に、見積もられた間接費の総額(予算総額)と、予測される配賦基準に基づいてあらかじめ計算される配賦率のことです。計算式は以下の通りです。

予定配賦率 = 見積総間接費 ÷ 予測総配賦基準(予定操業度)

予定配賦率を設定する主な目的は、実際の間接費の発生を待たずに期間中にタイムリーに製品原価を計算したり、部門の業績を評価したりするためです。

メリットは以下のとおりです。

  • 製品が完成した時点ですぐに原価を計算できる
  • 実際の操業度の変動に関係なく単位原価が安定する
  • 事前のコスト管理を促進できる

一方で、実際の間接費や活動量が予測と大きく異なる場合、期末に間接費の配賦不足または配賦過剰(配賦差異)が発生する可能性があります。配賦差異が大きい場合には、実際の原価の把握が難しくなることもあります。

実際配賦率

実際配賦率とは、一定の会計期間の終了後に、実際に発生した間接費の総額と、実際に発生した配賦基準に基づいて計算される配賦率のことです。計算式は以下の通りです。

実際配賦率 = 実際総間接費 ÷ 実際総配賦基準(実際操業度)

実際配賦率を利用する主な目的は、実際に発生したコストに基づいて、正確な間接費の配賦を行うことです。期間中に発生した真のコストを反映できるという利点があります。しかし、実際の間接費と配賦基準の総額が確定するまで原価計算が遅れる、実際の活動量によって単位原価が変動する可能性があるといった点が欠点として挙げられます。

正常配賦率

正常配賦率とは、正常な操業度のもとで発生する間接費を基準として配賦するもので、短期的な操業度の変動による影響を排除し、より長期的な視点から算定される配賦率のことです。予定配賦率が予算や計画に基づいて設定されるのに対し、正常配賦率は通常の操業度に応じたものであり、一般的には長期的な平均活動水準に基づいて計算されます。これにより、正常操業度に焦点を当てたコスト配賦が可能になりますが、予定配賦率と同様に配賦差異が生じる可能性があります。

企業は、これらの配賦率の種類を理解し、自社の状況や目的に合わせて適切な方法を選択することが、効果的なコスト管理の鍵となります。とくに予定配賦率を使用する場合には、期末に発生する配賦差異の分析と処理が重要になります。

配賦率の簿記試験での出題傾向

配賦率は、日商簿記の中でもとくに2級の工業簿記でよく出題されるテーマです。3級ではほとんど登場しませんが、2級では原価計算の基本知識として確実に押さえておく必要があります。

試験では、予定配賦率を使って製造間接費を部門ごとに配賦する計算問題がよく出題されます。たとえば「製造間接費の見積額と予算工数が与えられ、特定の部門の作業時間に基づいて配賦額を計算する」といった形式です。

また、配賦率の違い(予定配賦率と実際配賦率)や、配賦差異の処理に関する問題も出題されることがあります。計算自体はシンプルですが、配賦基準や使用する配賦率を正しく見極めることが大切です。

配賦率の理解は、原価計算の基礎にもつながるため、出題頻度が高く、得点源にもなりやすい分野です。基本的な計算の流れと用語の違いをしっかり押さえておくと、試験対策として非常に効果的です。

配賦率を理解してコスト管理に活かしましょう

配賦率は、原価計算において間接費を製品や部門に適切に割り振るために欠かせない指標です。配賦の仕組みを理解し、どのような場合にどの配賦率が適切かを把握することで原価の見える化が進み、より適切な価格設定や意思決定、業績評価が可能になります。

原価計算や会計処理の一部として配賦率に触れる方はもちろん、コスト管理を担当するマネジメント層にとっても、配賦の理解は経営の土台づくりに不可欠です。今回学んだ知識を、日々の業務や分析にぜひ役立ててみてください。


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