- 作成日 : 2025年5月21日
相互配賦法とは?計算方法や直接配賦法との違いなどをわかりやすく解説
製造業などの原価計算において、補助部門費の配賦は避けて通れない重要なプロセスです。中でも「相互配賦法」は、補助部門同士が互いにサービスを提供し合う実態を反映し、より正確なコスト配分を実現する方法として注目されています。
この記事では、相互配賦法の基本的な仕組みから、他の配賦方法との違い、具体的な計算方法、さらには簿記2級での出題ポイントまでを、初学者にもわかりやすく解説します。原価計算を体系的に理解したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
相互配賦法とは
相互配賦法とは、補助部門で発生した費用を、製造部門だけでなく他の補助部門にも相互に配賦する原価計算の方法です。企業の組織においては、製造や営業といった直接部門のほかに、人事や総務、動力、修繕などの補助部門が存在します。これらの補助部門は、単に製造部門を支援するだけでなく、互いにサービスを提供し合っているケースも少なくありません。
相互配賦法は、このような補助部門同士の相互関係を反映して、各部門に適切な間接費を配分することを目的とした手法です。特に、補助部門間でのサービスのやり取りが頻繁に発生しているような組織においては、より実態に即した費用配分を可能にします。
相互配賦法以外の配賦方法
補助部門費の配賦には、相互配賦法以外にも複数の方法が存在し、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。どの方法を採用するかは、企業の規模や業種、管理の目的に応じて判断する必要があります。
直接配賦法
直接配賦法は、補助部門費を他の補助部門には配賦せず、製造部門などの直接部門にのみ配賦する方法です。計算が非常に簡単であるため、初学者の学習や小規模な企業でよく用いられます。ただし、補助部門間のサービス提供が無視されるため、実態に即した原価計算とは言えない場合があります。
階梯式配賦法
階梯式配賦法は、補助部門費を一定の順序に従って一方向に配賦していく方法です。配賦された補助部門は、それ以降の配賦対象にはならないため、相互配賦法ほどの精度はありませんが、補助部門間のサービス提供の一部を反映することができます。配賦順序によって配分結果が変わるため、順番の設定には注意が必要です。
相互配賦法の計算方法の種類
相互配賦法には、具体的な計算手法として次の3つの方法があります。
簡便法の相互配賦法
簡便法の相互配賦法は、一次配賦と二次配賦という二段階のプロセスを経て行われます。
一次配賦
第一次配賦では、動力部門や修繕部門といった間接部門で発生した費用を、加工、組立、切削といった直接部門だけでなく、他の間接部門にも配賦します。
これは、実際には間接部門同士の間でもサービスのやり取りが発生しているという事実を考慮するためです。例えば、工場の修繕部門の費用は、製造部門だけでなく、工場事務部門など他の間接部門の建物や設備維持にも貢献している可能性があります。
第一次配賦では、このような間接部門間の相互利用関係に基づいて、間接費を各部門に割り振ります。
二次配賦
第二次配賦では、第一次配賦によって各間接部門に集計された費用を、最終的な目的である直接部門に配賦します。
第一次配賦を経ることで、各間接部門の費用は、それぞれの部門の活動と、他の間接部門から受けたサービスを反映した金額となっています。この段階で、これらの間接部門費を、製品の製造に直接関わる製造部門などの直接部門へと、消費電力や修繕作業時間など一定の配賦基準に基づいて割り振ります。
連立方程式法
補助部門間の配賦関係を方程式で表し、連立方程式を解くことで各部門への費用配分を算出する方法です。理論的に最も正確ですが、手計算には向いていません。
連続配賦法
一方の補助部門の費用を他部門に配賦し、その結果を次の補助部門に反映させ、これを繰り返して最終的な配分額を収束させる方法です。
簡便法の相互配賦法の具体的な計算方法
簡便法の相互配賦法を用いたコスト計算は、以下の手順で実施されます。
1. 各部門の初期費用を決定する
まず、配賦を行う前に、各部門で発生した直接費および部門共通費を集計し、各部門の初期費用を確定させます。
| 部門 | 部門費(1次集計後) | 動力消費量 (kWh) | 修繕時間 (時間) |
|---|---|---|---|
| 切削部門 | 500,000 | 80,000 | 180 |
| 組立部門 | 400,000 | 80,000 | 140 |
| 動力部門 | 128,000 | – | 80 |
| 修繕部門 | 160,000 | 40,000 | – |
2. 補助部門と配賦基準を特定する
次に、配賦の対象となる補助部門(動力部門、修繕部門、工場事務部門など)と、それぞれの補助部門費を配賦するための基準(動力消費量、修繕時間、従業員数など)を特定します。
3. 第一次配賦における各補助部門の配賦率を計算する
各補助部門について、その費用を他のすべての部門(自部門を除く)に配賦するための配賦率を計算します。配賦率は、補助部門費を、すべての部門(自部門を除く)における配賦基準の総使用量で割ることで求められます。
補助部門費 ÷ すべての部門(自部門を除く)の配賦基準使用量合計
4. 補助部門の費用をすべての部門に配賦する(第一次配賦)
計算された配賦率を用いて、各補助部門の費用を、それぞれの部門における配賦基準の使用量に応じて、すべての部門(製造部門と他の補助部門を含む)に配賦します。
- 動力部門配賦率:128,000円 ÷ (80,000 + 80,000 + 40,000) kWh = 0.64円/kWh
- 修繕部門配賦率:160,000円 ÷ (180 + 140 + 80) 時間 = 400円/時間
| 配賦先 | 動力部門からの配賦額 | 修繕部門からの配賦額 |
|---|---|---|
| 切削部門 | 0.64円/kWh × 80,000kWh = 51,200円 | 400円/時間 × 180時間 = 72,000円 |
| 組立部門 | 0.64円/kWh × 80,000kWh = 51,200円 | 400円/時間 × 140時間 = 56,000円 |
| 修繕部門 | 0.64円/kWh × 40,000kWh = 25,600円 | – |
| 動力部門 | – | 400円/時間 × 80時間 = 32,000円 |
5. 第一次配賦後の各補助部門の総費用を決定する
第一次配賦の結果、各補助部門には、自身の初期費用に加えて、他の補助部門から配賦された費用が加算されます。この段階で、各補助部門の総費用を計算します。
| 部門 | 部門費(1次集計後) | 動力部門からの配賦額 | 修繕部門からの配賦額 | 第一次配賦後費用 |
|---|---|---|---|---|
| 切削部門 | 500,000 | 51,200 | 72,000 | 623,200 |
| 組立部門 | 400,000 | 51,200 | 56,000 | 507,200 |
| 動力部門 | 128,000 | ▲128,000 | 32,000 | 32,000 |
| 修繕部門 | 160,000 | 25,600 | ▲160,000 | 25,600 |
6. 第二次配賦における各補助部門の配賦率を計算する
次に、第一次配賦後の各補助部門の総費用を、製造部門に対してのみ配賦するための配賦率を計算します。この配賦率は、第一次配賦後の補助部門費を、すべての製造部門における配賦基準の総使用量で割ることで求められます。
7. 補助部門の総費用を製造部門に配賦する(第二次配賦)
計算された配賦率を用いて、第一次配賦後の各補助部門の総費用を、それぞれの製造部門における配賦基準の使用量に応じて配賦します。
- 動力部門配賦率:32,000円 ÷ (80,000 + 80,000) kWh = 0.2円/kWh
- 修繕部門配賦率:25,600円 ÷ (180 + 140) 時間 = 80円/時間
| 配賦先 | 動力部門からの配賦額 | 修繕部門からの配賦額 |
|---|---|---|
| 切削部門 | 0.2円/kWh × 80,000kWh = 16,000円 | 80円/時間 × 180時間 = 14,400円 |
| 組立部門 | 0.2円/kWh × 80,000kWh = 16,000円 | 80円/時間 × 140時間 = 11,200円 |
最終的に、各製造部門に配賦された費用は以下のようになります。
| 部門 | 第一次配賦後部門費 | 動力部門からの配賦額 | 修繕部門からの配賦額 | 最終費用 |
|---|---|---|---|---|
| 切削部門 | 623,200 | 16,000 | 14,400 | 653,600 |
| 組立部門 | 507,200 | 16,000 | 11,200 | 534,400 |
| 動力部門 | 32,000 | ▲32,000 | – | – |
| 修繕部門 | 25,600 | – | ▲25,600 | – |
相互配賦法のメリットとデメリット
ここでは、相互配賦法を使用する際の主なメリットとデメリットについて整理します。
メリット1. より正確な原価の把握が可能
相互配賦法では、補助部門間の相互サービスを考慮して費用配分が行われるため、より実態に近い原価を把握できます。これにより、製品やサービスごとの正確なコストを算出でき、経営判断の精度向上にもつながります。
メリット2. 複雑な部門間関係に対応できる
補助部門が複数あり、それぞれが他の補助部門にもサービスを提供しているような複雑な組織構造においても、相互配賦法は有効です。補助部門間のやり取りを反映することで、部門別のコスト配分の正確性が向上します。
デメリット1. 計算が複雑になる
相互配賦法は、直接配賦法や階梯式配賦法と比べて計算手順が複雑になります。補助部門の数が多くなるほど、配賦対象や計算回数が増え、処理に時間と労力を要するようになります。
デメリット2. 詳細なデータが必要
相互配賦法の正確な実施には、各補助部門が提供するサービスの利用状況や提供量に関する正確なデータが必要です。これらの情報を適切に収集・管理する体制が整っていない場合、配賦の信頼性が損なわれる可能性があります。
相互配賦法の簿記2級での出題ポイント
簿記2級の工業簿記では、補助部門費の配賦に関する問題として、相互配賦法が出題されることがあります。主に問われるのは簡便法の相互配賦法であり、一次配賦で補助部門同士に費用を配分し、その後に二次配賦で製造部門に配分する流れの理解です。
簿記2級の試験では、連続配賦法と連立方程式法はほとんど出題されません。
配賦率や配賦基準の扱い、表からの数値読み取りなど、計算の正確さと手順の理解が問われるため、基本的な問題を繰り返し解いて慣れておくことが重要です。
自社のニーズに適した配賦方法を選択しましょう
相互配賦法は、複雑な部門間のサービス提供関係を考慮し、より正確な原価情報を提供する強力なツールです。特に、補助部門間の相互依存性が高い組織や、高精度な原価計算が求められる場合には、その有効性を発揮します。正確な原価情報は、より適切な経営判断、効率的なコスト管理、そして部門別収益性のより深い理解につながります。
しかしながら、その計算の複雑さから、導入には慎重な検討が必要です。適切な配賦基準の選択、正確なデータ収集、そして計算ミスを防ぐための丁寧なプロセス構築が不可欠です。企業は、相互配賦法の利点である原価計算の精度向上と、欠点である計算の複雑さを比較検討し、自社の組織構造やニーズに最も適した配賦方法を選択することが重要と言えるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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