- 作成日 : 2025年5月7日
商品評価損の仕訳とは?計算方法や会計処理を具体例でわかりやすく解説
在庫は、企業にとって大切な資産です。しかし、商品の価値は常に一定ではありません。例えば、流行の変化や商品の劣化によって、仕入れたときよりも価値が下がることがあります。このようなケースでは「商品評価損」の計上が必要になります。
この記事では、「商品評価損 仕訳」の基本から、実際の会計処理の考え方、損益計算書での表示方法、売上原価に含める理由まで、わかりやすく解説します。
商品評価損とは?
商品評価損とは、企業が保有する在庫(商品)の価値が、仕入れた時点の価格(原価)よりも下落した場合に行う会計処理のことです。これは、商品自体は倉庫に存在しているものの、その価値が様々な理由で低下している状態を指します。例えば、衣料品であれば季節や流行の変化によって価値が下がる、家電製品であれば新しいモデルの登場によって旧モデルの価値が下がるなどが考えられます。商品の時価が原価よりも値上がりしている場合には、会計処理は必要ありません。あくまで時価が原価を下回っている場合や長期間売れずに滞留在庫となっている場合に商品評価損を計上します。
商品評価損が発生する主なケース
商品評価損は、次のような状況で発生します。
- 陳腐化:新しいモデルや技術が登場することで、既存の商品が時代遅れとなり価値を失う場合です。例えば、最新機能を持つスマートフォンが発売されたことで、旧型のスマートフォンの市場価値が下落するケースなどが該当します。
- 劣化・破損:長期間の保管や不適切な取り扱いによって、商品の品質が劣化したり、破損したりする場合です。食品であれば消費期限切れ、金属製品であれば錆などが例として挙げられます。
- 市場価格の下落:需要と供給のバランスの変化や、競合他社の価格戦略などによって、商品の市場価格が下落する場合です。
- 過剰在庫:需要予測の誤りなどにより、必要以上に多くの在庫を抱えてしまった場合、保管期間が長期化し、価値が低下する可能性があります。特に、生鮮食品や流行に左右される商品では、過剰在庫が評価損につながりやすいです。
- 季節の変化:季節性の商品は、シーズンが過ぎると需要が大幅に減少し、価値が低下します。例えば、冬物の衣料品は夏には価値が下がる傾向があります。
- 流行の変化:ファッションやデザインの流行は短期間で変わることが多く、流行遅れとなった商品は価値が大きく下落します。
これらの理由により、決算期などに在庫の再評価を行い、必要があれば商品評価損を仕訳します。
商品評価損と棚卸減耗損の違い
商品評価損と混同しやすい概念に、棚卸減耗損があります。棚卸減耗損は、帳簿上の在庫数量と実際に倉庫にある在庫数量が合わない場合に発生する損失です。盗難や紛失などが原因で、物理的に在庫が減少している状態になります。
一方、商品評価損は、商品は倉庫に存在しているものの、その価値が下落している状態を意味します。価値が下がるだけで、商品そのものが無くなっているわけではありません。
両者の違いをまとめると以下のようになります。
特徴 | 商品評価損 | 棚卸減耗損 |
---|---|---|
原因 | 市場要因、陳腐化、劣化などによる価値の低下 | 盗難、紛失、破損などによる物理的な数量の減少 |
商品の存在 | 商品は存在する | 商品は存在しない |
会計処理 | 価値の減少を認識する | 在庫の減少を認識する |
例 | 型落ちの電子機器、季節外れの衣料品 | 盗まれた商品、出庫を帳簿に記録し忘れた在庫 |
商品評価損の仕訳の考え方
商品評価損の仕訳を正しく行うためには、会計に関する基本的な考え方や用語を理解しておくことが大切です。
商品評価損の仕訳に使われる勘定科目
商品評価損に関係する代表的な勘定科目は、以下のとおりです。
- 商品評価損(費用)
保有している在庫の価値が下がったときに、その損失を記録するために使われる費用科目です。 - 繰越商品(資産)
期末時点で売れ残った商品を、次期に繰り越す形で「資産」として記録する科目です。商品評価損を計上すると、この繰越商品の金額が減ることになります。 - 仕入または売上原価(費用)
売れた商品の原価を費用として記録する科目です。商品評価損は、最終的にはこの「売上原価」に含めて損益計算書に表示するのが一般的です。 - 棚卸減耗損(費用)
盗難や紛失、破損などで在庫が実際に減ってしまった場合に、その損失を記録するための科目です。商品評価損との違いもあわせて理解しておくと仕訳がスムーズになります。
消費税との関係
商品評価損を計上すること自体は、消費税の課税対象とはなりません。なぜなら、消費税は「販売などの取引」に対して課されるものであり、在庫の帳簿価額を修正するだけの評価損は、消費税法上の課税取引ではないからです。
ただし、評価損を計上した商品を安値での売却や、費用を支払って廃棄する場合など、処分のしかたによっては消費税の扱いに注意が必要になるケースもあります。そのため、評価損が発生した後の対応も含めて、税務上の処理を確認しておくことが安心です。
商品評価損の計算方法
商品評価損の金額は、次の計算式で求めます。
それぞれの用語の意味は以下のとおりです。
- 取得原価:商品を仕入れたときの価格
- 正味売却価額:その商品を現時点で売った場合の見込み価格から、販売にかかるコスト(手数料や加工費など)を差し引いた金額
- 実地棚卸数量:実際に保管されている在庫の数(帳簿上ではなく現物確認に基づいた数量)
商品評価損の計算例:
1個100円で仕入れた商品が、現在では1個80円でしか売れないと見込まれたとします。倉庫にその商品が50個あれば、
この1,000円が商品評価損として会計帳簿に記録されます。
損益計算書での扱い
商品評価損は、損益計算書において「売上原価」の一部として表示されるのが一般的です。つまり、評価損が発生しても、個別に「商品評価損」という項目が表示されることはほとんどありません。通常は、売上原価の合計金額に含める形で処理されます。
これは、商品の価値が下がったことによって、実質的にその販売にかかる費用(=売上原価)が増えたとみなされるためです。会計のルールでは「費用と収益の対応」を重視するため、売上高に対応する費用として評価損を組み込むことが通常の処理とされています。
ただし、例外もあります。例えば、火災や自然災害などによって一時的かつ大きな金額の評価損が発生した場合には、「特別損失」という形で、売上原価とは別に損益計算書に表示されることがあります。
また、貸借対照表においては、「期末商品棚卸高(在庫)」が、評価損の分だけ差し引かれた金額で表示されます。在庫の価値が下がっているため、資産の金額もその分だけ減るという形です。
会計基準との関係
商品評価損の会計処理は、日本の会計ルールである「日本基準」に基づいて行います。特に次のような基準に従って処理されます。
これらの会計基準では、在庫が取得原価よりも安くしか売れないと見込まれる場合に、「低価法」を適用して商品評価損を計上するよう定められています。
また、海外に展開している企業や、IFRS(国際財務報告基準)を採用している会社では、国際的なルールに従って評価損を計上します。IFRSでも、保守的な資産評価の考え方が重視されており、在庫の価値が下がった場合は同様に損失として処理します。
商品評価損はなぜ「売上原価」に含めるのか
会計基準では、商品評価損の処理は、低価法(Lower of Cost or Market – LCM)という考え方に基づいて行います。これは、期末の在庫を評価する際に、その商品の仕入れたときの価格と今後売れると見込まれる価格(正味売却価額)を比較して、より低い金額で評価するという考え方です。
例えば、ある商品の取得原価が800円で、現在の正味売却価額が600円であれば、その差額の200円が商品評価損になります。
この評価損は、損益計算書上では「売上原価」に含めて表示するのが一般的です。その理由は、在庫の価値が下がると、その商品を販売した際の利益も減るため、売上に対応する費用として扱うのが会計上自然とされているからです。
商品評価損の仕訳の具体例
ここでは商品評価損が発生したときの仕訳について具体的に解説します。
仕訳例1:商品の時価が下がった場合の仕訳
期末に在庫の評価を行った結果、一部商品の価値(正味売却価額)が下がっていた場合の仕訳です。
例:1個あたり500円で100個仕入れた商品が、期末時点で正味売却価額400円に下がった場合
計算:
- 1個あたり評価損:500円 – 400円 = 100円
- 評価損合計額:100円 × 100個 = 10,000円
仕訳:
借方(費用) | 貸方(資産) | ||
---|---|---|---|
商品評価損 | 10,000円 | 繰越商品 | 10,000円 |
商品の帳簿価額が10,000円減少し、費用として商品評価損が計上されます。
仕訳例2:評価損を売上原価に振り替える仕訳
商品評価損は、損益計算書において「売上原価」に含めて表示します。これは、商品の価値が下がることによって、将来の売上総利益が減少するためです。
評価損を売上原価に振り替える仕訳は、以下のようになります。
借方(費用) | 貸方(費用) | ||
---|---|---|---|
売上原価 | 10,000円 | 商品評価損 | 10,000円 |
この仕訳を行うことで、「商品評価損」という勘定はゼロになり、その金額が売上原価に移されます。企業によっては、最初から「商品評価損」を使わず、直接「売上原価」で処理することもあります。
仕訳例3:棚卸減耗損と商品評価損が同時に発生した場合
在庫の数量不足(棚卸減耗)と価値の低下(商品評価損)が同時に発生した場合の仕訳です。
例: 商品B(取得原価800円/個)を100個保有していた会社が、実地棚卸を行ったところ、2個が紛失しており、在庫数量は98個に減っていました。また、残り98個の商品についても、市場価格が下がり、正味売却価額は600円/個であると判断されました。
計算:
- 棚卸減耗損: 2個 × 800円 = 1,600円
- 商品評価損: 98個 × (800円 – 600円) = 19,600円
仕訳:(1)数量減少・評価損の記録
まず、在庫数量の減少と価値の減少を別々に仕訳します。
借方(費用) | 貸方(資産) | ||
---|---|---|---|
棚卸減耗損 | 1,600円 | 繰越商品 | 1,600円 |
商品評価損 | 19,600円 | 繰越商品 | 19,600円 |
仕訳:(2)評価損を売上原価に含める場合
借方(費用) | 貸方(費用) | ||
---|---|---|---|
売上原価 | 1,600円 | 棚卸減耗損 | 1,600円 |
売上原価 | 19,600円 | 商品評価損 | 19,600円 |
この仕訳を行うことで、「棚卸減耗損」及び「商品評価損」という勘定はゼロになり、その金額が売上原価に移されます。
仕訳例4:一部の商品に評価損が発生した場合
商品の一部だけが価値下落の対象となることもあります。例えば、流行の影響を受ける商品などでは、在庫の一部だけに評価損を計上する必要があります。
例:アパレルショップで、冬物コートを50着(取得原価8,000円/着)保有していました。そのうち20着について、来シーズン以降の需要低下により、正味売却価額が5,000円/着まで下がる見込みとなりました。
計算:
- 1着当たり評価損:8,000円 – 5,000円 = 3,000円
- 評価損合計額:3,000円 × 20着 = 60,000円
仕訳:(1)評価損の記録
借方(費用) | 貸方(資産) | ||
---|---|---|---|
商品評価損 | 60,000円 | 繰越商品 | 60,000円 |
仕訳:(2)売上原価に振り替える場合
借方(費用) | 貸方(費用) | ||
---|---|---|---|
売上原価 | 60,000円 | 商品評価損 | 60,000円 |
このように、評価損は「必要な商品だけ」に限定して計上することが求められます。
商品評価損の発生を防ぐために
商品評価損は、在庫の価値が下がることで発生する損失です。この損失が多くなると、企業の利益が圧迫され、収益性にも悪影響を与えます。そのため、評価損の発生をできるだけ防ぐ取り組みが欠かせません。
ここでは、企業が実践できる具体的な対策について説明します。
在庫管理を見直してムダをなくす
- リアルタイムに在庫を管理する:在庫管理システムを活用して、在庫状況をリアルタイムで確認できる体制を整えましょう。これにより、売れ残りや過剰在庫のリスクを早期に把握できます。
- 適切な在庫量を維持する:過去の販売実績や市場動向を参考に、仕入れ数量を見極めます。多すぎる在庫は評価損の原因になります。
- 需要予測の精度を高める:販売データの分析や顧客ニーズの変化を反映させた、正確な需要予測が重要です。特に季節商品や流行に左右される商品では、精度の高さが収益に直結します。
- 商品の保管・品質管理を徹底する:保管場所の温度・湿度管理や、適切な在庫配置など、商品が劣化しない環境を整備することも、商品評価損を防ぐポイントです。
- 先入先出し(FIFO)を実行する:仕入れた順に在庫を出庫する「先入先出し」のルールを守ることで、古い商品が長期間残って価値が下がるリスクを回避できます。
商品の処分タイミングを見極める
- 早めに見切り販売を実施する:販売価格を下げることで、評価損が発生する前に商品を売り切る方法です。販売促進にもつながるため、在庫回転率の改善にも効果があります。
- 季節商品のシーズンオフセール:冬物衣料や夏用雑貨など、季節に応じた商品は、シーズン終了前にセールを実施することで、在庫の価値が下がる前に売り切ることが可能です。
サプライチェーンの見直しでリスクを減らす
- リードタイムを短縮する:商品を仕入れてから販売までの期間(リードタイム)を短くすることで、在庫の劣化や時代遅れのリスクを抑えられます。例えば、発注から納品までのスピードを上げたり、仕入れ頻度を増やすことが有効です。
- 需要の変化に柔軟に対応する:消費者のニーズが急に変わることはよくあります。その変化にすぐ対応できるよう、サプライヤーや物流の見直しを含めた柔軟な体制を構築しておくことも大切です。
商品評価損の仕訳を正しく理解して実務に活かそう
商品評価損の仕訳は、企業の財務状況を正しく示すために欠かせない会計処理です。特に、棚卸減耗損との違いをしっかり区別し、低価法に沿った処理を行うことが求められます。
今回ご紹介した具体的な仕訳例や、会計基準・損益計算書との関係、売上原価に含める理由などを参考にして、日々の会計業務の精度を高めていきましょう。
さらに、商品評価損を未然に防ぐには、適切な在庫管理やサプライチェーンの見直しが重要です。実務のなかで継続的に見直しを行うことで、不要な評価損を減らし、企業の収益性を守ることができます。
会計処理と現場の管理を連携させながら、安定した経営を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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