- 更新日 : 2024年8月8日
税務における連結納税のメリットは?グループ通算制度との違いも解説
連結納税は、一つの親会社とその子会社群が、個別に税金を計算・納付するのではなく、グループ全体として統一的に税金を計算し納税する制度です。複数の会社にわたる税務処理を一本化し、税務管理の効率化をもたらします。
本記事では、連結納税の概要やグループ通算制度の違い、適用範囲などを解説します。
目次
連結納税とは
連結納税制度は、企業グループの税務計算において重要な役割を果たします。
特定の基準を満たす企業グループがグループ全体で一つの納税主体として扱われるため、グループ内の企業間で生じた利益と損失を相殺し、統合された税基盤を形成します。この制度は法人税にのみ適用され、住民税や事業税など他の税目には適用されません。
連結納税の最大の特徴は、グループ内の各企業が個々に納税する「単体納税」と異なり、グループ全体での利益と損失を合算して税額を計算する点にあります。
連結決算との違い
連結決算とは、企業グループが財務報告の目的でグループ全体の経済的状況を1つにまとめる会計プロセスです。これは純粋に会計上の処理であり、グループ全体の資産、負債、収益、費用を統合して表示します。
一方、連結納税は税法上の概念で、グループ内の企業が利益や損失を共有し、税金を一括で計算する制度です。
連結決算は会計上の統合を目的とし、連結納税は税務上の統合を目的としています。
連結納税制度とグループ通算制度の違い
グループ通算制度は、グループ内の各企業が個別に税金を計算した後、損益を相互に通算することができる制度です。これは各企業が独立した納税主体として扱われる点で、連結納税制度と異なります。
一方で連結納税制度では、グループ全体が一つの納税主体と見なされ、税額が算出されます。
グループ通算制度は各企業が個々に税を計算するのに対し、連結納税はグループ全体での計算が行われる点が主な違いです。
連結納税の対象範囲
連結納税の対象となるのは、特定の基準を満たす国内親会社とその国内完全子会社です。
ここで重要なのは、外国子会社は原則として連結納税の対象外であることです。連結納税制度の適用を受けるためには、企業グループが一定の要件を満たす必要があり、これには資本関係や経営管理の基準などが含まれます。
この制度を通じて、国内企業グループは税務上の効率化を図ることが可能です。
税務における連結納税のメリット
税務上の連結納税は、企業グループにとって以下のようなメリットがあります。
この制度を利用することで、グループ全体の税負担を効率的に管理し、最適化することが可能になります。
損益通算によって節税できる
損益通算は、グループ内で発生した利益と損失を相互に相殺することで、税金の総額を減少させる方法です。
特に、一部の企業が利益を上げ、他の企業が損失を出している場合、この制度によりグループ全体の課税所得が減少し、結果として税金の支払いが少なくなります。
このメカニズムにより、企業グループは全体としての節税効果を実現できます。
繰越欠損金の活用で節税できる
繰越欠損金とは、過去に生じた損失を未来の利益から控除できる制度です。
連結納税制度の下では、グループ内の企業間でこの繰越欠損金を共有し、全体の課税所得を減少させることが可能です。これにより、将来の税負担を大幅に削減することができます。
税額控除額が拡大する
連結納税制度により、税額控除額が拡大します。
これは、グループ内の企業が個別に享受できる税額控除をグループ全体で共有し、最大限に活用できるためです。
結果として、グループ全体の税負担が軽減され、経済的な利益をもたらします。
税務における連結納税のデメリット
一方で、連結納税制度には以下のデメリットも存在します。
- 適用時点の繰越欠損金が切り捨てられる
- 事務負担が増加する
これらには、適用時の繰越欠損金の扱いや事務的な負担の増大などが含まれます。デメリットを理解し、対策を講じることが、連結納税制度の適用を検討する企業には重要です。
適用時点の繰越欠損金が切り捨てられる
連結納税制度を適用する際、適用時点で存在する繰越欠損金は、原則として連結納税の計算には使用できません。
これは、既存の繰越欠損金が切り捨てられることを意味し、特に過去に大きな損失を経験した企業にとっては重要なデメリットとなります。
この制度の適用により、これまで積み上げてきた繰越欠損金の利用機会が失われることから、税務上の戦略を再検討する必要があるでしょう。
連結納税制度を適用する際には特に注意すべき事項です。
事務負担が増加する
連結納税制度の適用は、事務処理の複雑化を伴います。
グループ内の各企業の利益と損失を1つにまとめ、統合された税務計算を行う必要があるため、通常の単体納税よりも高度な管理が求められるからです。
増加した事務負担を軽減するためには、適切なITツールの導入や専門知識を有するスタッフの配置が有効です。
これにより、連結納税のプロセスを効率化し、誤りのリスクを減少させることができます。
連結納税制度の適用を受ける方法
連結納税制度を適用するためには、まず承認申請が必要です。
申請は、その事業年度が始まる日の前日から3ヶ月前までに税務当局へ提出する必要があります。申請方法は、所定の書類を準備し、指定された税務署に提出することになります。
このプロセスには細かなルールが存在するため、詳細を理解し適切に対応することが重要です。
連結納税の承認が取り消しになる原因
国税庁によると、連結納税の承認が取り消しになる主な原因には、連結事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が財務省令で定めるところに従って行われていないなどの事実が認められた際に取り消しになります。
これらの原因は、企業グループが連結納税制度を適切に運用していないことを示しており、税務上のペナルティや追徴課税のリスクを伴います。
そのため、連結納税の適用を維持するためには、常に適用基準を遵守し、正確な税務処理を行うことが不可欠です。
まとめ
本記事では、連結納税の概要やグループ通算制度の違い、適用範囲などを解説しました。
連結納税制度は、適切に運用すれば企業グループにとって大きな税務上のメリットをもたらします。しかし、その複雑さと適用基準の厳格さを考慮すると、この制度を活用するためには慎重な計画と適切な管理が必要です。
企業は、自身の税務戦略に合致するかどうかを検討し、連結納税制度を利用するかの判断を下す必要があるでしょう。
よくある質問
連結会社の法人税はどうなるの?
連結納税では、グループ内の各企業が個々に計算した法人税ではなく、グループ全体の利益と損失を合算して算出された税額が適用されます。 この結果、グループ全体の税負担が最適化され、個々の企業の税負担と比較して異なる結果になる可能性があります。 連結納税を適用することで、グループ全体として税金の負担を効率的に管理し、節税効果を期待できるでしょう。
連結納税に節税効果はあるの?
連結納税には確かに節税効果があります。これは、グループ内で利益を上げている企業と損失を出している企業の結果を相殺することで、グループ全体の課税所得を減少させることができるからです。 また、繰越欠損金のグループ内での共有や税額控除額の拡大など、様々な節税メカニズムが連結納税制度には含まれています。 これらの要素が組み合わさることで、全体としての税負担が軽減されることが期待されます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
役員報酬の決め方の注意点と知っておくべき3つの制度
例えばあなたが起業した場合、自らが経営者となり、会社の役員となります。特にこれまで会社員だった方は、自分の適正なお給料はいくらにすれば良いのだろうか?と悩んでしまう方も少なくないのではないでしょうか。 また、役員報酬は社長の一存で決めること…
詳しくみる支払調書とは?書き方や提出義務、期限について解説
支払調書とは法定調書のひとつです。法定調書とは、税務署が納税者の正確な支払いを把握するための書類のことです。法定調書の種類は多く、全部で60種類あります。この記事では支払調書の概要、記載項目や計算方法についてご紹介します。支払調書の基礎を知…
詳しくみる法人税申告書の別表4とは?見方や書き方、注意点まで解説
法人税申告書の別表4は、所得の計算を示す書類です。法人税の基礎となる所得金額を求める書類で、法人税申告を行う法人は作成・申告の必要があります。今回は、別表4の役割や書き方を紹介します。 法人税申告書の別表4とは 別表4「所得の金額の計算に関…
詳しくみる法人税の修正申告のやり方は?書き方や税額が変わらない場合の対応も解説
法人税の修正申告は、確定申告後の誤りを訂正する重要な手続きです。この記事では、経理担当者や中小企業経営者向けに、具体的な書き方や仕訳、注意点、更正の請求との違いなどを実践的にまとめました。適切な修正申告の理解は、企業の納税義務を果たす上で不…
詳しくみる簡易課税の計算方法には基本と特例がある!
消費税の納税額は、簡易課税という方式と原則課税という方式のいずれかの方法で計算します。その1つである簡易課税方式は、仕入れや設備投資、経費など仕入れの際に支払った消費税の金額を計算する必要はありません。 売上時にもらった消費税に対して、みな…
詳しくみる会社解散における税務処理とは
業績が悪化し事業閉鎖に追い込まれてしまったり、会社を存続するメリットがなくなったり、事業の後継者がおらず、事業そのものが継続できなくなったなどの理由から、会社の業務を終了させること、すなわち、会社の解散を選択する場合があります。 一般的に会…
詳しくみる